第35話「許さないミュン――怒りのマスコット、爆誕」
──ある日のこと。
ネットに、黒い波が押し寄せるように広がった。
「何様のつもり?」
「元・男なんでしょ?」
「“それ”切ったってマジ?キモすぎ」
「無理、無理、ムリ!!」
「○○くんに告ってフラれた腹いせじゃね?」
炎上の発端は、とある人気男性アイドルとのバラエティ共演。
番組終了後、彼がカナタに告白して撃沈したという噂が拡散され……一部の過激ファンが暴走したのだった。
SNS、まとめサイト、匿名掲示板——どこを開いても、見たくない言葉の洪水。
カナタの部屋、夜。
ひとり、ベッドに腰をかけ、スマホを見つめる。
画面には、心ない言葉の数々。
でも、その顔は……微笑んでいた。
カナタ「……だいじょうぶ。わたしが選んだ道だから。こんなことで、負けたりしない」
そっと画面を閉じ、深呼吸。
──けれど、その背中はどこか寂しげだった。
……と、次の瞬間——
ミュン「だいじょうぶじゃねーミュン!!!!!!」
部屋の窓をぶち破りそうな勢いで、怒髪天ミュンが飛び込んでくる。
ミュン「どいつもこいつも……いい加減にしろミュン!!!!!!」
【激怒する仲間たち】
美香(スマホを叩き割りそうな勢いで)
「は?はあ?何言ってんのこの連中?生きてる価値あるの??」
アンジェ(涙目で拳を握りしめ)
「……絶対に許しませんわ!! わたくしのカナタさんに、こんな言葉を浴びせるなんて……!」
西園寺(静かにメガネを外しながら)
「………潰すか?」
その夜、魔法少女本部のマスコット回線が突如鳴り響く。
ミュン「全マスコット緊急招集ミュン!!状況は最悪ミュン!!!」
各地のゆるキャラ・マスコットたちが画面に次々と現れる。
バ美肉タヌキ、古風なイタチ、ロボ系スライムなど、カオスな面々が揃う。
ミュン「うちの娘に……カナタに手ぇ出したら、全マスコットが敵に回るミュン!」
マスコットA「おう、全面戦争か?」
マスコットB「カナタちゃん、俺の推しやぞ」
ミュン「“ネットは匿名”……? 甘ぇミュン。こっちにはマスコット本部の情報技術部がついてるミュン」
※なお、具体的制裁内容は某法律と某倫理の事情により、すべてカットされました※
後日。SNSに、静かに一枚の写真が投稿された。
・学校の中庭で、落ちた教科書を拾ってあげるカナタ。
・その笑顔は、何ひとつ変わらず、誰かのためにあった。
・その周囲には、美香、アンジェ、西園寺——そしてミュン。
・全員が、いつもより一歩、彼女のそばに立っている。
誰が撮ったのかは不明。だが、その一枚は、静かに人々の心を打った。
「この子は、何も悪くない」
「誰よりも優しい」
「カナタちゃんを、守らなきゃって思った」
「俺、ファンになる。今からでも遅くないよね?」
──拡散とともに、潮目が変わり始める。
夜、窓辺に座るカナタ。
少しだけ、泣いたあとがある。
その隣で、ミュンがぽつりとつぶやいた。
ミュン「カナタはな……自分じゃ気づいてないけど、光を分けてくれてるんだミュン。
その光で、何人もの心が救われてんだミュン」
ミュン、ゆっくりと空を見上げる。
ミュン「そんなカナタに、泥をぶっかけるなんてんなら……」
「このミュンが、許さねーミュン!!!!!!」




