第25話「月下に君の名前を」
(深夜──温泉旅館の縁側)
西園寺はひとり、静かに月を見上げていた。
湯上がりの体に夜風が心地よく、しっとりとした静寂が旅館を包む。
(ギィ……)
障子がゆっくりと開く音がして──
カナタ「……あっ」
西園寺「……寝れないのか?」
カナタ「うん。目が冴えちゃって……お風呂、気持ちよかったからかな」
西園寺は何も言わず、隣の空いた場所を手で軽く叩いた。
(カナタ、そっと腰を下ろす)
ふたりの間に流れるのは、言葉ではなく月の光。
夜空に浮かぶ月が、ふたりの影を縁側に寄り添うように映し出す。
カナタ「……あのときは、ありがとね」
西園寺「……あの時?」
カナタ「うん。あの魔神に襲われた時……私、すごく怖かったけど……西園寺くんがいてくれて……助けてくれたから、立ち上がれた」
西園寺「……そうか」
(カナタ、ほんの少しだけ距離を詰める。鼓動が速くなる)
西園寺はそれを拒まず、黙ってカナタの頭に手を伸ばし──
優しく、そっと撫でる。
カナタ(小さく息を呑みながら)
「……ねえ、西園寺くん」
(唇がかすかに震える)
カナタ「……れ、零くんって……呼んじゃ、だめかな?」
(しばしの沈黙。月光だけが、ふたりの表情を照らしている)
西園寺「……好きにしな」
カナタ「……っ!」
(瞳が潤み、嬉しさを噛みしめるように笑う)
カナタ「うんっ……! 零くん……」
(そのまま、そっと肩に頭を預ける)
西園寺は目を閉じて、寄り添うカナタの体温を静かに受け止めた。
夜風がふたりの髪を、やさしくなでていく。
──
(その頃、木の陰──)
ミュン(木の影に身を潜め、完全に気配を消している)
「……尊いミュン……!これは……これは尊すぎて命に関わるミュン……!!」
(カシャ! カシャ!)
※小型の高性能カメラで連射撮影中。
「カナタアルバム《デレ期編》──新章突入ミュン……!」
「永久保存ミュン……!いや、特装版で売れるミュ──って違うミュン!純粋な記念ミュン!!」
(満足げにメモリーカードを取り替えるミュン。瞳が潤んでいる)
ミュン「……やっぱり恋って、いいもんミュンね……!」
(そして、そっとその場を離れる。月の光に背を向けて──)




