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鍵と光の希望  作者: SUZU
3章:調律される日常
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調律される日常5

 「ねぇねぇ、リュアねぇ」

 「後ろの背の高いお兄ちゃんは誰ですか?」



 レミスとセリスが今度はグレンの方に興味を示す。それを見てグレンは気づかれないくらいにわずかに肩が強張った。初めて関わる子どもという存在に緊張してしまっていたのだ。



 「そのお兄ちゃんはね、グレンっていうんだよ。私のパーティの仲間になったんだ」



 その言葉にレミスとセリスはぱっと華やかな笑顔になる。



 「え!リュアねぇに、仲間ができたの?!」

 「……じゃあ、前よりひとりで危ないところに行かなくて、よくなるんですね」



 「うん、そうだね。もうひとりじゃないよ。今は、頼れる人が隣にいるから」



 リュアはグレンの方へ一瞬だけ視線を向け、少しだけ口元を上げて言った。

 二人は、嬉しそうにグレンの方へ駆け寄る。



 「グレンにぃ!リュアねぇのこと、守ってあげてね!」

 「リュアねぇのこと、守ってあげてください!」



 と、両手でぐっと腕を掴んできた。



 グレンは一瞬言葉に詰まる。



 二人はまっすぐな目でグレンを見上げていた。

 ――子ども特有の、あまりにもまっすぐな気持ちにどう答えればいいのか分からない。



 それでもグレンはどうにか頷き、二人の思いを肯定した。



 だが、続いて聞こえてきた言葉に、グレンはさらに困惑する。



 「それにしても、グレンにぃ……背高い……高いところ見てみたい」

 「え!レミス!迷惑かけちゃうよ?」



 と慌ててセリスがレミスをなだめるも、リュアがくすっと笑いながら



 「グレン、持ち上げてあげたら?」



 と乗っかってきたのだ。

 グレンは先ほどに増して戸惑ってしまい、それを隠すことができなくなってきた。



 「少し、子どもと関わるのは慣れていない感じですか?」



 そんなグレンにリズが助け舟を出してくれた。グレンは軽く頷いて返事をする。



 「ここを支えて、ゆっくり持ち上げてあげるといいですよ」



 リズは丁寧に、グレンに子どもの持ち上げ方を教えてあげた。



 グレンは少し冷静さを取り戻し、ゆっくりとレミスのほうに体を向ける。

 向かい合うように抱え上げ、そのままゆっくりと持ち上げる。

 レミスの目線は、やがてグレンの顔よりも高くなった。



 「わぁ!! 高い!! すごく楽しい!!」



 レミスは想像以上の高さに、目を輝かせてはしゃいでいる。

 軽いはずの重さに、わずかに戸惑う。

 落とさないよう意識するほど、その感触は不思議と強く残った。



 グレンはしばらくしてから、慎重にレミスを地面に降ろした。



 セリスは、少し離れたところからその様子を見ていた。

 先ほどは止めていたものの、どこか羨ましそうに視線を向けている。

 それに気づいたリュアが、やわらかく声をかけた。



 「セリスもやってもらったら?」



 セリスは一瞬だけ目を瞬かせ、グレンの方を見る。

 少しだけためらうようにしてから、遠慮がちに口を開いた。



 「私も……いいですか?」



 恥ずかしそうにしながらも、まっすぐな視線だった。



 グレンはわずかに間を置く。

 戸惑いはまだ残っている。

 それでも、先ほどよりもわずかに迷いが少なかった。



 「問題ない……」



 今度はセリスの方へ向き直り、同じように体を支える。

 教えられた通りに、慎重に。

 向かい合うように抱え上げ、そのままゆっくりと持ち上げた。

 セリスの視線が、静かに上がっていく。



 「わぁ……」



 小さな声がこぼれる。



 「すごく高くて、景色が奇麗です……!」



 驚きと感動が、そのまま言葉になっていた。

 その様子を見て、リュアは目を細める。

 隣では、リズも穏やかに微笑んでいた。



 「グレンにぃ!ありがとう!!」



 セリスを地面に降ろしたところで、レミスが元気にお礼を言った。



 「ありがとうございます」



 レミスとは対照的に落ち着いた声で、だけれども嬉しかったと言う気持ちが伝わるようにセリスもお礼をした



 「何か、お礼がしたいです」

 「グレンにぃは、何か好きなものあるかな?」



 セリスの提案に合わせて、レミスがグレンに尋ねる。

 グレンは視線を伏せて、少しだけ考えたあと、ゆっくり答えた。



 「……本を、読むこと……だな」



 レーンハルでリュアに話したとおり、本を読んでいる間は落ち着く。

 好きという感覚は曖昧だが、遠くはないはずだ。



 レミスとセリスの表情が、ぱっと明るくなる。



 「この村には図書館があるよ!」

 「街のものほど大きくは無いですが、たくさんの本があります」



 そういってグレンの左右に行き、自然にそれぞれグレンの手を取る。



 「案内してあげるよ!」

 「一緒に行きましょう!」



 またしても予想外の状況に、グレンはどうしたらいいかわからず固まってしまう。

 だが、図書館には行きたい気持ちが無いといえば嘘になる。ぎこちないながらも、少しだけ頷いた。断る理由はなかった。



 その様子を見ていたリュアが、こらえきれないと言うように吹き出し、「ははっ……」と笑った。



 「今日はグレン、ずっとおどおどしてるね」



 笑って出てきた涙をぬぐいながら声をかける。



 「笑ってごめんね。いつも冷静で落ち着いていたからちょっと面白くなっちゃって」


 「あまりこういうことには慣れていない……」



 グレンは少しげっそりしながらリュアに答える。



 「うん、そうだよね、わかってるんだけどね……グレンいつもそつなくこなすから」



 ふーっと一息ついて、リュアは落ち着きを取り戻し



 「行っておいでよ。グレンの荷物は先に宿に置いておくからさ」



 グレンを図書館にいくように促した。



 「でしたら、私も図書館までご一緒します。帰りにグレンさんを宿までご案内しますね。レミスとセリスも、そのまま家まで送りますので」

 


 リズが、流れを汲むようにそう提案した。それを聞いたグレンは、わずかに肩の力を抜いた。自覚するほどではないが、リズも来るということに、胸の奥にわずかな安堵があった。



 「そしたら行くぞー!」

 「行きましょー!」



 と言いながらレミスとセリスはグレンを引っ張って歩き出す。グレンは急に歩き出したことに慌てながらも、二人に合わせて歩き出す。



 「行ってきます」



 リズがリュアに声をかけてからついていく。

 それをリュアは軽く手を振って見送った。


***


 石造りの古びた建物の前で、レミスが足を止める。

 指し示された先には、年季の入った図書館があった。



 外観こそ古いものの、扉や窓は丁寧に手入れされており、長く使われてきた場所であることが伝わってくる。



 中へ入ると、木の匂いと紙の香りが静かに漂っていた。 棚には本が隙間なく並べられている。



 古びた装丁のものから、比較的新しいものまで。 村の図書館にしては明らかに蔵書が多く、整理も行き届いていた。




 グレンは足を止める。

 視線がゆっくりと動いた。



 棚の並び、背表紙、積み重ねられた年月。

 無表情のまま、だがその動きにはわずかな変化がある。



 興味を引かれていることは、隠しきれていなかった。



 「なんか、グレンにぃほわほわしてるね」

 「はい、ほわほわしてます」



 あたりを見渡すグレンの様子を見て、レミスとセリスは顔を見合わせ、どこか得意げにグレンへ声をかける。



 「……リュアにも同じことを言われたんだが……」



 グレンはわずかに眉をひそめる。

 


 「なんかね、本が好きって言うのがすごく伝わってくるんだ!」

 「だから、周りの空気が、とても穏やかなんです」



 レミスとセリスの説明を聞き、グレンはさらに頭をひねる。

 そんな三人のやりとりを見ていたリズは穏やかに微笑み



 「まずはゆっくり選んでもらってかまいませんよ。読みたい本があったら借りて宿で読むこともできますから」



 と声をかけた。



 「グレンにぃは何を読むのかな?」

 「どんな本が好きですか?」



 二人に尋ねられたグレンは「……そうだな」と図書館の中を進み、魔導書の本棚で目についた本を手に取り開いた。



 それは、レーンハルで購入した《自然魔法応用論》とはまた別の、二つの属性の魔法の複合方法を研究した本だった。



 「属性の複合、についてですか……なかなか珍しいものを選びますね」



 リズが後ろから本を覗き込み驚かせないように落ち着いた声で話しかけた。



 「昔はそれなりの数の研究者が題材にしていたみたいですけど、どの研究も結局、属性が反発しあって混ぜることは難しい、という結論になっているんですよね」



 グレンはリズの方へ目線を移した。リズは続けて話す。



 「だから、その分野を専門に研究する人も少なくなっていて、今では属性を混ぜることは不可能というのが通説になってて……」



 「……詳しいんだな」


 

 珍しくグレンが自分の感想を口にする。それだけリズの話に興味を持ったのだった。



 「つい話過ぎてしまって……すみません」


 

 リズは小さく笑みを浮かべてそう言った。



 「現実の現象は互いに影響し合っているのに、魔法では属性同士が干渉しない前提になっているのが、昔少し気になって調べていたんです」



 一度言葉を切り



 「とはいえ、俺は採掘師なので、グレンさんの興味とはまた別のものかもしれないですが」



 と頬をかきながら少し照れたように話した。



 リュアですら気づいていなかった、自然魔法のわずかな違和感。

 もし気づいていたなら、この話題が出た時点で触れていたはずだ。



 目の前の青年がそれに触れていることに、グレンは内心驚きを隠せなかった。

 グレンは慎重に、相手を探りながらかける言葉を探した。



 「……俺もその認識だった。魔法の中で属性は干渉しない。だが、存在自体が独立している概念魔法はともかく、自然魔法と実際の現象が一致していないのは不自然だ」

 


 手に取っていた本を棚に戻しながら一呼吸おく。その間にリズは違和感を口にした。



 「認識……だった?」



 疑問に答えるように、グレンは懐から《自然魔法応用論》の本を取り出し、リズに差し出す。



 「異なる自然属性を組み合わせる理論が書かれた本だ」



 リズは目を見開きながらその本を受け取る。 

 この国で常識とされてきたものが、静かに揺らいだ。

 戸惑いと興味が入り混じった感覚が胸に広がる。



 だが、本を開いた瞬間、リズは息を止めた。



 「グレンさん……」



 リズは恐る恐るグレンの方に目を向け



 「この理論、難しすぎて到底理解できそうにないですよ……?」



 グレンはリズから気まずそうに目をそらし



 「……リュアにも、似たようなことを言われた」



 そう答えた。



AIで作ってキャラクターのイメージ画像です!(*´ω`*)


☆リズ・ヴァルナー

挿絵(By みてみん) 


☆レミス・リンネル

☆セリス・リンネル

挿絵(By みてみん)

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