表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鍵と光の希望  作者: SUZU
1章:試練の証明
13/72

試練の証明11

 薄暗い坑道を、慎重に進みながら――一行は、ふと足を止めた。

 視界の先で、道が左右に分かれている。 どちらも似たような幅で、奥は闇に沈み、光は届いていない。

 空気の流れも、どちらからも感じられないほど鈍く、視覚にも感覚にも頼りにくい分岐点だった。



 「……」



 リュアが静かに立ち止まり、目を細める。

 空気の微かな揺らぎを読むため、意識を集中させ――



 「こっちだ」



 その直前。

 低く、迷いのない声が響いた。

 グレンが、左側の坑道を指し示す。

 まるで疑う余地などないように、即断即決の一言だった。



 「……うわぁ、正解だぁ……」



 少し遅れて空気の流れを掴んだリュアが、思わず目を丸くして小さく呟く。

 驚き混じりの感嘆が、ぽつりと漏れた。

 彼女が一歩足を踏み出し、それに続いてヴァンとティオ、そして最後尾のカイルも静かに動き出す。



 隊列が再び整ったあと――

 リュアは歩幅を合わせてグレンの隣に並び、声のトーンを落として問いかけた。



 「ねえ、なんであんなに早くわかったの?」



 グレンはその問いにすぐには答えず、ちらりと視線を後ろへと流し、ティオたちとの距離を確認する。

 そして、ほんのわずかに目を細めたあと、低い声で短く答えた。



 「……日常だったからな」



 その言葉に、リュアは一瞬、はっとした表情を浮かべる。

 けれど、すぐに何かを飲み込むように唇を嚙みしめ、黙ったまま俯いた。



 (これが……“日常”……)



 リュアにとって、探索や魔物との戦闘は、あくまで冒険者としての“仕事”でしかない。

 だが――グレンにとってそれは、封印される以前に生きていた“日常”だったのだ。



 その重みの違いが、静かに胸を打つ。

 けれど、重い空気にしたくはなかった。



 リュアは少し顎を上げて、あえて明るい声を作る。



 「うーん、ということは私も、もっと場数を踏めばグレンくらい早くわかるようになるのかな?」



 冗談めかした調子で、腕を組んでみせる。

 グレンは立ち止まることなく、前を向いたまま静かに応じた。



 「できるだろうな」



 リュアは少し驚き、グレンの横顔を見つめる。

 彼は一度だけ視線を横に流し、ちらりとリュアを見てから、淡々と続けた。



 「俺も最初は、もう少し時間がかかっていた。だが、数をこなすうちに空気を読む感覚がつかめて、今の速さになった。要は慣れだ。……さっきのお前の反応を見る限り、習得はそう難しくないだろう」



 その言葉に、リュアはふっと嬉しそうに目を細め、肩の力を抜く。



 「よーし、近いうちに追い抜いちゃうからね?」



 楽しげな声音に、グレンは何も返さなかったが――どこか認めるような気配がにじんでいた。



 その後も、一行は幾度か小型の奇形魔物と遭遇しながら、奥へ奥へと進んでいった。

 坑道は、複雑に入り組んだ構造をしており、何度も分岐を繰り返すうちに、外界の気配がすっかり遮られ、空気は重く、沈んでいった。



 やがて、前方の道がふいに尽きる。

 岩壁が、視界を完全に遮っていた。



 「……行き止まり?」



 ティオが首を傾げて、ぽつりと呟く。

 その言葉に、グレンがすぐさま、落ち着いた声で否定する。



 「いや……この先だ」



 短く、しかし確信に満ちた声音だった。

 リュアは頷き、無言のまま一歩前へ出る。

 壁の前に立ち、そっと右手をかざす。

 指先から、ごく淡い魔力が、触れるように壁へと染み込んでいく――



 すると次の瞬間、“そこにあったはずの壁”が、音もなく、霧が晴れるように溶けて消えた。



 「隠蔽魔法がかかってたんだ。……妙な気配の正体は、もうすぐそこだよ」



 リュアの声が、静かに響く。

 現れたのは、短くて狭い通路。

 その奥から、ひたりひたりと、何かを濡らしたような気配が漏れてくる。



 言葉もなく、一行は慎重に列を組み直すと、その先へと進み始めた。

 誰もが、吐息すら控えるように――



 通路を抜けた先は、天井の高い、岩に囲まれた広間だった。

 自然に削られた空間のように見えるが、その中心には妙な圧が漂っている。

 リュアが、先頭で立ち止まり、目を見開いた。



 「…………? まさか、ここは――!」



 広間の奥には、坑道の岩肌とは明らかに異質な黒曜石が埋め込まれていた。

 その漆黒の面には、消えかけた幾何学の線が、かすかに浮かんでいる。

 既に力は失われているが、結界陣の名残だと、彼女には分かった。



 その後ろからカイルが覗き込み、記録装置の画面と岩壁を見比べる。



 「そんな……ギルドの調査が届かない場所に、まさか封印結界があったなんて……」



 動揺した声に、ヴァンとティオが顔を見合わせ、戸惑ったように眉をひそめる。

 その空気を察したリュアが、振り返り、簡潔に説明を始めた。



 「この国にある封印結界は、ギルドの管理下に置かれてて……でも、ここは違った。だから、誰にも気づかれなかった」



 リュアは言葉を締めくくると、静かに前を向き直り、封印の痕跡が残る場所へと歩を進めた。



 「……そして、封印が解けてしまっている……」



 リュアの指先が黒曜石をなぞるように震える。



 「……その封印には、いったい何が……?」



 ヴァンが低く問う。声には警戒と、ほんのわずかな怯えが滲んでいた。 

 リュアは小さく首を横に振る。



 「……わからない」


 「え?」



 ティオが驚いたように声を漏らす。

 


 「……聖還暦が制定された頃には、すでに“存在していた封印”だって言われてる。 誰が、いつ、何のために設置したのか――記録にも、口伝にも、なにも残ってないの。

 本来、封印は定期的な補強が必要だけど……この封印は、その必要すらないくらい強力で、今まで一度たりとも破られたことがないんだ」



 リュアの声音は静かだったが、その言葉には、事態の重さを伝える確かな圧があった。



 重い沈黙が落ちた。

 その中で、グレンが静かに口を開く。



 「……昔、迷宮の奥で見つけた古い文献に、こう書かれていたことがある」

 「“この世界には、忘れられた厄災が各地に封じられている”……と」



 低く抑えた声が、広間にゆっくりと響く。

 リュアが一瞬だけ彼の方を見やり、カイルが緊張を帯びた視線を前方へ向けた。



 次の瞬間――場の“気配”が変わった。

 まるで、意識を持つ“何か”が、目を覚ましたかのように。

 グレンが目を細め、静かに言い放つ。



 「……来るぞ」



 直後――空気が微かに揺れ、足元から冷気が這い上がってくる。

 まるで、意識を持つ“何か”が、目を覚ましたかのように。



 「っ……今、何か動いた……?」



 ティオの声が緊張を帯びる。

 岩陰――広間の隅の、特に深い暗がりの奥から、ぬるりと異質な気配が滲み出てくる。

 それは、まるで気配の“境界”を越えて、世界の裏側から這い出してくるような――



 ――現れた“それ”は、もはや「魔物」と呼ぶにはあまりにも異形だった。

 節足のような四肢が複数、地を這うように展開し、背骨がねじ曲がったように突き出ている。

 軀体は明確な形を持たず、見る角度によって輪郭が歪んで揺れる。



 顔はない。ただ中央に、黒く脈打つ“核”のような球体――それが、“目”であるかのように、静かに光を放っていた。



 「……あれは……なんだ……??」



 ヴァンが低く呟くも、その声には明確な動揺が滲んでいた。

 誰もが息を止めて立ち尽くす。

 その“存在”を前にして、言葉は意味を成さず、脳が理解を拒もうとする。



 “それ”が――ほんの少し、身を揺らしただけで。

 空気が弾け、緊張が限界に達する。

 誰もが一瞬にして悟った。


 



 ――これは、“異常”だ。



 


 グレンの眉がわずかに動き、リュアが息を飲む。

 ティオとヴァンが武器に手をかけ、カイルが後方でじっとそれを見ていた。



 周囲の空気が、じわじわと揺らぎ始める。



 次の瞬間――リュアが、静かに一歩、前へと踏み出した。

 双剣を逆手に構え、その眼差しはまっすぐ“異形”へと向けられている。



 足元の気配を感じ取りながら、すっと体勢を低くする。風の流れが衣を撫で、周囲の気配が一気に引き締まった。



 「――っ!」



 風を裂いて跳び出したリュアが、距離を詰める。

 刹那、右手の双剣が鋭く振り下ろされ――異形の節足のような一部を、確かに切断した。



 ぶしゅ、と鈍い音を響かせ、甲殻のような破片が地面を弾いた――だが次の瞬間。




 切断されたはずの部位は、塵のように崩れ落ち、淡い影に溶けるように散りながら、本体の“核”へと吸い寄せられていく。

 そして、何事もなかったかのように――再生した。



 「……再生、した……?」



 リュアが目を見開き、身を引く。

 その動きに応じて、グレン、ヴァン、ティオが一斉に武器を構え、

 後方のカイルは記録装置を握り直し、未知の存在の挙動を逃さぬよう視線を研ぎ澄ませた。



 グレンは素早く位置を調整し、リュアの横を抜けて前へ出る。

 大剣を構え、魔力を通す――が、その瞬間、彼の表情が僅かに歪んだ。



 「……っ」



 掌に伝わる奇妙な違和感。魔力が、外側から逆流しているような、制御を妨げられるような圧迫感。


 まるで“この空間そのもの”に、干渉されているかのようだった。



 それでもグレンは軌道を修正し、強引に闇魔法を生成。

 大剣を振るい、闇の奔流を叩きつける。

 闇の魔力は確かに命中した。爆ぜるように衝撃が走り、空間が震える――が。



 “それ”は、動かない。



 焼け焦げた様子もない。破損の痕跡もない。

 ただ、そこに在るという事実だけが、静かに、異常を物語っていた。



 「……効いてない」



 グレンが低く呟く。

 再びリュアが斬りかかる。

 今度は風の魔力を双剣に纏わせ、鋭く切り裂く。

 だが――切断された部位はまたもや塵となり、空へ溶け、再び中心へと吸い込まれ……元通りになる。



 「物理も、魔法も……効かないなんて」



 リュアはわずかに眉をひそめ、双剣を握る手に力を込めた。

 武器も、魔力も通じない――その現実が、全員にじわじわと胸を締めつけてくる。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
緊張する展開になってきましたね...... それと 執筆の際にAIをどの程度、そしてどのような目的で使用されてるんでしょうか?よろしければ返信お願いします。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ