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第8話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



 12回目の悲鳴が俺の鼓膜に張り付く、そろそろ耳がおかしくなってくる。


「んぎいいいいいいいいいいいいい!?」


 それでも魔法を使い続ける俺……とんでもない極悪人のように思えて来てしまう。ビクビクと激しく痙攣する体をあまり見たくないが、周りからの視線が痛いから顔を上げられない。それ以前にデバイスからの出力を安定させるために全神経を集中させているから、そもそも視線を逸らすなんて論外、それどころかやせ細った猫族少女の腕を横から強く握り込んでいる。


 刻印を刻み込む少女の体は、四肢だけではなく胴も動けないように同族から拘束され、体が意思とは関係なく暴れても、刻印術を刻む腕は二人がかりで抑え込まれびくともしない。刻印が進む度に布をかまされた口から悲鳴が上がり俺の集中力を削っていく、それでも止めない、止められない。止めたら失敗してしまうからだ。


 そうなると最初からやり直し、流石にそれは俺の心が持たない。ここまで一度の失敗もないから、失敗した場合の精神的負荷はどれだけだろう。想像もできない。


「ああああぐがっ―――!?」


 刻印開始から終わるまで5分、その時間がとてつもなく長く感じ、終わると半数以上が気絶してしまう。その所為で12人の猫獣人たちに刻印するのに数時間かかっている。


 この子も気を失った。まだ十代だと言うのに、こんな辛い経験をさせてしまうなんて、きっと恨まれるだろうし俺は真っ当な死に方は出来ないんじゃないだろうか、悪人はみんな幸せな最期を迎えられないと言うのは迷信の様で真理だろう。


「気絶しちまった……どんだけ痛いんじゃ」


 だからあれだけ痛いと説明したのに、ドン引きされても困る。


 ちなみにネズミおじさんも最初は猫獣人の四肢を押さえていたのだが、一人目で力負けして吹っ飛ばされて以来離れて見ている。ネズミ族とは言え獣人族、俺より力も強いだろうに見事に飛ばされたのだ。流石戦闘力に定評のある猫獣人、子供でもとんでもない身体能力である。


「定着が良い……種族的な体質かな」


「問題なさそうか?」


 初めて自分以外の人間に刻印術を施したけど、自身の体に刻んだ時と違ってものすごく定着が早い、どのくらい定着が速いかと言うと、気絶してしまった女の子はすでに魔法を展開できる状態で、俺はその状態になるまで半日が必要だった。


 周りに目を向ければ腕を光らせる少女達、その光は刻印術の展開が出来ている事を表している。これが才能、これが生まれながらの性能差、少し嫉妬してしまうな。


 問題があるとするなら。


「ええ、そうですね。問題があるとするなら」


「あるのか?」


「俺が彼女達に恨まれて無いかと言うだけで……胃が痛い」


 猫族少女たちの俺を見る目が鋭いと言うか険しいと言うか、瞳孔が縦に割れてる子も居れば、真ん丸に開かれた眼でこちらの様子を窺う子もいる。この部屋のライトは故障が多いので薄暗く、その薄暗い中で光る双眸は何とも言えない圧を感じるが、聞いたらみんな俺よりずっとずっと年下だと言う。


 十代の少女に怯えチクチクと痛みを訴える自分の弱いお腹を押さえると、ネズミおじさんが目を細め表情の無い、と言うか呆れた感じだろうか? そんな顔で俺を見ている。一体なんだと言うのだろうか、言葉にしてもらわないと俺には獣人族の微妙な表情の機微など解らない。


「う、恨んでません!!」


「いやでも、ほら、めっちゃ睨まれてるし……」


 睨んでる。先ほど気絶した子が目を覚ますなりそう叫ぶが、手伝ってもらった子は彼女を中心に寄り添い俺を見詰め、遠くで団子の様に固まっている猫族少女達もこちらをじっと睨んでいる。


 どう見ても恨まれてる感じだ。これをどう前向きに解釈したらいいのだろうか。


「ち、違います! 違うんです!」


「ありゃ恥ずかしがってるだけだろ」


 大きな声で叫びながら服の前を押さえるのは先ほどまで刻印術を施していた少女、反対の手では腕を押さえているが、どこに恥ずかしがる要素があっただろうか? 服装なんかは俺にとって刺激が強いけど、彼女達は最初からまったく気にした様子も無かったし、叫び声が恥ずかしかったのだろうか。


「なにが?」


「そりゃおまえ、いくら種族が違うって言っても若い男の前だぞ? 体中の穴から色々垂れ流したの見られたら恥ずかしいだろ」


「っ!!」


「おおこわ」


 なるほど理解、ネズミおじさんの言葉に12人全員の毛が逆立ち、瞳孔が鋭く縦に割れ、牙を剥き出し、手の爪が鋭く尖る。あの自由に形状を変えて尖る爪は結構複雑な身体構造で、人には真似できない芸当なのだ。なんでも爪が圧縮されることで鋼の様な強度になるらしく、当然そんなもので殴られたら俺は確実に死ねるので落ち着いてほしい。


 しかし、確かに言われてみればその通りだ、彼女達に目を向ければ今もてらてらと湿った部分が光を反射している。しかし誤解しないでほしい、こうなる事はすでに俺にとって織り込み済みであって、その様子を見て楽しんでいたり蔑んだりなんかと言う感情は抱いていない。


 涙が止まらなかったとしても、鼻水が暴れる度に周囲へ飛び散っていても、泡を吹いて顎下が涎だらけになっていても気にならないし、脇汗か分からないくらい全身に汗を掻いて服が透けかかっているのは目のやり場に困るけど、股間から止めどなく洩れた尿が天体図を描いたとしても、それは普通の反応である。俺のように脱糞しないだけ優秀、いや、そこは効率食のおかげで量が少なかったからかもしれない。


 新しい知見を得られた。俺は混乱しているようだ。


「……申し訳ない。俺の技量では痛覚の軽減は無理なんだ。大昔には痛覚を感じさせない達人もいたらしいんだが、この生体刻印術は独学で……」


「独学で覚えたんか!?」


 そうだよ? こんな危険な術を一般で教えてる場所などあるわけがない。工業用の刻印術とは何から何まで違うので、家族には色々無理を言って手伝ってもらったのをおぼえている。主に資料集めだけど、グレーなマートまで利用したと聞いた時は流石に驚いた。


「資料探しとかは家族に手伝ってもらったけど、それ以外は全部独学で作った術式なんだ」


「おいおい、魔導士様かよ。ほんと何でこんなとこに……」


「そんなんじゃないよ、実際に魔法使い資格の所得資格もないから」


「そうか、スキル無しだったな……すまねぇ」


 はい、スキル無しです。スキルが無いだけで取得できない資格は今のご時世でもまだまだ多い。逆にスキルが一般化し過ぎてスキルの無い人間に対する対応が遅れている節すらある。何というか、スキルがないと言うだけで、世間にとってその人間は守るべき弱者扱いなのだ。どんなに独り立ちしようとしても、その事が広まると対応が大きく変わってしまう。


 魔法使いの資格はスキルが1つ以上なければ危険だと言う理由で取得できず、魔法使いの資格が前提の魔導士資格なんて夢のまた夢である。それらの規則は善意から決められたものが多いけど、俺からしたら余計なお世話と言うものだ。


 まぁ、もう慣れっこではあるけど、伊達に何十年も生きてはいない。


「あはは……とりあえずこれで吸収から凝縮までの魔法が使えるので、あとはセルですね」


「そうだな、少し仮眠したら掃除がてら奥に降りるか」


 うん、俺も刻印術の刻印を他人に使った経験は今までなかったし、しかもこれだけの人数の女性に見られながらとか、身体的な疲れよりも精神的な疲れの方が深刻である。現実逃避に一眠りでもしないとやっていけない。そう言えば寝具になりそうなものが無いのでそれも用意しないと、今はとりあえず雑魚寝で良いけど用意が必要だ。


 猫族少女たちは刻印術で疲労困憊だろうし、その辺はおじさんと俺で用意しないといけないだろうな。


「みんなは今日休みでいいよね」


「あ、はい……」


 そんなに後退りながら返事を返されると、嫌われ具合がよくわかって死にたくなる。僕は犬科より猫科派だから余計に辛い。はぁ……こんなことなら刻印術じゃなくてもっと別の技術を研究するべきだったか、でも刻印術以外に俺でも強くなれそうなものが見つからなかったし、俺はあの時点でもう終わっていたのかもしれない。


 とりあえずは、なるべく嫌われないように気を使って行こう。そうすればきっと関係も少しは改善されるはずだ。嫌われ続けると言うのは辛い、関係を割り切っていればその場では大丈夫でも、こんな閉鎖空間で意識しない方が無理な話だ。


「刻印後は疲れが出るから、シャワーでも浴びてゆっくり休んでてよ、掃除は俺が進めておくから」


「ぁぅ……」


「あれ?」


 俺は何か選択ミスをしたようだ。猫族少女との間に更なる壁が出来た気がするし、ネズミおじさんは何か言いたげな表情で頭を押さえている。





 自分達の体から吹き出したものは自分たちで片付けるそうだ。確かに種族は違えど異性に糞尿の処理はしてほしくないだろう。仮眠後におじさんと部屋から出た後に説明されてやっと気が付いたわけだけど、どうやら俺もだいぶおかしくなっていたようだ。


「思ったよりすごいな」


「いろんな意味で……じゃな、この船はそうとう怠惰な人間が管理してるようだ」


「俺もここまで酷いのは数えるくらいしか見たことないな」


 怠惰で済ませて良いのか分からない光景に、ネズミおじさんも呆れた様にインパクトロッドを振り上げている。


 いつも掃除しているのは比較的安全な階層で、その階層の洗浄が終わらないと本来なら立ち入らない深い場所には、地面から天井まで魔素結晶が覆い尽くしていた。覆い尽くすと言っても居住前提の船は心理汚染防止のために空間がとても広いので、通るのに十分な広さの隙間はある。そんな隙間を縫って目的の物を探し二人で奥へ奥へと進んでいく。


 邪魔な魔素結晶をネズミおじさんが砕く後ろを歩く事数十分、ようやく目的のものを見つける。おじさんと視線を合わせると、どちらからかともなく頷き小走りで魔素結晶の壁に走り寄った。


「出て来たな、どうじゃ?」


 二人でインパクトロッド振るう事十分ほど、目的のものを結晶の中から引っ張りだす事に成功する。


「うん、状態が良い。魔素結晶に覆われていたから保存状態が良かったのかも」


 魔素結晶の壁を壊して引っ張り出したのはずいぶんと古い型のインテロ、古くはあるものの魔素結晶に覆われていたことで保存状態は良好である。魔素結晶は保存容器としては優れているのか、引っこ抜いた魔素セルは損傷も無く、こういった魔素結晶の中からは数千年前の機械でも動く状態で発掘されるのはよくある話だ。ベラタス家もそんな発掘品で大きくなった家なので、俺もその辺の扱いは体に染みつくくらいには父上から教えられている。


 体に刻まれた魔法式を展開しながら目的の魔素セルを結晶ごと掴めば、インテロのボディ内部の魔素結晶が細かく砕けて綺麗に引き剥がされていく。この刻印術を体に刻んだ時は結構大変な目に合ったけど、今は刻んで正解だったと思える。


「よし、もっと掘るぞ」


「あまり離れないでくれ、魔素フィルターはそんなに範囲が広くないんだ」


「おおすまん」


「……少し設定を弄っとかないと」


 ネズミおじさんがやる気なのは大変楽で助かるけど、注意してもらわないと困ってしまう。


 本来ここはまだ人が入り込んでいい環境の場所じゃないし、シールドスーツにインストールしたフィルター魔法の外に出てしまえば、高濃度の汚染魔素に暴露してしまって最悪死んでしまうのだ。ネズミおじさんの種族は比較的魔素汚染に強い耐性を持っているらしいけど、心臓に悪いのでもう少し気を付けてほしい。


「それにしても、奴隷まで集めて良くこれだけ溜まったな?」


「こんな奥まで来るやつも居らんだろうからな? 何でもさらに奥には戦争前の遺産が眠ってるそうだぞ」


「へぇ」


 それは凄い話だ。そうなるとこの船は戦前のエーデンシップ、もしくはガーデンシップの可能性が高くなってきた。もしそうなるとかなり貴重な船だし、古い貴族家が管理しているんじゃないだろうか? いや、インテロじゃ管理できないほど魔素で汚染されている事を考えると、新興貴族か下級貴族が買い取ったのかな。


 うーん、勿体ない。大変勿体ない扱いで、このことを古代遺物好きの父上が知ったら発狂しそうである。戦前の技術は今よりずっと優れた技術ばかり、そこから一つでも技術再生を成功させたらそれだけで平民が貴族になれるほどだ。もしかしたらデバイスもあるかもしれない。


「魔法用のデバイスもあるかもな」


「へぇ……」


「魔素濃度がここ以上だから入れないだろうけど、なっ!」


「ここ以上となる確かに難しいな」


 今出回っている魔法用デバイスの大半は発掘されたデバイスを修復した物やリバースエンジニアリングされたものだ。一から作り上げた物なんて存在しないし、俺のデバイスも発掘品の模倣でしかない。


 ベラタス家の性と言うものか、魔素濃度が危険域だと分かっていて気になってしまう。父上が一代で貴族へと成り上がったのも発掘品のおかげである。元は軍人だったらしいけど、任務中に見て回った戦前の遺構に心奪われて今に至ると言う話は良く聞かされた。


 奴隷に落ちてもこんなことを気にするあたり、俺は意外と図太いのか、それともこれが血と言うものなのだろうか、どっちにせよ心を壊さずに済んでいるのは助かる。半分くらいはネズミおじさんのおかげもあるんじゃないかと思うので、彼との関係は大事にしようと思う。


 とりあえず危ないので離れない様にリードでも用意した方が良いだろうか、魔素結晶を掘るのが楽しいのかすぐに先へ進んでしまうのだ。インパクトロッドを修理してあげた時も小躍りしていたし、彼はこの仕事が向いているのかもしれない。


 天職と言うものだろうか? 俺にはその楽しそうな姿が少し眩しく見えた。



 いかがでしたでしょうか?


 猫族少女に力を与えたヨーマは、言っても聞かないネズミおじさんにリードを付ける必要性を感じていますが、ちょっといけない感じになりそうですね。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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