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第7話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



「こいつは凄い! いや、なんだ。お前さんそんな魔法使えてなんでこんなところに」


 部屋の中をタンクトップ短パンのネズミおじさんが走り回る。獣人種だからまだ微笑ましく見れるけど、これが俺ならちょっときついと思った。いや、臭いのであまり走り回らいで洗浄機にでも入って来て欲しい。


 それにしても動きが速い、あれでもう歳だから昔のように動けていないと言うのだからびっくりである。きっとスキルも俊敏系なんじゃないだろうか、俺の持たぬ恩恵なのでその度合いは分からないけど、重力下での壁走りなんてスキル無しで出来る芸当じゃないと思う。


「俺はスキル無しだからな」


「スキル無し!? ……よく生きてこれまで」


 急ブレーキをかけたおじさんが一瞬で目の前に戻ってきて臭う。


 潤んだくりくりの目で心配してくれるのはうれしいけど、あまり顔を近づけないでほしい。動き回って汗でも掻いたのか雨に降られた獣に若干の酸っぱさが混ざった様な匂いがしてくる。


 と言うか、正直スキル無しで心配されるのも慣れっこなので、そんな真剣に心配されても困るのだ。


「はは、まぁ何とか色々小細工して生きてるよ」


「……なるほどの、よし娘っ子どもを連れてこよう!」


「ん?」


 娘っ子とは誰のことか、俺の返事に何か理解した様に頷くネズミおじさんが立ち上がる。俺もそろそろお尻が冷たくなって来たので立ち上がると、おじさんは俺の胸ぐらいの高さから見上げて眉をしかめた。


「もう下に残ってるもんは娘っ子ぐらいだ。男どもは早々に女を生贄に上だよ」


「嫌な世界だな」


 ネズミおじさん曰く、すでに下層組の男は新しく入って来た新人の女奴隷を捕まえて上の階層に上がって誰もいないそうだ。


 先任の奴隷が見当たらないと思ったけど、今回の奴隷は女性奴隷が多かったらしく、捕まえた女性奴隷を貢物にして下層の男達は上層階の居住区に移ったと言う。ここでは何度も繰り返されてきた事だと、吐き捨てるように話すネズミおじさんは寂しそうな目をしている。


 貢物にされた女性がどんな扱いを受けるかは何となく予想できて、俺もつい溜息が洩れてしまう。通常交配では子供が出来辛くなった現代では、そう言った行為までのハードルはずいぶんと低くなっているそうだ。俺は経験ないから知らないけどね。





「だ、大丈夫なんですか?」


 分厚い与圧服を着こんだ小柄な人間の集団が目の前で俺を見上げている。その表情は険しく、怯えや警戒を隠そうともしていない。あまりそんな目で見ないでほしい、弱い俺の心に鋭い棘になって刺さるから。


 悪い事なんて何もしてないのにこの仕打ち、俺もここに居住場所を移すのだが、俺の心は磨り減って無くならないだろうか……。


「安心しろ、ほれこの通り」


 ウェアを全部脱いでしまうネズミおじさんに驚くと、おずおずと言った様子で与圧服のメットを外す娘っ子と呼ばれていた子たち。色々な種族が溢れる宇宙時代、健康寿命も長くなり見た目だけじゃ年齢なんてわからないけど、それを踏まえたとしても流石に彼女達は大人に見えない。


 頭を上でピコピコと不安げに動く三角耳が実に愛らしい。どうやら全員差異はあれど猫系の獣人らしい……古い伝承ではネズミの天敵だと言われる種族だけど、おじさんは大丈夫だろうか。


「……痛くない」


「苦しくない、なんで?」


 メットを外して数十秒、警戒するように周囲を見回したり頭を掻いたりしていた彼女達は、大きな目を更に大きく見開きぽつりぽつりと呟き始める。縦に割れたり真ん丸になったりする瞳孔が綺麗で思わず見入ってしまう。縦に細くなると若干の恐怖があるけど、魔素の影響は受けていない様で一安心である。


 これでもし体調に変調でもあろうものなら、怒りに任せて殺されてたかもしれない。獣人相手にスキル無しの平均的な人種が勝てるわけがないのだ。


「このヨーマさんがこの部屋の悪い魔素を一時的に消してくれたんじゃ」


「ヨーマさん?」


 はいヨーマです。クリクリおめめが可愛いけど、一斉に見上げられるとちょっと圧があるのでそんなに集中して見上げないでください。怖いです。


「ああ、ただ密閉を解除したらまた魔素が入り込むから、やり直しになるけど」


「そう、ですか……」


 俺の説明に嬉しそうな顔に影が落ちる。申し訳なく思うけど、状況はちゃんと理解しておいてもらわないと、後で理不尽に怒られても困るのだ。あと見上げてるのも大変そうなので座っておくか、立ってようが座って様が襲われたら一緒……いや襲われることもなさそうだし。


「継続して安全を確保する方法もあるんだろ?」


「あるにはあるが」


 あるにはある。


 隣に座るネズミおじさんは俺の返答に目を輝かせるが、あるにはあるだけで、俺はおすすめなんて絶対にしない。


「教えてください!」


 俺の言葉に、耳を真っ直ぐ立ててこちらに向けてくる猫娘たちが見下ろしてくる。なるほど、これが追い詰められた獲物の視点と言うものか、なんだか根源的な恐怖が沸き上がる気がするな。そう言えば同僚から追い詰められた時もこんな気持ちになったけど、何時の時代も物量は脅威である。


 しかしニ十四個も瞳があると、視線に負の感情が乗っていなくても恐ろしいものだ。……うん、現実逃避に時間を使っている場合ではなさそうである。


「うーん、本当なら魔法を使う為のデバイスがあると良いんだけど」


「そんなもんここでなくても手に入らんじゃろ、運が良くて中古の魔術デバイスくらいだ」


 そうなんだよなぁ……一応俺も貴族とあって魔法デバイスを手に入れるのはそんなに難しい話ではなかった。家の稼業でもデバイスを作る事があるので、それこそ自作まで出来る環境が揃っているが平民、ましてや奴隷なんていう状態の今は手に入れる方法が無い。


 そんな時の為にもと覚えた技術だが、当時は天啓を得たと燥いだものの、正直これは他人にお勧めできるようなものではない。ないのだが、運よく魔術デバイスを見つけても触媒がないと意味がないので、そうなると無から有を生み出すとも言われる魔法技術じゃないと駄目だ。正確には魔素を直接利用するのが魔法なんだけど、そんな難しい話はどうでもいい。


「そうなんだよね。そうなると刻印術が一番手っ取り早いんだけど、魔法の術式なんて人が一朝一夕で覚えられるものじゃないし、適正もあるから」


 魔法はとにかくめんどくさい。古式ゆかしき技術を用いることでデバイスなしで使う事も可能だが、そんなもの十年修行コースになってしまう。それに比べて刻印術は何と素晴らしい事か、魔法デバイスさえあればその十年の修行を無視できる。


 同時に色々な問題も無視できれば、ではあるが……。


「刻印術って言うと、機械なんかに使うやつだな」


「元々は人の体に刻んで魔法を簡単に使う技術だったものを機械技術とか、他にも色々な魔法技術と融合させたのが今の一般的な刻印術だな」


「元は人に使うのか」


 刻印術式と言えば、インテロを含めた近代機械技術の根幹技術と言ってもいい。しかしそれが人間用だったなんて知ってる人は歴史好きか物好きくらいなもので、インテロなんて動いて当たり前で修理なんて専門家任せが当たり前、その中身に刻印術が使ってあると知ってる人も、そもそもの刻印術が何だったかなんて知らないだろう。知る必要がないからだ。


 誰も気にもしなくなった技術だからこそ、俺はそこにスキル無しを克服できる可能性を見た。なにせ機械はスキルなんて持ってないが優秀である。その技術に近付けば俺にもその優秀さを分けてもらえる気がしたのだ。


 今思い出すと馬鹿な話だけど、当時は必死だったのだから仕方ない。


「馬鹿でも刻めば魔法が使えるんだけど」


「それならみんな魔法使いになれるじゃないか! 聞いたことないぞ?」


 そりゃ誰もやろうなんて思わない。それより楽な方法がたくさん世の中には溢れているし、スキルも大昔に比べて一般化している。危ない方法なんて廃れて当然である。


「大昔は普通に使ってる人もいたらしいけど、デバイスの方が便利だし、刻む人の技量の問題もあるし、他にもいろいろ問題が多くてね」


「出来るのか?」


「一応が付く」


「成功確率は?」


「ああ、それは確実に使えるようになるよ」


 俺の一応と言う言葉の意味をが成功確率だと思ったのか、ネズミおじさんが驚いた表情を浮かべているが、成功確率に問題のある技術なんて使うわけがない。何せ人体に刻む生体刻印術は自分用に研究していたのだ、確率で失敗なんてしてしまっては困る。一応と言うのは、問題点の改善が未だに出来ないからだ。現状の生体刻印術は自分ならまだしも、他人に使うものではないと俺は思っている。


「やります!! そのこくいん? をしたら魔法でこの部屋? 環境? を作れるんですよね!?」


 思っているんだけど、猫族の少女たちの決意は固そうで、大きな声とともに睨まれた。怖いのであまり睨まないでほしい、その縦に割れた瞳孔とか可愛いと思う人もいるけど、俺は恐怖が先に立つ。


「用意しないといけない物がいくつかあるから今すぐには無理だけど、出来るとは思う……」


「どうしたらいいですか!」


「いや、その、他の方法を探せないかな?」


 にじり寄る様にお尻を突き上げ四つん這いで近付いてくる。奴隷用の服なんてただの布切れ、そんな態勢になれば当然色々見えてしまう。最近の獣人種は宇宙適応が進んで体毛が薄くなっているので色々見えてしまうのでやめてほしい、せめてネズミおじさんくらい全身毛だらけならドキドキもしないが、彼女達はだいぶケモ度が低いので普通に興奮する。


 ふぅ、ケモ度と言う言葉を作った偉人ヤマダ タロウと言う人物は素晴らしいと実感でき……いやそうじゃない。


「他って当てはあるのか?」


「な、無くはないけどそれ以外だと運頼みかなぁって」


 運頼み、魔術デバイスと触媒が確保できればより安全な魔術式の魔法で再現が可能だ。可能であるけど、その魔術デバイスと触媒が手に入るか分からないし、ランニングコストは馬鹿にならない。


「こくいんします!!」


「何が問題なんだ?」


「……」


 24+2の瞳による視線が集まると広い部屋なのに息苦しさを感じる。限定的な刻印なら問題はそんなに無い、入れ墨のように表面に模様が浮き出る物でもないので、見た目は魔法使用時に少し光るくらいだ。


 あとは魔素を保存する容器だけど、これはたぶん廃品でも漁れば出てくると思う。何せここは廃棄区画とあってか、いろいろなゴミが放棄されているのだ。大きな結晶なんかはそう言った廃品を核にして成長している様で、時々魔素結晶の奥からは大昔のゴミが出てくる。立坑の底は完全にそう言ったゴミで埋まっているけど、その近くの通路なら見つけるのは難しくないと思う。


 ……最大の問題は、痛みだ。


「……とても痛い。刻む時に麻酔とかしても関係なく痛い。男ならみんな悲鳴を上げると思う。あと刻印が削れると使えなくなるので、なるべく内側に刻まないといけないけど、内側であればあるほど痛い」


「痛いだけか?」


「凄く痛い。あと再生治療を受けると刻印が削れたり歪んだりするので使えなくなる」


 痛いだけと言うが、あれは実際に受けた者しか分からない激痛である。初めての刻印実験の時は叫ぶとかじゃなく気絶した。脳が安全装置を作動させたのだろうとは思うが、慣れた今でも拷問以外の何物でもない。それに比べたら他の問題は可愛いものだ。


 理由は分かっているが解決法が無い。あれは肉体と精神を強制的に繋ぎ合わせる事によって生まれる痛みで、肉体的な痛みではない。改良によって随分マシにはなったが、体全体からその奥底に響く様な痛みは形容しがたい痛みだ。過去の文献によると、一度仮死状態にしても身体が痛みに反応しているのか、もがき苦しむので拘束して刻んだそうだ。


「大丈夫です!」


「私も一緒に刻みます!」


 出来ればやりたくない。絶対あとから恨まれるとしか思えない痛みだ。それに相手は獣人種、理性を失って痛みに暴れた場合、俺の命はない。それはそれは簡単に首もへし折れるし腹も腕が貫通、頭も蹴りで吹き飛ばされミンチになるだろう。


 俺は脆いのだ。その辺しっかり大事にしてほしい……してほしいのだが、猫少女の目は真剣であり覚悟を決めてしまっている。まぁ上に行っても真面な環境じゃないだろうし、魔法の一つも身に付ければ随分と状況が良くなるだろう事は明らかだからな。


 俺も腹をくくるか、でもやだなぁ……。



 いかがでしたでしょうか?


 覚悟決まった猫の目が24個、普通に怖いと思います。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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