第41話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
風のような、波のような、心地よい揺れで意識が浮き上がる。
ナンシュの起こし方はずいぶんと優しかった。体を左右にゆっくりと揺らしながら起こされたのは、ずいぶん懐かしい記憶を呼び起こしてくれた気がした。あれは何時の記憶だろう、誰かに抱かれて見る地上の記憶、小さい頃の思い出だろうか。
「……短時間でも眠ると違うな」
目を開けてしばらくぼーっとしていたらナンシュが顔を覗き込んできたので、なんとなしにそう呟くと、彼女は不服そうに眉を寄せて見せてきた。
「本来ならあと数時間は寝ていてほしいところなのですが」
「だらだら寝てても殺されるだけだからやめておこう」
扱いを見ても最終的に殺されるのは変わらないだろう。俺だって半日は寝ていたい気分だけど今は動く時だ。短時間でも治療魔法マシマシのシールドスーツを着ていたから随分と体調が良い。
でも、素のポテンシャルが貧弱故か、完全に治すには普通に時間がかかりそうだ。
「とりあえずシールドスーツの刻印術を変えようか」
本当ならこのまま治療魔法を展開しながら行動したいところだけど、敵対的な宇宙船の中で防護魔法無しは危険すぎる。それにいくら体調が快復して来たとは言っても身体が万全に動いてくれるわけじゃない。
防護、身体強化、最低限の治癒魔法に、ナンシュが組み込んでいた慣性制御も入れておきたい。艦内の重力制御レベルが低いみたいだから、あって困る事はないだろう。
「……逃げ出したとしても殺されるのは変わらないのでは?」
「そうだね、そうならない方法を探さないと」
ナンシュさんはちょいちょい現実でぶっ叩いてくるな、いやまぁそれはその通りなんだろうけど、うまく殺されずに逃げる方法を考えるしかない。三人の事は気になるけど、今は脱出手段を探す方が先決だ。
そうだ、一応ジャミングも入れておこう。そこまで効果のあるものではないだろうけど、人が少ないなら多少効果はあると思う。防護がだいぶ心もとなくなるけど、何があるか分からないと、どうしても方向性が平均化してしまうよな。これがフィジカルマシマシな人間なら、パワー特化と言う選択肢もあるんだろうけど。
「何か考えがあるんですか?」
「無いけど、ここに居てもしょうがない。なら動くしかないでしょ……動くことで可能性を見出す方に賭けることにしたんだ、ここで立ち止まっても仕方ない」
「……そうですか」
心配そうな顔だがしょうがない。家を出た時から立ち止まらないと決めて出て来たからとは言え、今の状況は進む方向も分からない。そんな状況で無暗に進むのは、遭難時に無駄に体力を消費するのと一緒だ。
だが、ナンシュが来なければ俺はすでに死んでいた可能性が高い。そんな状況でも何らアクションを示さない者達に期待するのは、そっち方がどうかしている。まだあのコンテナの中に居た時の方がマシな扱いだったし、なんだったらネズミおじさんと一緒に魔素結晶を砕いてた時の方が百倍いい生活だった。
「それに今は俺だけじゃなくてナンシュも居るから、やれることはそんなに少なくないと思うよ」
本心である。なんだったら俺なんて無視してナンシュだけならいくらでもやりようがあるだろう。脆弱な俺と言う荷物がなければどこまでも飛び立てるのがISと言う存在だ。まぁ彼女達にそれを言ったらそれじゃ意味がないとすぐに返されるだろう。
多分そのへんはナンシュも一緒だと思う。詳しくは教えてもらえてないけど、存在意義的な問題だと聞いたことがある。
「っ……そうですね! 任せてくださいこのナンシュ、例え事象の地平線であろうとマスターを無事生還させて差し上げます!」
事象の地平線って、それはブラックホールの彼方にってことか。
「いや、流石にそれは死んでるよ」
流石にそんなところにまで落ちたらその時点で死んでる気がする。行ったことのある人を知らないし、そこがどんな場所か誰も知らないだろうけど、宇宙空間に放り出されるだけでも割とアウトなんだから、流石にブラックホールは無理だろ。
「……姿勢制御と治癒と色々入れたから耐久性は8割落ちってところか、大丈夫かな?」
「大丈夫じゃないですよ、こんな民生レベル以下のシールドスーツなんてどこから持ってきたんですか? 探す方が難しいレベルですよ」
「勘弁してくれ、これでも家で家族が作ってる最新技術なんだぞ?」
ナンシュさんは何でこうストレートに殴ってくるんですかね? これでもこの試作品はうちの稼ぎ頭のシールドスーツ部門の最新型なんだよ? 俺がいない間に別の最新型が開発されてる可能性も無くは無いけど、少なくとも民生品として販売していい性能じゃない。
うん、そんなことしたら軍に怒られてしまう。先にこっちに回せと言う依頼のようなクレームが、軍のあちこちから来ると聞いている。派閥と言うのはとてもめんどくさい。
「作ったのですか?」
「まぁ、再生技術だから作ったと言って良いかわからないけど、作ったつもりではあるよ?」
一から作ったかと言われたらうちのエンジニアは渋い顔をするだろう。何せ家で開発している技術の九割以上が戦前技術の再生品である。要は戦前は普通に流通していたロストテクノロジーを研究し、現代の技術で再現しているだけに過ぎない。
それもすごいことであると言う自負はみんな持っている。しかし世間の評価と言うか、一部の貴族の評価はあまりよろしくない。オリジナルの技術じゃないというだけで批判されてしまう。たとえうちの会社が優れたものを作ろうと、再生技術と言うだけで不買する貴族も少なくない。
それは過去の戦争に対する畏れと、未だに当時の技術力の足元にも及ばないという事実に対する嫉妬や妬みなのだろう。正直、実に詰まらない意地だと思うんだけどね。
「そうであるなら評価を変えます。シールドスーツ技術を作り上げられるのであれば、この時代でもかなり上澄みと言えるでしょう。流石はマスターのご家族、わかってらっしゃる」
「なにがだよ……」
おん? こいつの手はドリルか何かで出来てるのか? 急に意見を変えやがって、いやでもそうか、当時を知る身としてはそういう意見にもなるのか、散歩に行っている間に現代の人類についても調べてるだろうし、赤ん坊の行動を見守る親の視点のようなものだろう。
……何か腹立つのでおばあちゃん視点という事にしておこう。千年前だしそんなにまちがってないだろ。
そう納得することにして、独房から出て十数分。
「やっぱりこの船……軍用艦だな、見覚えがある」
「そうなんですか?」
俺のジト目に怪訝な表情を浮かべていたナンシュが、不思議そうな声を漏らす。右肩の上に腰掛けるナンシュの声はちゃんと右肩から聞こえる。ホログラムではなくほぼ実体と変わらないとのことだが、ISとは本当に不思議である。
「俺の知ってる駆逐艦と同じ造りをしてると思う。となると、あっちだな」
「なにがです?」
「ずっと何も食べてないし、水も飲んでないからな、確か非常食セットがこっちに設置してあるはずだ」
よく知る駆逐艦と同じなら、非常食セットが保管されている場所も同じである可能性がある。なぜ軍用の駆逐艦を海賊が使っているか今のところ不明であるが、自分の既視感と言うものも、意外と鋭い事があるものだ。
レーション、最悪は水だけでもあればいいんだが、これがもしも座礁艦の再利用となると、あまり期待は出来ない。
「なるほど」
「でも、もし軍の所有だとするなら……俺たちを買った理由はなんだ?」
それが一番面倒な可能性である。この船が駆逐艦であろうことから、軍が海賊から奴隷を買ったという可能性が急浮上してきたわけだ。ラロファの救出であれば、軍が動いていたとしても何ら疑問はない。
軍の人間が海賊に潜入して内部調査するなんて話は、たまにニュースで流れてくるし、軍じゃなくて警察なんかだと結構多いらしい。
「軍が買ったのかどうかは、ちょっと分からなかったですが……問題ありですか?」
「軍人が海賊から私的に購入とか、一発アウトで軍事裁判行きだよ。作戦内なら別だけど」
「それは問題ですね」
軍が私的に海賊から物品を購入なんてしたらその存在理由が揺らぐ、きっと上層部はそれを許さないだろう。腐ってどろどろな貴族社会ならまだしも、派閥と利権でどうしようもない軍とは言え、その運営上流石にこればっかりは許されないだろう。
それでもやらかす軍人はいるので、ありえないとも言えない。特に俺を殺そうとしていた節も見られるので、そうなると真っ当な軍人ではないと思う。そうか、自然死と言う形で辻褄を合わせようとしていたとするなら、あの扱いも説明が付く。
…………んんん、もしかして当たりか? でも俺は勘とかそういうのないからな、いやしかし悪いことはよく当たるというからなぁ。
いかがでしたでしょうか?
果たしてその勘は当たるのか、ふらふらと艦内を歩くヨーマはどこへ向かうのか。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




