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旧式艦長ヨーマ ~その軌跡の始まり~  作者: Hekuto


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第39話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



「うーぃ……完全に風邪だな」


 集中力が維持できない。ぼやけた頭で魔素の循環をコントロールしようとして勝手に息が荒くなってくる。完全に風邪だ。最後にここまで風邪らしい状態になったのは何時だっただろうか? 初めての刻印? 二回目の刻印? 刻印の度に倒れていた気はするな。


「治癒術も身体に刻んでおくべきだったかな?風邪にはあまり意味無いか」


 あんな苦労して死にかけてまで頑張った生体刻印術だけど、治癒系の刻印術は刻んでいない。なぜか、それは生体刻印術を使う上での致命的問題が治癒の刻印術にはあるからだ。


「弊害を考えるとちょっとなぁ? でもこの状況を考えると刻んでいた方が良かったまである」


 弊害を無視して刻んでも良かったと今の俺の頭は考えているが、治癒の基本は遺伝子情報やアストラル情報から、その生体が最も安定している状態を読み取り置換する魔法である。不老も可能にするような魔法であるが扱いが非常に難しい。ちゃんと扱えたとしても十中八九、生体刻印術まで置換されてしまう。最悪、治療の途中で治癒の刻印術が消えてしまい、中途半端な状態で体の修復が止まってしまいかねない。


 そうなると、大きな病院で高い金を払って手術を受けることになるだろう。そうなればまた生体刻印術を最初から刻み直しになる。


 俺の心は死ぬ。


「腹減ったな……」


 心が死にそうなことを考えていても腹は減る。そもそも効率食チューブしか食べてなかった体だ。胃の中には何も入ってないんじゃないだろうか? この状態が続けば色々と体に弊害が出て来るので、なんでも良いからとりあえず口に入れたい。


「いい加減水ぐらいどうにかしたいけど、奥の手使ったらそのまま死にそうなんだよなぁ」


 部屋からの脱出だけなら何とかなるけど、その後が続かないんじゃ作戦でも何でもない。先に救いがあるから作戦は作戦たり得るわけで……何を考えてたんだっけ? ちょっと座るか。


「はぁ、踏んだり蹴ったりだ」


 這いずって扉の前までやって来たけど、内側から操作するパネルは見当たらない。扉に背中を預けて座れば少しだけ背中が暖かい。内部機器が熱を持っているのか、あまりこの扉の調子は良くなさそうだ。


 程よい熱に瞼が重くなってくる。少し……寝よう。





 一方その頃、


「マスターの意識レベル低下を確認、急ぎましょう」


 ふらふらと低重力の艦内を歩くナンシュは、捕捉し続けていたヨーマの反応の変化に真剣な声を漏らし、それに反してシールドスーツの頼りない足取りは変わらず、声だけが悲しく通路に響く。


「ひっ!?」


「おっと不味いです。緊急退避!」


 そんな声は、丁度曲がり角の先の部屋から出て来た女性の耳に届いてしまう。慌てて跳び上がるナンシュ搭載シールドスーツは、持ち前の軽さと低重力を生かして天井に張り付くように隠れる。


 丁度天井の凹凸の影により、女性の視界から消えることに成功したが、それで女性の恐怖心が和らぐわけもなく、彼女は声のした方に目を向け必死に音源の元を探す。それはよく見ると先ほど倉庫の扉が開いていたことで愚痴を漏らしていた釣り目がちなオレンジの瞳を持つ少女であった。


「な、なに? 今何か居たよね?」


 探せども人影一つ見当たらない、いつもと変わらぬ寂し気な艦内の通路に、じっと目を向ける少女の後ろから現れるのは、硬質な髪質をうかがわせる真っ赤な逆立った短髪の少年レクス。何をするでもなく通路の真ん中で立ち止まる少女に、彼は顔を顰め小首を傾げた。


「おい! さっさと行くぞ! メテシュさんたちが待ってるんだからな!」


「うっさいわね! 急ぎたきゃ自分で全部やりなさいよ!」


 怯えるライトブラウンの髪の少女と同じ色の目をした彼は、少女がサボっていると思ったのか大きな声で注意するも、返って来たのは先ほどまで怯えていたとは思えないような鋭い罵声。


「一人で手が足りないから手伝ってもらってるんだろ」


 想像していたよりきつい返しだったのか、それとも彼女の言葉の意味が理解出来なかったのか、顔を余計に顰めるとぶつぶつと不満を漏らす。青年には一歩届かない少年然とした容姿のレクスは、何を言ってるんだと言いたげに不満を漏らしたわけだが、それは悪手。


「だったらもうちょっと感謝したらどうなのよ!」


「し、してるだろ?」


 吐いた言葉の何倍もの不平不満を伴った声が返って来て、思わず後退ってしまうのであった。


 そんな彼らが居なくなった後、ひらひらと天井から降りてくるシールドスーツとナンシュ、まるで一反木綿のような動きで舞い降りるスーツの腕の中で、ナンシュは冷たい表情を浮かべる。


「蛇娘たちは無事の様ですが、ずいぶんと扱いが違うみたいですね……」


 その原因は、マスターであるヨーマと三人の女性との扱いの違いによるもので、不満そうにつぶやく彼女の声に、メテシュたちの無事に対する感情は感じられない。





 無事が確認されたメテシュたちは、裸に剥かれることも無く、エアコンにより適温が維持された部屋に三人でいるようだ。


「ヨーマ……」


「元気だしぃ?」


 コンテナの中とは違う明るい部屋は、清潔感のある白い色の家具で統一され、ベッドに敷かれた寝具には汚れ一つない。むしろ彼女達の姿の方が薄汚れていて、部屋の雰囲気に合わないほどだ。


 部屋にはシャワールームもあるようだが、使われた形跡はなく。メテシュは不安そうに部屋の隅に座り込み、そんな彼女の頭をネフはそっと撫でている。


「むぅ……」


 その優しい手付きに対して、僅かな不服で唸るメテシュの姿に、何時でも動けるように壁際に立つロナは微笑む。突然連れ出された場所で警戒は解けないようであるが、それでも少しは落ち着いた雰囲気を保てていた。


 そこにはナンシュが感じた様に、ヨーマとの明確な扱いの違いがある。


 そんな空間に現れるのは先ほどの少年レクス。


「着替えに使えそうな物持ってきました!」


 自動で開く扉も待ちきれないと言った様子で、勢いよく部屋に飛び込んで来た彼は、手にいっぱいの服やタオルを抱えて現れると、大きな声で三人に笑いかける。


「シャー!!」


「シャッ!!」


 しかし彼の笑顔に対する反応は、メテシュの髪の中に隠れていた蛇二匹の威嚇であった。


「うひぃ!? これに着替えくれ」


 すぐに飛びつくことも可能なほど接近していたレクスは、鼻先を掠める蛇の牙に驚きしりもちを着くと、放り投げてしまった宇宙服を頭から被りながら着替えるように説明するが、それに対する三人の表情は硬い。


「サイズはフリーのはずだからある程度は体に合うと思うわ」


「ああ、すまない」


 一方で、一緒についてきた女性に対しては少しマシなようで、タオルで隠す様にして渡された下着類を受け取るロナは、少女の配慮に笑みを浮かべ、その笑みに少女は少し頬を赤らめる。それはラロファを前にした人間としては正常な反応であった。


 薄汚れてもなお美しいラロファに複雑な表情を浮かべる少女が離れると、こちらも宇宙服を受け取ったネフが、サイズを比べながらメテシュに声を掛けている。


「ふふー」


 そんな様子を満足気にじっと見詰めるレクス。


 その視線に無言で後退るメテシュと、それを守る様に立ちふさがるネフ。すっかりお姉さんのような立ち位置であるが、見た目は真逆である。


「……」


 その場に無言の緊張が走り始め、通路に出る扉の前でライトブラウンの髪の少女は訝し気に振り返った。


「ん? どうしたんだ早く着替えると良い」


「あんた、本気で言ってる?」


 そしてレクスの言葉に彼の正気を疑う。


「んん? だってそのために着替えを用意したんだぞ」


 問われたレクスは何を言っているんだと言いたげに頭だけで振り返ると、頭を抱える少女を見詰めて首を傾げた。


「……へんたい」


「最低やな、そう言うつもりやったんか」


「……」


「え?」


 首を傾げる彼の姿に、メテシュは真顔で呟き、ネフの瞳は縦に割れ、ロナは無言で二人を少年の視線から隠す様に前に出る。その言動に対してレクスは何が起きているのか全く理解出来ずに、短く疑問の声を漏らす。


 部屋にはベッドや家具の他に、シャワー室やトイレもある。タオルと替えの下着に洋服、宇宙服と用意されれば、シャワーを浴びて着替えてくれと言われているのも同義である。それが事実であることを示す様に、タオルで隠された下着と一緒に、少女はシャワーの際に使えるシャンプーなども渡しているのだ。


 そんな状況で、部屋の真ん中で腕を組んで仁王立ちするレクス。どう考えても彼女達の裸を鑑賞しようとしている変態にしか見えない。


「そんなにこの人たちの着替えを見たいわけ? 最低ねあんた」


「…………はっ!? いやそうじゃなくて! ちゃんと着られるかと確認を、あれ? それもただの覗きか?」


 ようやくその事に気が付いたらしいレクスは、軽蔑の眼差しに挟まれ慌てた様子で取り繕うも、そもそも考えていたことが覗きに該当すると自己完結してしまう。瞬間、隙の出来た彼の背中に回り込むのは、背中まである髪が顔にかかった影の中、目だけ爛々と輝く少女。


「死ね!!」


「げぶふぅっ!?」


 髪の隙間から見える目は冷たく鋭く、素早い動きで回り込み長い髪を大きく振って体を捻る彼女は、驚くレクスの背中に向かって体全体で体当たりを放ち、右肘は少年の脇に深く突き刺さる。武術に精通した人がこの場に居れば唸るような鮮やかな一撃による衝撃は、車に撥ねられる衝撃と遜色はなく、レクスを開いた扉から部屋の外まで吹き飛ばしてしまう。


「ごめんなさい、この馬鹿縛って来るから」


「あ、あぁ……」


「死んだんちゃう?」


 いくら低重力な艦内とは言え、それなりに重力はある。にもかかわらず放物線を描き飛んで行った少年は、通路の壁に打ち付けられたであろう大きな音を鳴らし、その光景に何でもないように頭を下げて退出する少女と、目が点になるロナとネフ。


 死ぬほどではないにしろ、大怪我を負ってもおかしく無い一撃に、扉の閉まった室内に沈黙が流れる。が、


「どれにしようかな」


「……興味が完全にないなっとる」


 メテシュはそんな光景を気にした様子もなく、寧ろ先ほどまでより明るい表情で下着を物色していた。


 緊張と驚きと、知り合ったばかりの女の子が見せる切り替えの早さに、疲れた表情で肩を落とすネフに、下着を胸に当てて振り返るメテシュは小首を傾げる。


「まぁ仲間内で殺し合いをするようには見えなかったし、ずいぶんと強靭な種族なんだろう」


「そう言うもんかな?」


 ロナもすでに落ち着きを取り戻しそう結論付けるが、ネフはいまだに納得いかないような表情で首を傾げた。しかし世の中は広く、あいさつ代わりに殴り合いを始める種族だっているのだから、ロナの言葉も一概に間違いとは言えないだろう。


「宇宙は広いからな、いろいろな種族がいる」


「まぁそれは、そうやけど……」


 二人が悩んでいるうちに、いつの間にかメテシュはタオルとバス用品を抱えており、今にもシャワー室に走り出そうとしており、そんな彼女と見つめ合った二人は笑い出す。何がそんなにおかしいのか分からないメテシュがキョトンとし表情で固まると、二人はさらに笑い声が止まらなくなるのだった。





 そんな一室と違い、ナンシュは泣いていた。


「マスター、ますたーはどこー?」


 魔法でヨーマの位置を補足しているにもかかわらず、未だにたどり着けないナンシュ。


「あれぇこっちも行き止まりです」


 これは彼女が方向音痴なのか、それとも艦内が入り組んでいるからなのか、少なくともヨーマの命は今も風前で弄ばれるが如くである。



 いかがでしたでしょうか?


 急げナンシュ! ヨーマを救えるのは君しかいない!


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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