第38話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「どうしてこうなった」
ほんとどうしてこうなった。気を失って目が覚めれば三人から心配されていたのだが、すぐにインテロが来たかと思うとコンテナから出され、三人とは別々に移送されるまでは良かった。良くないけど、まぁ理解出来る。
「素っ裸に剥かれてクッソ眩しい部屋に一人」
どうしてこうなった。
これが海賊の流儀と言うやつだろうか? いや、これまでの海賊でもこんなひどいことはしなかった。シールドスーツを脱がされ、デバイスであるナンシュを奪われ、あまつさえ下着まで剥がされて放り込まれたのは、どう見ても扱いがコンテナ以下の眩しい部屋である。
壁も床も天井もライティングパネルで、消灯することも無く、光量が変わることも無く、常に光り続けているあたり、これは拷問室なのかもしれない。まぁ冗談はこのくらいで良いとしてだ。
「この部屋……独房か? そうなると」
俺にはこの構造に覚えがある。覚えがあるぶん設備の足りなさにむしろ違和感がある。全面ライティングパネルとまではいかないまでも、俺が知ってる独房はこんな感じで、あとは最低限水や食料に衛生設備が取り付けられているはずだ。
「そんなわけないか、もしそうだとするなら大問題も良い所だ」
うん、たぶんよく似た別の何かだろう。もし俺がよく知る独房であるなら色々問題があるし、俺がこんな生まれたままの姿で寒い部屋に放置されるわけもない。
そう寒いのだ。体が勝手に震え出すくらい寒い。そして体が熱い。目が霞む、喉が痛い。鼻水が垂れる。何より身体がものすごく怠い、どのくらい怠いかと言えば素っ裸で大の字になって床の上に放り出されたまま動けないでいるくらいにだ。
別に俺には露出癖はないが、まぁ誰もいないし良いかと思えるくらいには体がだるくて動かない。
「風邪だな、自分の体の脆弱性にはほんと嘆きたくなるな」
本当にこの身体は脆い。スキル持ちなら一生風邪などひかない人間がほとんどであろう。流石に日頃からぼろ雑巾の様になるまで働いていれば風邪もひくだろうが、最低限の安全安心が保障された場所で風邪をひくことはないだろう。
そういう意味では、奴隷として売られたらい回しに遭っていた俺が、これまで病気にならずにすんでいたのは、シールドスーツのおかげである。あれには常に体調を維持するための刻印術がインストールされていたから、その補助が無くなって一気に体調が悪くなったんだろうな。
「と言っても、普通の人間でも素っ裸にされたら風邪ぐらい罹るか、寒いし」
ちょっと盛ったかもしれない。いくらスキル持ちとは言えピンキリ、フィジカル系のスキルでなければその恩恵も変わってくるはずだ。むしろスキル無しの身からすればそうであってほしい。
「それにしてもあの骨董品め、何が悪い事にはならないだ。なっとるやろがい」
どこに持っていかれたのか、素っ裸の今の状態では連絡の取りようもない。どこをどう考えても最悪一歩手前の状態だと、あのうるさい声も悪いものじゃないと思える。
まぁ再会できたらお説教の一つもしてやりたいところではあるんだが、未来予測プログラムの更新から勧めてやろうかな? そしたらあいつはなんて答えるだろうか。
「うー……低重力だからいいものの、これが高重力仕様の独房なら死んでるゲホゲッホ……喉も乾いた」
しゃべって気を紛らわせていたけど限度があるな、精神的に死ぬのが先か身体的に死ぬのが先か、喉の奥が張り付くような痛みとまではいかないけど、いい加減水の一滴でも口に含みたいところだ。
「にしても……じわじわなぶり殺しにするとか、ずいぶんと悪辣な海賊だ。まぁ船の外に張りつけにして殺す海賊もいるらしいし、そうでも無いのか?」
外に張り付けならほぼ一瞬で死ねる自信があるので、そっちの方が楽な気はする。これがスキル持ちなら真空中でも数分くらい平気で生きられるので、そういったすごさと恐ろしさの描写としては昔からメディアが使う絵面だけど、俺からしたら恐ろしさしか感じないんだよな。
あー……良い感じに頭がボケて来た。
「はぁ、これは精神的にだいぶ来てるな……とりあえず魔素の回収と体内循環くらいさせておくか、少しはマシだろう」
シールドスーツがなくても、たとえ素っ裸であっても、身体に直接刻んでいる刻印術は何ら問題なく起動できる。刻むだけでも死にかけるので、大したものは刻んでいないけど、魔素の体内循環だけでも意味がある。
熟練者ならそれだけで身体能力の活性化や傷の再生までできるらしい。羨ましい限りだ。
ヨーマが薄れる意識を繋ぎ留め、魔素を取り込み少しでも体調の回復に勤めようとしている頃、同じ船の雑多に物が詰め込まれた倉庫の中で暗闇に光が灯る。
「非常起動開始」
それはヨーマから剥ぎ取られたデバイス。幾何学模様の光がデバイス表面を流れるように満たすと小さなディスプレイが点滅、続いて空中に光が投影されていく。
「簡易起動完了、ログ確認、自己アップデート開始、バックアップ作成、システム魔法統合実施、式をエンキからナンシュにインストール、自己診断、全システム正常確認」
大量のウィンドウが目まぐるしく入れ替わり、現状において最適の設定に切り替わっていくデバイス。その光は明るく、照明一つ点灯していない真っ暗な倉庫内に、幻想的な光景を描いて行く。
偶然かそれとも必然か、光の反射によって映し出された影は女性のシルエットをしており、その表情は憂いに満ちている。
「ナンシュ起動」
ナンシュの名が呼ばれると、周囲に満ちていた光は収束するようにデバイスの上で円を描く。
「ぷはぁ!? 全くこんなことになるなんて聞いてませんよ?」
現れたのはミニナンシュ、光の円環から飛び出す彼女は、まるで溺れていたかのように大きく息を吸うと不満をあらわにしてその場で地団太を踏む。空中で彼女が暴れるたびに、彼女の白いワンピースの裾は本物のように揺れて乱れる。
「ほん、低レベルなロックですね。しかし体が無ければ動けません……マスターは何処に」
不満から怒りに変わり、頬を膨らませる彼女は周囲を見回し呆れたように呟く。
指を振るとデバイスを固定していたバンドが紫電を漏らして弾け飛び、その勢いでデバイスが棚の上に転がり出る。棚の上でくるくると回るデバイスの上に腰掛けるナンシュは、水中のようにふわふわと揺れる長い髪を振り乱しながら周囲を見回し、その度に彼女の周りでウィンドウが出現していた。
どうやら彼女は視線の先にあるものを片っ端から調べているようだが、めぼしいものは見つからなかったの、勢いよく立ち上がると気合を入れるように両手で拳を作る。
「パッシブレーダー起動! くんくん! マスターの匂いはどこだ! この部屋には居ない? もっと、居た!」
ぎゅっと体に引き寄せた拳と逆に突き出した鼻先は、匂いを嗅ぐようにしてヨーマの位置を補足してしまう。
それは、とてもデバイス単独で実行できる能力ではない。そもそも、人の手が介在しない状態で、デバイスが魔法を運用する事など本来は出来ない。出来ないのだが、ISと言う存在はそれを可能にする。何故なら彼女達は、人類に新たな霊長として認められた生命体なのだ。学者の中には、彼女達の事を新人類と呼び、一度戦争で滅びかけた自分たちの事を旧人類と呼ぶ者すらいる。
「アクティブレーダー起動! なななな!? なんてことですか! マスターが素っ裸じゃないですか……はぁはぁ、おっと涎が?」
鼻を鳴らし、マスターと呼ぶヨーマを確認して涎を垂らすその姿からは想像できないが、彼女達は人より圧倒的に優れた種であった。
そんな彼女は、ヨーマの現状を正しく理解すると、鼻腔を膨らませ涎を垂らしながら怒りをあらわにする。ふざけた調子で透視したヨーマの姿を、プライベートフォルダに保存しているが、その目はまったく笑っていない。
「はん? シールドスーツがすぐそこにありますね」
ハイライトの消えた瞳で、倉庫の小型コンテナに詰め込まれたシールドスーツを捕らえたナンシュは、その状態を確認しながら冷たく呟く。
「てかなんですか? この船のクルーはずいぶんと性格が悪いですね? 殺しますか?」
彼女にとってマスターヨーマはこの世のすべて、そして彼の所有物は全てが至宝。どこの誰だかも知らない人間が雑に扱って良い品物ではないのだ。イライラとした感情を隠しもしない彼女の言葉は本心である。ヨーマが自由を許せば平気で実行するであろう。
「発熱、心拍数の増加、血圧の低下、筋電の乱れを確認。完全に風邪と脱水症状ですね」
ヨーマの体調を確認しながら、片手間に開いたウィンドウ内で魔法式が目まぐるしくその構造を変えている。どうやらヨーマが整理したファイルに納められた式を組み替えて、まったく新しい魔法を構築しているようだ。
「ずいぶんな時間放置してくれやがって、遠隔魔法式書き換え実施」
可愛い顔を怒りに歪ませる彼女が作ったばかりの魔法を実行すると、離れた場所にあるはずのシールドスーツ表面に魔素による幾何学模様が書き込まれていく。それはヨーマがシールドスーツにインストールしていた刻印術の書き換えているのである。
「あとは何かないでしょうか……水の一滴すらないなんて」
シールドスーツが光の幾何学模様で満たされていく間も、ナンシュは倉庫の中を調べるが、今のヨーマに必要な物は何一つとして存在しない。使えそうな物はデバイスとシールドスーツだけである。
そして何も見つからないままシールドスーツの刻印術書き換えが終わり、シールドスーツはひとりでに立ち上がった。
「よし、これでシールドスーツを遠隔で動かせます。待っていてくださいマスター!」
上下に分かれていたスーツは合体、ベルト部分のランプが点灯、数度点滅するとスーツ全体に光の波紋が広がり歩きだす。それはまるで透明人間がスーツを着て歩いているような動きで、デバイスを袖に通すと落とさないように両手で抱える。
そのまま勝手に開いた倉庫の扉から外に出たシールドスーツは、ナンシュの指示に従いふらふらと艦内の通路を歩き始めるのだった。
それから数分後、
「あれ?」
オレンジ色の瞳が開いたまま放置された倉庫の扉に気が付き足を止める。
「倉庫が開いてる。なんでリーダーは開けたものを閉められないのかな」
倉庫を最後に使った人物に対する愚痴を口にする彼女は、特に倉庫の中を確認すること無く倉庫の扉を閉めた。きっとリーダーと呼ばれた人物が閉め忘れたのであろうという先入観で、状況の変化を捕らえることが出来なかったようだ。
「物資も少なくなっちゃったな、早く仕事を終わらせないと」
倉庫とは言いつつもの、真面な物が置かれていない部屋に背を向け歩きだす。ライトブラウンの髪を掻き上げ溜息を吐く彼女の仕事とは、そしてヨーマを素っ裸にした理由とは何なのであろう。
いかがでしたでしょうか?
ヨーマは生まれたままの姿で放置された!ヨーマの羞恥心が少し下がった。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




