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旧式艦長ヨーマ ~その軌跡の始まり~  作者: Hekuto


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第35話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



「……鼻が冷たい」


 鼻を指で摘まんで温める。まるで冬季管制時のような寒さだ。家を出たのが春季管制だったからこの船が特別おかしいのだろう。もしくは環境制御が壊れている区画なんだろうか? 居住艦資格一発剥奪レベルの管理、流石は海賊の船と言ったところだな。


「フィルター良し、バッテリー残量まぁまぁ、シールドスーツの調子は上々、これ無かったらほんと死んでたな」


 起き上ってすぐ始めるのはデバイスによる状態確認、もうルーティンのようなものだ。展開している魔素フィルターの状態に異常はなし、過負荷も無し、バッテリーは減り続けているけど、そもそもの容量が大きいので半分になったところでまだ余裕はある。


 自分の体に対しても治療術を使っているから魔素の減りは早い、いくら人助けとは言え排気魔素を取り込みすぎたようで、治療魔法がなければ死んでるところだ。そう言う意味でもシールドスーツ、とても役に立っている。帰ったらドゥム兄さんにはお菓子をもってお礼言わないとな。


「ん? 動き出した? またどこかに買われたのか……さて次はどんなとこに運ばれるのか、どうにかなればいいけど」


 ヒーターに足を向けて寝ている三人は起きる気配がない。体を寄せ合って寝て、ずいぶん仲が良くなったようだが、気のせいか彼女達から張り詰めた空気が無くなっている気がする。


 出来る事ならば、彼女達をこの状況から救い出したいところだ。


 こうやって出会えたのも何かの縁なんだと思う。縁がなければこの広い宇宙、出会う事も出来ないから……しかし、どう救ったものか。


「家族に誇れる人間に、そう思って家を出たと言うのに……最底辺から人間に戻るのも苦労しそうなのに人助けとは、なんと甘く贅沢な望みか」


 無謀にもほどがあるけど、考えたところで害しかないから今は考えない。それにしても、問題が山積みすぎてどこから取り掛かったらいいものか、先ずはこの船の中で安全を確保するべきか、それとも船を出る手立てを強引にでも手に入れるか、体調を改善できたのは順調と言えるのかな。





 ながい。


「やけに長い移動だな」


「そうなの?」


 ブランケットお化けが振り向いて、ぼさぼさの頭から飛び出したアホ毛を揺らしている。髪が長いと静電気に苦労するのだろう。すでに髪の毛を整えるのも諦めたようだ。


「確かになぁ? こら外に買われたかもしれんね」


「外か……」


 外に買われたという事は、この海賊居住船ともお別れという事だ。行き場所は他の宇宙船に搬入するための港だろうか、港ならクルーザーくらいいくらでもありそうだが、流石に盗んで脱出とはいかないだろう。海賊船とは言えセキュリティくらいある。


 翳していた手とロナの背中の間で光が弾けた。治療魔法の浸透が完了した合図だ。今回の魔法は中々綺麗に仕上がったと思う。シールドスーツへのインスコも20%ほど容量削減ができた。これもナンシュの拾い物を整理した成果だ。


「ほい、魔法の掛け直し完了だ」


「ありがとう」


 ラロファの体に発生した炎症治療用に調整した魔法だから、他ではまったく使い道がない魔法だけど、こういう特化による性能向上が可能なのが自作の良い所だ。こんなことを正規の魔法使いに言っても馬鹿にされるだろうが、普通の魔法を使えない身としては誇りたいところである。


「だいぶ炎症も引いてきたと思うけど、体の具合はどうだ? 感覚は本人にしか分からんからな」


「ああ、まだ少し怠さが残っている気もするけど、動くのに問題はないよ」


 診察魔法の結果とそこまで差はないと言ったところかな、正直なところ自身は無かったけど、流石は違法術式のパーツを使っただけはあるという事だろうか……なるべく分解して保存しておこう。運よく軍に保護されたら、違法データは没収されるだろうからなぁ。


「私も怠くなくなった。ありがとうヨーマ」


「どういたしまして」


 メシュも元氣になったようだ。緊急時に備えて、排気魔素を体外に排出する魔法を教えてもいいのだが、彼女の種族がどういう魔法を使うのか分からないと下手に教えられないし、とりあえずはフィルターでその場しのぎするほかないだろう。


「……」


 うん、どうやらコンテナの外の環境が改善されているようだ。給気から入り込む空気の質が変わっている。港に向かっているなら、空気の薄い場所も通るだろうし、そのうち室内循環に切り替わるだろう。それまでに室内の排気魔素濃度が下がる事を祈ろう。


 魔法のかけなおしを終えたらまたすぐ横になる。魔法は使えば疲れるもの、メシュもそれは分かっているらしく、引っ付いてきたりはしない。深呼吸で心を落ち着けると胸の奥の重みが少しづつ軽くなっていく。メシュと出会ってから魔術に魔法にと無理をしたせいか、少し疲れ気味である。


「……どこに売られるんやろなぁ」


 目を瞑り深呼吸を続けていると、沈黙に耐えられなくなったのであろうネフが呟く。確かに随分と長いこと移動して時折大きく揺れるコンテナと言うのは、どこに向かっているのか分からないこともあってど、自然と不安が湧き出てしまうものだ。


「帰りたい」


 俺も帰りたい。でも、帰れる手立てが見つかったとしても、それはメシュを家に帰してからになるだろう。


「せやなぁ……長い事こんな生活してるけど、早く帰りたいわ」


「……そうだな」


 ネフも帰してあげたいし、ロナに関しては申し訳ないが最優先で軍に連絡を入れなければならない。順番としてはロナの安全確保が先になるだろうが、買い取った人間がラロファについてある程度知識を持つ者なら良いのだが、海賊に売買される時点で高望みは出来ないな。


「ん?」


「どうしたの?」


 体が軽い。寝がえりをうつのも楽に感じるくらいに体が軽い。寝がえりをうつとぼさぼさ頭がよりぼさぼさになったメシュの顔が目に入る。少しは手櫛なりなんなりでどうにかしたらいいものを。


「重力が軽くなって来たな」


「ん? ……ほんとだ」


「ほんとや……てことはやっぱり港に向かってるって事やな?」


 それは分からない。船の種類によっては、積み荷の運搬を楽にするため、艦内に無重力区画を設けることもあるので、一概に港とは言えない。


「この船の構造が分からないから何とも言えないけど、低重力搬送路に入った感じか」


 だが状況を考えるに搬送路であるのは確かだと思う。そうなるとコンテナの終点もそう遠くはないはずだ。さてさて、どうなるか……はぁ、お腹が痛くなりそう。


「なぁヨーマはん」


「なに?」


 そんな神妙な顔をしてどうしたんだい? ネフもお腹痛くなってきたのかな? なら早めにトイレに行っておくことをお勧めする。いまならまだ俺のお腹はトイレを必要とはしてないから。というか、真面な食事をとれていないので、出る物も出ない気がする。


「この先どうなるか分からんけど、なるべく一緒に、居てほしいねんけど……」


 トイレじゃないのか、でも不安はありそうだな。俺もなるべくなら一緒に居てあげたいとは思っている。出来る事なら奴隷などという身分からは解放してあげたいとも思う。正義感とかそう言うの関係なく、奴隷なんて本来あっていい存在ではないのだ。


 法律上、罪人でもない限りその身の自由を侵害してはならに事になっているからな、よくこんな大規模な船で奴隷市場を開いて入れるものだと、ここに来た当初は感心すら覚えたものだ。まぁ、貴族が関わっていれとなれば、納得が出来てしまう程度の感心ではあるけど。


「私もヨーマといる!」


「そうだな、みんな一緒が良いな」


 メシュとロナも、ネフと同じ考えのようだ。


「どうなるかわからないけど……その方が俺も気が楽ではあるかなぁ」


 思わず嬉しくなって頭を撫でると目を細めるメシュ。守りたい、この笑顔、と言うやつである。14歳の女の子にここはあまりに辛い場所だ。彼女が少しでも安らぎを感じるなら、大樹役になるのも構わないだろう。


 フィジカル面ではまったく寄る辺にはならないけどね。おっと? 急に腰に抱き着いてくるのはおやめください? フィジカルマシマシな貴女の一撃は普通に大ダメージになるので、頭グリグリも控えめにしていただけませんかねお嬢様。


「ンフフゥー!」


 しまいには変な声で笑いだしたよ。良くわかんない子だな。


「なんだよその笑いかたあ!?」


 重力が反転した!? これはあの時と同じ重力異常、それともこの搬送路の仕様か、いやまてこのまま行くと――。


「むにゃ!?」


「おぶう!?」


「ひゃん!?」


 お腹に一撃、顔に柔らかい感触、そしてさらにお腹に追加の重みぃ!? ……シールドスーツの刻印術が自動軽減してくれて……それでも少し苦しい。そして暗い、何も見えない。甘い香りがして、ファスナーが顎に食い込んで痛い。となると、これはロナか………いかん早くどかさないと。


 息を吐きながら力を、


「みんな大丈ぶぅげろ――!?」


 息が、できない。腹にかたくてまるいなにかが、くいこんで……いしきがたもてない。


「あいたたた……ヨーマはんどこぉ……はわわわわ!」


 とおくで、ネフの、こえがきこえる。


 おなかの、かたいものがきえた。


 おまえか、ねふ……。いきをすい、すい―――。





 体が絡み合ったネフヘケプは、柔らかいクッションから膝をどけると驚き、青い顔をさらに蒼くする。


 なぜか、


「ヨーマが、ヨーマが潰れちゃった」


「…………」


 今しがたまで自分が全体重をかけていた片膝は、クッションなどではなくヨーマの鳩尾にめり込んでいたのだ。ヨーマの顔色は、ファカーロナの胸に頭全体が抱え込まれていて見えないが、体からは力が抜けてとてもじゃないが問題ないようには見えない。


 か細い声で呟くメテシュは、次の瞬間勢いよく手を動かす。


「だ、だいじょうぶひゃん! メシュ!?」


 ヨーマの腰に跨り手を動かすメテシュは、その手をヨーマの顔を覆うファカーロナの脇に入れると、胸を鷲掴みにして持ち上げる。一切の躊躇も遠慮も無く持ち上げられた胸は、小ぶりながらも柔らかく形を変え、そのまま持ち上げるように押されたファカーロナは冷たい金属の床でしりもちを着いた。


 それは少し前まで壁だった場所である。


 しりもちを着くファカーロナを気にする様子もないメテシュは、ブランケットによって絡んでいるネフヘケプが邪魔だったようで、脚だけの力で勢いよく立ち上がると、背中に手を回して壁と床の間で藻掻くネフヘケプを掴んでどかそうと力を籠める。


 彼女が掴んだのは非常に弾力に富み突き出た掴みやすい場所、感触だけなら柔らかい風船か玩具、


「ちょ、メシュ変なところ触らんといて!?」


 それはネフヘケプのおっぱいである。そんな繊細な場所を鷲掴みにされて放り投げられたネフヘケプは、胸を両手で押さえると、掴まれた場所が痛かったのか、それとも心が痛かったのか目に涙を浮かべている。


「そんな事よりヨーマが息してない……ヨーマ! ヨーマ!」


 一方、お尻でつぶしてしまったヨーマの隣に座り直したメテシュは、ヨーマの胸に手を置いて揺らしている。息をしていない、そう言って胸を叩こうと腕を振りかざすメテシュであるが、魔素が収束するその腕はネフヘケプに飛びつかれ止められてしまう。


「ストップストップ!! 息してるから! それに打撃は不味いて!?」


 なぜなら、ヨーマの口元にかかった数本の長い銀色の髪の毛が揺れているのだ。それはヨーマが呼吸をしているという事だ。しかもメテシュがやろうとしたのは除細動法であって、呼吸が無いからといって、安易に行って良い処置ではない。


 そもそもにおいて前胸部打撃は大変危険な技術なので、下手するとヨーマの胸部に致命的な損傷を与える可能性もある。戦場などでは緊急時などに用いられることもあるが、それは相応の治療魔法や魔術を併用する前提なのだ。素人が知識だけで扱える技術でもない。


「シャー!」


「え? ほんと? ……ほんとだ」


 ネフヘケプの言葉に目を見開き動きを止めるメテシュは、左肩の蛇に何か言われるとその場にへたり込み、周囲を見回すとヨーマの胸に耳を付ける。そして安心したように小さく呟いた。どうやらメテシュは以前の事もあって混乱してしまったようだ。


 ほっと息を吐くネフヘケプは、ヨーマの呼吸と心音を聞き続けるメテシュの背中を摩り、ファカーロナはヨーマの顔を覗き込む。血は出ていない。呼吸音も細いが聞こえてくる。その様子にほっと息を吐くファカーロナは、気道を確保しようとユウヒの頭をそっと動かす。瞬間――、


「気絶してしまったあっ!?」


 大きな揺れと共にまた体が浮き上がる。


 慌ててヨーマの体にしがみつく三人は、その後、数度にわたってコンテナの中で右に左にと転がされることになるのであった。一体何が起きているのか、そしてヨーマの容体は如何に……。



 いかがでしたでしょうか?


 鳩尾に小柄とはいえ人一人分の体重……シールドスーツは大変優秀なようです。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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