第34話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「それにしても寒いなぁ?」
「うん、寒い……」
壁に映っている様に見えるデバイスの画面を見つめながら呟くと、ヒーターの前から声が返ってくる。指を動かし画面を操作する関係上どうしても指先が冷えてくるのだが、動かなくてもメシュは寒いようで、振り返るとヒーター前に大きく丸い団子が出来ていた。
よくあそこまで綺麗に丸まるものだ。あの子手足がすらりと長いと言うのに、どこをどうしたらあんな小さくまとまるのだろうか、体が柔らかいと可能なのか、体の固い俺には想像もできない。
ん? 巨大団子から手が生えて来た。
「え、えっと?」
そしてその手がロナの腕を掴む。よく見るとロナが座っている場所がヒーターに近くなり、大きく開いていた胸元のファスナーがきっちり首元まで閉じられていた。
「もっとこっちに来る」
「あ、ああ……」
どうやら一時的に上がっていた体温はすっかり下がった様で、今はむしろ寒さを感じていたようだ。それにしてもよく気が付いたものである。何かピット器官的な能力でもあるのだろうか? ここから見たら巨大団子お化けにしか見えないのに、気が利くものだ。
というかずいぶん気を許しているな、女の子というのはこんなにすぐ仲良くなるものなのか。
「離れちゃだめ!」
「えっと……」
視線を感じる。
メシュの心の壁は薄くなっているようだが、ロナの心の壁はまだそれほど薄くなっていない様で、俺に対してどうしたらいいのかといった様子で目を向けてくるが、俺にそんなことが分かるわけがないので、首を横に振っておく。
体を密着させないように空間を開けるたびに引き寄せられる。本当に距離感がバグったお嬢様だ。
「注文の多いお姫さまやな」
ロナとは反対側でヒーターに当たっているネフが呆れたように呟く。ヒーターから出る暖色系の光を浴びる彼女の肌は少しくすんだ灰色に見え、その色合いのせいかいつもより落ち着いた雰囲気を醸している。
「あの、えっと」
離れるたびに引き寄せられるロナがこちらに助けを求めるような目を向けてくるのだが、何度視線を向けられても答えは変わりません。
「何を言おうとしたの」
「え?」
ん? メシュはロナに対して何か聞きたい事があったようだ。そう言う時は先に聞きたい事があると伝えましょう、突然肩を叩いたり、腕を掴んだり、引き寄せられても相手は戸惑ってしまってうまく会話が成立されないことが多くあります。
良い子のみんなは気を付けましょう。ちなみに、私は落とし物を拾って、落とした女性に渡す際、一歩後ろから声をかけたら、振り向くなり睨まれました。
ただの親切による行動でしたが、今度からは声をかけずに交番に届けようと固く誓った出来事を思い出す。女性の心は分からない。なので私に視線を向けないで、メシュの話を聞いてあげてください。
「ヨーマに」
俺に? そう言えば何か言われていた様な、何の話だったのでしょうか、俺も気になります。
「そ、それは……そう、友になって貰えそうだなと」
とも? 友達のことですかね? 俺はそんなに友達が多い方ではないので良くわからないけど、友達っていつの間にかなって居るものなのでは? あ、でも友達の居ない俺には解らないコンタクトがあるのかも? それに俺も友達かどうかの確認をとられていた様な……。
「……友達いないの?」
「その鋭い刃物みたいな言葉やめぇや」
「え?」
何という鋭い刃を振りかざすんだ!? 友達いない子が言われたら泣いちゃうくらい鋭いぞ。正直なとこ俺もそんなに仲のいい友達なんていないから、あんなこと言われたら胸を押さえる自信がある。
いや、大丈夫。俺には友達いるから……一年くらい連絡取ってないけど、いるから。
「ふふふ……そうだな、友と言える人間はいなかったな」
ほら! ロナさんめちゃ悲しそうな顔してるじゃないか! ごめんなさいしなさいメシュさん、そう言う謝罪は早いうちが良いのよ。
「……それじゃ私が友達になってあげる。私はメテシュ・メフデット。メシュでいいよ」
……なんだ。メシュは陽の者だったか、俺とは相いれぬ世界の生き物だったようだ。俺とメシュとの間にはこの瞬間一枚心の壁が出来たよ。そうか、陽の不思議ちゃん系だったか、メシュ。
「そ、そうか……。私はファカローナ・ウリラと言う。ロナと呼んでくれ」
それに対してロナ、突然のことに驚いているけど、少しうれしそうだ。そこはかとなく、俺と同じ陰のにおいを感じる。いや、どちらかというと、子供の思わぬ発言に戸惑うお姉さんと言った感じか……なぜだろう? 寒気? また室温が下がったかな。
「うん、これでロナと私は友達、ヨーマと友達になる必要はない」
「……ひどくない?」
ひどくない? え? それって俺だけハブられたってこと? おかしいな、少しは仲良くなれたと思っていたんだけど、これが陽の者特有の距離感バグマジックってやつですか? 「あれー? 友達だと思ってたの? 俺たちそんなんじゃないからさー」って言う。
うう、胸の古傷が開いたようだ。痛い、心が痛い。
「だいぶひどい奴やな……」
「え? ……え?」
違う。あれは天然だ。天然で周囲に刃を振り撒くタイプの顔をしている。ネフの呆声に驚き振り返り、胸を押さえて苦しむ俺に目を向け困惑した様に目を見開くメシュ。
あまりに驚きすぎて膝立ちになっているけど、寒くないのかい? ブランケットを頭からかぶっていたせいで、ふわふわの髪の毛がボサボサになってますよお嬢様。
ふふ、俺かい? 俺はなんだか……心が寒いんだ。
「そうだな、酷いな」
ロナ、君も分かってくれるか……でも、少し口元が笑っていますね貴女。完全に笑いをこらえている顔ですよ貴女、少しずつ貴女の素が見れて嬉しいとともに、なんだかイラっとする気がします。
「え、え? ……そうなの?!」
周囲に目を向け、自分が何かわからないうちに変なことを言ってしまったと気が付いたらしいメシュが、半脱ぎのブランケットを引き摺り、バタバタと四つん這いで近付いて来る。
「えっと……ヨーマ、ごめんなさい」
少し離れた場所で止まったかと思うと、そのままお尻を付けるように座り込んで、申し訳なさそうな顔で謝罪してくる。
なんだこの可愛い生き物。
「突然後ろから刺されて俺は甚く傷ついたぞ? まぁみんなで友達になればいいじゃないか、友なんていて困るものじゃなし……いや、困る友人関係もあったな」
「そうなの?」
少ししょんぼりしながらも、俺の顔を見て少し安心した表情を見せるメシュ。
俺と違って相手の感情を読むのが得意なんだろう。傷ついたと言いながら俺が怒っていないことが分かったようだ。それよりも困る友人関係という言葉に驚いている様で、そのことから彼女はそう言った事を友人に感じないタイプだという事がうかがい知れる。
やはりこの子は陽の者である。間違いない、詳しくないけど、俺とは違うことくらいは分かるつもりだ。
「ヨーマは、私と友になってくれるだろうか?」
友達か……ラロファとか、それは正直なところ考えものである。たぶん、昔のように一般的な貴族の子弟としてこの言葉を聞いた場合、俺は拒否していた可能性もある。
だが、今は地位や名誉など関係ない地の底に居るわけで、
「うーん、まぁ良いんじゃないかな? こんな狭い部屋に放り込まれた仲だ。もう友達みたいなもんだろ」
「そ、そうか……ふふふ」
断る理由は無いけど、嬉しそうですね。
その嬉しそうな笑みの何と美しいことか、奴隷に落とされ商品として最低限の身なりをした薄汚れた姿でも輝いて見える。そりゃ金持ちや貴族から調度品のように扱われるわけだ。俺は死にたくないからそんな事考えもしないけどね。
「私もヨーマと友達になる!」
「いや、だからみんな友達で良いだろ?」
そんな力強く宣言しなくても、みんな友達で良いじゃない。そうすれば俺がハブられて傷つくことも無い。うん、とても平和的で素晴らしい世界だ。
「うちはもっと違う仲でもええんやでぇ?」
いつの間にか近付いてきていたネフが、胸元をはだけさせながら見下ろしてくる。パーカーのファスナーを下ろしているから、位置的にも色々見えそうだけど、青肌のせいか暗くて奥は見えない。
ほっとするやら残念やら、複雑な気持ちでネフのにやついた顔を見上げた瞬間、
「ネフ、ステイ」
「シャー!!」
「シャッ!!」
後ろから飛びついてきたメテシュが、ネフの首元から顔を出して叫ぶ。同時に両肩の蛇君が軽く絞める様にネフの首巻き付き、牙を剥き出しにして威嚇する。
「ひん!?」
あと半アズほど牙が進めば、柔らかくぷっくりとした頬に穴が開きそうな場所から威嚇され、ネフの顔には疲れ切った老犬のように皺が寄った。蛇に睨まれたカエルと言う言葉通りに彼女は身を固くして硬直してしまう。
「ふ、ふっくくく……」
小さく震えて動かなくなりつつ、しかし柔らかいままの頬を指先で突きながら、赤い瞳を丸く見開きネフを見詰めるメシュ。その姿は何ともおかしな姿であり、彼女達の後ろからは堪えきれなかったロナの笑い声が聞こえ始める。
必死に笑いをこらえようとすればするほどに溢れ出る笑い声を聞いて、メシュは興味を引かれたのかネフを解放する。
解放されたネフは、地面で溶けたアイスのように崩れ、その姿にまたロナの笑い声が勢いを増すのだった。
それから十分ほど、未だに笑い声は聞こえてくる。幾分小さくはなったものの、ツボにはまってしまったロナはメシュたちによって常に燃料を投入され続けているようだ。気のせいかコンテナの中が少し明るくなった気もする。
「何やってんだか……よし、調整できたから自己治癒魔法かけるぞ」
「あぁたの……ふふふ」
ロナ用に調整した魔法が完成し、インスコとシミュレーションも完了したので立ち上がるが、治療が必要なラロファ殿は、笑いのツボにはまったせいで真面に返事が出来ない様だ。まぁ、最初に比べたら今の方がいいとは思う。何でも古代の人々曰く、笑う門には福が訪れるそうだからな、美女の笑い声ならもっと御利益がありそうだ。
「良い笑顔だ。調子も良くなって来たようで安心だ」
「や、やめてくれ……」
笑いが止まってしまった。今度は白い肌が真っ赤に染まっている。恥ずかしかったのだろうか? それは申し訳ない事をしてしまった。
でも笑い続けられてはこちらも魔法を使い辛いので、良いという事にしておこう。とりあえずこっちを見て欲しいのだけど、正面に座ったら思いっきり顔を背けられてしまう。なんだったら身体も横を向いている。
せめて背中を向けてくれるなら良いけど、横向きは魔法をかけづらいので前か後ろのどちらかにしてほしい。
「ヨーマのえっち」
「えっちやな」
「ええ!?」
ええ!? もしかして今のセクハラ? セクハラなの? どこが、ねえどこが駄目だったんだい? そんなジト目でこちらを見られても、悪い所が分からないんですが。
ネフを見る。ジト目とため息が返ってくる。メシュを見る。ジト目に怒りが籠っているような気もする。蛇君たちもジト目だ。
ロナに目を向ける。こちらを見ていたようだが素早く目を逸らされる。わからない。女心わからない。
いかがでしたでしょうか?
ヨーマ君は乙女心が分からない。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




