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旧式艦長ヨーマ ~その軌跡の始まり~  作者: Hekuto


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第33話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



「よし、調整できた」


 ようやく、ようやく非接触式の魔法術式を、診察の魔法に組み込むことが出来た。ありがとうナンシュさん、でもなんでここまで頑なに接触発動や自己発動型の魔法ばかり集めたんですか? しかも非接触式の魔法式が入ってたの日記に見せかけた魔法式論文だし、ずいぶん古風な事をする人もいたものだ。


 大昔の魔法使いにとっては、魔法式なんて物は秘中の秘である。おいそれと他人に見られない為にも様々な工夫をしていて、その一つが暗号化。日記に見せかけて実は魔導書でしたなんてよくある話だったようだ。


 解析ツールが無ければ俺も分からなかったと思う。大量のツールをデバイスのスペックに物言わせてぶん回してたら見つけたのだ。運がいいと言えば良いけど、癖のある魔法式で刻印術式に直して組み込むのが大変だった。


「デバイスか、便利な魔道具が宇宙にはあるんだな」


「え? 貰ってない?」


「私が受け取ったのは魔素除けの魔道具だけで、それも壊れてしまったからな」


 戦後数十年ならまだしも、今の時代でラロファにデバイスを渡さないなんてことはないと思う。少なくとも、いくつかの魔法を記録できる魔法デバイスは渡されるはずだ。民生用レベルでも最近は性能が上がっているし、値段も下がって来ている。


 それでも高いわけだけどね。だからって貰えないわけがないので、たぶんタイミングだろう。


「それは、まぁタイミングが悪かったのかもな?」


「いやいや、魔法用デバイスなんてそんなほいほい手に入れられるもんやないで」


 まぁ、普通の人からしたらそうかもしれないけど、ミドルエンドでもクルーザー買えるくらいはするから。でも相手はラロファ、特に魔素制御系の魔法は常に使用しておかないといけないし、伝達系と精神補助の魔法も必須。最悪の事態が起きれば魔素崩壊からボイドが発生、魔素の消失した宇宙の居住艦なんてすぐに全滅してしまう。


 だからこそ、彼女達は安全に保護しておかないといけない。ここまで海賊の船で彼女が生きてこれたのは奇跡に近いだろう。


「いやぁ、ラロファと言う種族には渡しておく必要があるんだ。あるんだが、いろいろ仕様説明が必要だからな、海賊に攫われたタイミングが悪かったんだと思う」


「そうか……」


 ロナが少し悲しそうな表情を見せる。当時の事を思い出しているのか、母星で謎の貴族に攫われて、その後軍によって保護されて、軍本部に連れてかれる途中で海賊に襲われて、攫われて……と、そんな話をしてくれた。踏んだり蹴ったりも良い所である。


 本人はあまりに急展開すぎて頭が付いてこなかったとは言っていたが、心身ともに辛かったと思う。笑えているのは、彼女が強いからだと思う。


「でも、そんな簡単に魔法の組み換えが出来る人もいないと思う」


「こう言うのを作るのが趣味と言うか、無いと死ぬからというか……まぁいいや、診断始めるよ」


 趣味でもあるけど死活問題でもあったわけで、体質的に普通の魔法は使えないので、魔法は全て自分用に調整しないといけない。


 普通の魔法とは所謂レディメイド品、あれは高魔素運用が前提。俺みたいに出力が低い人間用では無いし、魔術とは相性が悪い上に触媒の消耗品は金がかかるので、家族に迷惑はかけられないとなると、魔法式一択、結果として刻印魔法にたどり着いたというだけだ。


「頼む……脱いだ方が良いのか?」


「ちょちょ! そのままでいいから、楽な姿勢で頼む」


「しゃーーーっ!!」


 ロナがへそ辺りまで下げていたファスナーを掴んだメシュが、思い切り首まで引き上げる。なだらかな丘ゆえに引っかかることも無く、首まで上がったファスナーから指がすっぽ抜けたメシュは、ロナに抱き着く様にして吠えている。


 蛇系の種族とあって、吠える声も蛇と似ている。


「「……」」


 両肩の蛇君たちが珍しく目を白黒させているのを見るに、メシュの踏み込みは相当強烈だったようだ。


「わざとか、わざとなんか?」


 声のした方に目を向けると、凄い表情を浮かべたネフが居た。そのまま威嚇するように歩き出すと、ロナを見下ろし睨み始め、胸元のメシュも見上げる様に、凄みのある目で睨みだす。


「んんん?」


 そんな二人からにらまれるロナであるが、状況が飲み込めないのか二人を表情を見比べると俺を見詰めて首を傾げてきた。これは何も理解していない顔だし、俺にもわからない。


 確かに女性の素肌を見てしまうというのは、あまり良い行いではない。毛皮族系の裸だって多少は躊躇するし、平均種の俺としては、ラロファのような体は普通に性の対象であるため、精神的によろしくない。おじさんと言えど身体的には健康体であるため、いろいろと反応するのだ。


 世の男子なら誰しも、一度や二度では済まないくらいに、どこまでが性の対象になるかという議論をするものだ。いけない、頭がそっちに傾いてしまう。でも、あんな綺麗な肌を見せられたらしょうがないと言うものである。


「あ、天然や」


「きけん」


 ロナから後退る様に離れたメシュとネフが、恐ろしいものでも見るかのように顔を顰めて呟く。言わんとする事は分かる気がする。異性との距離感がバグている人間は割と多い、それによって数多の事件を起こすのだから、こちらとしてもたまったものでは無い。


 でもそう言う意味ではメシュもバグってると思うんだけど、人のふりに驚くなら自分の事も見つめて欲しいものだ。寒いと引っ付かれるこちらの身にもなって欲しい、十分範囲内の種族なので適切な距離感を要求する。


「はぁ、えーっと……」


「……」


 そんな要求を考えた瞬間、また背中にくっ付いてくるメシュであるが、すぐに飛び退く。また魔法の余剰エネルギーでびりっとしたのだろう。不満そうな視線が刺さるが、そんな不満は知らないよ。


 診察系の魔法というのは精密な魔法なんだから、他人が接触してしまうとデータが狂ってしまう。そう言う意味では、診察には接触式の魔法の方がいいんだけど、俺の精神衛生上、非接触は大変ありがたい。理性を繋ぎとめるのにも大量は使うんだから。


 そう考えると、医者は凄いと思う。こうやって現実逃避していなければ、俺に診察なんて出来ない。なんで三人とも俺が魔法使う時、顔をじっと見て来るのか、わからない。


「体内に溜まっていた魔素はもう大丈夫そうだけど、体質的に今の外の環境は合わないだろうから、フィルターは今のまま維持だな」


 十分ほど、丁寧に診察した結果は思ったよりも良い状態だった。体内の排気魔素はほぼ排出できているし、ほんのちょっと残ったものは、自然と体から排出されるだろう。問題は今も給気されている空気だけど、それはフィルターで何とでもなる。


「大丈夫なのか? 魔法を常時発動するのは体に負担が大きいはずだ」


「それはまぁ、そう言うタイプの魔法だから問題ないよ。それよりロナの体の方が問題なんだから不調があれば言ってほしい」


 デバイスなしで魔法を常時発動なんてしたらたいへんだろうけど、今の世の中大抵の事はデバイスが肩代わりしてくれるので、常時発動できる魔法は割と多い。


 特に、体に刻印した魔法ならまだしも、シールドスーツにインスコした魔法はスーツが負担を肩代わりしてくれるので、今の俺にとって常時発動の魔法は得意分野とも言える。常時発動の術式を挟む分、スーツの刻印容量はアクティブ系魔法に比べて嵩むけど、生命維持や保護系としては優秀である。


 なのでそんなに心配そうにしなくてもいいのだが、何か隣から複雑な視線が突き刺さる。


「んーー……怪我してるの?」


 不満と心配が混ざった複雑な視線と言えば良いのだろうか、俺とロナを見比べるように赤い目がせわしなく動いている。その度に白い髪の毛もふわふわと揺れて、俺の白髪とは違う繊細さを見せつけてくる。


 彼女もロナが心配なのだろう。


「メテシュ……メシュと同じで体の内側で炎症が起きてるからね、俺の魔法は基本的に自分用だし、応急処置優先のものだから、体内や内臓の炎症治療にはあまり向いてないんだ」


「医者の領分やな」


 その通り、医者じゃないと的確な治療は難しい。ちょっと魔法を作るのが得意な程度のおじさんが、どうにかできるものでは無いのだ。だからと言って何も出来ないわけじゃない。


 シールドスーツにインスコしてる治療魔法は外傷用の魔法がメインだけど、自分用の魔法には病症治療用のものもあるので、そこから魔法式を持ってきて再構成したらいい。医療ポッドなんかの魔法式とは全然違うものだから、性能は落ちる上に魔素のコストも悪い。それでも何もやらないよりマシ……だといいな。


「魔法式を組み替えて、あと自己治癒能力の補助魔法があるから、そっちも使って行こうと思う。持続力はそんなにない魔法だけど、掛け直せばいいし無いよりマシだろ」


 ナンシュさんがあちこちから拾い集めてきた魔法も、結構分解と整理が進んでるから、それなりの魔法が組めるはずだ。癖が強くて刻印術式に直すと容量を食いまくりな事を考えなければ、状況はある意味恵まれていると思う。


「すまない、迷惑をかける」


「いいよいいよ、こんなとこじゃ他にやることもないし、他人に使う様に少し魔法を弄っておくから休んでて」


 こっちもちょっと楽しくなってきたと言えば、不謹慎になるだろうか? それでも魔法式クリエイターの端くれとしては、構築した魔法を試せる環境というのは、興奮を禁じ得ない。


 なにせ、平時でこんなことしてたら確実に軍から目をつけられるし、家族が知れば嬉々として本星に連れていかれて、軟禁と言う過保護環境に置かれてしまう。研究が出来るのはうれしい事だけど、家族と一緒であの星に住む人は何故か俺に対して過保護なんだ。人を、いや俺をダメにする人しかいないと思って良い。


「ありがとう。ヨーマ、君なら私の……何かな?」


 ん? 俺がどうしたの……え、こわ。メシュが極悪人の顔でロナを見上げているんですが、なにごと。


「じーーー」


「口で言うんかい」


 極悪人の顔で擬音を口にする、何ともアンバランスな雰囲気を振り撒くメシュ。彼女の顔の前で手を振るも視線はロナに固定されている。気のせいか赤い瞳が少し輝いている様に見るが、感情で魔眼に火が入り始めているのだろう。


 何時でも目を塞げるように構える。


「あやしい、良くない感じ、はなれて」


 子供の癇癪だな、しかし離れるのは賛成だ。フィルター魔法の範囲内に居れば俺が離れても問題ないわけだ。個室トイレと食料チューブと飲料チューブ、最低限この範囲にフィルターが張れればいいので、離れることにしよう。


「そうだな」


「ヨーマは離れちゃだめ!」


 ぐぬお!? メシュが人間虎ばさみに、どうして獣が威嚇するように姿勢を低くして居た状態から、即座に俺の足を捕獲できるんだよ。俺の足はお前の真後ろだっただろうが、放しなさい、貴女レディなんでしょうが、淑女はそんなことしませんよ。


「俺は暑いから離れるんだよい! お前らはヒーター前が丁度良いだろうけど俺には暑い」


「むぅ……」


 不満そうにしても無理! ヒーターの温度設定は君に合わせてあるんだから、俺には暑いの。今だって汗かいてるし、なんだったら体調が戻って来たロナも汗かいてるでしょうが、いつの間にか胸元までまたファスナー下ろしてるし、俺の身にもなりなさい。


 無理やり引っ張って離れれば寒くなったのか不満そうにブランケットに包まり離れるメシュ。ヒーターから少し離れるだけで途端に冷えてくる。どうにもコンテナの温度管理機構が可笑しくなっているみたいだ。


 しばらくすれば居場所が決まる。


 俺が一番ヒーターから遠く、ヒーターの近くからメシュ、ネフと並び、ロナと俺の間には数人分距離がある。どうやらメシュが彼女をそれ以上こちらに近付かせないようにしているようだ。


 良いぞメシュ。なんでか知らないが君たち女の子は、汗を掻いても良い匂いがする生態をしているから、その方が俺の精神衛生上とても助かる。そのまま距離を保ってほしい。あとは俺が壁とにらめっこしていれば問題は解決だ。


 なぜかって? ロナが暑がってファスナーを下げるからだよ。失礼かもしれないが、健全な男にとってあの白は目に毒だ。黒いガンメタリックのコンテナの壁が何と目にやさしいことか、いいよねガンメタ、ロマンがある。



 いかがでしたでしょうか?


 何やらいろいろ事情がありそうなことが起きているコンテナの中で、ヨーマは生き残れるのか。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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