第32話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「……」
細い視界の中、目だけで右を向く。
そこには元氣になって立ち上がれるようになり、背筋を伸ばして座る事もできるようになったファカーロナ……ロナさんがまっすぐ前を見て座っている。
意外と綺麗に座るというのは体力や力を使うもので、怪我や病気をしてる人間は出来ないものだ。特に、正座? という座り方は意外と体を使うもので、足も痛くなるし、彼女なりの誠意なのだろう。
よく見ると少し緊張しているのか表情が硬い気がする。
「…………」
左に目を向けると牙を見せるメテシュと、ジト目のネフ。胡坐を組んだネフはまだいいのだが、足の裏を合させて膝を大きく広げて座るメテシュは、鎌首もたげている両側の蛇君も相まって随分と威圧感がすごい。
しかも顔辺りしか見れないから余計に威圧感を直視しないといけない。
……なぜかって? 色々と緩いパンツなんかで大胆に座っているから、見えちゃいけない物が見えてしまうのだ。起き抜けに不可抗力で見てしまったが、マジマジと見る趣味はない。そう言うのは静かな自室でゆっくりと……いや何でもない。
とにかく色々見えてしまうので、視界は彼女達の首下辺りまでで固定されている。というかメテシュお嬢様は牙もあるんですね? 噛まれたら穴が開きそうです。
「うーん」
膠着した空気に思わず唸り声が漏れてしまう。その声に空気が少し緩んだ気がする。目を覚ましたらもうこの空気で、俺を挟んで睨み合いとかされてたんだから、訳が分からない。
逃げるように座り直したけど、それ以上は睨まれて動けないのだ。睨み合っているのに、俺が動くとこっちを睨むんだから器用である。そりゃ俺の背中も自然と曲がると言うものだ。伸ばす元氣も無い。
「その、迷惑をかけた」
初手ロナ! 背筋を伸ばした正座で小さく頭を下げる。何の謝罪か良くわからないけど、謝れる大人は貴重だと思います。あまり見ないよね謝れる大人、少なくとも俺の人生の中では、あまり見ない。
「……」
「……ぅ」
その謝罪に対してネフ選手とメテシュ選手まったく動じない。ガン見、ガン見です。まったく動じない! というか瞳孔が縦に割れてロナ選手を威嚇している! そしてこちらを見てもらっても困りますロナ選手、私を巻き込まないでほしいですロナ選手。
「いや、そんな目で見られても……どうしたのさ?」
一緒になってこちらを見ないでほしいですメテシュ選手! 呆れたような表情をしてないでネフ選手は俺を助けるべきそうすべき、いや目を逸らすんじゃないよこのカエル娘。お前たちが始めた物語だろ、俺を巻き込むんじゃないよ。
「ヨーマの事ずっと睨んでた」
「う……」
「まぁそうだね」
うん、それはそう。
それはそうなんだけど、それが今の状態に繋がる理由が分からない。もうすでに俺が寝ている間にお話しとかしたんじゃなかったの? もう過ぎた話だと思うんだけど、まだ未解決だったってこと? 何が気に喰わないんだいレディ。
「それでもヨーマ貴女の事助けた」
「そ、そうだな。感謝している」
いえいえ、どういたしまして。これも義務のようなもので、自分のためとも言えるのであって、感謝されてうれしくないわけじゃないけど気にしないでほしい。
「……っ」
なぜ照れた? 俺は小さく頷いただけなんだけど、あと何故左側からの視線が鋭くなった? なぁぜなぁぜ? ヨーマさんには全く分からないよ。
「なのに……」
「なのに?」
なのに何なんだいレディ? 妙にふくれっ面の様ですが、ぷくぷくほっぺも可愛いですね。美人というのは表情が崩れても可愛く見えるのでお得です。
「起きたらヨーマと仲良くなってるのはおかしい!」
「おかしいか?」
おかしいの? めっちゃ叫ぶから思わず背筋伸びちゃったじゃないか、ロナに向かって叫んでるのに、なんでか俺まで怒られている気分だ。よく見たらロナも背筋が伸びすぎて少し仰け反っている。腰を痛めるから気を付けて? 病み上がりなんだし。
「そらおかしいわ」
おかしいらしい。
ネフは何でこちらにジト目を向けるんだい? こちらはこちらで可愛い表情である。だがそんな不満顔を向けられる謂れはないのですが? メテシュお嬢様も一緒になって俺を見上げている。背中を丸めてこちらを睨む姿はまるで猫のようだが蛇、まごうことなき蛇なのだ。
身長差で俺が背筋を伸ばすとどうしても見上げられることが多い。何とも新鮮な気分だ。家族で一番身長が低いもんだからあまりないことだけど、奴隷になってからは見上げられる事の方が多い気がする。なんだろう、奴隷も悪くない気がしてきたぞ? 冗談だけど。
「そ、そうだろうか?」
現実逃避してたら、ロナがチラチラとこちらを見ながら困惑した様に呟いている。おかしいらしいですよ? 俺には全然わからないけど。
「おかしい! あんなに殺す様な目で見てたのに、一晩経ったら寄り添って寝てるとかおかしい!」
「おかしいで!」
「いや、寄り添っていたわけでは……」
それは異議ありである。
「寧ろ二人の方が密着していたと言うか、その所為で俺がロナに密着してしまったと言うか……」
「そ、そうだな……」
最初は距離を放して寝ていたのだ。
座ったまま寝落ちしたせいであちこち痛くて、寝直すために腰にしがみついたネフとメテシュを取り外し、丁寧にヒーター前に寝かせたのだ。その上で距離を放して、ロナも寝るというので適切に距離を放したはずなのだ。
それがトイレに起きる頃には四人で密着した状態で寝ていて、寝直す前に距離を放したと言うのに、今さっき起きた時には壁際に押しやられていた。ロナが正座しているのは壁際、俺が起きたのはその膝先、どう考えても押しやったのはメテシュとネフだろう。
俺はわるくねえと叫びたい。ロナも同意してるし、きっと俺は悪くない。
「先ずそこが可笑しいで!」
「そこ?」
そこ、とはどこのことだいネフさん、言葉はちゃんと使わないと意味が伝わりませんよ。
「なんでヨーマはんその女の事を愛称で呼んでんねん!!」
「そう! 私もまだなのに!!」
「そ、そこぉ?」
そこかぁ……いや、ネフはすでに愛称で呼んだじゃん。なのにそこに突っ込むか? メテシュは別にメテシュで良くない? うーん、良くなさそうですね。両肩の蛇君もダメって言ってる顔だ。
「あ、いやこれは呼びにくそうだったから私が提案しただけで」
「うん、特におかしくないよ?」
そうそう、言いにくいだろうからとロナが提案して来たので、特に断る理由も無かったし、普通に了解しただけなんだよ。特にそれ以外に他意はないんだけど、それの何が気に喰わないのか、俺には解りません。
ロナを見ても困惑していてそれ以外の意思疎通はとれそうにない。メテシュを見ても睨んで来るばかりだ。というか、これほどまでに不満が伝わる顔も無いだろう。絵にかいたような不満顔だ。
「じゃあ私のこともメシュって呼んで!」
「えぇ、いやメテシュでも呼び難くないし……」
メテシュはそんなに呼び難いわけじゃないんだけど……何がどうそんなに気に喰わないのか。愛称一つで女性とはこうも怒るものなのか、それとも子供特有の仲間外れ感というやつなのだろうか?うーん……。
「メーシュッ!」
「お、おう……わかった」
これはもう断れないか、断る理由も無いけど、ここまで怒れるのもすごいな。……あれ? 何かまだ不満そうに睨んで来るんですが、何がご不満ですかお嬢さん。
「呼んで!」
「う、うん? あー……メシュ」
これでいいかな? すぐに呼ばないといけない流れだったか。
「…………えへへ、なぁにヨーマ?」
「いや、呼べって言われただけで」
何と言われても呼べと言ったのは貴女でしょうに、でもまぁ機嫌も良くなったみたいだし良しとしておこう。癇癪をおこした子供ほど面倒なものも無い。なんせ原動力が理不尽極まりないのだ、こちらが折れるほかに手がないという何とも卑怯な生物である。
「ほなうちもネフって呼んでもらってええか?」
「え? あ、うん?」
いや貴女はもうすでにそう呼んでるんだから、わざわざここで呼ぶ必要はなくないですか? そしてなんでそんなにドヤ顔なの? おじさんには女の子の気持ちが分かりません。
「……そこは呼ぶ流れやろ!」
「おお、おう。ネフ?」
「なんで疑問形や!」
「えぇ……」
しかも呼んだら呼んだで怒られる。理不尽じゃないですかね? そりゃ疑問形にもなるってもんでしょうに、どう思いますメテシュさんや。
「カエルは注文が多い」
「なんでそこで敵に回るんや?!」
ほら、あんなに注文の多いメテシュさんもこう言ってるんだから、やっぱおかしいんだよ。敵とかじゃなくて適切な対応だと思うんだ。
ほらほら、蛇君たちもすごく呆れ顔だし、ロナなんか目を見開いたまま硬直しているぞ? 目もパチパチしてるじゃないか。
「しゃー」
「しゃっ」
「あぁうん、なんか心配してもらってる? ありがとね」
この中で一番、俺の事を心配してくれているのは蛇君たちのようだ。最初はあんなに威嚇して噛みつこうとしてきたと言うのに、慈愛に満ちたこの目を見てくれ、可愛いなぁ。
「……おかしい、なんでこの子たちの言葉はすぐわかって、私の気持ちは伝わってないの?」
「え? いや、そんな感じかなぁと?」
「……!」
ショックを受けたような表情をしてますが貴女、人間なんだからしっかり言葉で伝えましょうよ。蛇君たちだって頑張って鳴き声のニュアンス変えてくれる努力はしてるんだから……でも不思議と何を言いたいのか分かるんだよな? 不思議である。俺はそこまで勘は良くないのに、運命の出会いというやつだろうか。
ん? 何か今ぐえ!? いきなりタックルだと!? ほんとこの子わからない。
「いたいたい! 頭グリグリしないで」
「ふふふ、仲が良いんだな」
これが仲良さそうに見えるのか? ラロファには、俺に解らない何かが見えているというのか。てかこの子は何で人のお腹に頭をこすりつけるんだよ、そう言う文化なのか? とりあえず頭を押さえたら止まってくれたけど、こんどはめっちゃロナのこと睨み始めたな。
「そう! 貴女よりずっと前から仲がいい!」
「えぇ、いやそんな数日しかちが、いたいいたい」
また回転を始めやがった!? 地味に痛いの何なの? 何がしたいの? 二人とも自分とは関係ないからって笑っているけど、ほんと地味に痛いから。
そのあと五分ほどぐりぐり攻撃が続いて、また名前を呼べと言ってくるから仕方なく呼んであげると漸く止まった。その際に、実はネフが一番最初に愛称を呼んでる事を漏らしたら、今度は女同士のキャットファイトが始まった。
いや、あれはキャットファイトと言うよりはただの蹂躙だろうか? 長い手足であっという間にネフを拘束したメシュは、彼女の腕に噛みつき、蛇君もついでとばかりに噛みついていた。毒蛙の能力的に危ないんじゃないかとも思っていたけど、なんでもメテシュには生物毒に対する耐性があるそうだ。
完全にネフの天敵である。その取っ組み合いの間、ロナが終始楽しそうに笑っていたのが印象的だった。
いかがでしたでしょうか?
メテシュの攻撃!ネフの毒が無効化された!!こうかはばつぐんだ!!!
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




