第31話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
目が覚めて無機質なコンテナを見上げていたら、視界の端に綺麗な青銀色の糸が見える。
「……ん? 起きてたのか」
糸ではなく、細く長い髪の毛だったようだ。起き上って両手で目を擦ると全貌がはっきりと見える。正直寝起きに見るには眩しすぎる美貌だ。
室内灯の青みのあるライトで青銀色に見えるけど元は銀色なのだろう繊細で長い髪の毛に、青いメッシュがとこどころ映える不思議な髪色。真白で染み一つない肌、深い青色の瞳がこっちをじっと見ている。綺麗な目だ。
「ええ、その子たちと色々話してたのだけど、私はまだ眠れそうにない」
どれくらい時間が経ったんだろうか? 正直魔法の使い過ぎで倒れるように寝たので、時間の感覚とか狂って全く分からない。色々話したという事は、俺が最後に伝えた伝言は伝わっているのであろう。シールドスーツの刻印術も正常に止まっている。
お礼を言いたいところだが、背後から寝息が聞こえて来た
「ぐっすりだな……とりあえず治療術式は問題なく機能したみたいだな」
俺が寝ていたベッドマットに、ピッタリとくっ付けられた二枚のベッドマットで眠るメテシュとネフ、メテシュと俺の間には筒状に巻いたブランケットで、国境のように壁が作ってある。
おおかた、俺が治癒魔法を展開して寝ている間に、寝返りか何かで間違って触ったのだろう。治癒魔法は余剰魔力が多いので、接触可能な手と、シールドスーツの範囲外である頭以外はビリビリするのだ。まるで獣避けの電気トラップのようである。
「あ……その、ごめんなさい」
「え?」
突然謝られると困惑する。特に美人の申し訳なさそうな顔は、新しい性癖の扉が開けそうなので控えてもらえると助かる。特に俺みたいな、周囲に変な女の人しかいないおじさんには、その恥ずかしそうにも見える上目遣いは刺激が強すぎます。
「私、貴方の事を勘違いしていたみたいで……」
ん……勘違い? どんな?
「どんな?」
「女を無理矢理侍らしている……クズ男だと……」
「それはない、いやまぁ良いけどさ」
それはない! 絶対にない! 女運も良縁も無い俺がどうやって女を侍らせるなんて勝ち組に立てるというのか、立てるわけがない。スキル無しという立場もあって、魅力的な女性からも保護対象以上に見られないのだ。そも、侍らせる? その意味も分からないくらいに理解出来ない評価だ。
いや、ある意味侍らせていたようにも見えたのかもしれないけど、あれはどっちかというと、 ”拘束” である。スキル無しが、スキル有りのフィジカルから抜け出すのは、きわめて困難なのだ。相手の事を考えないならまだしも、相手は色々な意味で小さな女の子、痛い思いをさせて脱出? ……絶対に無理。
自分からビリっとしに来るのは、ノーカンである。
「だからごめんなさい。ずっと睨んでしまって」
なるほど、あの射殺しそうな視線はそう言う。原因が分かれば少しほっとする。
「いいよ、気にしてないし」
生理的に受け付けないとかだったら、真実を知って大ダメージを受けるとこだが、勘違いなら、まだ、うん……。ちょっと凹むくらいで済む。
「……」
「うぅん……すこし、怖かったけど」
じっと見上げられて思わず本音が漏れる。こうやって見れば星のように綺麗な目だが、あの暗闇から覗き込んでくるような光はとても怖かった。狩られる者の気持ちを理解させられるというやつだ。
「とりあえず安静にして居てくれ、何があったか知らないけど、そのうち助かるチャンスはあるだろ」
「……話を聞いてくれる?」
壁に立てかけたベッドマットに背中を預ける姿に力を感じない。起きてはいるけど、まだ本調子と言うわけではなさそうだ。きっと体調不良によって精神的にも参ってしまってるんだろうな、病気の時は嫌なことばかり思い出すものだ。
「……それで楽になるなら」
そういう時、誰かに話しを聞いてもらうというのは有りだと思う。独りにしてくれという人もいるが、やはり話を聞いてもらうと心が軽くなるものだ。まぁ、話を聞いた側が引き摺られて鬱になる事もあるんだけど、そのくらいは引き受けよう。
俺も昔そうしてもらったように、いや? 割と愚痴を聞いていた気がするので、気にする必要もないか、うん……慣れてはいるからどんとこいである。
「うん、私は家族に捨てられたの、もうその事をどうこう思う事は無いけど、一人で生活していたら突然攫われて」
「……」
開幕激重話ですが? 俺の心は耐えられるのか、今更やっぱやめとこうなんて言えるわけもなく。せめて楽な態勢をとベッドマットの背凭れに背中を預け、隣から聞こえてくる激重話に頷くことにする。
メテシュが何か唸っているが、まぁ体調に問題があるわけではないので問題ないだろう。
眠ってしまったみたいだ。
「こんなに話したのは久しぶりね、少し喉が疲れちゃった」
色々話した。なんでこんなにいっぱい話したのか分からない。私にしては珍しい事だ。いや、そんなことも無いのか、ずいぶん枯れた考え方をするようになったものだ。
故郷で迫害を受けていた事、村八分を恐れて両親に捨てられたこと、一人で暮らしていた時の事……イルシオンの海については興味があったみたいだけど、海が好きなのかしら。
そうだと嬉しい。
優しい目をした男の人、私の髪とは違う真っ白な髪がとてもサラサラとしていた。……綺麗好きなのかしら、この船の人は大体薄汚れているから……私も随分汚れてしまったけど、それでも肌の色は変わらない。
「……優しい人、そして強い人」
私の肌について触れなかった。ラロファについて随分詳しいみたいだから、あえて触れなかったんだと思う。そのくせ私の隣に座って話を聞いてくれた。私に触れて治療を施してくれた。
あの金貸したちも、その前の奴隷商も恐れて触りもしなかったのに、魔素の乱れも無いみたいだし、魔法の腕はかなりのものだと思う。ラロファの治療に携わった事があるのかしら? 無いとしたらすごい才能ね。
「もしかしたら、この人なら」
恐れず隣に座ってくれるこの人なら、もしかしたら約束の人になってくれるかもしれない。いくら見ても困惑と怯えの感情しか見えない目だったけど、強い負の感情は無かった。怯えることに対しては少し不満だけど、そればかりは初対面の印象が悪すぎた。
「だめね、迷惑はかけられない」
迷惑よね。第一印象が悪すぎるのに助けられて、また迷惑をかけてしまうのは本望じゃない。でも、もし許されるなら、その時は話そうと思う。
まさか貴族に攫われて宇宙に出て、軍に保護されたかと思ったら海賊に襲われてまた攫われて、腫物扱いで転々とする日々にこんな出会いがあるなんて思わなかった。いずれはどこかで死んで、虚無に消えると思っていたのに……。
「……不思議ね」
この横顔を見ていると願ってしまう。よく日に焼けた肌がまるでラロファのように見えてしまう。妙な親近感と言えば良いのか、懐かしい感じのする雰囲気、何に対する気持ちか分からないけど、彼と一緒に居れば何か変われる気がする。
とても不思議な気持ちだ。
「よーまー……むにゃ」
「ぐぇぇ」
どういう寝相なのか、白い髪の女性が小さい子に絡みついて、小さい子が這うようにしていつの間にかヨーマの腰にしがみついている。自然と助けを求めてヨーマにしがみついたのか、苦しそうな声もをらしている。
「……」
しがみつかれているヨーマの顔が蒼い、良く見たらしがみつかれている腰が随分締め上げられている。助けた方がいいかしら……あ、ゆるんだ。今度は女の子が顔をヨーマの足にこすりつけ始めた。匂いで判断した? 随分好かれているのね、とても無理やり従わせていたなんてなさそうだ。
「ふふふ、ライバルが多いわ」
この子たちから彼を奪うのは、骨が折れそうね。今はまだそんな気は無いけど、そうなった時は大変そう。今は少しでも関係改善に努力しましょう。森の動物も最初は警戒するものだし、頑張らないと。
コンテナの中でラロファの女性が妙なことを考え始めている頃、その外では宙に紫電が舞っていた。
「くっ……どうやっても入れませんね。少しでも中の確認をしてくれたら隙が出来るのに」
それは魔法による攻撃だったようで、手に紫電を纏わせたナンシュが悔しそうな表情を浮かべている。彼女が雷撃をぶつけたのは密閉コンテナ、魔法に対する強力な耐性を持つのは本当だったようで、ナンシュの魔法に傷一つ、煤の一つも付いていない。
そんな魔法を放った理由はただ一つ、ヨーマの下に戻るためである。魔素で構成された体で散歩に出かけたがために戻れなくなった彼女は、周囲を見渡し溜息を漏らす。彼女が見渡すコンテナの周囲には、まだ昼間だと言うのに人っ子一人いない。
「物理的に破壊して進入する手もあるのですが、万が一を考えるととてもそんなこと出来ないです。マスターにちょっとでもケガさせてしまったら私の精神が崩壊してしまいます」
彼女が魔法による攻撃が出来たのも、周りに人の気配がないことが理由であり、また監視するような装置も環境が悪すぎて設置が出来ない。それがエクスマギレアと言う船の最深部である。
もっと大きな魔法や別の方法を考えるナンシュであるが、そのどれもがヨーマに怪我をさせる可能性があるようで、困った様に座り込むと虚空を見詰めて険しい表情を浮かべる。考えているのはヨーマの状況について。
「でも、こんな密室で美女と4人、何も起こらないわけがなく……背に腹は代えられない。ちょっと小突いて開く様な箱ではありませんし、重力制御装置に少し悪戯しますか」
ほんの数分、顔を赤くしたり蒼くしたりと百面相をしていた彼女は、覚悟を決めた様に唇を噛むと、勢いよく立ち上がって拳を握る。どうやら想像の中のヨーマはずいぶんと大変な世界を作り上げている様で、彼女に躊躇する時間は残されて無いようだ。
瞬間、ナンシュの周囲にはいくつものホログラムが浮き上がり、まるで正規の手順だと言った様子で重力制御装置に接続が完了していく。
「ここをこうして……」
だが、ナンシュはエクスマギレアの制御権利を持っているわけではなく、単なるハッキングである。システムが正規の制御と誤認する中、ナンシュは艦全体の重力制御が狂わないように特定の箇所だけで異常が起きるように精密な制御プログラムを組んでいく。
それは制御された異常、制御下にあるのであれば異常であっても正常と判断され、システム上では異常と判断されない。故に警報も出ないのだが、突然ホログラムに赤い表示が映し出される。
「おや? おやおや? ……買い手が付きましたね? しかしこれは、妙ですね……」
赤い表示のホログラムには、ヨーマたちが入れられたコンテナの買い手が付いたことを示す内容が流れていく。それはナンシュが何度も見たことがあるのと同じ画面であるが、何か違和感をその画面に見た彼女は、重力制御のホログラムを消して新たに別のスクリーンを浮かび上がらせた。
「これは調査が必要です」
何が妙なのか、調査が必要だと呟くナンシュの瞳には、無数の文字列が映り込む。密閉コンテナ一つの売買など、エクスマギレアでは毎日何十何百と繰り返される売買であるが、いったいそこにどのような違いがあるのか、ヨーマ第一主義のナンシュは、流れる文字列をみつめながら怪しく微笑むのであった。
いかがでしたでしょうか?
ヨーマを取り巻く美女に異常アリ。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




