第30話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「ちょっと書き換えよう。これで良いか」
新入居者もとい、ラロファの下腹部に手を当て、すぐにデバイスを右手で操作して、また彼女の下腹部に手を当てる。これをずっと繰り返している。
なんだか背後から槍で刺されるよう痛みを感じた気がした。刺されてはいない。
「さ、さわりすぎやないかなぁ? なあ?」
代わりにネフがすごい目で背後に立っていた。金彩を極限まで広げて瞳孔が限りなく狭い縦長、メテシュにも負けない鋭さだ。まぁ一見すると女性の下腹部を撫でまわす変態に見えるだろう。俺も何とかしたいが、どうにもならない。
なので肩を掴もうと――、
「べたべた、私もするっっ!?」
「だから触るなって言っただろ?」
痛かったのだろう。俺の腰に抱き着いたメテシュが勢いよく飛び退く。魔素の循環による余剰エネルギーが衝撃となって伝わったのだ。左目を真ん丸に見開いてひっきりなしに瞬かせている。
気持ちはわかるし、俺は忠告した。しかし、こうも勢いよく飛び退かれると、なんだか嫌われた気がして心が痛い。……嫌われたかな。
「びりっとした……」
「そ、そないにか?」
「うん、電気みたい」
そろりそろりと近付いてきて、一定の距離でぴたりと止まって近付いてこない。近くによってくるあたり、嫌われてはいなさそうだ。そわそわしてるのはどういう心境なのか、心配になるからやめてほしい。
あと、ネフとの心の距離は離れたようだ。メテシュを楯にしているがそれでいいのか、お姉さん。
「シールドスーツの刻印術から出る余剰エネルギーだよ、これも再利用するんだけど、再吸収する前に触ったら痛いぞ」
「むぅ……」
ジリジリと近付いてくるから、念のためにもう一度注意しておくが……うん、止まったな。大変不服そうな表情で止まったが、なんとも表情豊かなお姫さまだ。何というか、そこまで表情筋が巧みと言うわけでは無いけど、感情が良くわかる顔である。
わかりやすいとも言う。
「しばらく俺はこのままだから寝とけって、具合悪いんだろ?」
「……わかった」
大変不服そうであるが、体調が悪いのは事実なのだろう。大人しくベッドマットの上でブランケットに包まるメテシュが、ブランケットの隙間からこちらを覗いている。怖いのでやめてほしい。
「うちも横になるわ」
「ああ、おやすみ」
ゆっくり休むといい。正直まだ魔法の調整が終わらないから、何時まで見てても変わり映えのしない調整作業がしか見れないからな。いや、治療自体も魔法を展開して微調整するだけなので面白くも何ともない。
ここが病院なら全部医療ポッドで済む作業だけど、そんな贅沢なものは無いので、俺の魔法で我慢してほしい。あとで怒られたら…………床に頭を擦りつけて謝ろう。ラロファの魔法なんて喰らったどうなるか分からない。
治療を始めて8時間……。
「……?」
目が開いた。ラロファの持つ特徴的な瞳は海の瞳とも星の瞳とも呼ばれる。まるで深い海の青に星が解けたような輝きを持つという。昔見たことがあるラロファも同じようなキラキラした瞳をしていた。
「…………!?」
そんな綺麗な瞳でも、いやむしろ綺麗だからこそ、睨まれると凄みが違う。怖いのでそんなに睨まないで欲しい。幸いに体調が悪いからか、身体が動かず睨むだけなんだけど、動けばそのまま息の根を止められそうだ。
でも目が覚めたのでほっとする。
「目が覚めたか、なら一安心だな」
「なに、が?」
話すのもつらいだろうに、必死に腕に力を入れようとしているけどやめてほしい。せっかく治療したのにまた炎症が広がってしまう。最悪血管の損傷でうっ血してしまって、きれいな肌が赤や黄色や緑と色味悪く変色してしまいます。落ち着いてください。
「排気……汚染魔素にやられたんだ。今までどうしてたんだ? 汚染魔素除けのデバイスは持ってないのか?」
ラロファなら、排気魔素より汚染魔素と言った方が分かりやすいだろう。正確には汚染ではないので、現代では排気魔素として習うものだが、昔は人や自然に様々な悪影響を与えたことから汚染魔素と呼ばれていた。
母星出身なら、こっちの方が聞きなれていると思うので言い換えたが、そもそも宇宙に出たラロファなら汚染魔素除け搭載のデバイスか、それ専用機器を持っているはずだ。
「すこし、まえに、壊れた……ふーどが」
青い目から驚きと不安の感情が伝わってくる。仕方なかったとはいえ罪悪感が込み上げてくるのでそんな目で見詰めないでほしい。しかし、壊れてしまったのか……排気魔素が薄ければ問題ないだろうけど、魔素除けの壊れたラロファをこんな場所に送り込むなんてな。
いや、彼女が何なのか知らなかったか、もしくは知っていても表面的な情報しか知らなかったのか。海賊だって馬鹿じゃないから、自分たちにとって得になるものと、害になるものの情報くらいあるはずなんだが、考えても分からない。
「すまないな、休ませるのに邪魔だから取っちまった。とりあえずしばらくは絶対安静だ。話しかけといてなんだが、話すのも無しで頼む」
「……」
頷いてくれた。
今考えるべきなのは彼女の体調の事だけだ。時点でメテシュたちの体調だろう。最初に計測した時より給気口からの排気魔素濃度が上がっている。一応はこのコンテナにも空調魔素フィルターが入っているはずだけど、完全に遮断できるような性能は無いのだろう。
いや、それでも本来は十分なはずだ。いったいこのコンテナはどこに置かれたのか、最悪捨てられた可能性もあるな。
無言で除去に集中していたら先ほどより睨む目の強さが増している。意識がはっきりしてきたのだろう。チラチラと俺が手を当てている下腹部に視線が行っては睨まれる。顔も少し赤みが増したように見えるがまだ青白い。
「そんな睨まないでくれ、昔ラロファとは会ったことがあるし知識もあるんだ。あんたらが汚染魔素に弱い事もその理由も知ってる。そしてここにあんたがいる事がどれだけ異常かもわかっているつもりだ」
「……」
異常も異常、メーターがあったら振りきれるくらいには異常だ。ついでに俺が彼女の下腹部に手を押し当てている事も異常だろう。平時であれば逮捕されててもおかしくない。最近だと女性に救命活動をしただけでも捕まるらしいので、こんな場所でなければ俺も治療には躊躇しただろう。
そも、平時であればすぐにレスキュー案件、いや軍に連絡するところである。平時と比べるのが、そもそもにしておかしい気もしてきた。
「魔素フィルターの魔法で俺の周囲くらいは魔素の清浄化はできるし、今も体内の魔素を循環させて汚染を除いてるところだ。あと小一時間もしたら抜けると思う。そのあとは治癒系統の魔法を使うから安静にして居てくれ」
「……」
考え事していた感情が出ていないか気になりつつ、今の状況を説明すれば、少し表情から険が抜けていく新入居者。その表情を見てほっとする。どうやらまだ死ななくても良さそうだ。
「少しは信じて貰えたかな? まぁ、そのなんだ。接触式の魔法しかないのはすまんな、元々この魔法は自分用でしかないんだ。接触してないと効果が出ない」
今のうちに謝っておこうと口を開けば、どうにも早口になってしまう。元が自分用の魔法に、あり物を繋ぎ合わせてラロファ用? に調整しているので、制限がかかるのはどうしようもない。医療ポッドの場合はそもそも治療液で満たして全身接触魔法で治療するのだ。
手の平の接触だけではやれることも限られる。メテシュとネフの視線が痛かった理由であろう下腹部への接触も、そこが体内魔素の循環中心点だからという理由だ。別の場所でも除去は出来るかもしれないけど、痛みとかその他もろもろのデメリットを考えると、この場所しか選択肢がない。
正直集中が乱れるので、別の場所の方が俺としても助かるのだが、他人の体内を弄るなんてのは、専門外も良い所なのだ。我慢してほしい。
……視線が痛い。
「……ふぁかーろな……わたしの、なまえ」
「しゃべるなって、かなり汚染がひどいんだ……その、ファカーロナでいいんだな? とりあえず今は休んでくれ」
よく今の状態でしゃべれるものだ。ファカーロナか……まぁそう呼べって事だろうな。
「…………スゥ」
皮膚表面や見た目には異常はなさそうに見えるけど、体の中は酷いものだ。排気魔素による症状は体内からひどくなる。多数の臓器で炎症が起きるのは当たり前で、今の彼女は肺も気道も声帯も赤く腫れあがっている。
「無茶をする。もうひと頑張りするか」
しゃべるだけで激痛が走ると思うんだが……女の子は痛みに強いと聞いたことがあるけど、そう言う問題ではないと思うので、そもそもこの人が、ファカーロナさんが強いのだろう。
「……体が軽い」
体が羽のように軽く感じる。力を入れれば苦も無く起き上れる。
嘘をついた。まだ体の中を縦に走るような鈍い痛みが残っている。それでも今までの辛さが嘘のように無くなっていた。
「え?」
手が暖かい。これは、あの男の手を握っている。思わず握り返してしまったが、これは、少し、恥ずかしい。
「手を離しちゃだめ……」
「あ……」
すぐそばで聞こえた声に顔を上げると、視界いっぱいに赤く縦に割れた瞳が広がっていた、鼻がぶつかりそうというより、もうぶつかっていた。
息が止まる。驚きで男の手を強く握ってしまう。
「治癒魔法中やから離したらあかんらしいで?」
「そう……ごめんなさい」
二匹の蛇を連れた女性の後ろから声が聞こえる。小柄な少女の声であろう。
思わず謝ってしまった。いや、ずいぶんと不快な思いをさせたのだろうから、謝るのは可笑しいことではないだろう。彼女達と男の関係性を勝手に誤解して空気を悪くしていたのだ。
眠る前の男の話と、今の状況を見て、男が無理やり二人を従わせていたなど思えない。もっと初対面で落ち着いて対応していればよかった。あの時はそんな心の余裕がなかったなど、言い訳にもならない。
男の頭を抱えるように膝枕をする女性が、私の手と男の手が離れないように握っている。褐色の色をした手は男の手より体温が低い。男の手からは温かい温もりが体に流れ込んでくる。見てすぐわかる治療系の魔素だ。
「何の謝罪か分からんけど、受け取っておくわ」
「……」
「……?」
不機嫌そうな声と目が手を握る女性の後ろから現れ睨まれる。不機嫌そうだけど、敵意は感じない。
赤い瞳の女性からも敵意は感じないが、妙な圧を感じる目で見詰められる。目を逸らしても回り込まれる。何か言いたげなのに何も言ってくれない。訳が分からない。訳が分からないが、私は心配されているようだ。
赤い瞳の女性に膝枕される男に目を向け私は願う。早く起きて欲しい、そして今の状況を説明してほしいと。そう願うと、視線の圧が増した気がして、私はもう一度眠りにつくことを決めた。
体は軽く感じるけど、視線の圧に、まだ芯に重りをつけているような感覚を覚えた。
いかがでしたでしょうか?
ラロファは峠を越えたが、頑張ったヨーマはお疲れの様です。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




