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第3話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



「ふぅ……意外と体を使う仕事が多いな」


 そもそも、トカゲ系統の種族は俺みたいな平均的な人族より力が強い。そんな彼らに合わせた船内の機器は丈夫で何かと重いわけだ。何が入っているのか大きなゴミ袋を全てダストシュートに入れるように言われた仕事も全て終わり、この後は仕事が入っていないので休憩できるかな。


 ただ、休憩場所はあの倉庫を改造した部屋になると思うんだけど、今もタンクトップのままなのだろうか? すでに輸送船は出発して数時間、もう数時間働けば就寝時間で、その時に寝る場所にも案内してもらえると聞いている。


「おい新人! そっち終わったら魔素セルんとこ行ってくれ」


「エネルギー貯蔵庫ですか?」


 魔素セル、子供の玩具から要塞まで動かす万能エネルギーである魔素を封じ込めた入れ物。幻体を液体にまで変化させて保存した容器は簡単に壊れる物ではないけど、洩れると色んな意味で危険なので艦船用の魔素セルは専用の貯蔵庫に保管され、ほぼ自動で艦内の各セクションに補給されている。


 筈なので、新人がいきなり指示されていく場所ではないと思うんだけど、指示されたという事は何があったんだろう。


「そっちもだがお前の担当は隣だ」


「隣ですか?」


「売却用のエネルギーセルが荷崩れ起こしたんだ。インテロ共だけじゃ間に合わない」


 なるほど、輸送船だから売却専用のセル倉庫があるのか、いや待ってそれでも荷崩れは可笑しい。


「わかりました」


 おかしいのだが、特に慌てた様子も無く普通のことであるような雰囲気の副長、この船ではよくある事なのだろうか? 前の職場でそんなこと起きたら関係者全員に罰が下されていたんだけど、いやそれより荷崩れしたと言う倉庫が心配だ。


「あと、馬鹿どもが騒いでるかもしれんが無視していい」


「……無視ですか」


 踵を返して走ろうとしたらそんなことを追加で言われる。無視と言うのもどうかと思うけど、馬鹿どもってもしかしてタンクトップな彼等だろうか? 俺が会ったのは副長と艦長以外だとそのくらい。他はインテロ達だけど、インテロを馬鹿どもなんて呼ぶ人間はいないだろう。


「絡まれたら副長に監視されてるとでも言っとけ」


「はぁ?」


 全容がつかめないけどとりあえず返事を返すと、副長はそのまま後ろ手を振ってどこかに行ってしまう。一体何に絡まれると言うのだろうか、不安しか感じない。





「みろおおおおお!! 俺の、筋肉、うぉおおおおお!!」


 そこには驚くべき光景が広がっていた。


 場所は輸送船の重要区画であるエネルギー貯蔵庫、通常なら厳重な警備が敷かれていてもおかしくないこの貯蔵庫を通らないと、売却用の魔素セル倉庫に入れないと教えてくれたインテロ、彼は去り際に意思疎通用の画面いっぱいに何とも言えない苦笑いを浮かべていたけど、これが原因だったのか……。


「いいぞー!」


「もっと腕上げて魅せろ!」


「むっふぅうううううう!!」


「うわぁ……」


 この貯蔵庫だけ空調設備が壊れているのかと思うほど湿度が高い。と言うか、今この輸送船は航行中なんだけど、なんで目の前の船員は誰も与圧服着てないんだろう。それ以前に何故上半身裸で危険物を持ち上げてるんだ。


 貯蔵庫に入った瞬間飛び込んできた光景に、俺は何が起きているのかすぐには理解出来なかった。


「あ? おう新人じゃないか! お前もやれ!」


「あ、いや……俺はひ弱なので」


 トカゲ系種族の集まり、集会? 上半身裸にスパッツだけの男達が輪になって、その輪の中央では両手に危険物を持ったこちらも同じ格好の男が、危険物を振りかざしてポージングを取り、体中の筋肉を震わせている。妙に鱗がテカっているのはオイルでも塗っているのだろうか、よく見ると三脚付きの大きなヒートランプで照らされている様で、室温と湿度が高いのはその所為のようだ。


「お前もセルで! 筋肉をぉぉ……作ろう!!」


「なんなんです?」


 俺に目を向けポーズをキメながら語り掛けてくるのはトカゲ顔。トカゲ系の種族も、人に近い容姿の人からほぼ二足歩行するトカゲのような原種と呼ばれる容姿を持つ者まで様々、昔はその姿形の違いによって差別もあったらしいけど、最近はそんな話聞かない。それでも似た容姿で集まる性質でもあるのか、この船はみんなトカゲ顔である。


 そんなトカゲ顔が両手に握っているのは、ひとつで成人男性5人分くらいあると言う艦船用魔素セル。確か350カムくらいの重さだったと思うけど、俺にはとても片手で持てる重さじゃない……変な見栄だな、両手でも無理だ。


 種族特性もあるんだろうけど、あそこまで軽々と持ち上げられていると言う事は、そっち系のスキル持ちなのだろう。


「魔素セルゥゥ筋肉部! ……だあ!!」


「うおおおおお!!」


「いや、普通に危ない」


 思わず本音が漏れる。


 俺のシールドアーマーの腰に内蔵されたのと同じ小型の魔素セル程度なら、壊れて洩れても何と言う事はないけど、大型に分類される艦船用魔素セルなんて洩れたら即隔離である。


 魔素検知器が魔素を検知して濃度測定、そこから隔壁が降りて空調も停止、魔素は空気中だと液体から昇華して幻体に直接変わるだろうから空気は良いとして、高濃度の魔素なんて密閉したらすぐに結晶化が始まり、最悪何かの魔術や魔法と反応して爆発だって起きる可能性があるのだ。


「馬鹿野郎! 魔素セルが怖くて運搬員なんてやってられるか」


 そういう問題ではない。爆発が無くても結晶化の除去と言うのは結構大変な仕事だし、結晶に飲み込まれたら普通に窒息で死ぬ。


「いやでも、カートリッジに詰めとかないと洩れちゃいますよ」


「そん時はそん時! 洩らさず捌きぃっ……筋肉に変える!!」


 いや、魔素が直接筋肉に変わったらそれはもう魔法飛び越えて奇跡なんだよ。大昔はそういう魔法もあったらしくて、最近では医療用に使えないか研究が進んでると聞いたけど、それは精密な技術であって根性論でどうかなる世界じゃない。


 俺は働き先を選び間違えたかもしれない……陸よりはまだ環境も整えられていると思ったけど、違ったようだ。


「お前も、筋肉を作らないか?」


 何時の間に接近していた!? 気が付けば周囲を筋肉に囲まれていたんだけど、この体格でこの俊敏性、流石トカゲ系と言う事か、知り合いの同系統種族はどちらかと言うと細身のタイプが多かったから見慣れないのもあるけど、それを置いても圧がすごい、あと熱気もすごい。おかしいな? 彼らは元々体温低めの種族だった気がするんだけど、まるでヒーターを前にしてるような熱気で怖いし気持ち悪い。


「お、俺は良いです。副長に監視されてて」


 これが絡まれたらと言う事か……でも副長も公認と言う事だよな? あの人もやるのだろうか? 魔素セル筋トレ、この輸送船でやって行けるのだろうか? 心配になって来た。


 あれ? 急に静かになったけど、どうし……。


「……可愛そうに」


「副長の監視付きか……気が休まらないだろ」


 急に眼が優しくなった。さっきまで野生を思い出したかのようなギラギラした目をしていたのに、まるで母性に目覚めたような優しい眼をしている筋肉の壁。そんな目をしても壁の圧迫感はそんなに変わらないけど、いったい副長の監視って何なんだろう。


 ごつい手で肩を叩かれたが、とてもそのゴツゴツで硬い爪のある手で叩いたとは思えないほどソフトタッチだ。


「ほら、これ飲んで元気出せ?」


「なんですこれ?」


「プロテインドリンクだ!」


 優しくなっても基準は筋肉のようである。


 パッケージには一応全種族対応のマークが書かれているので俺でも飲めるようだ。ちなみに全種族対応のマークがあるからと全ての種族が飲めるわけではない。人類が母星から旅立ち数千年、人類は無数の宇宙で他種族と交配して行った事でその多様性を無限に拡大させた。その結果生まれた希少な種族の中には、偏食な種族や特殊な体質も存在することで生まれた食性基準法、この全種族対応の全種族には希少種は含まれてない。


「副長の監視付きじゃ俺たちにはこれくらいしか出来ない、許せ新人」


「はぁ? ……それじゃ頑張ってください」


「うむ!」


 返事に合わせて胸筋膨らませるようなポージング。


 返事しながら、ポージングしながら、俺の手の上に次々プロテインが載せられていくのでさっさと退散しよう。詳しく話を聞きたい気もするけど、このまま話を聞いていたら抱えきれないプロテインを渡されそうだ。


 と言うかいったいどこにこんな量のプロテインを置いてたんだ? しかもいろいろ味があって飽きない配慮までされている。やさしさ、これは優しさなのだろうか、嬉しいようなそうでも無いような、複雑な気分だ。


「よくわからん風習だな……」


 みんな同じ反応だし、彼等種族の習性なんだろう。ここまで濃い他種族と関わる事は少ないので、新鮮で不思議な感じがする。





「ここか、しつれいしまぁす。……これは酷い」


 隣の区画に続く通路を抜けたら大変なことになっていた。よくこんな状況で区画が違うからと筋トレ祭りが出来るものだ。


 いや、そもそも魔素セルで筋トレするような人たちだから、大して気にしてないのかもしれない。なんだか胃が痛い気がする。


「おや? 新人の方ですね」


 古風な車輪型のインテロが姿を現すと、モニターフェイスに驚いた表情を浮かべて左右に小さく揺れた。すぐに俺が新人の船員だと分かった様で、こういう所は人の船員よりも優秀なところだろう。コミュニケーションがスムーズで助かる。


「初めまして、魔素セル運ぶ手伝いに来ました」


「それは助かります。見ての通りなのでソムダモの手も借りたいと思っていました」


 ソムダモは、母星に生息している長い尾を二つ持って七つの命を持つと言われる小型の獣だ。愛玩動物として人気のある動物だけど、飼おうと思うと家が建つくらいの初期投資と、その後さらに家が5軒建つくらいにはお金がかかるので、金持ちのステータスのような動物でもある。


 その性質は穏やかで知性的で悪戯好き、そんないても邪魔にしかならないソムダモでも居てもらった方が良いと思うくらいに忙しいと言う慣用句を使う辺り、中々に知的なインテロのようだ。


「ははは、ソムダモみたいに癒しにはなれないかもしれないけど手伝うよ」


「ではカートリッジの中の整理とロックをお願いします」


「わかった」


 何が原因か複数のコンテナが傾いた状態で破損している。中からはカートリッジが転がり出て、床には魔素セルが今も次々と流れ出している。どうやらセルは小型の様だけど、足の踏み場もなく余計に時間がかかっているようだ。


「全部民生用の小型魔素セルだね」


「はい、軽くて助かってます」


 回収済みのセルが入ったカーゴを引っ張りながら、転がって来た物を床から拾い上げると、それは民生用の低容量魔素セル。大きさは先ほどもらったプロテインボトルより少し小さい程度で、一般に家電や大きめの玩具に使われる大きさだけど、これはあまり頑丈に作られていないので家電用だろう。


 魔素は万能に使えるエネルギーで効率も良い。使用にいろいろと問題があるけどこれに変わるエネルギーはまだ見つかっていない。と言うより完成され過ぎたエネルギー源なのだ。現在も人類は銀河に拡大しているけど、その理由はこの魔素を手に入れる為なのだから、太古の昔から人は進化してないとも言える。


「隣の筋肉部が持ち上げていたのは艦船用だったから覚悟してたんだけどね。よかったよ」


 大半のインテロは崩れたコンテナの復旧に取り掛かっていて、床に零れる魔素セルは増える一方、隣から手伝いに来てほしくもあるけど、艦船用の魔素セルを振り回すのに忙しそうだし俺は新人、とりあえず頑張ろう。


「またやっているのですか彼らは、飽きませんね? 我々には彼らの思考は難解すぎます」


「わかんなくていいんじゃないかな?」


「いいえ、理解しようとする努力は重要です」


「そう?」


 ずいぶんと真面目なインテロである。いや、そもそもインテロは真面目なんだけど、難解な人の思考まで理解しようとするのは真面目過ぎると言うか、インテロの性能的に無理なんじゃないだろうか、いや頑張れば出来るのかな。うーんでもその為には少なくとも電子回路のアップデートから始めた方が良いと思う。


「はい、我々も何れ進化の先でISインテリジェンススピリットと並ばなければいけません」


「それは、でかい夢だ」


 このインテロ、ずいぶんと大きな夢を持っているようだ。大昔にはインテロに市民権を与えると言う運動があったようだけど、いろいろ越えられない壁があって労働力の一翼を担ってもらう仲間だけど、そこに明確な人権は無い。捨てられるときは容赦なく捨てられる。


 それに対してISは市民権を得ているし、廃棄されることなんてとんでもない犯罪者でも無ければ滅多にない。なんだったら発掘されて復帰されるISは毎年どこかで話題に上がる。インテリジェンススピリットとはそれだけ貴重であり、インテリジェントロボゥとの間には明確な違いがあるのだ。


 俺の返事を聞いて、モニターフェイスに大きなハートを描く彼はとても輝いている気がして、その事が少し羨ましく感じた。



 いかがでしたでしょうか?


 高度な自立行動が可能なインテロ、そんな彼等より優秀な存在がいるようです。現代のAIがインテロほどの性能を獲得するのは何時になるんでしょうね?


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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