第29話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「ヨーマ……えっち」
心外である。
「変態や」
実に心外である。
「いやいや、そうじゃなくてだね。これはそのあれだ、その、熱があるな……」
思わず抱き留める腕に力が入る。胸に柔らかいナニカが押し付けられる。あと良い匂いも増す。そしてとても熱い。
明らかに発熱している人の体温だ。息遣いも荒い。
「病気?」
「わからん、とりあえずヒーターの前に寝かせよう。気を失ってる」
シールドスーツの身体能力上昇刻印術を起動する。普通に抱えれば立ち上がれない様な態勢でも、魔法で後押しすれば関係ない。胡坐を組んだ状態から脚だけの力で真っ直ぐ立ち上がると、そのまま新入居者を抱えてヒーター前の二人に場所を開けさせる。
すぐにベッドマット用意してくれる辺り、二人ともいい子である。なんでこんないい子がこんな……いや、今はそんなこと考えてもしょうがない。この異常に軽い人をどうにかしないと。
「フード外す?」
「そうだな、締め付けは少ない方が良いだろう」
フードは簡単に外れないように紐やボタンで固定して深く被っている。胸元の紐をほどくのに手間取る。その間にブランケット丸めた枕をネフが彼女の頭の下に差し込み、メテシュが服を……ん? 何してるんですかレディ。
「……? 服も脱がす」
「あかんて」
ネフが素早く跳ねてメテシュの手を握る。流石はカエル系種族というところか、素早くて目で追えなかった。メテシュが脱がそうとした服がめくれることを完全に阻止して、お腹の一片も見れない。
手四つで力比べするネフに睨まれた。……なぜ。
固い紐が解ける。あとはフードを上に引っ張ればいい。
「ふぅ…………これは、うそだろ」
最悪だ。これは想定できないレベルで最悪だ。こんなことを想定できる奴が居たらそれは未来予知、いやもう未来視だ。未来視スキルを持っている知り合いはいたけど、アイツでも数秒から数分先が一瞬見える程度だという話だから、スキル無しの俺にこんなことが想定できるわけがない。
本当、例えようがないくらいに最悪だ。
「どうしたん?」
「ふくもぬがす?」
「あかんて! そらあかんてヨーマ!」
「ちがう!」
思わず叫んでしまった。余裕がない。ひらひらと捲れる女性のお腹を見る余裕もないくらいに、だめだ混乱している。落ち着け、落ち着け。
「!?」
落ち着いてフードを外した女性の体をまさぐる。二つの殺気が膨れ上がる気がしたけど、あれがないとまずい。流石に持ってると思うけど、もしくは何かもっと違う形で……。
「ない……メテシュ、具合は悪くないか? 前みたいな感じはするか?」
魔法を起動させるよりメテシュに聞いた方が早い。
「え? ……少しだけ怠いかも?」
「そうか……不味いな」
メテシュが怠いなら排気魔素濃度が高いという事だ。具合悪い中しばらく耐えられたメテシュでそれなら、アウトだ。あれも無いなら、この人はどれだけ耐えられる? どれだけ暴露してた? 何時から症状が出ていた。
デバイスで排気魔素の探知魔法を起動させて走査する。換気口で強い反応が出ているという事は、外の環境が悪いのだろう。根本をどうにかするのは無理そうだ。
「なぁ? なんなん?」
「排気魔素濃度が高い」
「え? うちの警報器は鳴っとらんよ?」
ネフが腰に手を添えて目を向ける。この中で俺の次に身に着けている装備が良いのはネフだ。腰のバッグに排気魔素の警報器も入っていたようだけど、それはネフや同一種族に調整された警報器だろうから、鳴らなくてもおかしいことじゃない。
「メテシュは普通より排気魔素に敏感なんだ。それよりも彼女は負担が大きいはず、こんな場所に居ていい人、人種じゃない」
メテシュはどちらかというと耐性が低い方なんだろう。魔法が得意な種族は比較的そう言った傾向がある。魔素との親和性の問題だという話を聞いたことがある。そういう意味で、寝込んでいる女性は一番耐性が低いだろう。俺みたいに魔法適性に欠陥がある人間は逆に耐性が高すぎて、鈍感とも言える。
「どういうことや?」
「彼女はラロファと言う種族だ。たぶん間違いないだろう。何度か見たことがある」
「知らんな?」
「知らない」
「そりゃそうだ。宇宙に出てるラロファなんて数えるほどだし、ほぼ保護されているはずだ」
知らなくてもおかしくはないだろう、普通の学生が学ぶ範囲ではない。貴族の子弟なら名前くらいは聞いたことがあるだろう。何せ自分たちの生活にも関わる種族だから。
俺は実際に見たこともあるから間違う事はないと思う。少し尖り気味の特徴的な耳に、平均種より少し線が細く軽い。特徴的な額の文様にあの輝く目、該当する種族はまだいるけど、この文様は覚えている。人類の母星出身のラロファが持つ特徴だ。
「そんなに珍しいんか」
「彼女達は排気魔素に対する耐性が極めて低いんだ。普通なら排気魔素から身を守るデバイスが必要なはずなんだが」
「ないんか?」
無い。体をまさぐって探したが、それに該当する物がない。話しながら立ち上げた魔法でも、そう言った反応が見られない。服に微弱な耐魔性能があるけど、
「一応服が耐魔素仕様ではあるみたいだけど、これじゃあまり意味がない」
気休めにもならない。いや、気休めになるから今まで耐えられてたのか? それとも気を張っていたからか、立ち上がった拍子に立ち眩みのように状態が悪化したのかもしれない。何か言っていたけど、たすけをもとめたのか……。
「助からんの?」
「いや、大丈夫だ。絶対助ける」
求められたか分からないけど、助けるのは変わらない。出来る限りのことをしないと、いろいろ不味い。それに俺には彼女を助ける義務がある。
「……」
「な、なんや……惚れたんか?」
「ん? いや、まぁ確かに美人だけど、それとはまたちょっと違くてな。とりあえず体内の魔素を除去しよう」
険しい表情で見詰められても困るんだけど、落ち着いてほしい。
美人も美人、女神と称えられるくらいには容姿が良い種族だ。彼女も美しい、若干不健康な顔色をしているけど、銀のように輝く髪に母星の空のような蒼が混じって、肌も真っ白……おかしいな、これはラロファに該当しない。ハーフ? いや、あの種族はハーフが生まれない筈だ。
何かありそうだけど、やる事は変わらない。
やるのは、メテシュにやったのと同じことだ。体内の排気魔素を除去する。
メテシュの事を考えて除去用の魔法を組んでおいてよかった。また魔術で精神削って除去するとか命がいくつあっても足りない。それにラロファ相手に下手な魔法は使えない。下腹部にそっと手の平をあて、なるべく丁寧に、慎重に、怪我させないように、苦しまないように……。
くそ、こんなの俺がやるような事じゃないのにな。だからと言って海賊に頼るわけもいかない。ラロファという種族を知っているかも怪しい……いや、知っていたからこそこんな環境の悪い場所に送り込んだ可能性もある。それだと最悪だ。絶対に頼れない。
「あっとそうだ、メテシュも俺の近くに、どうやら移動された場所はずいぶんと空気が悪いみたいだ。排気魔素量が多過ぎる」
怠いと訴えているという事はそのうち倒れるだろう。除去は後回しにさせてもらうけど、せめて綺麗な空気を吸ってもらわないと、と思ったけど何で腰に抱き着くのかなお嬢さん? 控えめに言って邪魔です。
見詰めて意思疎通を図ったが、理解してもらえない様だ。せめて、俺の体と君の頬で左蛇君を挟むのは、苦しそうなのでやめて上げて欲しい。
「マジか、うちもやばいかな」
「わからん、だがコンテナ内部でこれだから、外はインテロが壊れるレベルかもしれないな」
かもしれない、というより十中八九コンテナの外の汚染はインテロが壊れるレベルだろう。走査は時間をかけるほどにデータの蓄積で状態が鮮明になる魔法だけど、給気される空気の排気魔素濃度は、明らかに問題のある数値だ。
ネフの排気魔素耐性がどのくらいかなんてわからないので、一概に危険とも大丈夫とも言えない。なにぶん排気魔素とか汚染物質にだけは強い体質なので、普通の感覚が分からない。数値としてならわかっても肌感覚では何とも言えない。
「やばいやん!?」
どうやらインテロが壊れるレベルだと駄目なようだ。いや、そう……普通は人が活動していい環境ではないのだ。こればっかりは両親に感謝するほかない。強い体に生んでくれてありがとう。それ以外はポンコツでもまだ生きてます。
とはいえ、俺が汚染に強くても周りの人間も強くなるわけではないので、フィルター魔法で排気魔素を空間的にも除去する。除去と言っても一度入り込んだ排気魔素は除去できないので、それは俺が吸い込んで、自分の体でろ過するしかない。
「魔法でフィルターを作るから近くに居てくれれば大丈夫だろう。ただくっついたりはしない方が良い。魔法の余波でびりっと来ることがあるから」
「……ざわざわする」
「シールドスーツの刻印術が起動しているからな、書き換えしてなくて良かったよ」
そりゃそれだけぴったりくっついていたら、本格的に魔法を使わなくてもシールドスーツとの間に多少の反発力が発生するだろうね。離れましょうねお嬢さん? だめだ、離れてくれない。ならば右側蛇君に視線を向ける。するとどうだろうメテシュの頬が噛まれる。
ものすごく不満そうに離れたけど、これからいくつも魔法を使うと、シールドスーツから余剰エネルギーが出て色々と痛い思いをするので近付かない方がいい。
どうでもいい事だが、量産品はこの余剰魔素による周囲への干渉は限りなくゼロになる予定だ。これは試作ゆえの許容範囲という事になっている。良い仕事だよ兄さん。
いかがでしたでしょうか?
ラロファとはいったい何なのか、そしてヨーマは彼女を治療できるのか……。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




