第28話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「……寒いな、環境維持装置が壊れたか?」
ヒーターから一番遠い場所だから寒いのは当然だけど、それにしても寒い。運搬している人間が下手なのか、サポートインテロに不具合があるのか、どうにも事故を起こしまくっているらしいこのコンテナ、いくら丈夫なコンテナとは言え故障の一つや二つするだろう。
まぁ、それ以上にダメージを負っているのはメテシュか。なんでか事故るたびに俺の背後で転倒しているのだ。もう二桁はこけてると思うけど、その割には外傷はない。あれだけ鼻を打って鼻血まで出しているのに、すぐに良くなるのだ。
「データが増えなくなった」
羨ましいフィジカルであるが、それでもいつ何があるか分からないから役に立ちそうな魔法をずっと組み立て続けている。それで気が付いたのがデータ量の増加が止まった事である。面白いものを見つけられなくなったのか、嵐の前の静けさなのか、魔法の組み立てデータを保存するつど確認する残りのメモリ量の無変化に恐怖を感じる。
「まぁ増えない方が整理しやすいんだけど」
魔法の組み立て、シミュレート、デコードされたデータの確認、整理。毎日繰り返す作業の中で色々な物が出てくるナンシュフォルダ。最近はちょっと楽しくなっている自分がいるのだが、こうやって人は異常な環境にも慣れていくのだろうか……。
「……バッテリーも全く減らなくなったから、通信が無効化されてるのかな?」
魔素バッテリーの減りも緩やかだ。良い事だけど、やっぱり何か良くわからない不安で息苦しく感じる。
――背後に気配。
「ヨーマ、さむい」
「寒いならヒーターの前に居ろって」
ブランケットに包まったメテシュが寒いと不満を訴えてくるが、俺の居る場所が一番寒いんだから何を言いたいのか。正論ぶつけながら見上げる先には不満そうなメテシュの顔、ずっとそのブランケットお化けのままでいて欲しい。
何故なら、彼女は攫われた時のままの恰好なのだ。攫われた時は自室で寛いでいたところだったらしく、ラフなTシャツに下は下着のみ。オーバーサイズのTシャツで下着は見えないものの、時間の経過による劣化で布地は薄くなっている。
奴隷の服ぐらい支給してほしいものだ。俺もシールドスーツに、前の勤め先で拾ったぼろいシャツを着ただけの姿だけど、ズボンくらい拾ってくるんだった。
「ひとはだ」
シャツを摘ままれる。
「人肌よりヒーターの方が暖かいだろ、ほらこれ貸してやるから包まってヒーターの前に居ろって」
冬山でもないのだから人肌なんてノーセンキューである。俺はシールドスーツが生命線なんだ。これを脱ぐとは死を意味する。そもそも俺は防護服無しで宇宙活動ができるような人種ではない。そう言う意味では、野生種や獣人種などと、いろいろな分類をされる彼女達は、正しく宇宙時代の種族と言える。
「ヨーマも」
「俺は大丈夫だから。やっぱ蛇系だから寒さに弱いのな」
俺が渡した追加のブランケットに包まって、スーパーブランケットお化けに進化したメテシュがシャツを摘まんで引っ張る。この欲張りお化けはブランケット一枚では足りないと申すか。
まぁ、蛇系の種族は寒さに弱いとは聞くけど。
「うん」
だがそんなものは知らん。座る俺を見下ろす自称レディ、他称未成年メテシュの口元に笑みが浮かぶが、俺の社会的尊厳のために懐柔は受けない。
ドロー!
「ムアガさん!」
俺は”救援の成人女性ムアガ”を守備表示で実行するぜ。彼女は、見た目こそ中等学生くらいだけど立派なレディ、俺の気持ちを汲んでくれるはずだ。
「あいよ! ほら、メシュ一緒に暖まろう? うちも寒いし」
「…………うん」
「はぁ……」
流石大人の女ムアガさん、あまりに心強い。
「あとな?」
「ん?」
ん? メテシュを更に追加のブランケットでスーパーヘビー級ブランケットお化けにしたムアガさんが一人戻って来た。裏切りですか? もしかして裏切りですか? 私は戦いますよ? ええ、戦いますとも、自らの尊厳のためなら弱者だって戦うんです。
何か悲しくなってきた。
「うちの事は、ネフでいい。それやと違和感がある、から……」
「え? あぁ、うん? ネフさん?」
違和感、違和感の解消は大事ですね。昔の知り合いも、違和感の解消は大きなQOLの向上につながると言っていた。QOLが何かは知らんが、何か大事なことなのだろう事は分かる。
同じコンテナで生活する仲間、お互いのためになるなら、そのくらいの協力は惜しまない。ところでなんでそんなに小声なんですか? 静かなコンテナの中でも耳を澄まさないと聞こえないし、そんな小声で話しかけられると、自分のついつい小声になってしまいますネフ=サン。
「さんもいらない、私の方が年下だから」
「お、おう……わかった」
近い、顔が近い。そして不思議と甘い香りがする。……あれ? 毒物生成してないですか? 甘い香りの毒って結構多いですよね。ちょっと離れてもらって良いですか? 私の後ろ壁なんですよ。
ん? 何か近付く気配がする。
「ん、ふふぐえ!?」
「ネフ、来る」
救世主はメテシュだった。ムアガさん……ネフ=サンの着ているパーカーのフードを鷲掴みにして引っ張っている。何というか、身長差のせいで後ろに引っ張るというよりも吊り上げる様な感じになっているが、首絞まってない? 大丈夫かネフ=サン。
「ちょっとあんた引っ張るなて! こら蛇どもも噛みつくなや!」
「なんなんだ?」
メテシュにフードを引っ張られ、さらに両肩が蛇に噛まれてネフの足が宙に浮く。服を噛まれているだけのようで、痛がってはいないが暴れる暴れる。それでも全く微動だにせず運んで行くメテシュの腕力に蛇君二人のパワー、超こわい。俺なんて握りつぶされるんじゃないだろうか。
「……」
ん? 今視線を感じた様な……うん、新入居者さんは座ったまま寝てるみたいだし、気のせいか。それにしても、せめて名前くらい聞いておきたいところだ。
ヨーマ達の入れられたコンテナが急に寒くなるより少し前、とある買い取り業者は、エクスマギレアなどの超大型艦なのではよく見る特殊な樹脂製のタイル床の上で膝をついていた。
「なんて厄介の塊だ」
「猛毒と男食いが可愛く見える」
それはコンテナ中身を確認したからだ。
何度確認してもデータが消去されていたためわからず、かと言っていきなり中に入るような馬鹿な人間も少ない。データがない以上、何が入っているか分からないのだ。未知のウィルスが充満している事だってある。そのため間接的に内部を調査する方法はいくらでもある。
その一つが透視系の魔法、手順を踏めばある程度は中を確認出来るし、そこからエクスマギレアのデータセンターに照会することで入れられて物が何なのか、また内部の空気環境なども調べられる。
その結果が、彼らに驚きと絶望を突き付けた。
「聞いた話だと女も食うらしいがな」
「両刀かよ、ぱねぇな」
「これをどう騙して売るか」
「もう噂は出回ってるだろ」
そのまま床に座り込み、どうしたものかと悩む男達であるが、彼らがその中身を知って絶望したのは、出回っている噂を知っていたからである。情報屋というわけでもない、只の買い取り業者まで噂が回ってくるという事は、誰だって知れるという事で、そんな偽装コンテナが早々売れることはない。ここまでたらい回しにされてきた原因は、正規の方法で売っていないからだ。
情報消去や偽データ、脅しに詐欺に抱き合わせ。様々な形で売られる厄介な代物に、エクスマギレアで商いを行う人間の警戒度が高まっている。
「……最下層に出すぞ」
「それじゃ売れないだろ!?」
最下層に出すという男に、慌てた様子で手を広げ首を横に大きく振ってみせる男。彼らは早く目の前のコンテナを手放さないといけない。それほど危険なものに変貌を遂げたコンテナを見上げる男は、慌てる男に笑って見せる。
「最下層だぞ? 気にせず買うやつはいるさ、それよりさっさと捌かないと俺らが不味い。最下層ならインテロのチェックも出来ないし最良だろう」
「……仕方ないな、この女を所持するのは危険すぎるか」
最下層と言うのは、いわばゴミ捨て場である。物理的にもシステム的にもご自由にお持ちください状態で放置される。当然そんな場所に管理費用など使ってられない為、環境はとても悪く、排気魔素による故障を恐れてインテロも入り込まない。
一応の巡回警備はされているが、完全防護には程遠い格好の奴隷が運用されるだけ、真面な警備なんてあったものでは無い。そんな場所に、ヨーマ達は運び込まれたのである。
一度搬入したら、購入以外で運び出せない場所に、ヨーマの入ったコンテナを送り出した買い取り業者が、呪われ男の事を知って慌て、同時にナニモノかによる霊障が事務所で置き始めている頃、静かな密閉コンテナに可愛い音が響く。
「くちゅん!」
可愛いクシャミである。メテシュだろうか、ずいぶん寒がっていたから風邪ひかないと良いけど。
「……」
顔を上げると団子が見える、一緒に寝ていたネフを取り込んでギガントブランケットお化けになったメテシュだ。静かな寝息と息苦しそうなネフの寝息が聞こえてくる。
静かだ。とてもくしゃみをした後のようには見えない。くしゃみを漏らしたならもう少し寒そうにしていてもよさそうだし、身じろぎをしてもおかしくない。
布のこすれる音がする。
「……っ」
音のする方に目を向けると、目が合った。あの猫のように光る目だ。ごそごそと動いている。フードの奥で口元を手で覆っている。
どうやらクシャミの主は新入居者だったようだ。実に可愛いクシャミである。そして死を悟った。俺は今からコロサレル。短い人生だった。殺すならなるべく痛くなく一瞬で頼みたい。
「……すぅー」
静かに目を逸らして目を瞑る。緊張で息が漏れた。
音がする。布がこすれる音だ。足音が聞こえる。柔らかい靴の音だ。これが死神の足音、寒気が背筋に走る。
「……ふぅ」
「……?」
すぐ隣で足音が止まって、止まって……何も起きない。殴られるなり、罵声なりあるかと思ったけど、小さく息を吐く音しかしない。いやまて、気合を入れているのか? これは、しんだな。俺は詳しいんだ。母上が父上に折檻する時も、息を小さく細く吐いて空気が変わる。
空気が、かわらない? というか。動かない。
「少しいいか」
「っ!? ……なんでしょぅ?」
心臓が口から飛び出るかと思った。気を抜いて薄目を開けた瞬間を狙うとは策士、これは参謀級ですよ。
ところで何か御用でしょうか? 見下ろしてくる暗いフードの奥で目が輝いていて、とても怖くて綺麗ですね。まるで星空のようにも見える。死ぬ間際の光景としては、まぁまぁ悪くない。
「私は少し勘違いを……して、しゃざい―――」
暗いフードが近づいてくる。これはなぐら、れる感じはしな――。
「ふぁ!?」
抱き着いてきた!? まさか締め落とす気か!? 絞殺! 絞殺ですか!? ……あ、あれ? ぐったりして、柔らかくて、細くて折れそうな体だ。支えてあげないと床に落ちてしまう。
しっかり腰と背中を支えて抱き上げる。完全に気を失っていて、少し熱い。あと良い匂いがする。いかん変な気分に……おや? お目覚めですか? どうしたんですかそんな目をして、私は無罪ですよ。なのでその縦に割れた目でこちらを見ないでくれません? お二人さん。
いかがでしたでしょうか?
それでも私はやっていない。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




