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旧式艦長ヨーマ ~その軌跡の始まり~  作者: Hekuto


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第27話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



 一方向に向かって引っ張られる感覚に顔を上げる。


「また、たらい回しが始まったか……」


 上げたところで何もわからないのだが、揺れるとついつい天井を見上げてしまう。理由は特にない、でも天井を見上げると感覚が鋭くなる気がするのだ。


「どうにも厄介払いされてるようだけど、原因は何だろう」


 こう言うのはだいぶ失礼だが、メテシュとムアガさんは厄介払いの対象になるだろう。いくら美人で可愛い見た目をしていても、種族としての特性や能力を見る限りとてもじゃないが愛玩目的で購入しようとは思わない物がある。ちょっと反抗して噛まれるが、そのまま死に直結するような相手に興奮するのは、だいぶ特殊な性癖だろう。


 そんな二人と一緒にされているという事は、俺も彼女達と変わらないレベルで厄介だと思われているという事だ。それが幸なのか不幸なのかは分からないが、日に何度も移動させられているのはそう言う事だと思う。


 違うかもしれない。


「うーん」


 俺はそんなに勘は良くない。データをもとに考えるなら出来るけど、データが足りなきゃ予測することもできない。いったい俺の何がそんなに厄介なのか。


「俺はただのおっさんだし、特に可もなく不可もなく、価値はまぁ低いだろうな」


 評価価格が安すぎて売れないならまぁ分からないでもないけど、なら叩き売ればいいだけで、彼女達と一緒にしておく必要はない。……まてよ? 俺が彼女達を性的に襲って殺させようとしてる? まさか、そんな迂遠なことはないか。でも女性ばかりだし、増えたし、何を期待されているんだろう。


 ……繁殖とか? いや、流石にどうなんだろう。


「メテシュは、希少種だと思うし綺麗だから価値はあるだろうけど、問題は目の力か」


 雑種の遺伝子で能力を抑制したい? いやそんなの迂遠にもほどがある。今時自然交配なんてしなくてもデザインクローニングで事足りる。いやでも、自然交配の方が優位な結果が得られるという論文も無くはないような。


 シグズ姉さんが部屋に置いて行った論文にそんなのがあった気がする。それであの能力が引き継がれないとは思えないけど。


「たぶん、物理的に塞いでも意味のないタイプの力だろうな」


 右目は視力自体失うような深手のようだけど、診察した時の感触だと機能を失ったわけじゃないと思う。子供が生まれてすぐ目を潰しても、あまり意味がないだろうな。海賊が扱う商品としては、損傷があればそれだけ価値も落ちるだろうし。


「ネフヘケプさんは、自由に毒の生成が出来るらしいので、まぁ怖くて買い手も付かないかもなぁ」


 毒蛙の性質を色濃く引き継いでるという彼女からも色々聞いたけど、中々にエグイ能力である。奴隷の価値がどの辺で決まっているか分からないけど、いつ毒殺されるか分からないとか怖くてしょうがない。


 そう言えばだいぶがっつり腕をロックされてたけど、なにかの拍子で毒殺されたりありえたのだろうか? 高機能なシールドスーツを着てるから、それも無いのかな? いやでも、


「溶毒とかもあるって言ってたし、有機系生命体には致命的だな」


 溶解毒とか恐ろしすぎる。


 有機物がドロドロに溶ける毒らしいけど、ナニをしようとしたらソコが良い感じに溶けて最悪機能しなくなるとか、大丈夫とか言ってたけど、何が大丈夫なのか分からない。考えただけで息子が悲鳴を上げそうだ。


「あとは……視線を感じるんだよなぁ」


 視線の主も厄介者扱いでここにまとめられた可能性が高い。あれか? 男性嫌いで問題を起こしまくったか? そうなるとメテシュ系? でもメテシュは男女かまわずやらかしてるっぽいし、毒系の問題? ……わからん。


 見た目で何かわかるところあるかな。


「……こわ」


 ちょこっと振り返って姿を確認しようと思ったらめっちゃ睨まれた。怖いです。無言の圧がとても怖い、あそこまで拒絶されたらコミュニケーションの取りようがない。


「なんでこんな睨まれてるのか、フードの奥で輝く目とか怖すぎる。猫かな?」


 猫って暗闇で目が光ったりするから、猫族かもしれない。フードを深くかぶっているから実際どういう顔なのかもわからないけど、何か肉食獣的な何かを感じる。まぁ他にも目が光る種族は多い。というか、分厚い辞書が一冊作れるくらいには種族の分類は細かい。


「輝く……うーん該当する種族が多過ぎる」


 目が輝くという特徴だけでも相当に種類が多いし、場所が場所だけにまだ未確認の種族と言う可能性もある。


 種族を知っておかないと、どこでタブーを踏むか分からないから、自己紹介くらいはしておきたいんだけど……と言っても、生物も文化系もそんなに点数は良くなかったけどね。あの頃は自分の遺伝子の事もあって、そっち系統は俺にとってタブーだったから、黒歴史と言うやつだ。


 ……止まったな。


「また? 中身確認する前に移動してるあたり、データだけで不味いと分かる感じか」


 止まったと思ったら数分で動き出した。そんなに俺達は厄介者なのだろうか? 移されたコンテナも故障してるわけじゃなさそうだし、やっぱ俺達が原因だよな? ほんと何なんだろう。


「ここにいる間は助けなんて来ないだろうし、逃げるなら……ぬお!?」


 鼻を打った。衝突音と急停止、事故だな。


「ヨーマ、大丈夫?」


「ああ問題ない、そっちもちゃんと座っとけよ?」


「……う、うん」


 俺は鼻をぶつけただけだから……いや、普通に痛い。あまり大丈夫では無いけど大丈夫という事にしておくが、君はどうしてそんな勢い良く倒れているんだいレディ? まるで立ち上がってどこかに行こうとした瞬間に事故が起きたようじゃないか。


 左蛇君よりアイコンタクトを確認、どうやら俺の背後をとろうと立ち上がったところだったようだ。ところでなんで俺はそのアイコンタクトが理解出来るんだろうか? 気のせいか、そうだな、動物の鳴き声で勝手に言ってる事を妄想する痛い飼い主的なアレだ。


 きっとそうだ、だから言葉に出すのはやめておこう。でも心の中ではいいと思う。アニマルセラピーはこんな環境だからこそ必要だ。蛇君も噛みついてこなければ可愛いからね。


「こんなにたらい回しされるなんてうち初めてや」


「なんでだろうねー?」


 ムアガさんも初めてとなると、もしかしなくても俺が原因? メテシュの可能性もあるけど、組み合わせかな? 食い合わせ的な感じで何か駄目なのかもしれない。


 知らんけど。


「……」


 流れでいけるかと思ったけど、目を合わせたら睨まれた。やはり新入居者とのコミュニケーションはまだまだ無理のようだ。





 コミュニケーションについてヨーマが悩み続ける中、転売を繰り返されるコンテナは周囲に恐怖を振り撒いていた。


「ひぃ!」


 男の悲鳴が上がる。


 時刻は深夜、人類が宇宙を飛び回る時代であっても、警備と言う仕事にはどうしても人の手が必要になってくる。そんな警備員の仕事をしている男は、薄暗い夜間用照明に照らされた重厚なコンテナの前で悲鳴を上げると、手に持っていた銃を振り上げその場から飛び退く。


「うお!? おま、馬鹿か! 脅かすなよ!」


 男の悲鳴に驚いた同僚は、振り返った先から飛んできた銃口に驚き、仰け反りたたらを踏むと怒鳴り声を上げた。無意識に銃口を向けられ怒りをあらわにする男は、怒鳴った先で震える同僚に溜息を一つ漏らす。


「絶対このコンテナ変な音するって!」


「密閉型だぞ? 音が洩れるわけないだろ」


 男達の前にあるのは密閉型のコンテナ、隠蔽に特化したコンテナは内部の音を完全に遮断しているので音が漏れることはない。


 それは音がするといった男も分かっている。わかっているからこそ怖がっているのだが、その言葉を信じない同僚は顔を顰めまた一つ溜息を漏らと、無言でコンテナの壁を蹴飛ばし肩を竦めて見せた。


 何も音はしない。しかし、


「で、でもよぉ?「あけて」へ?」


 怯える男が銃を下げた瞬間声が聞こえた。


 驚き周囲を窺う同僚は銃を構え、怯える男は銃を抱きしめるように持ってきょろきょろと周囲を見回す。


 音はコンテナからしているのではなかった。


「あけてよぉ」


 開けてと声が聞こえる。しかしその声はおぼろげで、上から聞こえているような気もすれば、コンテナの影から聞こえている様な気もして、二人の警戒を周囲全体に薄く広げさせた。


「……だ、だれだ!」


 怯えていなかった男も思わず叫ぶ。なにせ、コンテナ倉庫の警備で夜警に出ているのは二人だけ、残りは本部に待機しているので、今この場に第三者の声が聞こえればそれは侵入者である。


 海賊の船だけあって日頃から窃盗盗難強盗は当たり前、故に十分人を殺せる威力のある銃を携帯しているのだ。男は、銃を構えると声がした場所を探す様に銃口の先を頻繁に変えて周囲を窺う。


 声がしない。侵入者の姿もない。どれほど時間が経ったのか、ほんの1分が数十分にも感じられる沈黙。


 ――それが破られた。


「あかない、あかないのぉぉぉおおおおお!!!」


「「ぴぎゃあああああ!?」」


 丁度、男二人の視線が90度に交差した瞬間、真っ白な顔が、いや真っ白なナニカが視線の交差する場所に落ちて来て叫んだのだ。


 男にしてはずいぶんと甲高い叫び声が響き渡る倉庫に数秒後、土の入った重い土嚢でも落とす様な鈍い音が鳴る。


「密閉タイプじゃ中に入れないよぉ……ますたー」


 白目を剥き、鈍い音を立てて倒れた男二人の少し上、ゆらゆらと逆さまに浮いているのは泣きべそのナンシュ。


 どうやら対魔法用の密閉コンテナは、彼女の帰宅も阻止してしまったようで、泣きべそ掻きながらコンテナに縋るナンシュが、その小さな手でコンテナを叩くと、叩く度にコンテナから気の抜ける様な歪んだ音が鳴る。


「壊すしかないけど、これ頑丈すぎぃ」


 どうやらコンテナの密閉機構を壊すつもりで叩いているようだが、そもそもが魔素や魔法に高い抵抗を持つコンテナ。いくらナンシュがすごいISだったとしても、精霊と言う魔素で構成された体である以上、太刀打ちできるものでは無い。


「運搬のタイミングであっちこっちぶつかる様にしてるのに隙間も空かないとか、どんだけ丈夫なんですか!」


 故に、彼女な物理的にコンテナを壊すしかない。そのために、一生懸命システムに干渉してはコンテナの運搬事故を多発させていたのだが、そこは高級なコンテナとあって中々壊れない。


 その代わりに、事故が多発する呪われたコンテナの噂は瞬く間に広まり、転売を加速させることとなった。


 またその事故によって、ヨーマに接近しようとしたメテシュは、そのすべての行動を阻止されており、計6回ほど鼻を打ち、そのうち3回は左肩の蛇も顎を打っていたりするが、ナンシュには関係ない話である。





 そんなナンシュの暗躍は、海賊船に様々な影響を広げている。


「はぁ、最近修繕多過ぎねぇか?」


 その一つが、コンテナ修繕依頼の増加。宇宙時代を支える影の立役者であるコンテナ、地上に足をついてしか生きられなかった頃の人類なら、何を言っているんだと笑い飛ばすであろうが、人類が宇宙を定住地の一つとして利用する現代のコンテナは、当時の宇宙船並みに高性能な入れ物だ。


 何せ宇宙で運搬中に、真空の宇宙空間に放り出してしまう事もあるコンテナだ、それで中身が全て使い物にならなくなってしまっては困るのだ。故に、現代のコンテナは、有害な宇宙空間であっても、中身の物資を長期間守れるように設計されている。


「インテロの不具合が多いらしい」


「それでこっちに仕事回って来てんのか、だるー」


 生き物の生存時間こそ短いものの、無機物であれば半永久的にだって維持できる。そんなコンテナは、大抵専門のインテロを揃えた工場で修理されるのだが、そのインテロにも不具合が発生していると聞かされ嘆くのは、依頼があれば何でも修理する工作所の職人。


 何でもと言うだけあって腕は良さそうだが、真面目ではなさそうだ。


「今のうちに稼いでおかねぇと、インテロが戻って来たらまた仕事無くなるぞ?」


「へいへい、しかし壊れる時は纏めて壊れるの何とかしてほしいぜ、重力制御装置もあちこち不具合出てるんだろ?」


「ああ、この間の微小変位で物がひっくり返って大変だったぜ」


 コンテナの修理を再開した作業員の不満に、工作所の所長は頭のタオルを巻き直しながら大変だったと溜息を漏らす。


 どうやら重力装置で異常が起きる前から、艦内では様々な故障が立て続けに起きているようだ。その原因は彼らにもわからない様で、ヨーマを伴ったデブリに触れない辺り、それとはまた違う原因なのだろう。


「お化けの仕業って話もあるぜ?」


「勘弁してくれ、お化けが出たら人生終わりだ」


 不真面目そうな顔で意地悪そうに笑う男の言葉に、タオルの位置を調整する所長は凄く嫌そうに顔を顰めて吐き捨てる。


 お化けを知っている者は大体似たような反応を見せ、


「見た事ねぇからわかんねぇなぁ」


 お化けの実態を知らない者は、だいたい訝し気に眉を顰めて笑う。レーザー溶接機を置いて遮光ゴーグルを額に押し上げた男もまた、知らない側の人間だ。恐ろしいのは分かっているのだが、そこには明確な認識の違いがある。


「軍の小規模艦隊が全滅するんだ、こんなぼろ船あっと言うまで終わりだろ」


「ゴーストフリートじゃないよな」


 “ゴーストフリート”それは宇宙を漂うアンデットの船団のことだ。宇宙に住む人間であれば、小さな子供の頃に親から、悪い子のところにはゴーストフリートがやってくると脅されるもので、事実存在する宇宙の脅威である。


 だがその遭遇率は、砂漠でダイヤモンドの砂粒を見つける様な確率に等しい。何故ならそう言った危険な航路を避ける術が彼らにはあるからだ。


「流石にねぇだろ……!」


 あるのだが、やはり怖いものは怖い。


 噂をすれば寄ってくる。そんな言葉もあるため、急に静かになった室内に、所長は寒気を感じて背中を震わせた。


「……は、はやくおわらせんぜ!」


「お、おう!」


 それは不真面目そうな男も同様で、所長の言葉に大きな声で返事を返すと、無駄に大きな音を鳴らしながらコンテナの修繕を再開するのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 うっかりナンシュは、追い出された家猫のように鳴き声を上げた! しかしその声はヨーマに届かない!!


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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