第26話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「…………」
無言の圧を感じる。
フードを被っているので眼元はよく見えない。そもそもそこまで明るい部屋ではないので、フードなんて被ってたら顔なんて見えない。でも、すごく睨まれてると言うのはなんとなく分かる。
「……」
「……」
そしてこっちも睨んでいる。部屋が狭くなったからと何故か俺の両サイドに陣取るメテシュとムアガさん。その二人が目つき鋭く睨んでいる。素行の悪い昔の同僚もびっくりなガン飛ばしである。
決して女の子がして良い顔ではない。
「……」
気のせいか、目の前で睨んでいたフードの人物もたじろいだように感じる。
いや? 全然たじろいでない、なぜなら俺をきつく睨み直したからだ。
「……(どういうことぉ?)」
俺が何をしたと言うのか、思い返してみてもまったく理解が出来ない。たしか、睨まれることとなったのは十分くらい前にさかのぼるだろうか。
「ねぇ、離れない?」
俺の右手ががっちり拘束されている。力が強いのかあばらが出ているのか、なんだかゴリゴリして肘が痛い。
「やだ、寒い」
寒いと言われたら確かに寒い。住み慣れてしまったコンテナを追い出されて入れられた新しいコンテナは二回りほど小さい。それでも三人で使うには十分な広さがあるし、あと一人、二人、三人。そのくらい増えてもプライベートは保たれる。
筈なのだが、何故か俺のパーソナルスペースは完全に侵略されてしまっている。コンテナ替えで空調が起動したばかりのようで寒いからまだ耐えられるけど、室温が上がって来たら汗を掻きそうだ。
「……ネフヘケプさん離れた方がいいのでは? 蛇に噛まれそうですよ?」
「いや、危ないから離れない」
左腕はムアガさんが、こちらもがっちりと腕をロックされているが、こちらはふわふわと柔らかくしっとりしている。たいへんいけない気分になりそうなので双丘に、いや早急に放してもらいたい所存。
だいたい危ないと申しますが、寧ろ貴女の方が危ない気がします。だって、俺の頭の上でメテシュの左蛇君が、鎌首もたげてるんだよね。明らかに不機嫌そうな息遣いも漏れ聞こえる。
「シャー!」
「ひん!!」
そこは射程範囲内です。可愛い悲鳴が聞こえたけど、怖いなら是非とも放してほしい。いつもなら諫めていそうな右の蛇君も止める気はなさそうだし。
「はなれない方が危ないのでは……そんなに心配しなくても魔法で治療できるので」
「やだ」
「う、うちもいやや」
右から短く明確な拒否、左から震える声による拒否。その原因は、彼女達のフライングボディプレスとエルボードロップによって意識不明になった俺である。
あまりに脆弱な俺という存在に、彼女達の中にある過保護スイッチが入ってしまったようだ。
……勘弁してください。
「はぁ、わき腹痛いしコンテナは狭くなるし飯はチューブになるし、踏んだり蹴ったりだな」
でも実際に彼女達を受け止めた際のダメージは重く、シールドスーツの刻印術でじわじわ治療されているが、痛みが急になくなるわけではない。麻酔魔法と言うものもあるにはあるけど、あまり体に良い魔法でも無いし、繊細な魔法なので集中しないと思わぬ害が出てしまう。
そもそも今は両手が使えないので何も出来ない。壁に内蔵された食料ケースで、歯磨き粉のチューブみたいな容器に充填される飯も美味しくない。個別コンテナの直飲みチューブ食よりは、気分的にマシな程度だ。
「あれおいしくない」
「美味しさを求めた食い物じゃないから」
「家畜扱いみたいできらいや」
「実際に家畜用に作られた物が元になってるからな」
両サイドから不満が出るが、彼女達の感想は実態に即している。なにせ家畜用に作られたのがチューブ食の始まりなのだ。愛玩動物を飼っている人などはなじみがあるのではないだろうか? 大容量タイプのおやつでシリーズは多く出ている。
吐き出すほど不味いわけではないので、最近の愛玩動物は良いものを食べている。そもそも愛玩動物を飼えるほどの金持ちなのだから、もしかしたら動物のおやつの方が美味しいのかもしれない。俺は触ったことも無いから分からないけど。
「オラさっさと入れ!」
突然コンテナの扉が開いて、いつもの口悪インテロの声が聞こえてくる。顔を上げると三重扉の向こうから人が入って来た。少し躓く様に現れたのはフードの人物で、明るい外の光に照らされ逆光になっているせいで真っ黒のシルエットしか分からない。
「また増えるんか」
「狭くなる」
また不満が聞こえてくるが、少し不機嫌さが増した気がする。そんなに狭いのが嫌なら離れて欲しい。離れても全然スペースには余裕があるんだ。
それにしても一人増えた程度でこの不満……二人は、パーソナルスペースが広いタイプなのだろう。そのくせこのくっつきよう、ちょっと心を許すのが早くないですかね? おじさんは心配です。
「狭いの嫌なら俺が離れるんだけど」
「いや!」
肘が痛い肘が痛い!? 皮膚の薄い所をゴリゴリしないで、てか貴女痛くないの? どういうフィジカルなのこの子。
「屑か……」
「え?」
「は?」
ん? 今なにか言ったような、てかもしかして女性ですか? こんなきれいな声の男なんて、そうはいないだろうし、また女が増えるのかぁ……肩身が狭いよ。
てか、不機嫌度増してませんかお二人さん、そんな睨んでどうしたのさ。
「……」
新しい入居者を見上げる……すっごく睨まれた。
「…………」
無言の圧を感じる。
フードを被っているので眼元はよく見えない。そもそもそこまで明るい部屋ではないので、フードなんて被ってたら顔なんて見えない。でも、すごく睨まれてると言うのは分かる。
「……」
「……」
そしてこっちも睨んでいる。部屋が狭くなったからと俺の両サイドに陣取るメテシュとムアガさん。その二人が目つき鋭く睨んでいる。素行の悪い昔の同僚もびっくりなガン飛ばしである。
決して女の子がして良い顔ではない。
「……」
気のせいか、目の前で睨んでいたフードの人物もたじろいだように感じる。
いや? 全然たじろいでない、なぜなら俺をきつく睨み直したからだ。
「……(どういうことぉ?)」
えー、もしかして男性嫌いな人? それならまぁ仕方ない、仕方ないか? いやまぁ世の中には男と同じ空気を吸うだけで吐き気を訴える人も居るけど、だからっていきなり睨んで圧を掛けられても、こちらにはどうしようもない。
「感じわる」
「……」
ええ……なんで二人もそこまで殺気洩らしますかね? わからない、おじさんには若い子の考えわからない。その不機嫌オーラに巻き込まないでほしいのですが……だめだ、腕は微動だにしない。おのれフィジカル。
「空気悪すぎだろぉ……もう少し仲良くしよう? な?」
「えー?」
何がそんなにご不満ですかメテシュお嬢様、お顔が怖いのでもう少し表情筋から力を抜こうか……うん、力を抜いたら漏らしそうだ。少し前からトイレに行きたかったんだよね? 別に三つの圧が怖くて漏らしそうなわけじゃない。
「あ、俺トイレ」
「……」
「ついてくるなって!?」
なんで貴女腰にしがみついてるんですかね!? 変なとこ圧迫しないで! 漏れちゃでしょうが。
「いや」
「嫌じゃないわ! そこはちと慎みもてや!」
嫌じゃないんだわ! 俺は生まれてこのかた連れションなんてしたことないんだよ! おトイレと言うのはね? 誰にも邪魔されず自由で何というか、静寂の中で心を静めなくちゃ駄目なんだ。独りで静かに、てか緊張したら出る物も出ないでしょ! 放しなさいレディ。
「ヤー!」
「しゃっ」
「ほら頭の二匹も呆れてるで!」
そうだぞ、頭の中から大きく顔を出した二匹の蛇君もあきれ顔だよ。声にもいつものような張りがないじゃないか、君たちはまったく悪くないのでそんなに申し訳なさそうな顔をしなくていい。問題なのはこの自称レディのメテシュお嬢様なんだから。
「え? ……わかった」
右肩の蛇君が何ごとか耳打ちすると急におとなしく……だからズボンから手を放しなさい。
「……?」
「はぁ……」
なんか新入居者からの圧も少なくなって、代わりに困惑した様な気配も感じられる。良かったのか悪かったのか、疲れはしたが少しは空気もマシになってくれたようだ。あとはトイレから出たどさくさに二人から離れられれば完璧だ。
「むー……」
おかしい。
檻からコンテナに移された先で妙なことになってしまった。
視界の端に見える白と褐色の女性が不機嫌そうに唸っている。先ほどまで男がはべらしていた女性だが、何故離れた場所に移動したのだ? 見られながらは趣味では無かった? いや、それならあんな年端も行かない少女を一緒に侍らすわけがない。
「しゃー」
蛇の少女がこちらに目を向ける。睨まれる。
思わず視線を切ってしまったが、あれはどういう感情なのか、いったいこの三人の関係性は、いやどう考えても下賤な男に弄ばれているとしか思えない。でなければ、こんな美少女が草臥れた気配しか感じない男に侍るわけがない。何か弱みか……いや、魔術で縛られている? 蛇が魔術の本体だろうか、情報が足りない。
「はぁ……」
目の前からため息が聞こえる。男の溜息だ。
気が付くと警戒心から睨んでいたようで、男は怯えたように私から視線を外す。
怪しい。とてもまだ若いであろう女性と幼い少女を両手に侍らしていた男には見えず、自然とまた睨んでしまう。なぜ彼女達と離れて部屋の隅に移動したのか、怪しいと思えば思うほどわからなくなる。何か魔法の気配もするが、知らぬうちに洗脳系の魔法を使われても困るので警戒が解けない。
「……(どいう事だ?)」
よく見れば女性二人は頻繁に男に目を向けている。それなのに男は離れた。何か近くにいないと異常をきたす様な魔術を掛けられたのか、不安な気持ちが余計に不安を呼び込む。しかしこれは生存本能でもある。
海賊から海賊に売り飛ばされてこんな場所まで来てしまったが、私はまだ死ぬ気などない。せめて、せめて死に場所は選びたい。こんな訳の分からない場所で最期を迎えるなど、死んでも死にきれない。
今まで独房にしか入れられたことが無いのに、コンテナのしかも複数の人間と一緒に入れられた。状況が変わったのだ。幼い少女と蛇のような美女、それと草臥れた様子の中に妙な気配を感じる男。この者達が私の今後にどうかかわるか分からないが、今は警戒を続けよう。
特に男、女を侍らす男に碌な者はいない。それはこの海賊の船で学んだ事実だ。ファカーロナ、気を抜くな、何をされても動けるように、魔素を貯めておけ……ここは魔素の気配が濃い。
いかがでしたでしょうか?
新しい奴隷仲間だよ!やったねヨーマ!かぞ――。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




