第25話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「ヨーマ……」
遠くで声がする。体の奥がじわじわと温かく、体のあちこちに熱いほどの熱を感じた。
自動治癒の刻印魔法の感触である。そして先ほどからおでこを摩る冷たいなにか、手の感触、心配しているのだろうが痛いのでこねくり回さないでほしい。
「こんなに打たれ弱いなんて……」
「ヨーマ、スキル無しだって言ってた」
ええ、スキルはありません。発現しないまま30歳を越えました。笑ってくれていいですよ? 泣くので、気にせず笑ってやってください。スキルが発現しない人間なんて、真面に宇宙に出れないですから、それは家族も心配して当然なんでしょうね。
だからと言って、僕が馬鹿にされたからと私設軍の兵器を持ち出すのは頭おかしいと思うんだ。軍人連れてこなかっただけまだ理性が働いたと言えるのだろうか? 言えないか。
「まじかいな! そら打たれ弱いのも納得や……そか、スキル無いんか」
撫でる手が増えた。片方は冷たく、片方は少ししっとりしている気がする。いやな感じでは無いけど、たんこぶを撫でるのは痛いのでやめてほしい。
「それじゃ、いっぱい守ってやらんと……」
「……」
静かになったけど、撫でる手はそのまま……気のせいか幾分手付きが優しくなったような、湿度が増したような? あと冷気も感じる。治癒の刻印術で火照った体にはありがたい。
「な、なに?」
「視線が怪しい」
声が不機嫌そうだ。今の会話になにか意味がるのだろうか、少しずつ意識がはっきりとしてくる。
「そ、そないことないよぉ?」
「あやしい、気持ち悪い目をしていた」
「き、気持ち悪いって……」
いたいいたい!? 気持ち悪いというか痛い、さっきまでの優しい手付きはどこに行ったのか!? いや撫でるというより爪が突き刺さってませんか!? あとほっぺた抓ってる指もそんなの頬は伸びませんが!? いかん早く目覚めるのだヨーマ。
「うぅ……いたい」
「ヨーマ! 私の顔見える? 声聞こえる?」
「お、おう? どうした?」
何かひどい夢を見たような、あと目覚めのぼやけた視界でもメテシュの顔はよく見える。というか近い、真っ白な髪の毛と褐色の肌のコントラスに真っ赤な瞳、白みの強い青色の照明の影になっていても赤い瞳は輝いている。
これは魔力の光だな、強い魔力持ちは目とか体の一部が魔力で光る事があるそうだ。
「ヨーマはん、あんた息しとらんかったんよ」
「え? ……あぁ、重力が無くなってすぐに重力方向が変わって、二人を受け止めた先の記憶が痛いしかないな」
目覚めてもあちこち痛い、特におでこと頬が痛いから相当強く打ったのだろう。重力制御装置が狂ったとは言え、この程度で済んでよかった。制御が狂ったまま動き続ければ、最悪ミンチになっていてもおかしくない。
でも、故障して制御がおしかしくなった瞬間サブに切り替えたのなら、この船の制御系は優秀なようだ。
「ごめんね、でもヨーマ弱いから無理しちゃだめ」
「よわ!?」
泣くぞ!? そんなドストレートに言われたら泣くが? 泣かないけど、心で泣くが? 事実だけど、事実だからと陳列していいものでは無いんだよ。なにがしかの罪に問えそうだよ、暴行罪かな? まぁ慣れっこではあるんだけど……。それにしてもストレートすぎる。無邪気な子供のような一撃だ。
「ちょいちょい! メシュあかんて、そんな本当のことでも弱いとか言っちゃ」
「ほん!?」
追撃だと!? こいつら手心と言うものがない……精神的に追い詰めている? なにか俺が悪いことしたかな、悪いこと……家出? でも流石におじさんが家出して何が悪いと、寧ろ普通の家なら早く出て行けと言われているところだ。
「でも事実、無理して怪我する方が悲しい」
「…………」
それは、まぁ……言わんとすることは、わからんでもない。俺だって、知り合って間もない二人が怪我するところを見たくないのもあって、あの時は咄嗟に体が動いて二人を受け止めたわけだし、その結果が意識不明だったのでかっこも付かないけど。
「今度からうちが守ってあげますからね」
「私も守る」
実にかっこの付かないことだが、これが世間一般の認識だろう。スキルが無いと言うのはこう言う事だ。わかってはいるのだが、女の子二人に面と向かって言われると心に深刻なダメージが、猫族少女達もこういう気持ちだったのだろうか? おじさんは、なんか色々違う感じだったけど、こういうのを何とかしたいから頑張ってるんだけどなぁ。
「守るなら年上のうちが適任ですぅ」
「ふん、ちんちくりんじゃヨーマを受け止められない」
「なっ!? ガリガリヒョロヒョロがなにをいってるんよ!」
ガリヒョロ……確かにメテシュはもう少し食べた方が良いと思う。診察した感じも随分軽かったし、元から食が細いのだろうか? 次の食事から俺のぶんも分けた方が良いだろう。
それにしても、ちんちくりんか……何とも古風な言い方をする子である。でも確かにメテシュから見ればそうも見えるのだろう。なにせまだ彼女は成長期だろうから、両親はずいぶん背が高いのではないだろうか? 種族の差と言うのは中々越えられないものだ。
実際、カエル系の種族は低身長が多い。がんばれ、20代でも身長伸びる人は伸びるはずだから。
「しゃー……」
「しゃっ」
言い合い睨み合う二人の姿を何とも言えない表情で見ていたら、メテシュの両肩からも視線を感じる。そちらを見れば蛇君が「お前こんなに弱かったのか……」そんな言葉が聞こえてきそうな目で俺を見ていた。
「心配されてるんだろうけど……」
なんだかいつも以上に悲しくなってきた。蛇に心配されたから悲しいんじゃないんだ。あんなに俺のことを毛嫌いしていた左肩の蛇君にまで心底心配されている事に、複雑な気持ちが湧き出る。
でも、少しは仲良くなれそうだと、前向きに考えておこうと思う。後ろ向きな考えを持つと、良く無い事ばかり起きるからな。前向きでいれば少しは人生が好転する……かもしれない。
「こりゃ駄目だな、修理するより買ったがコスパ良いぞ」
エクスマギレアのしがない転売屋の前で、メカニックの男が肩を竦めて見せる。彼らの目の前に置かれているのは外装が裂けて液漏れを起こした多目的コンテナ。奴隷であれば十人ほどの収容が可能な規模のコンテナは、つい最近起きた重力異常によって致命的な損傷を受けたようだが、制御パネルの上には使用中の緑ランプが点灯している。
「何とか誤魔化せねぇか?」
「見た目はどうかできてもお前、内部はどうにもならんぞ」
「はぁ、安物買いだったか……」
どうやら転売屋の男は、修理したらまだ使えると見込んで買い取ったようだが、想定より故障が酷かったようだ。それでも溜息一つで済んでいるのは、そのコンテナが安かったからだろう。
安物買いの銭失いという言葉はこの世界にもあるのだが、それでも高い買い物をして損するよりはマシである。
「どうするよ? 廃棄か?」
「まぁいいや、外面だけよくしてくれ」
義足のメカニックが関節を軋ませ振り返り問いかけるも、転売屋は妙なことを言い始めた。完全に壊れるのが目に見えているなら、使える収容物は回収して、コンテナは廃棄と言うのが普通の選択であるが、要求は見た目をよくすると言うもの。
「……騙し売りか?」
その要望から考えられるのは騙し売り。見た目だけ良くして不良在庫を売りつける手法の事だが、海賊であっても褒められたものでは無い。
「……騙し売りされたんだ。別に良いだろ」
「はぁ……」
褒められたものでは無いのだが、すでに彼自身騙された側である。一度はじまった騙し売りに対する対処法は、捨てる以外には騙し売りで他人に不良品を押し付ける事だ。
彼も、単に修理不能なコンテナを、修理できる範囲だとして売られたのなら、廃棄という手段もとれていたが、想定外の収容物にその方法もとれなくなっていた。
そんな、中身が何か知らないメカニックによって、最低限の補修とパッケージだけは新品のように綺麗に修理されたコンテナは、転売屋によって市場へと流れていく。
「糞! 騙し売りだ!!」
そしてまた一人騙されて買い取ってしまう。
当然買い取った人間は中身を確認、そのあまりに酷い内容物に顔面を引きつらせた商人は、さらに見栄え良くコンテナをラッピングして市場に流す。
そしてやはり人は騙される。俺は騙されないと言っている人間から騙されるように、自信を持って買い取った人間は、皆一様にその中身を見て顔を顰めた。
「なんだこれ!? 騙しか!」
何せ中に入っているのは、最近有名な呪われ男に、海賊も奴隷も関係なく狂わせた呪われ蛇女、さらにこれまでに何人もの人間を再起不能にしてきた毒殺蛙女。
「おいおい、呪い付きじゃねぇか」
ドロリ濃厚特級呪物入れとなった壊れかけのコンテナは、さらにデコレーションを加えられ、まったく関係ない謳い文句を商品資料に添付されて搬出される。当然中に何が入ってるかなんて本当の事は一切記入されることはないし、ブロックチェーンの認証は偽装され、迂回され、真正性は遮断されてしまう。
そんな特級呪物という言葉が生易しいコンテナは、そのコンテナが生まれる原因の一つと言ってもいい男の下に流れ着く。
「何がダイナマイト牛乳奴隷だ! ガキとガリとオスじゃねぇか!! 悪質すぎるだろ」
牛顔に、少し弛んだ黒毛のムチムチボディ、作業服を窮屈そうに着こなし地団太を踏む男は、重力制御装置機関の設備工である。
ストレスか疲れか発情期か、性欲を持て余したことで魔がさし、重力制御装置の制御盤に自らのデバイスを手持ちのケーブルで直差し、好みの奴隷を求めて情報の海であるティアマトウブに接続した。
結果、不正接続防止のソフトもハードも無いケーブルで、エクスマギレアへと謎のウィルスを引き込んだのだ。
そんな彼は、宣伝文句に騙され安い奴隷を購入。
重力異常で破損し、外装だけ取り繕われた特級呪物を手に入れた牛男であるが、彼はただの設備工。海賊船に所属しているので海賊ではあるのだが、奴隷を商品として扱う人間では無く、消耗品として扱う消費者である。当然購入した奴隷が何なのかなどわかるわけもなく、それまでの商人が利用する販売ルートとは違う、一般ルートでコンテナは捨て値で流された。
流れ流れてたどり着いたのは、
「馬鹿野郎!! 差し押さえだからって何でも持ってくれば良いわけじゃねぇんだよ!!」
悪徳高利貸しの差し押さえ物品倉庫。
「で、でぼ……一番おおきがっだがらぁ」
頭の禿げた小柄な鼠族の男に怒鳴られるのは、彼の何倍もありそうな大男。ピンク色の肌に白いソフトモヒカンの大男は、小さく体を縮めてネズミの男に目線を合わせている。
種族の系統が似ているネズミおじさんよりも小柄な男は、短い尻尾と細い腕に力を籠めて震わせ、ゆっくり持ち上げると、
「毎回毎回! 大きければ価値があるわけじゃねぇんだよ! 厄介箱ばかり持ってきやがって!」
勢いよく振り下ろして体全体で怒鳴った。
「ご、ごめんよ!?」
「傷もの呪い持ちの男食いに猛毒女だぞ!!? ……おいおいおい! こいつは最近有名な呪われ男じゃねぇか……どうする……いや? ……そぉうだぁぁ」
「ん? んん?」
怒られ震え、床の上で頭を抱える大男の前で、ネズミの男は嫌らしい笑みを浮かべる。
「この中に、いや密閉箱にこいつらと特級呪物を入れて、厳重に仕舞っとけ、そのあと密閉箱は偽装しろ」
密閉箱と言うのは、対魔法仕様の特殊なコンテナの俗称である。一般的なコンテナと同じようなサイズ感ではあるが、探知魔法などを通さない分厚い装甲により積載量は少ない。その代わり軍の臨検による広域探知魔法なども完全に誤魔化せるため、禁制品を安全に運搬するのには、必ず必要と言っても良い高価なコンテナ。
「わわ、わがった!」
「……リボンでもつけて下層送りにしとけばそのうち買い手も付くだろ」
そんな高価なコンテナまで使って何をしようというのか、大男が立ち上がった瞬間巻き起こる風に押され、椅子の上にしりもち突くように倒れ込む男は、長い髭を指先で引っ張るように撫でながら変わらず嫌らしい笑みを浮かべ続けるのであった。
いかがでしたでしょうか?
弱い弱いと精神攻撃をヨーマが受ける中、転売される彼らにネズミの悪意が襲い掛かる。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




