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旧式艦長ヨーマ ~その軌跡の始まり~  作者: Hekuto


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第24話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



 仲良くなるのに、それほど時間は必要なかったみたいです。


「お役御免か……ふむ?」


 仲良くなれば壁は必要なく、俺はクールに去ろう……としたんだけど、若干ごねられた。それでも、楽しく話す女の子二人の間に挟まり続けるのは俺の心に良くないので、シールドスーツを摘まむ指を全力で外して壁になっている。


 なんだろう、少し寒くなった気がするから不思議だ。ベッドマットを曲げて背凭れにしているから、壁の冷たさは感じない筈なのに、不思議だ。


「魔法魔術に呪いと来てツールに手を出し始めたか、たまに知らない人の日記が入ってるのは何なんだろう?」


 変な気分を忘れるように目の前の画面に集中するも、そこは混迷を深めたナンシュフォルダ、あまり集中してみたいものでは無い。最優先で呪い物を解除して回っているうちにまた増えたのはツール系、自動化物が多いなと見ていると、たまに日記が紛れ込む。


 少し中を見てみたけど、なんだろうかものすごく申し訳ない気持ちになった。わかった事は、意外と海賊はポエムが好きという事だろう。あまり知りたいとは思わなかったので、仕分けだけして中は見ないようにする。


「げっ……ハッキングツールとかやめてくれ、持ってたら犯罪者と間違われる。でも意外と親切設計なハッキングツールだな」


 親切設計なハッキングツールってなんだ。UIがとても見やすく最低限の機能を纏められ、面倒な作業は自動化されている。専門じゃないから詳しくは分からないけど、プライベートなパソコンや無改造のデバイス相手になら使えそうな気がする。


 これも特に危険じゃなさそうだし、ウィルスチェックだけして仕舞っておこう。そう思ってツール用の新しいフォルダを作ると大きな音がする。


「……食事の時間か」


 昼食が放り込まれた様だ。取り出し口のランプが切り替わり、さてどうしようかと二人に目を向ける。


「気が付いてないな」


 気が付いているのは左肩の蛇だけで、必死に釜首をもたげてきょろきょろしているが気が付いてもらえない様だ。何を話しているのか、あれほどビクビクしていたムアガさんは、メテシュと膝が付き合うぐらい近くで笑い顔を浮かべている。


 左肩の蛇が救難信号を出し始めた。仕方がない。


 立ち上がり女の子達を横目に放り込まれた食事を回収するために歩く。ずっと同じ姿勢で居たので、関節が固まって歩きづらい。


「年も近いのかな? いや、うーん、姉と妹と言った感じだろうか? 見た目と性格が逆だから違和感がすごい」


 視界の端で笑い合う女の子二人、正確には14歳と21歳と少し歳の差がある。メテシュの年齢が21歳と言われたなら納得できるが、ムアガさんはとても21には見えない。なんだったら一部に目をつぶれば、12歳と言われても全然納得できる見た目をしている。


 彼女と視線が合った。何故か不機嫌そうだ……お腹でも減ってるのかな? 早く食事を持って行ってあげよう。三つに増えたから、取り出し口の中がこんがらがって取り出しづらい。


「今日も変わらず効率食か、でも気のせいかな品質が悪くなって来たような」


 三枚のそれなりの厚みがあるプレートを取り出せば、透明なフィルムで密閉された食事。ペースト三つに錠剤が数種類、それに四角いガム。フィルターを剥がして食べるのだが、あまり食欲が湧く見た目をしていない。


 背中のベルトが引っ張られる。


「ヨーマ、手伝う」


 メテシュがベルトと体の隙間に指を差し込んで引っ張っていた。女の子が変なところに指を突っ込む物じゃありません。と、注意したところで理解してくれそうな顔をしていない。


「いや持って行くだ……お?」


 体の表面がざわつき自然と背筋が伸びる。


「なんや? 体が軽く」


 重力が軽くなり始めて止まらない。ムアガさんも手伝いのためか立ち上がった拍子に軽くなったからか飛ぶようにこちらに向かってきている。これは明らかにおかしい。


「重力制御装置にいじょ!?」


「きゃあああ!?」


「へあ?」


 体が壁に吸い寄せられる!? ちがう、重力の方向が変わったんだ。これはまずい! 何がまずいかって壁から近い俺は何ともないけど、壁から遠く、特に悲鳴を上げたムアガさんが壁に叩きつけられる。


 体を広げる。浮き上がったメテシュのお尻が目の前に!? よけろ、いや無理だ。


「ぬおおおお!? そっげぶふっ!!!」


「いたた……わわわ!? ヨーマはん!」


 顔に弾力があるも少し骨ばった感触と暗闇が広がる。広げた手を壁に固定するように誰かの手が、足も柔らかいナニカで動かせない「今どくひゃん!」やめて!? 息子を掴まないで、そして汚いものを触ったかのような悲鳴……すごく悲しい気持ちになった。


 いやそんなことはいい早く動かないと、また重力の変化が起きたらまずい。


「いたい……ヨーマっ!? ひぎゃ!」


「こふぅぅ……」


 いたい!? 空気が抜ける!! 鳩尾に何か硬いものがめり込んで……空気が吸えない。口を動かしても、柔らかいナニカに遮られて空気が……。


「変なとこに手をんぐ!?」


「…………」


「ヨーマ? ヨーマ、ヨーマ!! ネフヨーマが!」


 何が起きているんだ。なんだか世界が真っ白に……だれだ? 誰か豪華な服を着た人たちがこっちに向かって手を振っている。川の向こう、色とりどりの花々、青い空、二つの月、明るい太陽、そうかここが……。


「いたた、どうしたん?」


「……息、してない」


「……よよよ、ヨーマ!!?」


 遠くで誰かが呼んでいる気がするけど、なんだか気持ちいいんだ。ねむらせて……。





「勘弁してくれよ」


 ヨーマがコンテナの中でその人生を終えようとしている頃、その原因となった重力異常は、ガーデンシップ全体でも被害を発生させていた。


「何が起きた」


「わからん、急にメイン制御が狂ったかと思ったらすぐ落ちた」


 それでも、そもそも無重力の宇宙を航行する宇宙船であるため、その基礎的な機能に致命的な被害を及ぼしてはいない。


 大きな被害が出ているのは、どこも無秩序な増築がされた場所ばかり、ヨーマのコンテナも貨物の宇宙基準は守られており、緊急時に対応出来るよう固定されていたので壊れることも無かったが、その中身については別の話という事だ。


「サブは生きてるな」


「糞みたいな制御しやがって、これだから更新終了品なんて使いたかねぇんだ」


 そんな突然の故障を起こした重力を制御する装置は、何か問題が起きてもすぐ対応できるように複数存在する。今もメインの重力制御装置は壊れたままだが、サブの制御装置だけで艦内の重力は問題なく維持されている。


 原因は不明だと話す海賊であるが、普通ならメンテナンスやソフトの更新が終了した様な重力制御装置を使う人間なんていない。いくら貧乏でも宇宙で生活する上での生命維持装置の一つである、重力制御装置に金を惜しむ者はいない。


「愚痴言ってねーでさっさと復旧させろ」


「この間の落とし物の所為じゃねぇだろうな」


「制御区画からずいぶん離れてたはずだぞ? 流石に影響はないだろ」


 それを惜しむのが海賊、というよりも彼らには正規品を購入するという考えがない。購入すればそこから足が付く。エーデンシップの重力制御装置なんてどんなに頑張っても足が付くのだから、交換したくてもできないのだ。


「変なウィルスでも入ってたんじゃねぇか? ……あ?」


「どうした。サブは問題ないぞ」


 そうなってくると取れる手段は一つだけ、盗品である。貴族からの横流しという方法も無くは無いものの、エーデンシップ級のパーツなど早々手に入るわけがない。現在稼働しているサブの重力制御装置は、そんな状況で何とか仕立て上げた継ぎ接ぎ品であった。


 性能は当然だが正規品に劣るので、一刻も早く故障で停止したメインの重力制御装置を復旧させなければならない。ならないのだが、そうはいかない不具合が見つかったようだ。


「糞っ!! どこの馬鹿だ。こっからトウブにアクセスしたやつ!」


「あ? 何に繋いだんだ?」


「ちょっとまて……この辺りだな」


 それは危惧していたウィルス、しかしその経路は彼らが思っていた様なものでは無かったようだ。


 ティアマトウブ、銀河のどこに居てもタイムラグの無い通信を可能とする技術、その根幹にある次元の名前であるそれは、近代的な生活をする者なら誰もが知る名である。今時の電子機器であれば大抵接続されているもので、本来はメンテナンスやシステム更新を迅速に行うための接続であるが、個人のデバイスを介することで目的外利用も可能だ。


「あぁ? ……カウガール品評会? なんだこりゃ」


「牛系獣人専門の人身売買ショップだな」


 今回は何者かが、不正にデバイスを介して重力制御装置の通信回線を利用したことで、何らかのウィルスが侵入、その事が故障に繋がった様で、その履歴を見た二人の男は呆れた表情を浮かべた。


 しかし、その鼻の下は伸びている。


「ウシか」


「牛だ」


「ウシ系は、乳でけぇよなぁ」


「複乳だしな」


 銀河に広がり多種多様な人種が生まれた現代、その性癖も実に多様であり、自身と大きく身体的特徴の違う相手であっても、性的興奮を覚えるのは普通である。むしろ、違うというところに魅力を感じる者は多く、その事が多くの人種が生まれる要因でもあった。


 遺伝子技術が発展した宇宙文明において、難易度に問題はあれど、交配不可能な種は存在しない。


「あれで抱きしめられるのは良いものだ」


「否定はせん」


 牛系獣人種は平均種よりも大柄で、複数の乳房を持つ種の中でも特に包容力に優れた種族である。男達が夢中になってもしかるべきと言えた。いや、男女関係なくその包容力は乾いた心を満たしてくれる。


「ちょっと開いてみるか」


「こっから開くな、たぶんここから何か入ったんだ」


 だからと言って、重力制御装置の通信回線で見て良いサイトではない。実際問題、正体不明のウィルスの侵入経路となっているのだから当然だ。どんなに無法者とは言え、最低限守らないといけない決まりはある。それはひとえに安全のためなのだが、世の中には自らの欲望に忠実であるがあまり、ルールを守れない者と言うのは、意外に多い。


「なるほどな、ウィルスチェックには反応ないな」


「ゴーストか?」


 そんなルールを守れない人間によって混入したウィルスの姿はすでにない。電子系ウィルスであれば、自壊システムを組んでいても痕跡は残るがその痕跡も無い。そうなるともっと厄介な魔法系統や呪い系統のウィルスである可能性が高い。


「厄介だな、しかしここに居ないならすぐに復旧できるだろ」


「ああ、破損データが見つかったから修復中だ」


「なら時間内って、もう残業だぜ……終わったら行くか?」


 厄介は厄介であるが、その厄介事の担当は彼らではない。そのため、重力制御装置の復旧と言う残業が終われば自由の身となる二人は、仕事終わりのプライベートを共にするくらいには仲がいいようだ。


「ウシ系の店か?」


「おうよ」


 行き先はウシ系、ようは風俗店である。海賊が根城にする船など娯楽は限られてくるのだから、彼らが風俗店を利用するのはいたって普通。むしろ、危険な薬物に手を出してないのだから健全とも言える。


「乳パラか、バター塗り放題か?」


「乳パラ一択だ。バタ塗りはくせぇ犬が多いからな」


 男達の話を聞くに、エクスマギレアには牛と言うだけでも複数の風俗店があるらしい。


 早々に予定が決まった二人の大男は、それまでの草臥れた顔に生気を宿し、猫背になりながらモニターに映し出されたプログラムのバグを修復していく。彼らのサイズは一般的な人間種より大きく、それ故に操作パネルが小さいようだ。


「…………」


 彼らは気が付かない。


 欲望でブーストをかけた作業を見守る白い影が、背後の天井に立っている事を……。そしてその白い影が、手に禍々しい黒い影を握り締めている事を、なぜウィルスがどこにも見当たらなかったのか、それがすでに排除されていたからであるという事実を、彼らは知る由もない。



 いかがでしたでしょうか?


 エクスマギレア内で暗躍するナンシュは、彼等にとって救世主か、それとも災厄の神か……。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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