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第17話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



「弱き人、まだ開花せぬ者、愛しきマスター」


 どこからともなく聞こえてくる声に、暗い通路を歩く男は肩を震わせる。


 エクスマギレアは古く、何度も改築を繰り返したことで狭く入り組んだ道がいくつもあり、そうした道は正規の基準と異なるため、通路を照らす灯りもコストカットの為に暗い。そんな場所で突然聞こえてくる場違いな艶のある声、どんなに屈強な海賊であっても背筋が震え、周囲を見回すと足早にその場を後にする。


「守らねば、ベラタスの血はここに生き延びた」


 入り組んだ道の奥にあるのは倉庫スペース、大きく開けた一画には最近搬入されたばかりの密閉型コンテナが置かれている。


 そのコンテナの上には白くぼやけた人影が座っていた。「守る」と口にするその人影は、コンテナを愛おしそうに見詰め、指先でそっと撫でると姿を消す。


 まるでお化けの様で、その光景を目にした者も白い人影をアンデットだと認識、悲鳴を上げたくて開いた口、しかし緊張のあまり引き攣って声の出ない喉を抑え、恐怖に顔を歪めて走り出してしまう。


「守ります。マスターヨーマ」


 白い人影は、いつの間にか倉庫スペースの外、ガーデンシップの中に立ち並ぶビルの屋上に立ち、ネオンの光と蒸気で霞んだ街並みを見下ろしている。長い髪を手で掻き上げる様に梳いて風に流す彼女は、ヨーマの名前を口にすると、嬉しそうに微笑む。


「先ずは情報収集ですね。さてさて、千年以上先のティアマトウブにはどんな世界が広がっているのか、楽しみです」


 彼女の名前はナンシュ、千年の眠りから目を覚ましたインテリジェンススピリット。ヨーマをマスターと慕う彼女は、彼の為に何をするつもりなのか。ティアマトウブと言う、銀河に広がった人類の情報が集まる海で、彼女は何を見て何を学び何を成すつもりなのか、止める者のいない彼女は動きだす。





「……ん? メール?」


 メール機能なんてあったんだ。


 まだ調べることが多すぎて手が回らないというのに、というか誰からメールなんて来るんだ? 起動したばかりで誰とも連絡手段を確立していない――ナンシュからのようだ。そこは普通に話してくれればいいのではないだろうか、IS搭載のデバイスなんて初めて見たし、そもそもISと話したことなんてそれほど多いわけじゃないから、彼女達が何を考えている全く分からない。


 俺の知ってるISはみんな無口だったからな。やはりナンシュは他とは違うのだろう。わくわくする気持ちもあるけど、圧倒的に失敗が勝つので胃が痛い。


「散歩って、ISって散歩できるのか?」


 メールには、「散歩に行ってきます」と簡潔に、そのくせ絵文字のハートがあちこちに散りばめられていて画面がうるさい。


 まぁ、密閉型の生物搬送コンテナ移されて鬱々としていたので、少し気分がまぎれる気はした。それにしても良くわからない。


「ISなんてどんなものなのか分からないブラックボックスだけど、散歩かぁ」


 ISはブラックボックス、それ故にどこでも彼女達は丁重に扱われるし、市民権も得ている。なんだったら、俺みたいなスキル無しの古い遺伝子しか持ってない人間なんかよりずっと地位は高い。なので俺をマスターと慕う彼女は余計に異質で、今後どうなるか全くわからない。


 また鬱々してきた。


「俺も散歩くらいしてぇなぁ……」


 自由な彼女が羨ましい。自分で自分の人生を歩けるようにと、自由を求めて一歩踏み出した途端、人としての最下層を突き破って堕ちた俺とは違う。とても自由に見える。でも、千年間眠り続けていたと考えると、そのくらい自由でも良いのかもしれない。


 彼女の散歩が終わるまでには、もう少しデバイスのシステムを片付けておこう。とてつもなくでかい箱に何でもかんでも詰め込んだような状態だ、整理整頓しないと気持ち悪いとか以前に、何が入っているのか分からないのだ。





 エクスマギレアは、本来なら銀河を旅する超長距離航行居住艦である。現在は奴隷市場の為に改造に改造が繰り返され、真面な航行が出来ない程度に肥大化している。


「おい、面白い話を仕入れて来たぜ」


 そうなるとそこに住み着く人間の数も多く、常に彼らは娯楽の少ない艦内で娯楽を求めている。


 二人の男が箱で購入してきたアルコールもその一つであり、彼等が見上げる先で明るく光る巨大なモニター、その中で踊る露出の多い女性たちの姿も娯楽である。それでも足りない彼ら噂話が大好きである。


「面白い? ハードル上げて大丈夫なのかよ」


 ゴシップは基本として金儲けの話、新しい娯楽用品や新酒の話、他人の不幸話、そんな中で面白い話だなんてハードルを上げて話すのは何の話なのか、猿顔を歪めキナ臭そうな顔をしながらも身を少しのりだす男に、噂話を持ってきた鳥顔の男がくちばしを鳴らし楽しそうな笑みを浮かべる。


「なんとお化けが出たんだ」


「……やめろよ、マジでやめろ。お化けとか洒落にならねぇ」


 内容はホラーの様で、猿顔の男は露骨に顔を歪めて身構えた。周囲を見れば耳を澄まして盗み聞きしていたのであろう人間達が一斉に二人の席から距離を取っている。海賊なんてやってる大の大人が何をとも思うかもしれないが、宇宙では割と普通の感性で、寧ろホラーを嬉々として話す鳥頭の方が珍しい。


「何でも曰く付きのコンテナがあるらしくてな、そのコンテナを蹴ると呪われて悪夢を見るし、部屋に白い女のお化けが出るらしい」


 しかし、逃げ出すほどでも無ければ、耳をふさぐほどでもないのか、顔を蒼くしながらも酒を呷りだす周囲を横目に鳥頭の男は語る。


 どうやらそのお化けは特定のコンテナを中心にした怪談のようで、呪いの類と聞いて周囲は鳥頭の男を凝視し始めた。怖いが、知っておかないといけない種類の話だと理解したようだ。なにせ彼らは様々な盗品を扱うため、商品に関する話題は耳に入れておかないといけない、たとえそれが苦手なお化けの話だとしても。


「おいやめろよ、ここの宙域はお化け出ない筈だろ」


 しかしなぜそれほどまでにお化けが怖がられるのか、それは宇宙に進出した人類にとっての三大脅威だからである。一つは宇宙と言う極限の環境、一つは滅多に遭遇することはないが未知の宇宙生物、そしてお化け。より詳しく言うならばアンデットと呼ばれる魔物である。


「コンテナが呪われてたら関係ないだろ」


「そんなコンテナ入れるなよ」


 呪いというものも、その大半がアンデットと言う魔物を由来とした現象であることは、魔法科学的に立証され、対処可能になった現代であっても、アンデットと呼ばれる魔物は存在し、宇宙環境における脅威として君臨し続けている。


 故に、宇宙を住みかとする人類は基本的にアンデットを毛嫌いしているのだ。





「呪いのコンテナ知ってるか?」


 呪いのコンテナと言うアンデット事案は、エクスマギレア内で急激に拡散されていた。その広まりかたは異常に早く、それだけアンデットと言うものが脅威であることを示しているが、同時に噂は語られるたびに変質していき、何が本当で何が嘘なのかも分からなくなっていく。


「おい! 俺がホラー嫌いなの知ってるだろうが!」


「それがよ、どうやらコンテナが原因じゃないらしい」


「……詳しく」


 もとより正しいかどうかわからない呪いのコンテナは、ここに来てその方向性が変わって来ているようだ。


 ホラーが嫌いだと言いながらも、詳しく話せと促す青肌の男に、話を振った赤肌の男はにやにやとした笑みを浮かべる。


「嫌いだろ?」


「原因が分かってるなら避けられるだろうが!」


 そう、呪いはその原因と対処法が分かっていれば避けられるものなのだ。どうしたらいいのか分からないから怖いのであって、対処可能な物であればそれほど恐れることはない。アンデットそのものであれば話は変わるが、呪いというのは夏によく売れる殺虫剤の様に、対処グッズが普通に販売されている。


「なんでも曰く付きの奴隷が原因みたいなんだ」


「おい、呪い持ちか?」


「らしい」


 ただ、中には非常に特殊な呪いのため、対処に専門家が必要なケースが存在するのだが、その中でも有名なケースが呪い付き。強力なアンデット、または神などと呼ばれる高次存在が人に与えた異常な力、それに類し制御出来ないものもまた呪いと呼ばれる。


 そう言った特殊なケースの場合、呪い払いなどの専門家に頼らなくてはならず、呪い払いなどの組織は表の者達であり、裏家業に身をやつした海賊や奴隷商などが依頼できるわけがなく。中には裏家業として違法に呪い払いを行う者も居るが、大抵が超高額請求が待っている為、誰もそんな選択肢、思い浮かびもしない。


「どんなコンテナだ」


「それがな、曰く付きコンテナだと思ったやつが、中身入れ替えて売っぱらったらしい」


 市販の呪い払いグッズに頼れないものに関しては、極力近付かないと言う選択肢しかない。


 そんな呪われたものはさっさと捨てればいいと思う者も居るかもしれないが、ぞんざいに扱えば扱うほどより強力になるのが呪い。そんな事は小さな子供でも知っている常識であり、いくら犯罪者であってもその危険性は知っている。故に最低限真面に取り扱うしかない。


「……嘘だろ、それじゃ呪われは?」


「入れ替えた時点で情報抹消してるって噂だ」


 そんな呪われた人間、知らなければコンテナが呪われていると思っても仕方なく。呪われたコンテナはそう言ったものが好きな人間に売りつけ、中身は情報抹消することで綺麗にして売りに出す。商人なら割と一般的な対応であるが、残念なことに呪われていたのは中身の人間と言うのが、今回の噂話の肝である。


「最悪だ……」


 知ればあまりに怖すぎる。赤肌の男をよく見ると血の気が引いてるのか薄っすら桃色の肌になっており、どうやら噂話を持ち掛けた理由は、誰かに聞かせることでその恐怖を共有したかったからのようだ。


 過去には、呪われた壺をぞんざいに扱ったことで、知らぬうちに呪いが強まり、一隻の大型輸送船をゴーストシップに変貌させ、寄港したコロニーを一つアンデットによて占領されたこともある。それが呪われた人ともなれば、その扱い方を考えただけで肝が冷え、万が一そんな奴隷を仕入れてしまおうものなら、青肌の男は考え込む様に唸るのであった。





「ハァハァ!? ……呪われだ。呪われ野郎だこいつ」


「……どうする?」


 そんな貧乏くじを引いてしまった奴隷商がここに一人、とある男性奴隷を格安で買い取って数日、変な事ばかり起きるので調べてみれば男の履歴に不審な削除履歴。巧妙に偽装されていたが、よく確認すると前後の整合性が取れない記録が見られ、最近の噂話から推論することで真実にたどり着いたのだ。


 ここ数日の異変で精神も摩耗していた男は、同僚に声をかけられると血走った目で振り返り、カエル顔を大きく歪めると頭を抱える。そして閃く。


「俺は呪われたくねぇ!! ……そうだ、厄介者を混ぜちまえ、情報も消すぞ!」


「情報は、もう手が加えられた後だからまぁいいが……あの女とか?」


 実はこの男、厄介な呪われを購入したのはこれが初めてではなく、言ってしまえば過去に呪われを購入しているからこそ、カモられたのだ。そんな厄介な呪われは、この際まとめて捨ててしまおうという考えのようで、本来海賊間でも情報の詐称は褒められたことではないのだが、一度情報詐称が行われた商品なら今更と言う考えのようである。


「男殺しの厄介者が呪われ男を殺せば、呪いは全部あのメスに移る。混ぜって売っちまった先でどうなろうが俺たちゃ関係ねぇ」


「うまく行くか?」


「呪われ男もあのメスも、出回ってる情報は単品売りだ。混ぜちまえばバレねぇよ、しかも蛇女は高額だからな、馬鹿がすぐ食い付く」


 一頻り唾を飛ばし話し終えたカエル顔の男は、すぐに駆け出し売却のための工作を始めた。


 民間療法的な呪い払いの一種に「共食い」と言うものがある。要は呪い同士をぶつけあって共倒れ、または片方に全ての呪いを移して自滅させるという方法だ。この場合、高確率で実行者に呪いは跳ね返らない。跳ね返らない代わりに大抵呪いは強まってしまう。


 その程度の事、知らないわけではないだろうカエル顔の奴隷商。今の彼にそこまで難しい事を考える余裕はなかった。


 そんな呪われ男こと、ヨーマ。


 彼は、カエル顔が手配した口の悪いインテロによって、強制的にコンテナを移動させられる事となり、インテロも呪われを触るのが嫌だったようで、ヨーマは手早く、それでいて綺麗な放物線を描く様にコンテナに放り投げられたのだった。





「最近コンテナ移動が多いな」


 扱いが酷い。あんな腰を掴んで投げられたら受け身とかとれるわけがない。多少重力が緩い場所だからまだよかったけど、これが普通の重力下なら鼻血を出しているところだ。


 ……出てないよね? うん、鼻とあごが少しヒリヒリするくらいだ。これなら刻印術の自然治癒強化ですぐ直るだろう。それにしてもなんでこんなにコンテナを何度も――何かいる。


「……あれ?」


 身構えて前を向けば人影、何か爬虫類的な恐怖を感じて前を向いたけど、ずいぶん綺麗な人影だ。


「っ!?」


「あー、えー、うん。こんにちは」


 睨まれました。目は見えないけど、何となく睨まれたのは分かる。


 まぁ女の子だからね、突然目の前に得体の知れないおっさんが現れたら睨みもするだろう。俺は落とし物を拾って渡しただけで睨まれたことがあるから詳しいんだ。


 そんなことを考えたのが悪かったのだろうか? クッションを投げつけられた。


「っっ!?」


 荒い手触りで硬く重い、でも仄かに女の子の甘い……睨まれました。


 明確に目が見えて睨まれた。


 真っ赤な目だ。真っ白な腰まである長髪の隙間から見えた左目は、完全に睨んでいる。


 怖い。


 薄暗いから詳しくは分からないけど、髪は白く、眼は赤く、肌は少し薄目の褐色。色々な種族が居る船であっても、綺麗な部類の見た目だろう。何より髪の毛がとても綺麗だ。ぼろ布の服を着て無ければお姫様のようだ。


 いかん、また睨まれる。


 野生動物を扱う時の様にそっと近づく、一瞬髪の毛が浮き上がるように動く。


「あぁうん、これ以上近付かない近付かない。だから威嚇しないでくれると助かる。ほら端っこに居るからさ?」


 ここが彼女にとっての境界線、これ以上の接近はリスクしかない。だからその境界線上の床にそっとクッションを置いて後退る。


 幸いなことに彼女のテリトリーはそんなに広くはない。前のコンテナと違ってここは数人の収容を前提とした造り、彼女のテリトリー外にトイレなんかも見える。何ら問題はない。あとは角を占拠する彼女とは対角線上の角に背中をつけて座ればいい。


「…………」


 壁に背をつけて座り、デバイスをいじっていると妙に強い視線を感じる。顔を上げるとクッションを回収しに動いた女の子? と目が合う。前髪が長くて目は合っているのか分からないけど、たぶん合っている。また威嚇するような唸り声が聞こえてくるので目を逸らす。


 胃が痛い。


 ずいぶんとスレンダーな女の子? たぶん女の子、大人のレディといった雰囲気ではないけど、正直自信はない。ただ少なくとも身長は俺の方が高そうなので、男の尊厳は守られた。



 いかがでしたでしょうか?


 孤独から一転、二人部屋行きとなったヨーマであるが……。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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