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第16話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



「……どうしてこうなったんだろうか」


 床が冷たい。最近忘れていた感覚だ。


「まさか奴隷売買艦に直撃するとは思わないよな……しかも俺が売られたのと同じガーデンシップかぁ」


 ここは奴隷市場船エスクマギレア。宇宙を漂っていた第二世代居住ガーデンシップを海賊が見つけて修理・運用している骨董品らしい。俺を捕まえた海賊が話好きで色々話してくれた。というより、彼が自慢したかったらしい。なんでも、この船を修理した海賊の末裔なんだとか言っていた気がする。


 なんでこうなった。


「呪われてるのだろうか」


 呪われているとしか思えない。


 あの日、緊急ワープと思われる船の挙動は、最下層の区画に致命的な損傷を与えたらしく、なんとか滑り込んだ避難シェルターの扉が閉まるとほぼ同じタイミングで強烈な衝撃。金属が引き千切られるような音がしたのもほんのわずかな時間であとは無音、次に音が外から聞こえたのは、強烈な衝撃と同時であった。


 話し好きの海賊曰く、大量のデブリがワープアウトしてきて、何の備えもしていなかったエスクマギレアを襲ったらしい。そのデブリの一つが俺であるのだが、特に苦情を受けたわけでもなく、普通に捕まって売られたわけだ。


 むしろ、少し同情までされた。


「おい! ぶつぶつうるせえぞ」


「あ、はい……はぁ」


 今はそんな話好きの海賊に安く売られて檻の中。古風な鉄格子の檻で、晒し物にされながら運ばれているところである。こんな踏んだり蹴ったりな状況なんだから、愚痴くらい言わせてほしい。


 普通なら宇宙用の密閉コンテナで運ぶところだろうが、俺を伴ったワープアウトデブリによる被害はかなり酷いらしく、今もガーデンシップ船内のコンテナ搬送路は一部使用不可能になっている。俺を市場に運ぶのも、わざわざ牽引車を使わないといけないありさまだとか。


 周囲を見渡すと、同じように鉄の牢で運ばれるナマモノ、軟体的なフォルムのナニカ、良くわからないどこかの固有生物だろうか? 俺の姿に親近感でも湧いたようで、触手を一本こちらに振って見せてくる。


 俺もなんとなく親近感がわいたので、とりあえず手を振り返しておいた。無機質で効率重視な建物の列は――まだまだ続きそうだ。





 普段見慣れない物を見て気を紛らわせているヨーマ。その頃、彼を探していたドゥムシュは、ヨーマ捜索の思わぬ協力者と対面していた。


「ごめんなさいね。おばさんがもっと早く気付いていれば……」


 ゆったりとした服を身に纏い、ソファーの上で困ったように頬に手を添える女性。彼女はコンパスと言う貴族位の御夫人であり、ヨーマからデバイスを奪った貴族の接待相手でもある。


「いえ、夫人は何も悪くありません。通報していただいた件、深く感謝しております」


「それにしても、一番下の子のデバイスだったなんて……噂は聞いてるわ」


 接待をしていた貴族は、なんの調べもせずに珍しい発掘デバイスだと言って彼女にヨーマのデバイスを贈ったのだが、彼女はヨーマの言う “ちょっと可笑しなデバイスマニア” の枠内に入るような人間である。手に取ってちょっと調べただけで、そのデバイスが何なのか理解してしまった。


 貴族の男にとって最悪だったのは、彼女がベラタス家と交流のある貴族であったことであろう。また、彼女はヨーマが小さい頃に面識があるらしく、詳しい話を聞いてひどく心を痛めていた。その理由は、彼についての噂によるところもあるだろう。


「どの噂でしょうか? あの子はたくさんの噂を持っていますから「失礼します」……失礼。どうした」


 困ったように微笑むドゥムシュ、夫人に他意はないと分かっている為、特に怒ったりと言う様子はなく、唯々純粋にどの噂話か分からないのだ。小さい頃から何かと噂にことかかないヨーマ、その出生の前からすでにヨーマはその運命の中にある。


 だがまだここではヨーマの出生の秘密について語られるべきではないのか。少し悲しそうな、それでいて申し訳なさそうな表情を浮かべる夫人とドゥムシュは、ベラタス家の兵士の声で二人そろって顔を上げた。


「ヨーマ様と面識のある者を連れてきました!」


「見つかったのか!」


 思わず声を上げるドゥムシュと、そんな彼らの会話に明るい表情を見せる夫人。


 ヨーマからの救難信号を受信し、さらにヨーマのデバイスを贈られた夫人からの緊急連絡を受けて、貴族のガーデンシップを強行臨検したベラタス家の艦隊。宇宙法に照らせばグレーな行為であるが、臨検後の調査結果をもってすれば十分おつりがくる成果である。


 しかし、彼等が求めるヨーマの姿は見つからず。少しでも情報が欲しいとベラタス家の兵士は船の内外を駆けずり回り、ようやく重要な情報源を見つけ出した。


「はっ! ガーデンの周辺を漂っていた小型艇に乗っているところを発見しました。小型艇からベラタス家への保護要請コードを確認出来ました」


「……ヨーマはいなかったと」


「詳しくは本人達から聞いた方が良いかと、ただ奴隷だったとのことで……」


 その情報源は、ベラタス家の人間が見ればすぐわかる、保護要請の通信を吐き出し続ける小型艇。当然ベラタス家はその船を保護するのだが、乗っていたのは自分たちを奴隷だと称する者達。担当した兵士は対応に困り、上の人間へと相談が回りに回って、最後には責任者と直接話してもらう事になったようだ。


 兵士からの説明の向こうに、困り果てた将校の判断が透けて見えたドゥムシュは、小さく困った様に息を吐き、申し訳なさそうな表情を浮かべた兵士に笑いかけると、真面目な表情で夫人に向き直る。


 重要な情報源とは言え、奴隷を自称する者達をコンパスの夫人の前につれてくるのはいかがなものか、そうすぐに判断したドゥムシュであるが、彼よりも夫人の方が一歩判断が早いようで、真面目な表情に対して夫人はニコニコと笑みを浮かべていた。


「私もお話、お聞きしたいわ」


「……通せ」


 存外肝の座った夫人に、思わず眉を上げて目を大きく開いたドゥムシュ。気を使ってくれているのかそれともただの興味本位なのか、判断に困る笑みを浮かべる夫人に小さく頭を下げると、兵士に指示を出す。


「はっ! 中に入ってくれ」


 指示を出されれば速やかに遂行するのが兵士。心中に心配を抱えていても身体は勝手に動くもので、彼の声を聞いて扉の向こうから現れたのは薄汚れた毛の集団。汚れた布の服を一枚着ただけの彼らに、ドゥムシュは思わず兵士を睨む。


 もう少し真面な格好をさせてから連れてこい。そんな言葉が喉から出そうになるも、それよりも劇的な変化によって、その言葉は出なかった。


 それは――


「えーっと、失礼しやす」


「失礼しますにゃ!」


「……スミンティオ!?」


 夫人の驚きに満ちた声。


 一歩間違えれば悲鳴にも聞こえそうな高い声は、しかし確実に人の名前を呼ぶ。部屋の隅で夫人を護衛する黒服の集団も、少し身じろぎしただけで、その場からは動かなかった。


「まさか、嬢ちゃん!? いやぁ……まいったなぁ」


 部屋の中に入ってきたのは、ユウヒと共に奴隷として働いていた猫少女達と、ネズミおじさん。スミンティオ、そう呼ばれたのはネズミおじさんであるらしく、頭の上の大きな耳をぴんと天井に向けて立て、クリクリの目を見開いて夫人を見詰める。立ち上がった夫人に一歩後退ったおじさんは、耳を伏せるとバツの悪そうな表情で頭を掻き、思わず視線を彷徨わせる。


 彼はこの後起きる事を予測、その中でも一番起きては困る事態に発展して心臓を縮めるが、それはまた別のお話である。





 気のせいだろうか、ネズミおじさんの悲鳴が聞こえた気がする。


 みんなは今頃どうしているだろうか? 船が緊急ワープに耐えられずに、俺達がいた下層がもげたとは思うんだけど、奴隷船を襲った突然のデブリから小型艇が出て来たとか、他に獣人が出て来たなんて話は聞かないので、たぶん無事なのではないだろうか。


「もう何件目だろ? たらい回しもいいとこだよ。まぁ、何も没収されないのは良い事か? 穢れ文化に感謝だね」


 穢れ文化は根強い。むしろ人類が宇宙に進出するほどに、穢れは実態を伴っているのだから当然と言えば当然だ。その典型があのガーデンシップのゴミの量だろう、それに比べてあの貴族はあまり穢れを気にしてなかったけど、呪いとかが怖くない貴族は珍しい。


 まぁ、それを言ったらベラタス家なんて何も気にしてないだろとか、つっこまれそうだけど。発掘再生事業で穢れとか言っていたら何も出来ないからな。


「お、やっと内部セルが溜まったな。これで本起動ができる」


 運良く手に入れた高性能すぎる古代のデバイス。安全のためなのか、固形魔素セルが完全に充填されないと本起動ができない仕組みになっていたから、今までただのお飾りだったけど、これでようやく古代の神秘を弄れる。


 そうか、もしかしたらまともに起動しないデバイスだから取り上げられなかったのかもしれない。父上が昔話で言っていたけど、遺跡から拾ってきた起動しないデバイスが突然起動して、船一つを沈めたこともあるそうだから、スキャンされた時点で厄ネタ扱いされたのかもしれない。


 ……爆発しないよな。


「基幹システムがエンキと言うのか、OIがナンシュと言うのかな?」


 普通に起動した。基幹システムの名前も、サポートOIの名前も聞いたことがないから、ベラタス星の発掘品とは年代が違うのかもしれない。基本は似てるから同じ流れのデバイスだとは思うんだ、じゃなければここまで理解できてないと思う。


 専門じゃないから空気感でそう思うだけなんだけど――空中にディスプレイが浮かぶ、空間ディスプレイが標準仕様のようだ。道理で物理ディスプレイが豆粒ほどしかないわけだ。


「はい私はナンシュ、初めましてマスター。千年から先の歳を数えるのを止めていましたが随分久しぶりの所持者の来訪に心躍りました。ようやくお話が出来ますね。どんなお話をしましょうか、全てが新鮮で興奮を禁じ得ません」


「…………」


 は? 何が起きた。いやそれよりこの声が周りに聞かれると……あれ? 運転手、気が付いてない。あ、気が付いた。気が付いたけどチラ見しただけ? 空間ディスプレイ出してるのに? 興味なし? いやいや流石におかしい。いくら海賊、いや海賊だからこそ値打ちになりそうなものには目がないはず。


 となると、見えてないってことか。こいつ指向性ディスプレイかもしれない、となると声も指向性か、ハイテクすぎる。


「マスター? ますたー? おねむですか? 保護スーツを着ているからと、お布団で寝ないとしっかり眠れませんよマスター? お布団キャンセル界隈は今の時代でも健在ですか? 職員たちにも多くて困ったものですが、ダメですよちゃんとお布団で寝ないと」


 あとものすごくおしゃべり、マシンガントークまで標準搭載か? いやそれにしてはもいやに滑らかな、声質もかなり綺麗だし、話の内容もインテロの域を超えている。まさか、そんなことは流石に、いやでも古代のラボから出て来たデバイスだし、いやいやでもそんな、そう簡単にアレが手に入るなんて、しかもマスターって事は、所有者認定まで完了してる? ちょっとやばいドキドキしてきた。


「うそだろ……」


「嘘ではありません。お布団で寝るのと寝ないとでは明確にコンディションの違いがあります。これは千年以上前から常識ですよ? いえ、確認したところ随分と世界は文明後退を起こしているようですね。これは知られていないのも仕方ないのでしょうか? 困りました」


「もしかして、ISなのか?」


「おや、その名称は今も使われているのですね。これは調査と更新をせねばなりませんね。大丈夫ですマスターにご負担はかけません。これでもティアマトリテラシーには詳しいのです。ちゃんとファクトチェックには時間を掛けますとも……マスター?」


 うそだろ、ガチか……。


 ISインテリジェンススピリットがこのデバイスに搭載されてる? しかもそれがOIオペレーティングインテリジェンス? 贅沢にもほどがある。インテロでも贅沢なのに、IS? なんだこれ、なんだこれ? おいおい……古代の技術、贅沢すぎるだろ。


 いや、それより、やっぱりマスターって言ってる。ISがマスターなんて言うのは所持認定がされた相手にだけだ。前職で見たISも、操作する人間に対してマスターなんて言わなかった、管理権限者とか代理だとかそう言った言い方だったはずだ。それがマスター…………やばい、変な汗が出てお腹が痛くなってきた。


 ……でも、ちゃんと確認しておかないと、後でもっと恥ずかしい目に合いそうだ。


「マスター、それって……認定したって事だよな?」


「そうですとも、私はあなたの為のISナンシュ。マスターのお名前を聞いても?」


 間違いない。俺はいつの間にか、新人類と言われるISの所持者になっていたようだ。いや、宝の持ち腐れも良いとかだろう。彼女達ISに宇宙法も国際法も関係ない。彼女達が所持者、要は主人と認めたなら、それは誰にも替えられないのだ。


 それこそ、死ぬまで……。


「マスター?」


「え、ああ、ヨーマ・ベラタスです」


 どうなっちまうんだ。落ちるとこまで落ちた上に、惑星破壊爆弾級の厄ネタが腕に憑りついてしまうなんて、俺は、不幸……幸運? いや、変らず不幸よりの気がする。



 いかがでしたでしょうか?


 おはようからお休みまで、貴方の腕に憑りつくナンシュ。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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