第14話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「今日も行くのか?」
「今日は、もう少し下まで降りるよ」
交渉から一週間、すでにネズミおじさんも猫族少女達も俺がより深い場所に降りる事を認めて……というより諦めてくれた感じだ。おじさんのジト目が痛い。
といってもようやっと真面に最下層に入れたところである。詳しい艦内図があるわけではないので、今どの辺りを進んでいるのか分からないけど、思いのほか魔素結晶が多く、最近まで魔素結晶の除去くらいしか出来なかった。
昨日の仕事で、メイン通路の魔素結晶採掘が一段落着いたので、今日はもう一つ下の階層を探索できそうである。
「……そうか、気を付けろよ?」
「もうダメとは言わないんだね」
ダメとは言わなくなったけど、ジト目はやめてくれないおじさん。
「そりゃおまえ、ここでこんな暮らしが出来るとは思っていなかったからな……もうダメとは言えん。それにしても、スキル至上主義は間違っていたのかもしれんな」
スキル至上主義、スキルを持つ者こそがこの先の時代を背負うにふさわしい人種であり、スキルを持たぬものはただ守られて生きればいい。と言う何ともお優しい主義主張だけど、思想は歪むもので、この主義を唱える声の大きい者にとって、スキル無しは家畜と変わらない。
行く先はスキルを一個でも多く持つ者を王とした完全階級制度、ある意味今の状況も、そのスキル至上主義の結果と言える。猫族少女もおじさんもスキルは一つしか持たないらしい、持ってるだけ羨ましいけどね。
「さぁ、どうだろう? 結局肉体的強度は宇宙で絶対的に必要になるからね。その差を埋めるためにもシールドスーツはもっと普及すべきだと思うけど」
そんなスキル至上主義に真っ向から喧嘩売ってるのがシールドスーツ、特に今着ているのがその最たる例だ。体の動きを邪魔せずに肉体強度を引き上げるスーツ、ベラタス家が他の貴族から嫌がらせを受けるのも、こういった弱者を強くする技術再生を率先して行っているためだ。
その理由が俺の為だと言うのだから、いたたまれない。居心地の悪さに家を飛び出しても、仕方ないと思う。……思いたい。でも、使っていて良くわかるがシールドスーツは普及すべきだ。
「是非ともお願いしたいな、出来れば毛皮種族向きの製品も頼みたい」
「汎用型ならあるけど、専用はまだ需要が無いからね」
肌に密着することで効果を最大化させるこのスーツは、残念なことに毛皮種族には不向きである。毛皮種族でもと言うなら、今一番人気の汎用型の方が良いだろう。種族専用と言うのは良く要望を受けるらしいけど、利益が出るほどの需要は無いのだ。
「需要か……ここから出れたら協力しよう」
何の協力だろうか? ここから出れたら、そんな言葉が出るのもネズミおじさんや猫族少女達が手伝ってくれたおかげだと思う。使えそうな部屋を見て廻っていたら、思いもしないものが出て来た時はどうしようかと思ったけど、あれは状況的に蜘蛛の糸になり得る。
「アレはもう使える状態だから、もしもの時は迷わずね」
「もちろんだ、だが」
「待たなくていいからね?」
もしもの時は躊躇せず使うべきだ。
主要部分の修理はすでに終わってるし、そもそもが丈夫な作りだったのだ。武装こそまだ魔法タイプの機銃しかないけど、それさえ無視すれば完成していると言っていい。偉い人が聞けば怒り出しそうだけど、そんな人ここにはいないからね。
「待たなくていい事を願うさ」
「そうだね、あーもしもし?」
頑固だなぁ? 何が起きるかわからない宇宙、自分を優先しても何も悪くないと思うんだよ。と言ってもおじさんはマシな方、あの子たちはもっと頑固で心配性だから、下に降りる前に連絡しておかないと、また作業中に心配して連絡してくるだろう。
手に取った電気式短距離通信機のスイッチを親指で押し込み、ひとこと話すとすぐに親指を放す。そうするとすぐにノイズがスピーカーから聞こえ始める。
<はい! ヨウラです! 感度良好です!>
<アヨです!>
<ちょっと!?>
話す時は一拍置いてから話す様に、そう説明したとおりのタイミングで元気な声が聞こえてくる。今日はヨウラが通信担当のはずだが、近くにいる子たちも一斉に声を投げかけて来た。
アヨは一番年下の小柄で大人しい女の子だが、こういう時は一番元気な気がする。スピーカーから聞こえてくる向こうの声に思わず頬が緩む。
「ははは、それじゃ潜るから何時でも通信出来るように頼むよ」
≪はい!≫
今スピーカーの向こうには何人いるのだろうか? 最初に聞こえて来た声の数より明らかに増えた声で返事が返ってくる。ずいぶんここでの暮らしも明るくなったものだ。
「気を付けろよ?」
「うん」
ネズミおじさんと一緒に生活していた時はこんなことになるとは思わなかったけど、カートを引っ張り歩き始めた俺に声をかけるおじさんの雰囲気は変わらず。しかし、毛艶は確実に良くなっている。流石は洗浄器と乾燥機のコンボ、おじさんは見ていても気にならないけど、猫族少女達は最近目のやり場に困るものがある。
「これは、ラボかな? ……すごい! 戦前のラボだ!」
下の階層に降りてすでに数時間、定時連絡では無いけどそろそろ何か連絡を入れておかないと心配されそうだと思いつつ、開いた扉の先にはライトに照らされて明らかに普通の部屋とは違う、整然とした雰囲気の空間が広がっていた。
それはラボ、ベラタス星の遺構でも目にしたことがある様な設備が、魔素結晶に包まれた状態で維持されている。明らかに今の研究機器とは違う洗練された作り、ベラタス星で発見されたものとよく似た華奢なアームとガラスケース。
「なんの研究してたんだろう……駄目だな死んでる」
慎重に結晶を砕いてスイッチを触ってみるも動かず、こういった装置群は多目的に使える製造機器という事多いので、見ただけではここで何の研究をしていたかなど解らない。
照明は生きているのか、壁のスイッチを触ればラボ全体が赤紫色と白が混ざった光で照らされる。目が可笑しくなりそうな配色だけど、手元のライトだけよりもよく周りが見渡せる。
状態が良ぅ、また物珍しい見た目の物に目を奪われながら奥に歩けば、視界の端で何かが光った気がした。
「あ! これデバイス……だよな?」
明らかに腕に付けますといった形状に、豆粒の様に小さなディスプレイ。とても何か操作できるようには思えない、小さく丸いディスプレイが光を反射したようだ。
でもちょっと不安になる。なにせデバイスと言えば腕時計型やリストバンド型、ベラタス家専用デバイスのような大型の局面ディスプレイ型と言った見るからに機械とわかる無駄を排除した様な作りが多い。
でもこれは何というか、有機的な角の無い形だ。サイズ的には中型といった印象だけど、見ただけじゃ操作方法が分からない。
それから数十分、魔素結晶と格闘した俺の腕には謎のデバイスが装着されていた。不用意な気もするけど、腕に付けて見ないとどんなデバイスかわからないのだから仕方ない。見つけてしまったのだから仕方ないのだ。
そう言う事にしておこう。この抑えられない好奇心は、ベラタス家の血の所為にしておく。
「密閉されていたから内部の結晶化も起きてない。充填は……出来るな、動いた!」
腕に付けてあちこち弄りまわしていると、周囲の魔素を吸い始めたのか、ディスプレイに光が灯る。
左腕の生体刻印を起動しても特に反応が見られないので、内部パーツに魔素結晶による被害はないと思う。ガラスケースの内部には外の様な魔素結晶が無かったことから、このガラスケースは完全に魔素を遮断できるか、一切の塵を除去できるのかもしれない。
もし想像通りのであれば、この装置だけでも相当高額で売買されるんじゃないだろうか。
「基本のシステムは似てる」
あっという間に起動が終わって映し出された空中ディスプレイ、ベラタス家のデバイスにも標準搭載されている機能だけど、これはより洗練されている様に見える。ディスプレイに表示されている言語もシステム周りもそれほど大きく変わるものじゃなさそうだ。
それは、
「家の領星と同系列の遺産ってことか」
運が良いのか縁なのか、俺がここに来たのは偶然ではないと言われても、すぐに否定できないくらいには妙な感覚だ。千年前の戦争でいくつもの国が星と共に滅び、その遺産は銀河に今も散らばり、同じ国の遺産なんてものが揃う事は珍しい。
家みたいに、ベラタスと言う遺構星を丸々見つける事が出来れば別だが、宇宙のどこかわからない場所を航行する船の中で見つかるなんて、赤い砂漠で茶色の砂粒一つ見つけるようなものだ。
「フリー状態ならいいんだけど……? サーチ? 何をサーチ、動いた」
あっけなく動いた。
システム起動までは壊れて無ければ開くものだけど、そこから先は手探りでと思っていたら、あっさり操作可能な状態に切り替わったのだ。
何をサーチしたのか分からないけど、もしかしたらパスワードが設定されていなかったのかもしれない。シグズ姉さん曰く、開発中の機械なんかだと、研究所から出さないから設定しないこともあるらしいけど、不用心すぎる。
「凄いな、メモリ容量の桁が全然違う。完全に戦前のデバイスだ……装着も、問題ないな」
シールドスーツ越しだと言うのに、腕に吸い付く様で全く違和感がない。動かし辛さも感じないし、まるで元から腕と一緒に生まれて来たみたいな感触である。それはそれで気持ち悪くもあるけど、嫌悪感もない。
空中ディスプレイをつつけば次々と変わる表示、基本ステータスの画面を何度見直しても変わらない可笑しな量の空きメモリ容量。1%表示の魔素量、聞いたことの無いパーツ類、特におかしいのがメモリ容量、奪われたデバイスの100倍以上はあるんだけど……ほんとうだろうか。
まぁ……戦前の発掘デバイスの基準なんてわからないし、あとは起動したシステムも知らない名前だ。
「エンキシステム? 昔の基礎システムの名前なんだろうけど、基本は同じみたいだし、刻印術のシステムは作れそうだ」
これだけの容量があるならいくらでもデータを保存できそうだし、時間さえかければ問題なく刻印術管理システムも組める。とりあえず、基本システムだけではわかる事も少ないので、管理システムを動かさないといけない。たぶんこれだと思うんだけど、さて、今の魔素量で起動できるだろうか。
「お、出来た」
意外と簡単に起動してくれたな、パスが無いのは変わらないけど、普通は1%しか魔素がないと起動力が足りなくて動きそうにないものだけど、ずいぶん低燃費なシステムなんだな。色々出て来たけど、これで詳しくこのデバイスの事が調べられるはずだ
「……は? 凄い、これ固体セルだ!? 嘘だろ、こんな小型の固体セルなんて……お偉いさんに持って行けば、これだけで貴族になれる技術だぞ」
固体で魔素を管理できる小型のセルなんて、理論上は可能だけど実働している物があるなんて聞いたことがない。固体は魔素にとって一番不安定な形態だから、ちょっとした衝撃で分解するし、魔法に反応でもして爆発したら、ほんの少量でも俺の体なんてバラバラに吹き飛ぶだろう。
超大型のセルならまだしも、小型――それも安定的に携帯利用可能だとすると、これはとんでもない物を見つけてしまったかもしれない。
「まぁ、父上の苦労を見ていると、貴族なんてなりたいとは思わないけど……」
うん、これに関しては誰にも言わずに隠しておこう。
せっかく前より小型で隠しやすいデバイスを見つけたのに、バレでもしたらまた奪われる。最悪殺してでも奪い取るなんてことだって……その時は、腕を捻り上げられることなく切り落とされそうだ。
「うーん……揺れ?」
ストレス性の眩暈? いや何か地響きがするような、この揺れはなんだろう。
<ヨーマ! 聞こえるかヨーマ! 聞こえたら返事しろ!>
「んお? もしもーし、どうした何かあったか?」
<どんだけ潜ってるつもりだ!>
あー流石に連絡しなさ過ぎたか、でもここまで怒られるような事でもないと思うんだけどな? 時間だって、ほら通信機の時計じゃまだ作業時間内だ。過保護に過ぎるだろ、なんだかネズミおじさんの後ろも騒がしいし、一度その辺のことは話し合った方が良いな。
「ごめんね、凄い発見があって時間を忘れてた」
でも、変に反発して波風は立てない。
めんどうなので、話し合いはした方が良いだろうけど、うん、なんだか、めんどくさくなってきた。
<いや、そんなことは良いすぐに戻れ! 上で何かあったみたいだ、立坑の隔壁が閉じた>
え? 立坑の隔壁が落ちた? という事は重力の反転が起きるかもしれないってことだな。そんな事態になると言えば、なんだろう? 重力制御装置の故障、いやまてこの振動はあれか? あれかもしれない。
「……ガーデンシップが緊急ワープするのかも、不味いな」
制御装置の故障なら段階と警報があるはずだし、たぶん先に通路隔壁が落ちる。それが無くて突然の立坑隔壁となれば、反転現象の対策も間に合わない緊急ワープの可能性がある。そうなると非常にまずい、何がまずいって準備不足のワープ、しかもガーデンシップ級のワープなんて通常のワープでも何かしら故障が起きるのだ。
最悪、俺達は宇宙に放り出される。
いかがでしたでしょうか?
運が向いてきたヨーマを不運が襲う?いったいガーデンシップで何が起きているのか、そして彼らは無事に緊急事態を乗り越えられるのか……。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




