第12話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「これは、どういうことだ?」
「わかんねぇな」
上層に上がる為のエレベーターは停止していたが、その横の貨物用エレベーターは生きている。
「封鎖してるが結晶の回収機能はそのまま、回収による交換機能も生きてるから仕事を続けていれば死ぬことは無いって感じか」
回収した魔素結晶や分別した資源ゴミをこのエレベーターで送ると、その回収量に応じた物資と交換できる。てっきりその機能も停止されていると思ってネズミおじさんと確認に来たのだが、今も普通に運用されている様で、試しに魔素結晶を入れて見れば即座に回収されて交換可能物資が液晶画面に表示されたのだ。
ほんの少しの魔素結晶では何かと交換できるほどのポイントにはならないけど、ポイントは共有でエレベーターごとに溜められるので無駄にはならない。とりあえず交換物資を確認しても変化はないようだ。
「交換品も今まで通りだな、封鎖したなら全部供給停止しそうなものを……」
「水道と効率食の供給は絶たれてますが?」
「そっちも交換で何とかなる。あれは最低保証的な物だったからな・・・」
一方で心配だからと着いてきたヨウラが言うように、水とチューブで送られてくる液状効率食の供給は経たれていた。その所為で余計に何をしたいのか分からずネズミおじさんと首をひねる。交換物資には水もあるし食べ物もある、死んでほしいのか死んでほしくないのか、限界まで働けという事なのか、分らなすぎて何とも気持ち悪い。
「奴隷が下級市民扱いなら水の供給停止は法令でアウトだけど、回収と交換がそもそも都市システムとは別の何かなのか?」
「まぁ考えても分からん、なるべく大量に交換しておくしかねぇな」
ネズミおじさんの言葉に頷く。今は魔素結晶と必需品を交換できるけど、何時それが停止するかわからないので、交換出来るうちに水と食料は確保しておいた方が良いだろう。
「あとは廃棄物から利用できそうな物を回収して行こう」
「そうだな、それじゃ嬢ちゃんたちはしばらく廃品回収で頼むぞ」
「え? 私達も結晶回収できます!」
おじさんの言葉に驚いた表情を見せるヨウラ、でも君たちの方が力持ちだからそちらを任せたいところである。魔素結晶は砕いてコンテナに入れるだけで良いからそれほど力は必要ないけど、使えそうな機械を回収するにはパワーが必要になるのだ。正直魔法でブーストしても俺ではこの子たちに勝てるとは思えない。
なにせ彼女達は種族の特性として、取り込んだ魔素を自然と身体強化に使っているのだ。さらに刻印術で余計に魔素を体に取り込めるようになっているから、たぶんこれまで以上に強力な身体能力強化になると思う。
正直羨ましいと思うけど、この割り振りは嫌がらせではない。特に彼女達は淀んだ魔素に対する耐性が低そうなので、魔素結晶の回収を任せるのは危険がある。適材適所と言うやつだ。
「この辺りなら出来るだろうが、効率が悪いからなぁ?」
「そうだね、奥の結晶を清掃して行けば汚染も薄まるからそれに慣らしながらで良いんじゃない?今はあの部屋の改修とか、他の部屋の修理を進めた方が良いと思う。もしかしたら廃品の中にも掘り出し物があるかもしれないし」
「ですが……」
しょんぼりして与圧服包まれた尻尾も力なく垂れているヨウラ、ヘルメットを外せば猫耳も垂れてそうだが、俺としては掘り出し物を探してほしい。特に食物プラント系の機械があれば最悪には備えられるし、水生成装置やなんかも探してほしい所だ。贅沢を言えば電気式だけど、密閉した大部屋の中ならまだまだスペースも余ってるので魔素型でも一向にかまわない。
「焦らず行こうよ、とりあえず生存可能な要素は残ってたんだから」
「寧ろここは下層だ、交換用の結晶には事欠かねぇさ」
「確かにね」
交換資源の枯渇は考えなくていいのはある意味救いである。これが上層であれば魔素結晶も少ないので早々に詰み、飢えの苦しみの中たぶん俺が最初に死ぬ。死んだ後どうなるかわからないけど、おじさんや猫種族に美味しく食べられてしまうか、もしくは早々にアンデット化して俺がみんなを食べ始めて仲間を増やすかだ。
そうなるとこの船の寿命もそう長くはない。軍を投入して区画を浄化すればいいかもしれないが、そこまでお金を使うなら区画ごと放棄しそうだ。そこまで行けば貴族としては不合格と言わざるを得ない。
「……わかりました」
わかってくれたらしい。でもその声はずいぶんと不服そうだ。
「それじゃ俺達は今日の分の清掃に行ってくるからそっちも無理せず頑張ってくれ」
「はい!」
激励すればすぐに元氣になってくれたけど、やっぱりゴミ漁りなんて嫌な仕事なのだろうか? いや、普通に考えれば嫌な事で間違いは無いのだが、生ごみまでは落ちてこないので、比較的マシだと我慢してほしい。
なぜか戻ってみんなに説明しても不満そうなジト目で見られた。聞いても不服はないと言うが、あの目は確実に不服の念が籠っていたと思う。
「大丈夫、だとは言ったものの……デバイスが無いと不安ではあるな」
女の子の気持ちが良くわからないと、頭を悩ませながら降りて来たのは最近良く降りてくる深さの階層。探し物を優先していたからまだまだ魔素結晶は腐るほどあるが、床から天井までびっしりと生えた結晶を砕く時は気をつけないと崩れてきて押し潰されてしまう
「おっとと、ある意味これは俺にとって天職なのかな? 魔素結晶を砕くのに刻印術がこんなに相性良いとは、やってみないと解らなかったよなこんなの」
手に持っているのは、廃品から作ったお手製両手持ちロングハンマー。デバイスを取られる前に作っておいたこのハンマーには魔素セルが搭載されていて、オリジナルの衝撃発生魔法をヘッドに刻印術で刻んである。生体刻印術ではないので割と簡単に作れたけど、魔素結晶に合わせた調整をしてあるので、魔素結晶を砕く効率はかなり良いと思う。ついでに副次効果として本来起きるはずの回路結晶化も起きていない。
それから小一時間せっせと魔素結晶を砕いてはコンテナに詰めるを繰り返す。今頃は比較的魔素濃度の低い上の階層のネズミおじさんは仕事を終わらせているのではないだろうか、あの人ほんと楽しそうに魔素結晶を砕いて回るからな。
「これだけあれば、まぁ一週間分くらいにはなるだろ」
コンテナ五つ、電気自走式じゃなければ運べないであろう量の魔素結晶が回収できた。魔素を利用するタイプの物ではインテロ同様にこんな汚染された場所では使えない。ゴミ捨て場に落ちて来るものも大半はそう言った機器で、魔素セルを抜かないで捨てるものだから立坑の中で結晶化していると聞く。
ゴミ拾いを任せた猫族少女たちは大丈夫だろうか? 全員十代と若い子しかいないけどフィジカルは俺よりずっと上、その点は心配していないけどこんな過酷な環境での労働経験はないだろうから、少し心配である。
「廃品も結構いろいろな物が落ちて来るし、街より暮らしやすい空間にしてしまっても良いのだろう? ……なんだか今までで一番自由を感じている自分が居る」
心配事が尽きない状況でも少しは前向きなことも考えられるもので、コンテナの連結確認をしながらそんなことを呟いてしまう。一人きりの作業と言うのは思っているより寂しいもので、赤紫色の薄暗い通路は本能的な恐怖も湧き上がって来てついつい独り言が増えてしまう。
独り言をつぶやくと、それだけで心が楽になるのだから不思議なものだ。心が軽くなると少し楽しくもなってくる。猫族少女達はどんなものを拾い集めて来ているだろうか、こんな糞みたいな環境であっても少しは良い暮らしがしたいと思う。普段はそれほど食べ物に対して執着は無いけど、今は思う存分肉が食べたい。培養肉の製造機器とか拾って来てくれると嬉しいな、彼女達も肉には反応していたし、率先して探してくれるのではないだろうか。
希望的観測は良く馬鹿にされがちだけど、辛い時に考える妄想は心を強くしてくれる。そう、コンテナの足回りが乗り上げたこの魔素結晶みたいに固く……ん? 固すぎないかこれ、何か大きな物が核になってる。
「戦闘用インテロの残骸?」
十分ほどかけて結晶を剥がせば中から出て来たのは戦闘用のインテロ、魔法式の火器だと思われる筒状の武器腕が二本、片方は弾けた様に壊れているけど、もう片方はまだ使えそうだ。使えたとしても、こんなところで起動させたら一発で結晶詰まりを起こして壊れるだろう。弾けた方の腕はもしかしたらここで使ったのかもしれない。
「ずいぶん古い型だけど、古い傷と比較的新しい傷があるな? 最深部の噂は本当かもしれないな」
引っ張り出して見れば新しめの傷と古めの傷、弾けた腕は比較的新しい破断面をしているけど、四つある無限軌道履帯は三つほどダメになって錆びて朽ちている。流石にこれだけボロボロになっていては修理しても動かないかな? もしかしたらもっと奥からここまで引っ張って来て、腕の武装がここで暴発したのかもしれない。
「もしかしたら発掘デバイスが見つかるかも」
これだけしっかりした軍事用のインテロがあるなら、デバイスも期待できる。デバイスの基本設計は何千年も前から変わらないというし、流石にこの船が宇宙移民拡大期並に古いとは思えない。いいとこ戦前と言ったところじゃないだろうか、それだと戦前の高い技術力で作られたデバイスが生きた状態である可能性は、そんなに低くもないんじゃないだろうか? ちょっと期待が出て来たな。
とりあえず、何に使えるかわからないけどパーツ取りも兼ねてこの武器腕だけでも持って帰って綺麗にしよう。これは別に男の子の浪漫的な行動ではないのだよ? どこで何が使えるかなんてわからないから……危ないと言われた時の言い訳はこれで行こう。
いかがでしたでしょうか?
何時の時代も武器には男の子のロマンが詰まっているのです。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー