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紅蝕に交わる星剣の奔流、王家の血は夜明けを拒む3

ミオは、石造りの回廊を静かに歩きながら、先に進む決意を固めていた。ゼオンが仕上げたばかりの星見の館――改造された観測装置が、黒い石と王家の血の波動を微妙な時差とともに示している。機器の示す数値に、彼女の瞳が冷静な光を宿す。


「波長が……いつもより微妙にズレているわね」

 

ミオは、古文書に記された『双剣を奉ず、王家の血満つる時』という断片を手に、首尾よく論理魔術の再構築を試みる。その推論が、今宵の紅い月――皆既月食を目前に控えたこの夜に、確かな意味を持つと直感していた。


一方、エランは隅に立ち、腕輪に宿る呪印の疼きを感じながら、苦い笑みを浮かべる。

 

「また俺の内側で宴が始まるか……紅い月と皮肉どころか、俺の呪印は暴走寸前だぜ」

 

その声には、いつもの自嘲とともに、隠しきれない不安の色が混じっていた。彼は口元を引きつらせながらも、ミオに向かって皮肉たっぷりに言い放つ。

 

「お前の論理が如何に綻びを捉えるか、実に見事だ。まるで、俺の内側で暴れる小娘のような気がするぜ」

 

ミオは苦笑し、冷静な目で彼を見返す。

 

「皮肉は得意だろうね。でも、これが真実だとすれば、二振りの星剣のうち、もう一振りは……どこに隠れているのかしら?」

 

その声に、エランは拳を握りしめた。腕輪は再び温かい疼きとともに、まるで皮肉を返すかのように脈打つ。


同じ頃、離宮地下vaultにて、フィリスが魔術装置の残骸に手を伸ばしていた。重い扉の向こう、朽ち果てた壁画と血の痕跡が、かつて王家が血を捧げた儀式の面影を物語っている。フィリスは震える声で呟く。

 

「この儀式……まるで、王家の血を封じ込めるはずが、逆に暴走させようとしたかのようよ」

 

だが、彼女のその声には、兄エドワードへの不信も滲んでいた。彼は闇組織との接触を密かに進め、黒い石の欠片を手にしていた。遠くから聞こえる低笑いが、冷たく闇を満たす。

 

「ふふ、王家の威信を取り戻すか……皮肉なほどに滑稽な策だな」

 

グレゴリー率いる騎士団が、夜のパトロールを強化する中、エドワードは影のように動き、己の策を進める。だがその策には、今一つの不確かさがあった。闇組織の噂と、スペイラが潜伏する兆しが、ますます混迷を呼ぶ。


再び、ミオとエランが顔を合わせた。重苦しい空気の中、二人は論理と魔術の真髄について、互いに推測を交わす。

 

「星剣が本当に二振り存在するとなれば、その使い手、誰が相応しいのか…」

 

ミオは紙片に線を走らせ、記された座標と古文書の断片を突合せる。

 

「このデータが示す先は、現実の物か幻想か……いや、明らかに仮想の星剣を呼び出す術式の一端に違いないわ」

 

エランは腕輪を見下ろしながら、渋い笑みを返す。

 

「皮肉にも、俺の呪印が今宵、力を増す兆候を見せてる。まさか、俺が守護の盾としてじゃなく、むしろその鍵となるとは……」

 

会話の中、ゼオンの観測装置が突然、急激な波長のシフトを捉える。警告音が響き、回廊の先がかすかに揺れ動く。緊張は一層高まった。

 

「動く……あの波動、正直、二振り目が顕在化し始めた……!」

 

ゼオンの声が走馬灯のように広がる中、ミオは冷静さを保ちながらも心中で高鳴りを感じる。虚実の境界線が曖昧になり、彼女の理論が現実の闇と激しくぶつかろうとしていた。


その瞬間、地下vaultから奇妙な振動とともに、謎の音が響き、封印が揺らいだ。フィリスが再び必死に儀式の跡を修復しようとするも、装置は乱れ、石と血の交差する混沌の中にあった。

 

「くそ……こんなタイミングで振動が!」

 

フィリスの叫びが、空間を切り裂く。だが、どこからともなく、カイム・ヴェルドールが低い声で宣告する。

 

「紅蝕儀式は、今宵、必然だ。運命の皮肉なら、思い知るがいい」

 

その言葉に、騎士団の一人が苦笑いで返す。

 

「またお前か、占術師。笑い話にしか聞こえんが、実に腹立たしいぜ」

 

カイムは嘲笑交じりに肩をすくめ、そして不敵な瞳をこちらに向けた。

 

「皮肉を並べるな。赤い月は、王家の血を暴く切符。そして、双剣の行方を決定づける鍵なのだ」

 

ミオは心の奥底で、その仄暗い真実を掴もうと必死になった。瞬く間に、エランの呪印の疼きが最高潮に達し、手に汗を握る緊張感が漂う。

 

「さあ、行くわよ。全てを賭けて、もう一振りの星剣の正体を暴いてみせる」

 

ミオの宣言に、エランは苦笑いと共に、鋭い目を上げた。

 

「この皮肉な運命、俺がぶっちぎってみせる。紅い月に挑む覚悟は、俺たちにあるはずだ」

 

瞬間、地下vaultの壁が激しく震え、黒い石の波動と紅い月の光が交錯する。閃光と共に、封印が音もなく砕け散り、その先に広がる新たな異界の気配が、全てを覆い尽くしかけた。


激しい衝撃波が走り、ミオの論理魔術とエランの呪印、そして闇夜に浮かぶ星剣の幻影が、混沌の中で鋭くぶつかり合う。

 

「これが……双剣の真実か!」

 

ミオの声とともに、闇路は怒号と笑い、そして痛みと奇妙な快感に満ちた熱狂的な鼓動を刻んだ。

 

全てが崩れ落ちんとするその瞬間、紅い月は既に空を染め、次の運命の一歩への扉を静かに開いた。


「次はどうなる? もう一度、俺たちの運命が、皮肉にも激突するのか?」

 

エランの問いに、ミオはただ静かに頷き、そして鋭い眼差しで新たな夜明けの幕を見据えた。

 

この先に待つ、真の黒幕と双剣の解明――全ては、今宵の混沌の中で、誰にも予測できぬ運命の戯曲として、また新たな舞台を上演するのだった。

 

読者の心を、次々と投げ込む暴風のような謎とアクション。激しく、そして甘い皮肉に彩られたこの夜が、再び全てを賭けた戦乱へと誘う――。

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