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紅蝕に交わる星剣の奔流、王家の血は夜明けを拒む2

離宮の庭先には、湖畔の激突の余韻が未だに漂っている。数日の時が過ぎ、満月の余波とともに奇妙な波動が風に乗って広がる中、ミオはひとり古文書の再調査に没頭していた。


――「また『双剣』という単語か……」


彼女は、薄明かりに照らされた書物の断片を丹念に綴じ合わせる。論理と直感が交錯するその瞳は、封印の不完全さを指摘するかのようだ。彼女の冷静な分析が、夜の闇にひそむ不穏な予兆とリンクしている。


一方、廊下の影からエランが現れる。腕輪に宿る呪印が、再び疼くように脈打つのを感じながら、彼は苦笑いを投げかける。


「また俺の内側で宴が始まるか。こんな不遜な呪印、皆既月食の直前にかましてみろとは、皮肉にも面白いもんだな」


その声音には、嫌味半分の笑いと、内に秘めた不安が混じっていた。彼は、次第に赤く染まりかけた月に目をやりながら、険しい決意を口にする。


――「お前の論理と俺の呪印が、こんなに馴れ合うとは実に皮肉なもんだな」


ミオは微かに頷くと、隣に控えるフィリスが地下vaultの前で、かすかな光に照らされた装置に手を伸ばす姿を目にする。フィリスは重い扉に向かって、決意と不安が入り混じる声で呟く。


「このままでは、王家の血が暴走する……封印の綻びを如何に抑えるか、今夜が肝心よ」


その言葉に、エランは苦い笑いを返す。


「なら、俺たち二人の腕が冗談抜きで役に立つってことか。紅い月に向けた試練? まさか、俺が守護の盾とは思わなかったがな」


突然、狭い通路にひときわ奇抜な衣装をまとった男が現れる。占術師カイム・ヴェルドールだ。彼は、妖艶な微笑みと共に低い声で宣告する。


「諸君、聞け。今宵、紅蝕儀式が行われる。運命の皮肉でも、身に染みる覚悟を求める時だ……」


その言葉に、通路の隅で見張りをしていたグレゴリー率いる騎士団の一人が、皮肉交じりに呟く。


「お前、またあの不条理な予言で騙そうとしてんのか? 笑い話にもほどがあるぜ」


カイムは、あっさりと肩をすくめ、挑発的な笑みを浮かべる。


「皮肉を並べ立てるな、騎士よ。赤い月は、ただの飾りではなく、王家の血と黒い石の謎を暴く切符なのだ」


緊張が一層高まる中、ミオとエランは、静かにしかし確固たる口調で新たな術式の糸口を探り始める。手際よく文献と魔術理論を整理し、星の剣の真相と黒い石の力が絡み合っている可能性を鋭く指摘していく。


「見て、これだ。封印の痕跡と波動が、双剣説を支持している。もし真実なら、どこかでもうひと振りの星剣が必要になる」


エランはそれを聞くと、腕輪の呪印に目を落とし、拳を固く握る。


「まったく、俺の内側で暴れてる奴らが、また運命の悪戯を仕掛けてくるのか。こんな皮肉に逆らう術は、俺にはなさすぎるぜ」


二人の会話の合間、地下vaultからはフィリスの苦悶混じる呻き声が聞こえ、装置の不安定な振動音が通路全体にこだまする。フィリスは必死に封印の安定化を試みながら、ふと呟く。


「王家の血を守るためには……何としても、この綻びを塞がねば」


その時、エドワードが密かに姿を現す。彼は闇組織との接触を企てるかのように、そっと黒い石の欠片を掌に隠し持っていた。どこか野心的な輝きが、彼の眼差しに宿る。


「ふふ、これで王家の威信を取り戻せるかもしれん。だが、俺の策の先がどう転ぶかは、まだお楽しみということか」


エドワードの低笑いが、暗闇に一層の混迷を加える。


こうして、離宮全体には運命を翻弄するような熱い鼓動が走り、紅い月が昇る直前の不穏な静寂が支配する。


「さあ、今宵は俺たちの論理と皮肉、そして運命の戯曲が交錯する夜だ。全てを賭けて、この闇に挑む覚悟はあるか?」


ミオの宣言とともに、エランは苦笑いを浮かべながらも、確かな決意と共に答える。


「運命の皮肉など、俺がぶっちぎってみせる。さあ、紅い月に迎撃を!」


その瞬間、離宮の空気は怒号と閃光に包まれ、次の瞬間に訪れる皆既月食と共に、全ての封印が砕かれる衝撃が、読者の心に激しく炸裂する――。

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