蒼星に裂かれし誓約、静寂を裂く夜の声5
暗闇の中、湖畔の祭壇跡は、荒れ狂った戦いの記憶を静かに物語っている。ミオの放った論理魔術は、一瞬だけ闇の余波を押さえ込んだが、スペイラは深手を負いながらも、闇組織の援護と共に影のように消え去った。ミオは、眉をひそめながらも次なる手がかりを求め、手元の書物に目を落とす。
「こんなに未練がましいのは、この儀式の仕組みがまだ終わっていない証拠よ…」
と、冷静に独り言を漏らしながら、彼女は周囲を見回す。そこには、不穏な星光が祭壇跡にちらつき、不可解な力がまださざめいている感触があった。
一方、離宮の暗がりを背景に、フィリスは自ら暴走寸前の力を必死に取り戻していた。崩れかけた儀式書を握りしめ、震える指先で読み解いたのは――“星の剣”の記述。
「これがあれば……私たちの血が暴走する前に、封印を完結できるはず」
その声は決意と共に、今までの不安を一掃するかのように硬い響きを帯びた。
湖面を照らす月光の下、エランは呪印の暴走に苦しみながらも、必死に腕輪に手を伸ばしていた。彼の顔には苦痛と焦りが色濃く浮かび、そして皮肉混じりの毒舌が飛び出す。
「まったく、この呪印、俺の体を実験台にしてやがって……まるで俺自身が笑いものだな!」
と、笑い飛ばそうとするも、その声はどこか虚しさを含んでいた。彼は、体中に張り巡らされた“契約”の重圧を感じ、己の運命が蝕まれていくのを痛感せざるを得なかった。
その頃、騎士団長グレゴリーが率いる精鋭部隊が到着し、湖畔一帯を厳重に封鎖。幾重にも組まれた防壁の中、祭壇跡に残る禍々しい気配は、一層際立っていた。彼の横には、疲労にまみれた部下たちの姿があったが、誰も彼の決然たる眼差しを疑う者はいなかった。
ふと、ミオはエランの方に駆け寄り、力強くその手を取る。
「エラン、諦めるな。私たちは、こんな混沌すら解き明かすために生まれたんだから」
その声には、仲間としての温もりと厳しさが滲み出ていた。エランは、苦笑いを浮かべながらも、内心で彼女の決意に心を動かされるのを感じた。
「おいおい、実験台のネズミ扱いはもう勘弁だ。だが、こんな危険な夜にお前がいるから、俺もまだやれるってわけだな」
と、皮肉と感謝が入り混じった言葉を返し、どこか照れくさそうに肩をすくめた。
その頃、遠くからは、植物園の地下に広がる仕掛けの存在や、新たな刺客の気配が風に乗って囁かれていた。噂では、暗闇の中に潜む敵の足音が、また新たな災厄の前触れになるという。フィリスは、儀式書に記された“星の剣”の謎を胸に、ただひっそりと覚悟を決めていた。
「王家の血を制する唯一の力……これが、私たちに残された最後の希望かもしれない」
その目は、未来への不安と同時に確固たる意志を映し出していた。
湖畔には、まだ暗く燃え立つ星光の残像が漂い、次の一話の幕開けを予感させる。エランの呪印は、満月の近づく夜にさらに暴走しそうな気配を漂わせ、グレゴリーの部下たちは静かなる緊張の中にいる。ミオは、エランと共に“契約”の真相へと迫るべく、冷静にそして情熱的に決意の歩みを進める。
「今夜、この試練を乗り越えた先に、私たちの自由と真実が待っている」
彼女の声は静かに、しかし確固たる決意を胸に、夜空へと響き渡る。
エランは再び立ち上がり、苦笑いを浮かべながらも、ミオの手をしっかりと握り返した。
「くそ……こんなにも俺らが干渉し合う運命だったとはな。だが、俺はもう逃げたりはしねえ」
彼の言葉には、皮肉と熱い覚悟が混じり、一瞬の沈黙の後、湖畔には緊迫する空気が漂う。
やがて、星光と闇が激しく交錯するその瞬間、満月まで残された時間が、ますます不穏なカウントダウンを刻んでいた。各々の心に秘めた思惑と、真の黒幕の影が迫る中、決して後戻りは許されない戦いが、今、再び動き出そうとしていた。
読者は、この激動の瞬間に心を奪われ、次の一話へと駆り立てられることだろう。
真実と運命、そして自由をかけた戦いの火種は、まだ消えることなく、今夜も燃え盛る――。