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月下の囁き、蠢く地下回廊3

 月光がかすかに差し込む薄暗い通路――石畳の上に、不規則に刻まれた古代文字が独特の輝きを放っている。ミオは、調査隊の先頭に立ち、冷静なる眼差しでその一文字一文字を捉えようとしていた。

 

 「ここに、何かが刻まれている……記録か、封印か……」

 ミオの呟きは、エランの耳にかすかに届く。彼は腕輪の呪印が微かに疼くのを感じながら、皮肉混じりに笑みを漏らす。「ほら、また俺の体が文句を言い出す。どうせ、魔力のせいだろうな」

 

 その声に、エラン特有の毒舌が通路に反響する。だが、ミオは一瞥もくれず、論理魔術の“式”を脳裏で組み上げ、解読の突破口を模索する。

 

 ゼオンは、懐中ランプを片手に、複雑な結界の解析に取り組んでいた。しかし、壁面から放たれる不気味な魔力の流れにより、探査は度重なる中断を強いられる。

 

 「これでは、まるで俺の失敗作どころか、天文学の難問だな」

 彼は苦笑いながらも、心中で焦燥を隠せず、周囲の空気が次第にピリピリと緊張感を帯びていくのを感じていた。

 

 すると突然、グレゴリーの側近がどこからともなく襲撃され、地面に崩れ落ちる。軽く昏倒したその姿に、調査隊一同は一斉に警戒の声を上げた。

 

 「何だ、あの動き……まるで、闇の住人がこっそりと笑いながら忍び寄っているようだ」

 グレゴリーは鋭い眼差しを回廊中に走らせ、低い声で命じた。「全員、気を引き締めろ。見えぬ何かがここにいる」

 

 その時、フィリスが足元を揺らす低い残響音に、妙な共鳴を感じ始めた。視線が虚空を捉えると、彼女の瞳に恐るべき予兆が映る。

 

 「な、なんなの……? この音……私の血が騒ぐわ」

 彼女の声は、同時に憂いと恐怖、そしてある種の興奮を帯び、調査隊の心拍を一気に乱す。対策を求める議論が瞬く間に飛び交う中、場の空気は次第に悪趣味な笑いを含む緊迫感へと変わっていった。

 

 突如として、狭い回廊の奥でクラディオがひょっこりと現れ、皮肉たっぷりに提案する。

 

 「どうだい、フィリス。君の暴走を、ちょっと実験材料にしてみないか? まあ、実験に失敗したって今さら笑い話だろうがね」

 

 その言葉に、ミオとゼオンは怒りを露わにし、鋭い眼差しで彼を睨みつける。

 

 「実験材料? お前の研究熱心さは、いつも他人の命を軽んじるのが癖だな!」

 ミオは冷ややかな口調で反論し、ゼオンも即座に「そんな馬鹿な提案、どれだけ冷静さを欠いているんだ!」と、二人の怒気は回廊の石壁に反響する。

 

 そのうえ、エランの腕輪は、まるで燃えるように異常な発熱を始め、彼の体中に不穏な波動を走らせていた。

 

 「くそっ……また俺の呪印が暴走しそうだ!」

 彼は苦々しく呻き、その言い訳とも取れる台詞に、ミオは辛辣な皮肉を返す。「ええ、感情のままに暴走するのは、もう慣れっこね」

 

 複数の危機が同時に迫る中、空気は急速に混迷を極め、調査隊は隊員の安全確保と真相解明の間で板挟みに陥っていた。

 

 ミオは一瞬、深呼吸をし、頭の中で論理魔術の数式を組み立てる。そして、静かに口元を引き締めた。

 

 「皆、落ち着け。暗闇の奥底にこそ、真実の光があるはずよ」

 

 その宣言に、僅かながら勇気を取り戻す隊員たちの表情が変わる。ミオは冷静な瞳で、回廊の奥へと手を伸ばし、一歩一歩、未知への突破口を探る。その足取りは、論理と情熱の完璧な融合を象徴していた。

 

 不気味な鼓動は、壁の奥深くから次第に強く、そして規則的なリズムに変わり、まるで何かが呼び覚まされるかのように響く。暗がりは、次第に動き出す影をまとい、調査隊をさらに未知の深淵へと誘い込む。

 

 「さあ、次の一歩だ。君たちは、この混沌の中から、我々の未来を掴み取る覚悟があるのか?」

 ミオの問いかけに、エランは苦笑いを浮かべながらも、どこか決意を秘めた声で答えた。「ああ、俺はもう、泣き笑いで済ませるつもりはねぇ。ついてこい、ミオ」

 

 フィリスは、危険を冒しながらも、不意に口元に薄笑みを浮かべる。その目の奥には、再び暴走寸前の王家の力が灯るのが見え隠れしていた。

 

 回廊の奥からは、さらに不穏な影が這い寄る音がする。まるで、古代の魔術がここで息を潜め、刻一刻と崩壊へ向かうかのような、絶望と希望の交錯した瞬間。

 

 調査隊は、互いの視線と言葉の端々に、次なる惨事の予感を感じつつも、決して後へ引かない。ミオの卓越した論理魔術が、今まさにこの地下に、隠された真実の扉を開こうとしていた。

 

 そして、彼女の一途な決意と共に、部屋全体に広がる不気味な魔力と重なり、調査隊の運命は新たな局面へと突入しようとしていた。

 

 読者よ、今まさに君は、絶妙な笑いと緊迫、そして心跳を乱す激闘の最中にいる。これが、明日の王家の運命を左右する、一瞬の選択。次章――地下回廊の更なる奥深くで、真の黒幕がその姿を現すその時まで、我々は歩みを止めはしない。


 さあ、もう一歩、先へ――運命の扉は、今、静かに、しかし確実に開かれようとしているのだ。

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