月下の囁き、蠢く地下回廊2
浮遊庭園の惨事から数日の月影が落ちた王宮。混乱は未だ収まらず、空気は不穏な静寂に包まれていた。第一王子エドワードは、王家の威信回復を掲げ、地下回廊に潜む古代魔術装置の謎を解くため、精鋭の調査隊を急遽招集した。
「諸君、ここは明日にしてならぬ戦場だ!」
エドワードの低く響く声が、石造りの廊下に力強く響く。声に応えるかのように、ミオ・フィオーレは冷静な眼差しとともに隊列に加わる。彼女の論理魔術が、混沌とした現状を打破する唯一の希望と信じられていた。
地下回廊入口前に集まったのは、ミオのほか、エラン・アルフィーノ、フィリス・グランディール、そしてゼオン・アルヴァレスやグレゴリー・ノルベルトら多彩な仲間たち。エランは腕輪に刻まれた呪印の疼きを隠すように、苦笑いを浮かべた。「また、俺の体が大騒ぎを始めようとしてる。お前の計算と違って、俺のは感情が先走るんだな」と皮肉交じりに呟くと、ミオは冷静に目を細め「お前が泣き笑いするたびに、俺の論理がカウントダウンを刻むのよ」と返す。
その一方で、フィリスは昔の暴走を思い出すかのように、足元がふらつきながらも、心中で新たな伝承の糸口を求めていた。ジゼル・アルドリンが手にした古代文献の断片が、王家の血と黒い石にまつわる奇怪な儀式の鍵を示す。その文献に、ジゼルは少々高慢な口調で「これが本物の鍵。だが、解読はお前らの知恵次第だ」と宣告すると、全員の視線が一斉にその文字に向けられた。
扉を押し開け、地下回廊へ足を踏み入れる瞬間、冷たい月光が狭い通路に斑な陰影を落とし、壁に刻まれた古代文字が幽玄な輝きを放つ。ゼオンは懐中ランプを掲げ、ざわめく空気を読み取ろうと試むも、複雑に張り巡らされた結界の前に、無言の焦燥が漂う。「こんなもん、俺の錬金実験の失敗作よりも手強いぜ」と苦笑いはしたが、その声には本気の緊張がにじんでいた。
鈍い石の響きとともに、突然どこからともなく不気味な囁きが重なり、廊下全体がざわめいた。グレゴリーが一歩前に出ると、騎士団の部下が警戒心を露わにして周囲を精査する。「何かが潜んでいる…まるで、暗闇にでも笑いながら待ち構えているかのようだ」と厳しい声で告げれば、エドワードも黙って頷いた。
ミオは一瞬、目を閉じ、論理魔術の“式”を脳裏で組み上げる。心の奥から湧き上がる決意と共に、「この暗がりの中でも、真実は必ず輝く」と呟く。その眼差しは、冷静な分析と激しい情熱の両面を映し出していた。
エランは呪印の痛みに耐えながらも、皮肉と笑いを交えた会話を続ける。「この地下、どうせまた俺の腕輪が面倒を起こすんだろう? まるで、不機嫌な子供みたいに」と、言い放つと、ミオは「それならあなたの子供扱いは、もう一度見直さないと」と辛辣に返し、周囲は一瞬、笑いと微妙な緊張が交錯する。
進むにつれて、不意に通路の隅でひそやかな動きが目に映る。誰かが意図的に何かを仕掛けた形跡―闇組織の気配か。グレゴリーが鋭い目で周囲を探り、「あの動き、軽く見たら大間違いだ。警戒を怠るな!」と命令を飛ばす。全員の背筋が凍りつく中、フィリスがふと呟いた。「この地下回廊、ただの調査場所じゃ済まされないわね…」
突然、壁画が激しく光り始め、轟音を伴って壁面に亀裂が走る。ジゼルが厳粛な面持ちで「これが示す契約の紋章だ。王家の運命がここに刻まれている」と訴えると、場内の空気が一層張り詰めた。ミオは冷静さを装いながらも、内心では「またか…このタイミングで儀式が始まるなんて、まったく邪魔好きね」と心中で苦笑する。
一瞬の静寂の後、突然エランの呪印が眩い光を放ち、彼の身体に波紋が走る。「ああ、また俺の体が…くそ、月の満ち欠けがこんなに腹を立たせるとは」と苦々しく言えば、ミオはすかさず「あなたの体調管理は、論理的に考えても瑣末な問題よ」と辛辣にツッコミ、場内にコミカルな緊張感が走る。
そして、地下の深部へと迫る一行。ミオは一歩一歩、慎重な進行を命じながらも、心の中では「これが真実への入口。必ずや全てを暴いてみせる」と誓う。その決意と共に、地下回廊の影は次第に濃く、そして神秘的な笑いをも湛えながら、調査隊を未知の深淵へと誘い込むのだった。
暗闇の中、一筋の月光がかすかに差し込み、古代魔術の封印と王家の未来をめぐる運命の対決の序章が、ここに再び幕を開けた。読者よ、次の一歩で君はまた、驚愕と笑い、緊迫と解放の絶妙なジェットコースターに乗り込むことになる。
もう一歩、先へ――地下回廊の奥底で待ち受ける運命の扉は、今まさに開かれようとしている。