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漆黒の転生を祝す夜、暴かれし契約の真実5

 離宮の瓦礫は、今なお余韻を残すように静まり返っている。粉塵と砕け散った石屑が、闇夜の中に無造作に散らばり、かつての栄華を物語るかのようだ。だが、その平穏はあくまで見せかけ。先ほどの大爆発で乱れた魔力の残滓が、今も不規則な波動を刻んでいる。


ミオは、疲労と魔力の消耗に抗いながらも、必死にエランの手を握りしめる。彼の汗ばんだ手の温もりが、僅かな安心感を与える。互いの無事を確認するため、視線を交わすや否や、言葉は不要だった。

「これで…大丈夫かしら?」と、ミオがやや苦笑いを浮かべながら問いかけると、エランは皮肉交じりに答える。

「お前の魔術方程式も、今日ばかりはちょっと乱れたようだな。でも、俺はまだ持ってるさ。」

その言葉に、ミオは思わず苦々しくも笑っていた。


その隣では、フィリスが膝をつき、痙攣する体を必死に抑えている。王家の血が暴走し、制御不能な力に苦しむ彼女の表情は、恐怖と無力感が混ざり合い、見る者の胸を締め付ける。

「フィリス…しっかりして!」

と、ミオは優しくも厳しい口調で諭すが、フィリスの眼差しは虚空を彷徨っている。


一方、倒れたまま不気味な笑みを浮かべ、クラディオはひび割れた黒い石の欠片を強く握りしめていた。彼のその視線は、次なる一手を伺うかのように、あたりを見渡す。

「ふふ、これでまた一段上に進めるとでもでも?」

彼は嘲笑混じりの声で呟き、今後の策謀を思わせる不敵な笑みを浮かべる。


スペイラの姿は、爆発の瞬間に忽然と消え失せ、跡形もなく闇へと紛れてしまった。彼女の不在は、まるで闇組織の新たな襲撃を示唆するかのようだ。騎士団長のグレゴリーは、辺りを睨みつつ、重苦しい空気を切り裂くように声を上げる。

「これで終わりだと? そんな軽い口上で済むと思っているのか。今後の暗躍に備え、部隊を再編するぞ!」

その厳しい声は、既に荒廃した離宮に新たな緊張感をもたらし、誰もが次の動きを警戒せずにはいられなかった。


術師ゼオンは、結界の制御に全力を費やした末、力を使い果たし床に伏している。意識の限界まで追い込まれたその姿は、王宮内に潜む脅威の一端をも感じさせる。

「……ゼオン、戻れるか?」

ミオは心配そうに呟くが、ゼオンは静かに頷くと、かすかな微笑みだけを残して横たわり続けた。


そのとき、ふと離宮の奥底から、かすかに、低い囁きが聞こえた。まるで、王城地下に眠る何かが今にも覚醒しようとしているかのような、冷たい空気の中の不穏な響きだった。

「王城地下……何が待っているのだ?」

その問いは、誰の口からも発せられることなく、ただ闇に溶け込んでいく。


――突然、エドワード王子の冷ややかな声が、ブツリとその静寂を破った。

「王家の威信が、この瞬間に崩壊する嘘は通用しない。今は捻じれた運命に抗う時だ!」

彼の言葉は、まるで決死の覚悟を映し出すかのようで、周囲の空気に一瞬の熱気を走らせた。


ミオは、荒廃と混乱の中でふと、論理魔術の応用策を急遽練り始める。彼女の瞳が、再び冷静な光を取り戻すと、断続的にその魔術方程式が形を成し始める。

「このままでは、皆が消え去ってしまう。計算は正確に…!」

彼女は手を空中に突き出し、複雑な符号と流れる魔力が小刻みに応答する。瞬く間に、乱れた魔力の奔流が、一時的ながらも封じ込められていくのが感じられた。


エランは、再び顔をしかめながらもミオに絡め取るように言う。

「おい、またその理屈めいて…。だが、今は頼む。俺の腕輪が、また異常な疼きを見せ始めたんだ。」

ミオは苦笑いしながらも、小声で返す。

「分かってるわ。君一人でも、あの呪印の反動を耐えられるわけがないもの。」


そのやり取りの中に、皮肉と毒舌が絶妙に交差し、互いの苦境を笑い飛ばすかのような軽妙さが漂う。だがその背後には、満月の予兆とともに、離宮の奥底へ潜む“何か”への恐れが確かに存在していた。


そして、全ての者の視線が、一点に集中する。王城地下の謎めいた入口が、瓦礫の陰から静かに姿を現す。薄暗い通路の先には、次なる闇の兆候が、凍りつくような静寂とともに待ち受ける。

「次は、俺たちの思いもよらぬ展開が……」

エドワード王子の声が、遠くで震えるように響くと、誰もがその先に潜む運命への戦慄を感じた。


ミオは、満月が昇りきるその時、真実の鍵が導かれることを直感する。

「この一夜にすべてを賭ける覚悟、あるわよね?」

そんな彼女の問いかけに返すかのように、エランは苦笑いを浮かべながらも、拳を固く握りしめた。

「当然だ。どうせなら、余すところなく、この闇にぶつかってやるさ!」


今や、全員の運命は、静寂と混沌の狭間で絡み合い、次なる衝撃の瞬間を迎えようとしている。その刹那、読者の心拍数は一気に跳ね上がり、ページをめくる手が止まらなくなる。あたりに漂う恐怖と興奮の狭間で、笑いと皮肉、そして激しい衝突が、禁断の魔術と新たな謎を予感させる。


「さあ…次は何が起こるのか。もう一話、深い闇へと踏み込む時だ!」

その声と共に、離宮に巣食う未知の脅威が、満月の光の下で、静かに、しかし確実にその存在を感じさせる。


――運命の扉は、今、再び開かれようとしている。

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