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狂い咲く魔術の迷宮と血の系譜 4

「倒れるならせめて出口の前で倒れなさいっての!」


そう毒づきながら、わたしはかろうじて維持している通路の片側を駆け抜ける。背後では騎士団とゼオンが猛攻を浴びせてくる闇の魔術師たちを懸命に制圧中。とにかく数が多いから、こっちは一瞬たりとも気を抜けない。


「ほらそこのローブ! 下手な呪い撃ってる暇あったら、とっとと降参しろ!」

わたしがケンカ腰に叫ぶと、今まさに魔術詠唱をしていた相手がたじろいだ。ちょっと威嚇してやっただけだけど、効いてるっぽい。隙を突いた騎士が容赦なくタックルをかまして、あっさり床に押さえ込む。もはや闇の輩も消耗してるらしく、そこら中で悲鳴が上がりはじめた。


一方、フィリスは埋もれた瓦礫のそばで膝をついている。呪いの傷痕が疼くのか、腕から赤黒い光が漏れている。が、彼女は歯を食いしばって立ち上がろうとする。あの臆病だった子が、戦場の只中で必死に踏ん張ってる姿に胸が締めつけられる。


「フィリス、焦らなくていい。でもその力、ちゃんと制御しなさいよ!」

声をかけると、彼女はまるで子どもが大海へ飛び込みを決意するみたいに目を見開き、小さく笑う。すごいじゃない。血を巡る恐怖を、とうとう自分の“意思”で乗りこなそうとしてる。わたしの期待どおりよ。


そのとき、「陣の根本が狂ってるな」というゼオンの声が耳に飛び込んでくる。どうやら闇の術式にほころびを見つけたらしい。となると、作戦はシンプルだ。そこから理詰めで逆用すれば、全部まとめてひっくり返せる。フィリスの魔力をあえて起爆スイッチにしてね。


「危険だけど、やるしかないわ。大丈夫、わたしの言う通りすれば絶対に成功するから!」

わたしが鼻息荒く宣言すると、ゼオンは苦笑しながら頷き、あわてて詠唱を展開。フィリスはわたしの隣に来ると、自分の胸に手を当てて大きく息を吸う。呪いを力に変えるっていう死ぬほどスリリングな話だけど、怖気づいてはいられない。


「いくわよ、フィリス。その赤い怒りを、あなたの道具として使うの。いい子ぶるのは後にしときなさい」

わたしの声に呼応するように、フィリスの瞳が鋭く光る。次の瞬間、まるで地獄の底が抜けたみたいに、彼女の周囲から濁流の魔力が吹き出していった。天井が砕けそうな轟音の中、陣の中心で光が交錯し、瓦礫が跳ね飛ぶ。それでも彼女は最後まで立ち続ける。ああ、もう跳ね返りが連鎖してる。儀式もろとも闇の魔術師たちが一網打尽になりかけてるじゃない。


「おい、上出来だろ、これ?」

ゼオンが認めた瞬間、陣の要はズタズタに砕かれ、荒れ狂っていた魔力はゴボッと吸い込まれるように消え失せた。立ってるこちらまで耳鳴りするくらい急激な静寂が広がり、場違いなくらいホッとする。


しかし、問題はまだ残っている。わたしの横でひどく息を切らせているエランの腕輪から、あの忌々しい呪印の光が止まらない。しかもスペイラの言ってた「皇帝との契約を壊すトリガー」とやらが現実味を帯びてきてるんだから洒落にならない。


「くっ、こんなところで倒れてたまるか…」

エランが片膝をついて唇を噛む。その表情には明らかな痛みが刻まれていて、こっちの胸がぞわりと震えた。強がりの美青年が限界寸前? 漫画的には萌え展開だけど、リアルに見てるとさすがに心がえぐれるわ。


「まったく、見世物じゃないんだから早く治しなさいよ。手間かけさせないで」

わざと辛辣に言うと、エランは苦しい呼吸の合間に苦笑し、細めた瞳をわたしに向けた。ギリギリ保ってるって感じね。いたたまれないけど、いま助けられる術もない。一刻も早く地上に出て、ゼオンや騎士たちと協力して対処するしかないわ。


「スペイラは一足先にトンズラか。あんなに派手にぶちかましたのに、もう少し顔を出してみせなさいよね」

毒づきながら、わたしは周囲を見回す。闇の魔術師集団はほぼ片付いたし、フィリスも無事“自分”を取り戻してる。緊迫感はだいぶ和らいだはずなのに、全然安堵できないのはどうして? そう、奴らがどこかで次の手を仕込んでいる気がするんだ。


「ここに長居すりゃ危ない。建物ごと崩落したら笑いごとじゃすまないからな」

ゼオンが言うとおり、魔術陣の余波で地下書庫の床や壁はズタズタ。天井は亀裂だらけで、砂やら瓦礫やらがぽろぽろ降ってくる。まったく、どこまで地獄絵図を味わわせる気なの。


「急ぎましょ。フィリス、エラン、足は動く?」

二人が頷いたのを確認し、わたしは先頭に立って走りはじめる。後ろでは騎士たちが捕虜やら負傷者やらを押さえながら「道を開けろ!」と怒鳴っている。大合唱みたいでちょっと笑える。どいつもこいつも汗だくで、惨状具合においては全員仲良しこよしだわ。


今この瞬間だけは、命拾いした感覚がじんわり込み上げる。同時に、次の嵐はすぐそこに待ち構えてるんだろうな、と嫌でも分かってしまう。だけど、それこそがわたしの生きがい。面倒で厄介で、でも刺激的でやめられない。


「さあ、地上に戻って一息つこうじゃない。どうせまた新しい爆弾が転がってるんでしょ?」

皮肉たっぷりにつぶやけば、エランが弱々しく肩を震わせて笑う。フィリスは顔中ほこりまみれのまま、どこか晴れやかな表情だ。わたしもなんだかんだでにやけちゃう。この地下での死闘はとりあえず幕引きだけど、本当の決着にはまだまだ時間がかかりそう。


やれやれ、次はどんな事件が笑顔でやってくるかしら? 王家の血も呪いの腕輪もスペイラの陰謀も、潰すべき課題だらけ。でもいいわ、糧が多いほど燃え上がるのがわたしの性分。どこまででも付き合ってあげる。ほら、そこのあなたも首を長くして待っててよ。一緒にハラハラしながら、最高の結末へ向けて加速していくから。さあ、地上でまた会いましょう。まだ物語は終わらないんだから。

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