蒼穹に閃く鏡焔――離宮奪還の夜想曲4
離宮北翼――薄明かりの中、騎士隊がまたもや突如、正気を失い始めた。
「何だ、またかよ! こんなもん、ただの風の戯れだろうが!」
と、グレゴリー団長が剣先を振り回し、錯乱に陥る騎士たちを必死に奮い立たせる。しかし、彼の声は空虚な叫びにすぎなかった。
ミオは冷静な眼差しで、その様子を見極めながら奏でるように足を進める。地下深くへ続く階段の先に、彼女の論理魔術が捉えた怪しい魔力の流れがあった。
「ここに何か…邪な計略が潜んでいるわ」と、独り言のようにつぶやくと、指先から微光が螺旋を描き、壁面の刻印を優しく照らした。
エランもまた、疲労と苦悶を顔に浮かべながら、腕輪から伝わる激痛に耐えつつ、ミオの後に続く。
「まったく、俺の内側もガタガタだぜ……この契約、ほんとに笑えねぇな」と、苦笑い交じりの皮肉を吐き出すが、その声には覚悟が滲んでいた。
ゼオンが先導する中、地下の回廊は不自然な冷たさと、不穏な影を落としていた。
「ふむ…次元の狂い…まさに、この刻印が示すは、古代封印の再活性か?」
と、彼は独自の魔術測定を行いながら、軽い調子で語る。だが、その目は確固たる覚悟を映していた。
鏡の通路へ足を踏み入れた一行の前、突然、スペイラの配下と思しき兵が影から襲い掛かってくる。
「やれやれ、またお前らか。こんな暗いとこで、敵ぐらい安定してるなぁ」と、バカにするような声が空気を切り裂く。
エランの腕輪が痛みを増し、呪印が暴走しかける瞬間、ミオがとっさに分析の術式を展開する。
「こら、暴走するな! 理にかなった対策なら、俺たちの勝ちよ!」
と、冷静かつ毒舌を交えた一言。エランは苦々しげに笑い、「やれよ、ミオ。お前がいなきゃ、俺はもう…」と呟いた。
その矢先、地下全体に呪章の連鎖発動が始まり、不気味な闇の波動が増幅される。
フィリスは慌てた様子で光魔術を発動するが、その制御を失い、暴走寸前の光に包まれてしまう。
「こんなはずじゃ……! 私の力が暴君になるなんて、冗談じゃ済まされないわ!」
フィリスの叫びとともに、光と闇が激しくぶつかり合い、周囲の空気が一変する。
突如、地下の奥から傭兵魔術師バルディオ・ラグネスが颯爽と現れた。
「さて、どうだい? 俺様、錯乱中の騎士と暴走寸前の魔術師たちを一網打尽にできるか見ものだね!」
彼は肩の力を抜きながらも、その横暴な態度で火力の攻撃魔術を炸裂させ、混沌を一層激化させた。
エランは内心呆れ、「お前の登場で、本当に状況が面白くなると思ってんのか?」と皮肉交じりに返す。しかし、双方の攻撃が激突するたび、離宮地下はまるで嵐の目のように騒然とした。
その時、グレゴリーの率いる騎士団が救援に駆けつけ、激戦は一時の逆転を見せる。だが、背後でスペイラが冷たく笑いながら、古代封印の石柱に秘められた儀式を本格化させようとしていた。
「ほら、ほら、皆の者。こんなに騒いでいる暇があったら、真の計略が動き出しているんだぞ」と、彼女の声は冷酷かつ嘲笑に満ち、まさにざまぁをあざ笑うかのようだった。
フィリスの光魔術は限界を超え、地下の大地にひびが走り始める。崩れ行く壁の隙間からは、闇と光がせめぎ合う激しい混沌が滲み出し、まるで地獄の入り口を思わせる。
「くそ……こんな展開、許さない!」
エランは呪印の疼きを堪えながら、必死にミオに助けを求める。その瞳には、絶望とともに新たな決意が灯る。
ミオは一瞬の静寂を取り戻すと、深い呼吸をして冷静に状況分析を始めた。
「ここは…鏡の通路の奥、古の結界が再び乱れている。論理魔術と対策が、一致しなければこの大地は我らの足元から崩れ出すわ」
と、明晰な声で仲間に指示を飛ばす。その言葉には、未来への希望と、避けがたい破局への警告が同居していた。
しかし、その時――
地下遺跡が突如、激しい爆風に包まれ、全体が地響きのごとく揺るがす。
「フィリス、耐えてくれ! こっちはまだ、諦めるわけにはいかん!」
ミオは拳を固く握り、精密な結界を編み上げながら、必死に仲間たちを導く。
混乱の最中、バルディオは最後の攻撃を仕掛け、火花と爆風と共に怪力の魔術を解き放った。
「なら、俺様の出番だ! 全員、こちらに集中しろ!」
その一喝に、エランは契約の苦悶すら忘れ、己の全力を剣に込めて応戦する。
皮肉交じりに笑いながらも、その眼差しは真剣そのもの。
そして、崩壊寸前の地下遺跡。
フィリスが放った光がついに頂点を迎え、驚異の大爆発が地下全域を包み込む。
スペイラの陰謀は一瞬、闇へと消え、バルディオは薄闇の中に消え去る。
グレゴリー率いる騎士団は必死の救援を行い、今一度戦局を立て直すも、誰もが言わずにはいられなかった――
「これで一件落着だと思ったな? いや、まだこの離宮には、さらなる闇が潜んでいる…」
息を切らす仲間たちを前に、ミオは静かに宣言する。
「我々は、一歩一歩、この迷宮の謎を解き明かさねばならない。今日の戦いは、ただの序章に過ぎないわ」
エランは腕輪から感じる契約の呪印に苦悶を抑えつつ、苦笑いで応えた。
「おい、ミオ。次は、俺たちがお前の分析に勝てる日が来るのかもな。だが、今は、この混沌を乗り越えるしかねぇな」
闇の中、砕け散る石の欠片と輝く魔術の光が、未来への不確かな希望と恐怖を同時に映し出す。
読者よ、次なる一撃の衝動を感じたか?
この鏡の回廊に響く呪章の余韻は、まだ続く――
次章へと、我々は、さらなる闇の中へ歩みを進めるのであった。




