烈光の魔塔――崩れゆく血の呪縛と再生の光2
夜風が冷たく頬を撫でる中、ミオは足音を潜めながら石畳を歩いていた。父フェルディナンドの消息は相変わらず闇の中へ消え、胸中に不穏なざわめきを秘める。彼女の瞳は、冷静な論理と秘めた情熱で、これから訪れる危機に立ち向かう決意を物語っていた。
――「父さん、あなたの影をこの手で掴むのよ」
彼女のつぶやきは、誰にも聞かれることなく、夜の静寂に溶け込んでいく。
ゼオンから届いた報告は、すでに全員の心に火を灯していた。烈光の魔塔付近に漂う、黒い気配の存在――その言葉だけで、緊迫感が辺りを支配する。グレゴリー騎士団長は、数名の精鋭と共に塔への侵入ルートを丹念に捜査し、誰にも悟られぬよう慎重に動いていた。
待ち合わせ場所に集まったのは、エランとフィリスも加わる一行だった。エランは、腕輪の残骸に指を絡めながら、苦々しい笑いを浮かべる。
「また俺の不始末かよ。新たな力が出るたび、いつもこんな痛みを伴うなんて、灼熱以外にも俺に似合う罰が必要だな」
と、皮肉交じりの口調で吐き捨てるエランに、ミオは冷ややかな笑みで応じた。
「お前の灼熱な暴発で、闇さえも焼き尽くしてくれるなら、私にも頼りになるかもしれないわね」
その一言に、エランは一瞬、苦悶と期待の入り混じった眼差しを向けた。フィリスは、遠くの書庫から古文書の断片を確認しながら、王家の血が暴走する危うい均衡に思いを馳せていた。彼女の声は、厳かでありながらもどこか、皮肉まじりの冷静さを湛えていた。
「この文献が示す古代の契約――私たちが知らずに操っている血そのものだわ。無論、暴走させるわけにはいかない」
その言葉に、ミオは頷く。自身の血契の正体を暴く手がかりとして、文献の解読は急務であった。
一方、薄暗い路地裏では、スペイラが不敵な笑みを浮かべ、こっそりと魔塔への潜入を図る。背後から聞こえる足音に、彼女は小馬鹿にするような声で呟く。
「こんな状況で、あたしだけが自由に動けるなんて、奇麗な皮肉ね。皇帝の闇だの、契約だの、どっちが先に崩れ落ちるか、見ものだわ」
その毒舌に、誰も答えることはできず、彼女は闇に溶け込むかのようにゆっくりと歩を進めた。
突如、魔塔の入口付近に、何者かが仕掛けた罠が発動する。床一面に散乱した瓦礫と、炎のような魔力が走る回廊。ミオは俊敏に反応し、論理的思考の先を読んで罠の解除に取り掛かった。
「くそ、これ以上の妨害は許さない……」
エランもまた、自らの覚醒しつつある新たな力を制御しながら、そして苦痛と戦いながら、隙を突こうと試みる。二人の会話は、荒々しくも互いをからかい合うような鋭い毒舌に満ちていた。
「ほら、エラン。今日はいつもよりお前の灼熱が空高く跳ね上がっていないか? 俺たち、真面目にやろうじゃないか」
「お前もだよ、ミオ。分析だけじゃなく、たまには熱くなってもいいんだぜ。だが、父の影を追う以上、俺たちの血契もまた揺れているというのは否めないな」
そのやり取りの中に、苦しみと希望、そして鋭い皮肉が込められていた。足元では、グレゴリーが低い声で仲間に指示を飛ばし、慎重ながらも大胆な一歩を踏み出す。彼の真剣な眼差しは、まるでこの暗躍する城壁が、次第に崩れ落ちるかのような不安を映していた。
そして、ついに魔塔の暗い回廊に、突如として複数の影が忍び寄る。敵か味方か、瞬時に判断できぬその動きに、一同は息を詰めた。ミオは鋭い感覚で、その危険を察知すると、即座に魔術の符を唱え始める。
「血の契約……私の意志で、この闇を切り裂く!」
その言葉と共に、彼女の魔力が指先から放たれ、赤い閃光が黒い影を照らした。エランは咆哮と共に、自身の力を解き放ち、敵を押し返す。路地裏に潜むスペイラの影すらも、妙なまでに滑稽に映る瞬間だった。
「おい、やりやがったな! これが俺の新たな力だ! お前の腹の底からも、何か叫ばせてみろってんだ!」
互いに罵り合いながらも、命がけの攻防戦は熱気を帯び、全員の心拍数を一気に上昇させた。瓦礫が舞い、魔力が爆発する中、ミオは決して死を恐れず、むしろ生来の好奇心と挑戦心で、父フェルディナンドの陰謀に真っ向から挑む覚悟を見せた。
「この血の呪縛を、もう一度、私が打ち砕いてみせる!」
高鳴る鼓動と共に、戦いの渦は一層激しさを増していった。出口なき回廊の先、そして未知の真実が待つ烈光の魔塔。その中で、ミオと仲間たちは迷いや恐怖を振り払い、ただひたすらに前へと進むのであった。
読者よ、次の瞬間、熱く燃え上がる運命との対峙に立ち会う覚悟はあるか?
もう一歩先へ、闇と光の狭間で――全ては、ここから始まるのだ。




