Read a sign 斥候
長野県長野市戸隠から東京へ向かう車中。
私は晋太郎氏と何を話せば良いのかわからず、車から見える景色を眺めていた。
「なあ椿、こんな事を言うのもなんだが、俺のことはお父さんと呼んでくれないか?」
「わかりました、お父さん」
「おーい。心がこもってませんよー!」
「ふっ。すみません、何をどうすれば良いのかわからず、今は戸惑っています」
「確かにな、アイツらが椿にしたことを考えたら、俺の事を信用しろって言うのが無理があるよな」
「いえ、信用はしております。ただ、今はこれからの生活はどうなるのかと思いました」
「ああ、家の場所は同じだ。でもリフォームをしたから、椿の部屋もあるぞ?」
「プレハブをリフォームですか?」
「はぁ? なんでお前を物置に住ますんだ? 椿は俺の息子だぞ?」
「ありがとうございます」
この子の心は荒んでいるな…。
「あと、椿には妹がいる。名前は綾乃だ。俺が言うのもなんだが、俺に似て可愛いぞぉ」
「そうですか」
「おい、今のはツッコミを入れるところだろ! あははは!」
いや、わからないですよ? お父様?
「ちなみに椿が気に入ったら、綾乃と結婚をしてもいいぞ? 椿は良い男だからな」
「結婚ですか…よくよく考えておきます…」
結婚って、何を言っているんだ?
私的にはりりちゃんを娶りたいのだが…。
他愛のない会話をしつつ、私たちは東京へ到着をした。
12月25日木曜日。
今日はクリスマス。
車をガレージに入れ、ってここは私が暮らしていたプレハブがあった所ですね?
きれいに整地されたガレージとなっている。
ガレージから玄関までは約5メートル位だろうか?
ここはあのクソババアがガニ股で去っていった道筋だ。
「さあ椿、玄関を開けてごらん」
私は言われるがままに玄関に手をかける。
扉の向こうに2人いる、火薬の匂いもする。
「お父さん、扉の向こうに二人の気配です。火薬の匂いもします」
私はお父さんに小声でいった。
「あぁ…サプライズ失敗か…」
そう言ってお父さんが玄関を開けようとした。
私は咄嗟にお父さんの腕をつかみ、自分がドアを開け、腰に隠していた短剣をかまえた。
「えーっと、おかえり?」
剣をかまえる私に女性が言う。
「ごめん椿、二人はお前のお母さんになる人とお前の妹の綾乃だ。椿を驚かせようと思ったんだ。火薬の匂いは二人が持っているクラッカーだ」
「火薬の匂いって、椿くんはわかったの?」
お母さんは驚いたようにお父さんに聞いている。
「扉の向こうに二人いて、火薬の匂いがするって。すごいな椿は」
「あらあら、サプライズ失敗ね? さあ上がって、ご飯にしましょう」
そうして私たちは食卓に着いた。
以前の家とは違い、白い壁紙になっている。
小分けされていた部屋も、リビング・ダイニング・キッチンと筒抜けになり、広々としていて開放的だ。
「さあ食べて、今日はクリスマスよ。椿くんもたくさん食べてね」
「はい、ありがとうございます」
「もう、硬い硬い! 私のことはお母さんって呼ぶのよ? わかった?」
「はい、お母さん」
「この子は綾乃、椿くんの妹よ」
「はい、綾乃さんよろしくです」
あぁ、私はこの子と結婚をするのか?
「あの、わた…僕は綾乃さんと結婚をするのですか?」
お母さんとお父さんがワインを吹き出した。
同時に綾乃さんは鶏の唐揚げを落とす。
「え? いや! 違うんだ! 綾乃は可愛いから、椿が気に入ったら結婚しても良いよって!」
「あんた馬鹿なの!?」
お母さんがワインのボトルをお父さんに向かって振り上げた。
えーっと…この家ではお母さんが強しですな…。
食事が終わり、テーブルの片付けを手伝う私。
「あら? 珍しい、いつもは手伝ってくれないのに」
お母さんが綾乃さんを冷やかしている。
「そういう訳にいかないじゃん…」
綾乃さんが小声で言った。
私がお手伝いをしているので、という事だろう。
「そうそう椿くん、明日の11時30分に第二公園に行ってね。 って言えばもうわかるでしょ? 楽しみだねぇ」
あぁ、わかりますとも!
りりちゃんに会える!
これこそががサプライズってやつだ!