Narrow snow 細雪
私は学校で倒れ、救急車で緊急搬送されたそうだ。
倒れた原因は 『栄養失調による意識喪失』。
高度成長期と呼ばれるこの時代の産物が私だ。
まぁ嫌味だが…。
そんな訳で私は今、この病院で至れり尽せりされている入院患者な訳だ。
そして驚いたことに、この病院には看護師の他に、メイドもいるらしい。
私は子供のうちから、こんなに甘やかされても大丈夫だろうか?
中身はトータルで25才は超えているけどね。
それはさておき、このメイドさんの妹がとても可愛い。
年にして4〜5才だろうか?
毎日、「ツバキィ〜、パラルールやろ!」と問いかけてくる訳だ。 というか、何故パラクールを知っているんだい?
「椿さん、お体のほうはいかがですか?」
メイドの影山さんが笑顔も見せずに聞いてくる。
実は私はこの人が苦手だ。
人の心を見透かすような。いや、実のところ本当に見透かしていそうなのだ。私がご飯を食べていると、「城紙家当主の家ならもっと美味しいものが食べられますよ?」と言ってくる。
マジか? と思うと、私の背後から「マジですよ」と私の耳元で囁いてくるのだ。
キャー! ガチ怖ーい!
☆ ☆ ☆
はい。私、城紙 椿は只今、長野県の戸隠という場所に来ています。
日曜祭日も関係なく毎日、朝八時から十五時まで勉学をし、十六時から十九時まで拳闘と剣術を習っております。
中でも日本刀を使用した居合術は私に合っているようで、メキメキと上達をしております。
戸隠からは以上でーす!
てか、異常だろ!?
戸隠は異常だぁー!
なぜ小学生に中学生以上の勉強を教えるんだ? てか今日、勉強をした化学Ⅲって高校生じゃないのかい?
私は小学生だぞ?
化学じゃねぇ、理科だっつーの!
そして問題は授業の後だ!
魔力を身体に纏うって、この世界の地球に魔法は無いはずでしょうが!
ガチ疲れたー。
でも、この生活もあと少しか…。
雪が降るころ、12月の最後の週には東京に戻れるからな。
りりちゃん何しているかな…。
りりちゃんは中学生か…。
ボーイフレンドとかできちゃったかな…。
あぁ~もぉ~、私は女だっちゅーの!
男だけど…。
とにかく今は頑張るしかないな。
そして12月…。
私は祖父、城紙 宗一郎に呼ばれ、城紙家の本宅に来た。
細雪の降る中、大鳥居から繋がる本宅までの石畳。
城紙家って神社なのか? 本宅って神殿?
200mほど歩き、最初の門が見えた。
時代劇で見るような木材でできた立派な門。
横の小さな扉を抜け、門の中に入ると変わった形の石が敷き詰められていた。
足場石? ステッピングストーン? これも時代劇ではよく見るものだ。
そして、50m位歩くと玄関が見えた。
その前には初老の男性と、病院にいたメイドの影山さん。
初老の男性は二度お会いしたことがある。
私のお爺様だ。
私はお爺様の前まで行き挨拶をする。
「ご無沙汰しておりますお爺様。この度は手厚い保護をして頂き、感謝に堪えません。お陰様で、各先生より勉学ともに武術も合格を頂きました」
「うん、よくがんばったな。これよりお前は東京に戻り、晋太郎の家で過ごしなさい。お前の叔父を名乗った、あ奴は国外に追放したから何も案ずることはない」
キター! 国外追放ぉー! どんな権力者だよ!?
我が祖父ながら怖いな…。
「それでは最後の試験だ。今から一時間以内に、これと同じお札を持ってきなさい」
は?
「お札ですか?」
「何枚あるのでしょうか?」
「一枚だ」
「わかりました。それでは終わらせていただきます」
私はそう言って、影山さんの前掛けの裏にあるお札を取らせてもらった。
「ははははは! 大したものだ! なあ影山!」
「なぜわかったのです?」
影山さんがらしくもなく、動揺している。
「風が吹いているのに、影山さんのエプロンのそこだけ何かがあって、風に靡いていなかったから?」
「あはははは! いやぁ愉快、愉快。さあもう行きなさい。鳥居のところで晋太郎が待っておるぞ」
「はい、ありがとうございました」
私はお爺様と影山さんに一礼をし、鳥居まで走った。