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⑥ウェストの悪ふざけ(?)

 

「問題ありませんね。では参りましょう」

「あ、あの、お待ちを……」


 更になんとか食い下がろうとする使者をサファイアは説き伏せた。


「いずれにしても、一度は皇帝陛下にお目通りし、この姿を確認していただく方がよろしいでしょう。その後は陛下のご判断におまかせします」

「は、はあ……まあ確かに」

「それに、帝国に滞在する間に元に戻るかもしれませんし」

「えっ!?」

「戻る可能性が……あるのですか!?」


 これには使者団のみならず、スタッグも声を出した。サファイアは珍しく曖昧な言い方をする。


「……私も咄嗟に魔法陣を全て解析できたわけではありませんので、おそらくは、としか。ウェスト、お前も同意見でしょう?」

「は。あの魔法陣の障壁には中を視認しづらくする効果もありましたが、かろうじて永続魔法ではないことは読み取れました」


 魔法師団副長のウェストが請け合った事で、その場にいた残りの皆がへなへなと力を抜いた。先ほど二度倒れた男など、青くなっていた顔に血の気が少し戻っている。今まで皇帝に斬られると思っていた首が繋がる希望が湧いたのだろう。


「では、そのうちに王女殿下は女性に戻られるのですね!?」


 希望を滲ませた言葉をウェストは容赦なく断ち切る。


「ええ、ですがいつかはわかりません。数日なら良いですが数ヵ月や、数年、最悪十年先ということも」

「十年……」

「一応、現場に残してきた魔術師と騎士とで魔方陣の調査をさせていますが……」


 ウェストは顎に手をやり、厳しい表情になった。


「陣は発動後殆ど消えていましたから、そこから魔法を解析して解除するかかけ直すのは厳しいでしょうね。あの犯人、ローブの男を探しだして魔法を解除させた方が早いかもしれません」

「それは勿論そうだ! 犯人は絶対に捕まえたい……が」


 再び空気が重くなる。何せローブの男の鼻先と顎部分くらいしか見ていない。彼を見つけるなど雲をつかむような話だ。


「サファイア殿下にこのような真似をしたのは、今回の婚姻を阻止したい連中だろう。我が国以外でこのような高度な魔方陣が展開できるとなると西のミラージ王国か、南西の聖ガラツ国の手の者か……」


 スタッグが指を折りながら心当たりを口に出すが、ウェストは苦笑いをしながら否定する。


「いや、どちらにせよ、訊いたところで『自分達の仕業だ』と言う国はないでしょう。王族に魔法をかけるなど宣戦布告に近い行為ですから」

「……確かにな」


 しかも、サファイアは帝国に嫁入りするところだったのだからスラーヴァ王国だけではなく帝国にまで喧嘩を売るのと同じ。犯人は恐らく二度と現れまい。


 ほぼ全員が諦めて目を伏せる。スタッグも重苦しい気持ちだった。サファイアの事もそうだが、期せずして女性になってしまった自分の事も悩みの種だ。いつ元の身体に戻れるのかわからないのは、いかな勇猛な騎士団長といえど不安が募る。その彼に向かってウェストが微笑みかけた。


「こうなるとスタッグ騎士団長殿が巻き込まれたのは良かったのか悪かったのか。サファイア殿下よりも貴方の方が見た目の変化が激しいので、魔法が解ければすぐにわかりますからね」

「……」


 魔法効果の判定をする便利な道具扱いされ、スタッグはむうと口を真一文字に引き結ぶ。


(つーか、なんでコイツさっきからニヤニヤしてるんだよ。殿下が男性になられたなんてお国の一大事がそんなに面白いのか!?)


 そう。実はウェスト副長はこの事態を少々面白がっていた。彼が騎士団長の真っ直ぐ過ぎる性格を以前から気に入っていたとは、スタッグは知る由もない。


 ついでに、ウェストの好みのタイプが背の高い女性である事も。



 ★



 この騒ぎの他は何事もなく、一行は帝国に到着した。ところが。


「サファイア様を後宮にはお迎え出来かねます」

「何故だ!?」


 スタッグの問いに、後宮の女官長はきっぱりと答えた。


「我が国の後宮は、皇帝陛下以外の男性は足を踏み入れてはなりませんので」

「は……」


 帝国に到着してすぐに、もう一度女官たちによってサファイアの身体が検められた後、一行は皇帝陛下に謁見した。だがサファイアが少年になったと知った皇帝の態度はけんもほろろ。逆に五人の妃たちは興味津々で六人目の妃になる予定だった美少年を眺め、こう言ったのだ。


「まあ、こんなに可愛らしいのに、本当に男の子なの?」

「サファイア様、仲良く致しましょうね」

「わたくしたち、貴女を歓迎しますわ」


 スラーヴァが密かに帝国に放っていた密偵からの情報では、五人の妃たちの仲はあまり良くないという話だった。それぞれが自分が産んだ子供を皇帝の後継にと考え、後宮で争っているかららしい。その彼女らが「仲良くしましょう」と言う。

 これは罠で、言葉通りに取ってはいけないのか、それともサファイアが男ならライバルにはならないから味方に引き入れようという意味なのか、女の世界に疎いスタッグには計りかねた。


 そして嫉妬深い皇帝は少なくとも妃たちの言葉をその通りの意味に……もっと言うと「()()()()()()()()恐れがある」という意味に取ったらしい。


「サファイア様には客人用のお部屋を用意させて頂きます」


 恐らく皇帝から指示を受けたであろう女官長により、後宮には入れなくなってしまったのである。

 ウェスト魔術師団副長はサファイア用の客室に入ると笑いだした。


「くくく……皇帝はお妃がたが浮気をするとでも疑ってるんですかね? 十二歳の、男になりたてのサファイア殿下を相手に?」

「馬鹿馬鹿しい。あの皇帝は政治と戦略の手腕は一流なのだろうが、自分の妃と信頼関係も築けていないのだな」


 吐き捨てる様に言ったスタッグを見ながら、またもウェストがニヤリと笑む。


「しかし、困りましたね。このままでは殿下が女性に戻らない限り嫁入りもできませんし、我らと我が国は微妙な立場です。スタッグ騎士団長、代わりにあなたが後宮に入れば良いのでは?」

「!」


 ウェストの笑えない冗談に、スタッグはぷりぷりした。


「バカを言うな! 俺では皇帝の好みの正反対だろうが!!」


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