プロローグ
「スタッグ団長! 俺と結婚してください!」
「団長! 待ってください」
「待たないし結婚もしないっ!!」
王宮の庭を、ドタドタと大きい足音と砂ぼこりをあげながら走る一団があった。最初こそ何事かと皆が振り返ったが、今では「ああ……」と呆れたように目を逸らす。ここ数日はお馴染みの光景だからだ。
スラーヴァ王国が誇る二つの牙、それが魔術師団と騎士団である。騎士団員は皆が硬派で知られる一団だった筈なのだが、何故かその騎士団員たちがこぞって一人の女性を追いかけまわしているのだ。
追われている女性は赤い短髪に隻眼、見上げる様な高身長とおよそ女性らしくない。大きい胸を窮屈そうに騎士服に収め、全力で走っている。ある程度追っ手を引き離してからくるりと振り返って叫んだ。
「お前らいい加減にしろ!! それでも勇猛果敢で知られる牡鹿騎士団のメンバーか! 女の尻を追いかけて恥ずかしくないのか!?」
「女なら誰でも良いんじゃないです!!」
「俺、ずっと団長に憧れてました!」
「俺もです! 初めては団長としたいんです!」
団員たちが目を血走らせて言い募る。団長と呼ばれる女性は吠えた。
「俺も初めてだが、絶対お前らとはしねぇぞ!!」