小説家大蔵正蔵編
雪に閉ざされた山小屋、ここにはある大物小説家が小説を執筆する為に都会の喧騒を離れ訪れていた。
小説家大蔵正蔵、ある文芸賞で選考員を務めるほどの男だ。
正蔵の机に置かれた数百枚の原稿用紙には一文字も書かれていない。
正蔵、意を決して万年筆を手に取る、真っ白な原稿用紙に「あ」「い」「う」と書く、正蔵の耳元にささやく声「先生は50音の練習をなさっているのですか?」
「うわ、やめろ」と言って席を立つ正蔵、周りを見渡すが誰もいない。
「先生「う」の次はなにかおわかりですか?」と正蔵の耳元でまたささやき声が聞こえる。
「そ、そんなことわかっている、出てこい松原、松原!どこにいる!」
目を覚ます正蔵、額は汗で濡れている。
「夢か」とつぶやく
正蔵、窓を開けるとあたり一面銀世界。庭も雪に埋もれており境界線もわからない。
「ここに来れるわけない」と正蔵。
銀世界に人影が見える。
湯水亜里沙が雪の中を歩いている。
正蔵がリビングの扉を開くと、亜里沙が朝食の支度をしている。
亜里沙が正蔵に気づき、「おはようございます、先生」
「ああ、外で何をしてたんだ?」
「倉庫に食料を取りに行ってまいりました」