転生しました
「……」
わーとっても綺麗、お姫様が眠るベッドの天蓋みたい……
ん?にしてもなんでそんなものが見えるんだ?昨日、寝た記憶は……………
「はっ?え?」
咄嗟に自分の手を見ると真っ白で小さな手。
これは……もしかして、必死に脳が昨日の記憶と今見えるものを照らし合わせる。
「あああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
脳の処理が追いついた時部屋に少女らしい甲高い声が響いた。
◇◆◇
キラキラと輝くビルの下私は疲労困憊で歩いていた。ここ数日のほぼ徹夜に近い仕事のせいで足元はおぼつかない。
自宅までの道が果てしなく遠く感じられる。
私は今まで平凡な人生を歩んできた。面白みのない絵に描いたような普通。そんな人生だったからかこの徹夜明けの疲労感すらとても刺激になるとすら思ってしまう。仕事はやりたい事をやれているからか、とても楽しい。そう、たとえ上司のミスでデータが全て吹っ飛び、全て一からやり直しになろうと、私の考えたプロジェクトを同僚に奪われようとも。
不満は……無いわけではない。いや大いにある。だけどその不満も得意の作り笑いで上手く包み隠してやっている。そうだ、これだけ頑張っているのだから何か適当に願えば叶うんじゃないだろうか。徹夜のせいでの頭が回っていなかったのだと今ならわかるがその時は本心でそう思った。
『超絶美少女で平凡とは無縁の人生を送らせてください!』
◇◆◇
──マジで叶っちゃったよ、これ……神様?!本気にされたんですか?自分で言うのもなんだけどあんな願いを?!
もっと叶える願いあったんじゃ?いや、嬉しくないわけじゃないけど!!!!めちゃくちゃ感謝ですけど!!!
私が一人脳内で再び叫んでいるとドアが壊れるような勢いと音で開いた。
「お嬢様?!どうなさいましたぁぁぁ!」
どういう事?えっ、なになになに?あっ、私が叫んだから?
混乱している間にぞろぞろと十数人の使用人さんらしき人達が集まっていた。しかも皆さん息を切らせているから多分相当急いできたようだ。うん、切実にごめんなさい。
「あっ、えっとそのっ………」
「ゆっくりで大丈夫ですよ~」
使用人さん(仮)は優しく手を握りながら落ち着かせようと背中をゆっくり叩いてくれる。
なんか凄く子供扱いされてる気がする。心はしっかり大人だからなんか少し恥ずかしいものがある。
にしても、本当の本当に転生?だとすれば記憶のない私はこれからどう生活すればいいんだ?
私が誰なのかも、この世界の常識も分からないこの世界で生きていけるのだろうか?
今までのほほんと生きてきたからか余りの情報量に……私の脳はショートした。
「えっ?あの?お嬢様?!おじょ………」
遠くから焦る使用人さんの声を聞きながら私はベッドで気絶した。
◇◆◇
「ティア!」
再び目を覚ますと部屋には気絶する前までは居なかった、ザッ貴族とでも言わんばかりにキラキラしい男性がいた。
顔はとんでもなく整っていて髪は少し燻んだ赤……所謂、蘇芳色っていう感じで余裕のある大人っていう印象だ。
いや今まで見た事ないですよ。こんなイケメン。流石異世界、よく漫画とかで登場人物全員美男子or美少女なんてことがあるけどマジで皆んな容姿端麗さんばかりなんですか?!
っていうかこの人『ティア』って誰か呼んでたよね?目線的にもしかして私?
「は………い?」
「体調は?おかしい所とかない?」
おかしい所しかないんですけど………まあ流石にそんな事言えませんよね、
「多分、大丈夫です」
「本当に?ティアがいきなり叫んだ後に気を失ったって聞いて心配で……」
確かにいきなり叫んで気を失って、って気が狂ったようにしか見えないし心配するよね。
あれ、もしかしてさっきの『おかしい所とかないか』って『(頭の)おかしい所とかないか?』って意味?
──にしても今更だけど、この人誰だろう?
気が狂っているように見えているなら今のうちに記憶ありません!ってぶっちゃけた方がいいのでは?うん、よし、行くぞ……
「あの……どなたですか?」
「ぇ?」
あ、めちゃくちゃポカンとしてる。そりゃあ、いきなり記憶喪失になってたら混乱するよね。大丈夫かな?この人。
「……本当に?」
「ごめんなさい本当に分からないんです……」
「そう……か」
そう言った途端、顔が悲嘆極まりないと言った様子に歪んだ。
その顔を見ていると何故か私まで泣きそうになってくる。
「……ごめんなさい」
「いや、大丈夫だよ、私の名前はウィリアム・オルティス。君のお父様だ」
「お父様?」
「ああ、そうだよ」
父様に柔らかく微笑みながら抱きしめられる。
このイケメンさんが父親なんで正直全く実感がないし、なんとなく予想はしていたけどめちゃくちゃ横文字の名前……覚えられるか若干不安です。にしても父様からめちゃくちゃいい香りする!!顔が良ければ香りもいいんですか?!
「そして君はセレスティア・オルティス、伯爵令嬢だよ」
「え?」
今なんと仰いました?伯爵令嬢?それってつまるところ貴族?
無理無理無理!社交界とかやっていく自信0ですよ?!
「少し混乱してしまうよね、ゆっくり、少しずつ覚えていけばいいんだ」
とても優しい温かい声に、気がつけば頬が濡れていた。
不安からか今日は異様なほど涙腺が緩い気がする。私は父様に抱き締められながら泣いた。……その感覚は何処か懐かしさを感じた。