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アニメ

作者: 七草かぼす

初めて投稿しました!

よろしくお願いします!

10分くらいで読めるので、気軽に読んでいただけたら嬉しいです。

一組のカップルが夏祭りに来ていた。

祭りは終盤に差し掛かり、締めの打ち上げ花火が始まろうとしていた。

二人は芝生の上に座り、たわいもない話をしていた。

話しながら男は昔のことを思い出していた。たまにすれ違う幼馴染に声をかけようかとも思うが、迷惑かと思い遠慮してしまう。

「小さい頃から夏の終わりには毎年必ずと言っていいほどこの祭りに来てたんだ。ほんと、いろんな人と来たなぁ。家族とか、友達とか……。」

「恋人は?」

女は小馬鹿したような笑みを浮かべて言った。

「……。」

「ぷっ、どんまーい。まあ、モテないもんね。」

「失礼な!あるよ!……一回だけな……。」

「『あるよ!』ってめっちゃ力んで言ったくせに、一回だけかい。」

「うっせーな、ほっとけよ。……。うそ。

恋人と行ったことはないよ。とっさに見栄張っちまった。ただおれが片想いしてただけだよ。」

「ありゃりゃ、お気の毒に。じゃっ、私がこの祭りでの恋人第一号だね!おめでとさーん!」

「……はいはい、ありがとさーん。

……ほんとは、この祭りで彼女と恋人になろうと思ってたんだ。聞いてくれる?おれの切ない話。」

「んー、いいよ。他にすることもないし。」

男は少し遠くを見つめ、昔話を始めた。

「彼女とは本当に良く気があった。休みの日にはよく2人きりで遊んだり、勉強したりする仲だった。その時おれ達は中学生だっから、そんなに贅沢な遊びができたわけでもなかったけど、一緒にいるだけでとにかく楽しかった。

最初の内はただの友達で、馬が合うだけだと思ってた。でも、そのうちお互いの悩みを相談し合うようになって、深く関わるようになっていったんだ。

ほんとに色んな話をした。おれは勉強のこととか、部活のことを相談することが多かったな。今思えばほんの些細なことだけど、あのときのおれにとっては、他の人に言えないおっきい悩みだったんだ。

けど、あっちの悩みの方がもっと、ずっと大きかった。彼女の両親が不仲で離婚することになったんだ。彼女は本当は離婚して欲しくなくて、止めたいんだけど、色々考えて口に出せずにいたんだ。大人の問題に口出ししていいのか、とか、二人にとって離れて暮らすことが幸せな選択なんだとしたら自分は黙っておくべきなんじゃないかとか、って考えるけど、やっぱり離婚だけはして欲しくない。そんな複雑な気持ちを打ち明けてくれた。おれの家族はずっと仲良しだったから、どんなものかいまいち実感が湧かなかったけど、自分なりに考えて、一生懸命彼女を励まそうとした。大したことは言えなかったけど、とにかく親身になって話を聞いて、辛い時は一人で悩まずに頼って欲しいって伝えたんだ。そしたら、いつも明るくて暗い顔なんて滅多に見せなかった彼女が涙を流したんだ。そしておれに『ありがとう。出会えてよかった。大人になってもずっと一緒だよ。』って言ったんだ。

その時にはおれの気持ちはもう止められはないものになっていた。守りたいと思ったのか、とにかく彼女が凄く特別な存在になったんだ。それに、あんなセリフ言われたら誰でもその気になっちまうだろ?そうして、この祭りの打ち上げ花火を見ながら、思いを伝えようと決めたんだ。

結果はさっき言った通りさ。いや、もっと悪いな。

最初の花火が打ち上がった時、本当に幸せだった。あんなに美しいものは他にないと思った。壮大に開いては消えていく花火と、それに照らされる彼女の横顔。ずっとこの時が続けばいいと思った。

おれの計画では、花火の中盤で想いを伝えて、最後のいちばん盛り上がる所を二人でラブラブしながら見るはずだったんだ。

悲惨なもんだったよ。俺が想いを伝えると、彼女はびっくりした様子で、『えっ、……ごめん、その気持ちは嬉しいんだけど、あなたとは友達でいたいというか……。ごめん、今日はもう帰るね。』って言って逃げるように俺から離れていったんだ。今でもはっきり覚えてる。彼女が帰った後の花火の味気なさ、笑っちゃいそうだったよ。同じ花火でも五分前には世界一美しいもの、五分後にはただのうっとうしい燃えカスだぜ。ほんと、笑っちゃうよ。

それでも、その時は時間が経てば、恋人にはなれなくても、またいつものように話せるようになると思っていた。でも、もう戻ることは無かった。彼女から話しかけてくることはなくなったし、おれから話しかけてもすぐに会話は終わって、彼女はどこか申し訳なさそうな、怯えたような顔をするんだ。

しばらくしたら諦めがついた。俺が間違った選択をしたんだ。そのせいで、あの美しかった花火はその後に来る悲劇の引き立て役になってしまった。ほんと、馬鹿だったよ。

それにしても、あんなに仲が良かったのに……。考えてみれば彼女だけじゃないんだよな。前はすごく仲が良かった友達も、今会うと気を使って話しかけられなかったり、どこかよそよそしく接してしまったりするんだ。こんなことになるなら、あのとき『ずっと一緒にいよう』だなんて言わなければよかったと思うんだよ。」

女は黙って聞いていたが、男の話が終わったと察したら、ゆっくりと口を開いた。

「そっかー。確かに、あの頃はあんなに仲良かったのに、って人はいるよね……」

ヒュゥゥーーーー、、、ドーーン!

その時、一発目の花火が打ち上がった。

「わぁ……。すごい!きれいだね……。フフフ、さっきは『恋人と来たことないんだー』って言ってバカにしちゃったけどさ、実は私も男の人と二人きりの花火は初めてなんだ。」

女は心底うっとりとした様子で男の肩に頭をのせた。

男はドキッとした。

「なんだよ、サバサバで毒舌かと思ったら、女らしいとこもあんじゃん。」

「失礼な、私だって正真正銘の乙女だっつーの。」

「いや、『だっつーの』とか言う乙女がいてたまるか。」

二人は笑いあった。

「なぁ、」

「ん?」

「俺たちは、このまま、ずっと一緒に居られるのかな?」

「んー?さぁ、先のことはよく分かんないよ。」

予想外の答えに男は裏切られたような気持ちになった。まるで甘えてきた猫を抱き上げたらいきなり顔面を引っかかれたようだった。

「はぁー、なんだよ。いい空気だから聞いてみたのに。なんだよその答え。」

「いやー、だって、実際分かんないし。そりゃ、今はお互いずっと一緒にいたいって本気で思ってるだろうよ。でも、例の彼女のときだって、きっとお互い本気でずっと一緒だと思ってたよ。それでも今は違う。ほかの友達だって、どーせコイツとは会わなくなるだろう、なんて思いながら付き合わないでしょ。でも、結局今は疎遠になっちゃってるんでしょ?やっぱり、未来のことなんて分からないよ。」

「そりゃそうだけどさ……。あー、もーいいよ。おれだってそうだと思うけどさ、それでもお前とだけは違うんじゃないかって、ほんとに信じてるから言ったのに……。」

「あー、ごめんごめん、そういうことじゃないの。」

「じゃあなんだよ。」

男は荒々しく聞き返した。女が答える。

「さっき言ったみたいに、未来のことは分かんないよ。そりゃ今はずーっと一緒に居たいと思ってる、それは本当だよ。でも、それはあくまで今の気持ち。これからいくらでも変わるかもしれない。だから、あなたとは一緒にいたいけど、安易にずっと一緒だなんて言えないよ。」

「そっか……。まあ、そうだよな……。変な事聞いて悪かった。忘れてくれ。ちゃんと考えて答えてくれてありがとな……。」

明らかに不満そうな表情を浮かべる男に、女はしっかりとした声色で言った。

「でもね、これだけは絶対言えると思うんだ。」

大きな花火が一つ、ふたりの頭上で轟いた。それを見上げ、微笑みながら女は言った。

「私は、今、間違いなく幸せだよ。」

男はいきなり死角から鈍器で殴られるような衝撃を受けた。さっきまでの沈んだ気持ちは彼方へ吹き飛び、代わりに嬉しさと恥ずかしさの入り交じった暖かい感情が胸の奥からどくどくと溢れ出た。

「そう、私が言いたいのはそういうこと。大切なのは『今』なんじゃない?それだけはずっと変わらないと思うんだ。

さっき話してくれた話だって、あなたは悲劇だって言ってたけど、私はそうは思わないよ。」

「え?」

「だって、心から幸せだと思えた瞬間が、確かにあったんでしょう?」

男はハッとした。それまであの美しく愛すべき思い出にかかっていた暗い霧を彼女は綺麗さっぱり消してくれた。

「それでいいんだと思う。そんな『今』あったならそれで。

うまく言えないんだけどさあ、時間は常に動いていくけど、その動いてる時間は常に『今』なんだよ。それが幾重にも積み重なって、動き出す。

過ぎた時間は戻らないけどさ、その一瞬はずっと残っていて、決して消えない。そんな気がするんだ。その後に何があろうと、あの時の美しさはあの時のままなんだよ。」

「そっか……。これは……アニメなのか。」

「フフフ、確かに。」

今日一番大きな花火が上がる。

しかし二人はそれに目もくれず、花火に照らされたお互いを見つめて微笑んだ。

「この一枚は額縁に飾っとこうかな。」

END


最後まで読んでいただきありがとうございます!

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