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第2章 桜の木の下には……

 宗たち三人は校舎を出ると、(くだん)の桜の木の前に来た。桜の木は塀のすぐ手前に、数メートルほどの間を空けて一列等間隔に植えられている。


「で、唐橋(からはし)(そう)は、隣に立つ知亜子(ちあこ)を見て、「お前の説によれば……かつて人を殺した人間がいて、その殺人犯は死体をこの桜の木の下に埋めた。で、この木が移植されることを知って、木の下が掘り返されて死体が発見されるのを阻止するため、あんな警告文を木に貼り付けたと」

「いかにも、ありそうな話じゃない?」

「ないよ」

「とにかく、調べてみようよ」

「仕方がないな……」


 宗は地面に目をこらしつつ、何度か靴で土を叩きながら木の下を数度往復すると、


「……固い地面だし、掘り返されたような跡も全然ないぞ」


 そう言って頭上に広がる枝葉を見上げた。今の季節は初夏の六月上旬。桜の花はとうに散っており、校庭に並ぶ桜の木はすべて青々とした葉桜になっていた。


「それはもうさ」と知亜子も近づいてきて、「埋められてから、相当時間が経ってるってことじゃない?」

「確かに」最後に(なお)()も地団駄するように地面を踏みつけると、「ここに何かが埋められたとすると、ここ一、二年て話じゃないな。この地面の具合からすると、五、六年は経過してると思うぞ」

「そうなると、生徒は犯人から除外してもいいな」


 宗が言うと、


「どうして?」


 知亜子が顔を向けてきた。


「そりゃ、犯行があったのが今から五年前だとしたら、三年生だって十二か十三歳だぞ。そんな子供が人を殺して桜の木の下に埋めるだなんて、そんな真似するか?」

「分からないじゃない。古今東西、殺人事件の犯人が子供だった、なんて事例は枚挙にいとまがないわ」

「だとしても、ここに入学してこないだろ。自分が死体を埋めた高校なんかに、わざわざ」


 それを聞くと、尚紀が、


「いや、あり得るんじゃないか? むしろ、自分が埋めた死体の見張りをするために、ここに入学してきたということも」

「そうだよ」と知亜子は手を打って、「だからこそ、この桜が移植されるという情報をいち早くキャッチできて、こうして警告に及んだんだよ。長谷川(はせがわ)くん、今日は珍しく冴えてるね」

「珍しくは余計だ」と突っ込みを入れてから尚紀は、「どう思う? 宗」

「うーん……。もし、本当にこの下に死体が埋められているとしたら、もう高校生探偵の守備範囲を超えてるぞ。それこそ姉ちゃんを呼んできたほうがいい」

「いいね、呼んできてよ」


 知亜子は宗に期待の目を向けた。彼女は宗の姉、安堂(あんどう)理真(りま)に強い興味を抱いているのだ。


「できるわけないだろ。おかしな警告文が貼り付けてあっただけだぞ。いたずらの可能性のほうがはるかに大きい」

「……よし、じゃあ、掘ってみよう」

「はあ?」

「実際に死体が出てきたら文句ないでしょ」

「勝手にそんなことしたら怒られるぞ」

「どうせ移植作業で掘り返されるんだから、別にいいでしょ。用具室からスコップ借りてこようよ」

「おい、待てって!」


 すたすたと歩いて行く知亜子のあとを、宗と尚紀も追った。



 校庭隅にあるプレハブの用具室から、スコップを借りた――というか勝手に拝借した――三人は、桜の木の下に戻るべく復路を歩いていた。


「なあ、ちょっと考えたんだけど」

「なに?」


 宗の声に知亜子は顔を向ける。


「あの警告文を貼った犯人の目的なんだけど、別の何かがあるんじゃないか?」

「別って、木の下を掘り返されたくないってのとは違う理由があるってこと?」

「ああ。例えば、あの桜の木そのものが今の場所からなくなると困るからとか」

「どうして?」

「知らないけど、死体が埋まってるなんて話よりは現実味があるだろ」

「現実味はあるけど、具体性はないね」

「だから……尚紀、例えば?」

「なんで俺に振るんだよ!」と文句を言いつつも、尚紀は、「そうだな……。あ、近所の人とか」

「どういうこと?」


 知亜子は今度は尚紀に顔を向けた。


「犯人は、あの桜の木が植えてある塀の近くに住んでるんだよ。で、その人の家の窓からは、ちょうどその桜の木がいい塩梅(あんばい)に眺められて、家にいながら花見が出来るっていうんで、毎年桜の花が咲くのを楽しみにしていた。でも、その木が移植されてしまうということを知って……」

「学校に言えよ、そんなの。わざわざ警告文貼るようなことかよ」

「お前が振ったから仕方なく言ったんだよ!」

「まあまあ」と知亜子は二人を交互に見て、「探偵とワトソン、あんたらは相変わらずいいコンビってことで」

「誰が探偵だ」「誰がワトソンだ」


 二人は同時に突っ込んだ。



 桜の木の下に戻ると、


「私が真ん中、で、安堂くんは左側、長谷川くんは右側をお願い」


 知亜子が掘り返しエリアの担当を各人に割り振った。


「本当にやるのかよ……」

「どうなっても知らんぞ。それこそ本当に死体が出てきても……」


 宗と尚紀は、渋々ながらスコップを構えた。そこは学校敷地の奥の舎の陰になる場所で、部活動など校庭で活動中の生徒らからは死角に位置していることが救いだった。


「いくわよ……」


 先陣を切って知亜子がスコップを振り上げた、そこに、


「君たち、何をしてるんだい?」

「ひゃっ!」


 急に声をかけられ、知亜子は手を止めた。


「……あ、北詰(きたづめ)先生」


 さりげない動作でスコップを背後に隠しつつ、宗は声をかけてきた人物の名を呼んだ。三日前から大鳥学園に教育実習に来ている大学生、北詰(とも)()だった。

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