第二章 リアル
小説の更新日なんですが、多分、不定期になると思います。こちらの諸事情で勝手なことなんですが。すみません。
俺は、目覚めた。自然に起きたんじゃない。物音がしたんだ。布団から出て時計を見ると時刻は5時半だった。周りを見るが誰も起きていない。持田も金田も。となると、物音のぬしは咲だ。
俺は階段を降り、居間にむかった。そこには咲がいた。咲がこちらに気づいて動かしていた手を止めた。その手には牛乳が握られていた。
「なんだよ、お前か。」
咲のほうが先に口を開いた。
「のどが渇いたんだ。お前も飲むか。」
咲が俺にむかって牛乳を差し出した。俺は牛乳を受け取ってコップに注ごうとした。
「ねえ、あんたに聞きたいことがあるの、あんた本当に叶えたい願いは無いの。」
そういった咲の眼はどこか影をおびていた。
「ああ、まったく何もない。夢もない。何をすればいいか分からないんだ。」
俺はすらすらと自分の口から言葉が出ていくのに内心驚いた。
「そう、ごめんね、変なこと聞いて。そうだ、ちょっとこっちに来て。」
そう言って咲は居間に行った。俺もそれについていった。居間はとても乱雑だった。みんな疲れていて、片付ける気がしなかったんだ。咲は椅子に座っていた。俺も向かい合うように座る。
「これを見て。」
咲はポケットから一つ、手に収まるほどの赤色の袋を取り出した。
「女子の間で噂されている話しなんだけど。赤い袋の中に一枚の紙を入れるの。
そして、紙には一番大事なものを書くの。もし、それが本当に大事なものだった場合はその袋はお守りになるの。」
俺は首をかしげる。
「お守り?」
咲がうなずく。
「そう、お守り。持ち主がピンチの時に助けてくれるの。
でも、このお守り、成功者があまりいないそうよ。意外と自分の心に素直になるのは難しいのよ。さあ、やってみましょうよ。」
咲がテーブルの上からペンを取り、二枚の紙も取る。暗くて良く見えないが紙はおそらく長方形だ。
「本当にやるのか。」
咲はすでに書き始めていた。
「もちろんよ。さあ、あなたも書いて。」
俺は半ば咲に押しきられ、紙にある一言を書いた。ただ、なんとなく、仲間、と。俺と咲は書き終わり、互いに紙を袋に入れた。
「いい、中身は絶対に見ちゃダメよ。」
咲の威圧感に気圧され、俺はうなずいた。
「じゃあ、私は寝るね。」
咲は自分の部屋に戻っていった。そして、俺も自分の部屋に戻った。まるで夢みたいな出来事だった。
朝、目覚まし時計に叩き起こされ俺たちは起きた。俺たちは下に降りていった。朝食は持田が作ることになった。その間俺は咲を起こしにいくことになった。
コンコン、ドアを叩いても返事はない。俺は仕方なく咲の部屋に入ることにした。
咲は寝息をたてながらベッドに寝ていた。近づいてみるとなかなか可愛かった。俺は肩を揺すって呼びかけた。すると、ゆっくりと咲が目を開けた。
「起きたか、朝だぞ。下で持田が朝食を作ってる。」
咲は寝ぼけているようで俺のことを分かっていないようだ。俺は咲が起きたので下に戻った。下ではまだ持田が朝食を作っていた。
豪気は携帯をいじっていた。俺もやることがないので携帯をいじることにした。ドタドタと音がした。階段の音だ。振り向くと咲が立っていた。
「誰、私の部屋に入ったのは。」
すごい剣幕で俺たちのことを睨んできた。俺はおそるおそる手をあげた。
「あんたね。まったく女性の部屋に無断で入るなんて、最低よ。」
「俺はお前が起きなかったから仕方なく。」
「そういう問題じゃないの。まったく。」
その時、持田が申し訳なさそうに俺たちの間に割って入ってきた。
「あの、ご飯出来たんだけど。」
その言葉をかわぎりに俺たちは食事の準備に取りかかった。持田の作った料理は本当に旨かった。ただし、横で咲が小言を言わなければ。そして、全員が食べ終わりゆっくりとしようとした時、玄関のブザーがなった。
俺はゆっくりと立ち上がった。頭のなかではブザーを鳴らした相手が敵だと分かっていた。それは、みんなも同じで知らず知らずに臨戦体制をとっていた。俺たちは玄関に行き、ドアを開けた。
すると、そこには。二人の男が立っていた。いや、ひとりは子供か。
長身と小柄な感じの二人組だ。長身のほうは黒のパンツにワイシャツで、手にメモ帳を持っている。まるでサラリーマンのようだ。
対して、小柄な大人?いや、子供?身長は160cmぐらいで顔は幼さが残っている。しかし、服装のほうが子供らしさをかもし出していた。青のハーフパンツに黄色の半袖、いくら夏だといえ、大人でこんな格好をする人がいるだろうか。
「お前たちはいったい誰だ、何のようだ。」
俺は少しだけ大声を出していた。長身のほうが質問に答えた。
「私は知新 聞。知る新しきを、と書いて、ちしん。聞く、と書いて、ノウ、発音はknowです。隣の彼は花に鳥で、かちょう。風に月でラン、発音はrunです。私たちはチーム零の一員です。」
「ノウに花鳥風月?それにチーム零?いったい何なんだ。」
ノウは俺の言葉を無視しながら、メモ帳を見ていた。
「ふんふん。あなたの名前は金田、右隣が豪気、左隣が持田、後ろが咲。IANは順に、マネー、ストロング、イート、クラッシュか。ラン、ちょっとこれを見て。」
ランがノウに駆け寄り、共にメモ帳を見る。俺は声を大きく張り上げた。
「人の話しをきけ!質問に答えろ。そして、なんで俺たちのことが分かるんだ。」
ノウのほうが答えた。
「それは、私の能力のせいさ。名をニュース。さて、君たちにひとつ宣告をしよう。残念ながら私達はあなた方を襲わなければいけない。すまないね。」
俺は思わず身構える。
「いったい、どういうことだ。」
「私達、チーム零は昨日までは仲間集めをしていました。しかし、今は残念ながらしていない。それどころが抹殺指令がでてるんだ。ごめんね。さてと、ランお願い。」
ノウの言葉を聞き終わったランがノウに向かってうなずいた。そして、俺たちに向きなおった。俺は一瞬ランの体が何十にも重なって見えた。
次の瞬間、持田の目の前にランがいた。口に笑みを浮かべながら。
「これが僕の能力、スピードだよ。ちょっとごめんね。」
その言葉が終わった瞬間に持田の体がぶっ飛んだ。俺はとっさに咲の前に立った。豪気もいつのまにか手に写真をもっていた。ランも気づいたようだ。
「ダメだよ。こんなもの持って。没収だね。はは。」
ランが無邪気に笑う。そして、次の瞬間にランの手には写真が握られていた。豪気の手には何もなくなっていた。俺はポケットから小切手を取り出した。
「これも没収。」
ランがまた笑う。そして、俺の手から小切手が消えた。いつのまにかランの手から写真が消え失せていて変わりに俺のサイフが握られていた。
「これでもう能力を使えないね。これがスピードの力だよ。この力はね靴を一組失うと10分間のあいだ僕は10倍の速さで動けるんだ。詳しく言うと僕の体自体が10倍速く動くんだけど。……」
ランが続きを言う前に豪気がランに殴りかかった。しかし、こぶしは空をきった。ランが瞬時に移動したのだ。豪気がもう一度ランに殴りかかるがまた避けられてしまう。豪気が何回もこぶしを振るうがすべて避けられてしまう。
「どう、気がすんだ。さあ、次はどうするのかな。ふふ。」
ランは余裕の笑みを浮かべている。しかし、実際問題ランの言う通りだ、俺たちにランを攻撃する方法はない。
「ラン。そろそろ終わりにしよう。」
ノウがランに呼びかけた。するとランの顔つきが変わり豪気に向き直った。
「ごめんね。そろそろ終わりにしなきゃ。」
その言葉の言い終わりと同時に豪気の体がへこんだ。そして、次々と豪気の体がへこんでゆく。俺には見えないが、恐らくランが豪気のことを殴っているのだろう。
「くそっ、こいつ、体が…もた…ない…」
そう言って豪気は崩れさって倒れた。近寄って見ると幸いなんとか息はしており、気絶しているだけだった。次の標的は持田だった。ランは持田に向き直った。
「本当にごめんなさい。」
ランの顔はどことなく影をおびていた。持田の体も豪気と同じようにへこんでゆく。俺はさっき豪気を見て思いついたものを試そうとして、ポケットから小切手とペンを取り出した。
「俺も、もう…ダメ…だ…」
持田も崩れさって倒れた。俺はランが向き直る前に小切手をなんとか書き終えることが出来た。ランが俺に向き直った。
「ごめん。」
俺は自分の体が殴られているのを感じた。だんだんと意識が薄れていくのがわかった。そしてランが動きを止めた。それと同時に俺は崩れさった。意識が薄れゆくなか、ポケットからハサミを取りだし小切手を切った。
「今さら何をするの。君のサイフは僕が奪ったんだよ。0円で買えるものなんてたかが知れてるよ。」
確かにたかが知れてるかもしれない。でも、俺はこれにかける。せめて、咲のことは守ってくれ。そこで俺の意識はなくなった。それと同時に小切手が光りだした。
「さて、いったい何が出てくるんだろう。楽しみ。」
ランは余裕の笑みのまま小切手を見つめていた。次第に小切手の光は薄れていった。しかし、小切手は何にもならなかった。そこには何もなかった。
「なんだ。少しがっかり。じゃあ、次はお姉ちゃんの番だね。」
ランは咲のほうに向き直った。咲は少し怯えながらも違和感を感じていた。何か息苦しさを感じていた。
「これで最後。さようなら。」
ランの体が消えた。しかし、咲の体はへこまなかった。変わりにランが姿を表し地面に倒れた。咲は状況が呑み込めずおろおろしている。それはノウも同じだった。咲何が起こったのか分からないがとりあえず、近くにいた金田に駆け寄った。肩を揺らされ、声をかけられ俺は起きた。
「ううーん、咲か、無事だったのか。」
「私は無事よ。何が起こったのか分からないけど、突然ランが倒れたの。」
「それは恐らく俺のせいだろ。俺が能力を使ったんだ。今、このあたりには二酸化炭素が充満している。とにかく、話は二人を起こしてからだ。」
俺と咲は手分けして持田と豪気を起こした。俺は二人が起きたのを確認して話し始めた。
「ランを倒したのは俺だ。俺はランの話を聞いて少し思ったことがあって能力を使い、一時的にここら辺一帯の二酸化炭素濃度を上げたんだ。」
豪気がランのほうを見て首をかしげた。
「しかし、なんで二酸化炭素でランを倒せるんだ。」
「それはランの能力のおかげだよ。あいつの能力は自分の全てのスピードを十倍にするんだろ。だったら、呼吸のスピードも十倍になるはずだろ。
つまり、ランは俺たちの十倍の酸素が必要なはずか、俺たちの十倍の速さで気絶するはずだろ。」
「そうか、だから二酸化炭素をお前の能力で大量に出してランを気絶させたのか。でも、お前サイフを獲られていなかったか。」
「ああ、でも二酸化炭素は無料だったんだ。無料だよ、無料、まさか無料があるとはな。」
豪気がうなずきながらランを見た瞬間に乾いた爆発音がした。その音が何なのか皆分からなかったが、ランの胸から吹き出した血しぶきで瞬時に理解した。
音のした方を見るとそこには黒光りした拳銃があった。一人の女が拳銃を構えていた。歳は二十代ぐらいでロングヘアーだ。髪は顔にもかかっており、片目は髪で見えず、もう一方の目も濁っており全体的に暗かった。
「ふふ、驚いたかしらノウ。」
ノウは振り返り女の方をを睨み付けた。体を震わせこぶしを握りしめ明らかな怒りをにじみだしながら。
「黄泉!!お前なにをしたか分かっているのか!!それになぜお前がここにいる!!」
黄泉が含み笑いをする。俺はぞっとした。黄泉の目の冷酷さに。素人でも分かる、人を殺すのに何の躊躇もない目。
「組織からの命令よ。あなたたち以前から標的を殺さなかったことがたびたびあったわね。何か意図があるみたいね。」
ノウが唇をぐっと噛み、下を向く。そして、黄泉に向かって再び顔を上げた。
「組織は間違っている。世界を滅ぼすなど。私は踊らされていたんだ。私は組織を止める。」
ノウが言葉を言い終わり、黄泉が拳銃をノウの胸に向かって構えた。黄泉が口を開く前に俺のと隣にいた咲が走りだした。
「黄泉!!父の仇、ここでかえしてもらうわ!!」