第一章 コンタクト
どうですか?面白いですか?待望(?)の次話です。これからも頑張ってくんでよろしく!
持田の家は、俺の家から歩いて5分の所にある。この道をつきあたって、右にいってすぐだ。俺は財布を取り出しながら歩く。財布の中には五千円しかない。
(俺はこの先、この五千円で生きのびなければいけないのか。)俺は苦笑をする。
(まったく、なんていう夏休みだ。バトルロワイヤル、果たして俺は生き残れるのか。こんな小切手なんかで勝てるのか。)
俺はポケットから小切手の束を取り出す。小切手の束をまじまじと見ると、裏に一枚の紙がはさまっているのに気づいた。そこには、こう書かれていた。
『君のIANの名前はマネーだ。言い忘れたが、基本的に君たちのIANは失うものが価値のあるものほど、得るものがすごいものになる。では、健闘を祈る。』
俺は紙を握りしめる。(マネーって、そのまんまじゃねーか。こっちは命がかかっているのに。)
俺は、考えごとをしているうちに持田の家の前についたことに気づいた。あたりに、人の気配はない。俺はドアの前に立ち、チャイムを押そうとしたが、押す前にドアが開いた。中には、持田がいる。少し太った腹、丸みをおびた顔、そして、優しそうな目、どこから見ても持田本人だ。先に口を開いたのは持田だ。
「金田!お前か!少し待てよ、その細身、メガネ、金田だよな!」
かなりハイテンションだ。俺は少し気圧される。
「ああ、そうだよ。お前が家にいると思って来たんだ。とりあえず、話しがしたい。中に入れてくれ。」
「わかった。俺も話しがある。さあ、入ってくれよな。」
持田が家の中に消える。俺は改めて持田の家をみあげる。なかなかの豪邸だ。持田の親は名のある会社に勤めている。そのために持田は家にばかりいて、あの立派なお腹ができた。
俺も家の中に入ることにした。持田は居間に向かう。居間には豪華な装飾品がある。しかし、目を引いたのは装飾品ではなく、テーブルに置いてある料理だ。たくさんの皿があり、その上にはフランス料理のようなものが置いてある。
「なあ、持田。これは?」
「俺の昼食だけど。頑張ったよ」
「お前が作ったのか?
「ああ、そうだよ。俺の夢は料理人だからな。」持田が鼻をこする。俺は昔、持田がそんなことを言っていたのを思い出した。
「それで、お前に話したかったことは……」俺は今までのことを話した。
「やっぱり本当だったんだ。でも、おかしいよ。俺はまだゲームに参加して三日だよ。一ヶ月もゲームはしてないよ。」持田が声を張り上げる。
「けれども楓は俺に言ったんだ。あの目は嘘をついている目じゃない。」
「でも、俺は3日しかゲームをしていない。もしかして、個人差があるんじゃないか。お前だって今日始まったんだろ。」
「確かに、そうかもしれない。とにかく、今は生き残ることを考えよう。そういえば、お前の能力は?」
持田が腹をさする。
「俺のIANの名前は、イートだ。能力は一時間分の食欲を失う代わりに好きなものを20Kg重く出来るんだ。食べることが好きな俺にぴったりだろ!」持田が満足げま顔で言う。俺はガックリ肩をおとす。
「全然、役に立たない。」
「そんなことはないよ。あと、言い忘れていたけど、この能力には発動条件があるんだ。まず、使う相手が生物じゃなければいけないし、それに相手が何か食べていなければいけないんだ。」
「ダメだ、さらに役に立たない。」俺はさっきよりも肩をおとした。持田は俺のことを指差してきた。
「じゃあ、お前はどうなんだよ!」
「俺か、お前よりはましだろ。」その時、台所の方からチーンという音が鳴った。持田が台所の方を見る。
「レンジだ!」持田が台所に行く。
しばらくした後に持田は手にお盆をのせて、やってきた。しかし、俺はその中身を見ることは出来なかった。なぜなら、
「出てこい!くそガキども!」その大声が聞こえた瞬間に玄関のドアが吹っ飛ばされたからだ。俺は急いで玄関に向かった。そこには、頭を金髪に染めた男が立っていた。男は俺のことをなめまわすように見る。
「こんなガキも参加してるのかよ。笑わせるぜ。」そう言っている男も見た目は二十代前半に思えた。俺は吹っ飛ばされたドアをみる。
「これはお前がやったのか。」
「ああ、そうだよ。この俺のIAN、ストロングの力だよ。次はてめえらだよ。外にでな。」男が外に出る。俺も外に出る。そして、遅れて持田も外に出る。
「まず、最初に自己紹介してやるよ。俺の名前は豪気だ。そして、IANの名はストロングだ。能力は、写真を一枚失う変わりに三分間だけ俺の力が五倍になる、だ。」
持田はまだ、状況を理解しておらず、つっ立っている。
「俺の名前は金田。どうして俺たちのことを襲うんだ。」
「俺には叶えたい願いがあるんだ。わるいけど、負けてくれ。」
「つまり、俺たちに戦闘不能、ようは死んでほしいんだろ。まっぴらごめんだ。」俺は小切手に木刀と書き、はさみで切り、小切手を木刀に変える。
「戦う気か。さっきも言った通り、俺には叶えたい願いがある。手加減はしないぞ。正直、ガキと戦うのは気が引けるがな。」豪気が拳を構える。そして、俺も木刀を構える。持田はまだ、何もせずにつっ立っている。
先に動いたのは豪気だった。ちからまかせに俺に向かって突っ込んでくる。その勢いのまま俺に向かって拳を放つ。俺は紙一重でそれをかわす。そして、そのまま木刀を豪気に向かって振り下ろす。
「人を殺しても叶えたい願いってなんなんだよ!」豪気は俺の木刀を腕で受け止める。
「お前には関係無い!」豪気が再び拳を放ってくる。俺は、それを後ろに跳んで避ける。続けざまに豪気が拳を放ってくる。俺は後ろに下がり避ける。もう一度、豪気が拳を放つ。俺はそれを体をねじって避け、そのまま木刀を振り下ろす。豪気は木刀を腕で受け止める。
そして、そのままの体勢で俺に向けて蹴りを放つ。
俺は避けられなかった。俺の体が一瞬宙に浮かび、ふっ飛ばされる。俺は地面に叩きつけられる。
(からだが重い、なんていう力だ。俺のIANじゃ勝てない。相性が悪すぎる。) 俺は倒れたまま持田の方を見る。
「持田!俺じゃやつに勝てない!お前のIANなら勝てる!」
「そんな、出来ないよ。俺、この能力を使ったことはないんだよ!」持田の顔は初めて目のあたりにしたIANのせいで恐怖でうまっている。
「やらなきゃ死ぬだけだ!」
「そんな。」
持田は立ちつくしている。
「そろそろ、とどめを差させてもらうぞ。」豪気がこちらに向かって歩いてくる。俺はなんとか立ち上がり木刀を構える。そして、木刀を振り上げ豪気に向かって突進する。
(この一撃に全てを懸ける。)俺は全身の力を込めて木刀を振り下ろす。
が、豪気は動じず、俺の木刀に向かって拳を放つ。拳は木刀を真っ二つに折る。そして、もう片方の手で俺に向かって拳を放つ。
俺はさっきよりも高く長く宙に浮き吹き飛ばされる。ものすごい勢いで地面に叩きつけられる。俺は立ち上がれなかった。
(からだ中が痛い。力が出ない。俺はもうダメだ。)あきらめが頭をよぎる。持田が俺に向かってかけてくる。
「金田!だいじょうぶ!」
「ああ、少しヤバいかもしれない。やっぱりお前がやつを倒すしかない。俺は少し疲れた。」俺は目を開けようとしたが力が入らない。そして、俺は目を閉じた。
「金田!」持田が叫ぶ。そして豪気をにらむ。
「よくも金田を!許さないよ!」持田の声には殺気がこもっていた。しかし、持田は落ち着いていた。(俺の能力は相手が何かを食べていないと使えない。けれどあいつは何も食べていない。どうする。何かないのか。)
豪気はゆっくりと持田に向かって歩いてくる。
「お前も、すぐに友達のところにいかせてやるよ。」
持田はポケットの中を探った。しかし、中にはキャラメル一袋しかなかった。(これは、去年のものじゃないか。腐っているだろうな。まてよ、腐っている、ということは。わかった!やつの倒し方が!)
豪気は持田まで数メートルのところまできていた。ゆっくりと、しかし確実に持田との距離は縮まっていく。持田に狙いを定めて豪気はゆっくりと歩く。
持田は恐怖を全身に感じていた。けれど、友を思う気持ちのほうがまさっていた。持田は目をつぶった。そして、祈った。強く願った。
豪気は持田の目の前まで来た。腕を大きく振り上げて、振り下ろす。
が、腕は持田には当たらなかった。腕は何かに引っ張られているかのように地面に向かってたれていた。
「よっしゃ!成功した!」持田が飛び上がる。
「お前、何をしたんだ。腕が重い。お前のIANか。」豪気が苦しそうに言う。
「そうだよ。俺のIANだよ。能力は食欲を失う変わりに好きなものを重く出来るんだ。でも、発動条件がある。相手が生物であって、そのうえ何かを食べていないといけないんだ。」持田が鼻をこする。
「しかし、俺は何も食べていないぞ。」豪気が言う。
「そう、そこなんだよ。俺も始めは無理だと思った。でも、気づいたんだ。無理にお前を重くしなくてもいいんじゃないか、と。」
「どういうことだ。」
「俺が重くしたのはお前のからだじゃない。お前のからだについているバクテリアだよ。」豪気は驚きの声をあげた。
「そうか、そういうことか。お前の能力は生物にしか使えない。が、逆に言えば生物なら何にでも使えるということか。俺の負けだ。とどめをさせ。」持田は首を横にふった。
「その前にあんたの叶えたい願いについて聞かせてもらいたい。いったい、何を叶えたいんだ。教えてくれ。」
「いいとも、教えてやろう。俺は妹を探しているんだ。妹とは十三年前に生き別れになった。」
「生き別れ?」持田がつぶやく。
「そう、生き別れさ。妹とはかれこれ十三年前から会っていない。」
「いったいどうして。」豪気が鼻でわらう。
「俺の母親がな、酒好きでな、よく親父に暴力をふるっていたんだ。そして、親父はこのままじゃ俺たちにも手を出すんじゃないかと思って離婚したんだよ。」
持田が下をむいた。
「そんな、母親が。」
「おぼえておけ。別にな、父親だけが暴力をふるうんじゃない。逆だってあるんだよ。妹は父親についていった。その時、俺は九歳で妹は五歳だった。俺は母親についていった。母親がかわいそうだったんだ。」
豪気がポケットから一枚の写真を取り出した。
「妹との数少ない写真だ。これが妹といっしょに撮った最後の写真。両親の離婚以来、妹には会っていない。」豪気がこぶしを握る。
「俺は、俺は妹に会いたい。」
「あのさ、俺と金田には叶えたい願いはないんだ。だから、俺たちと組まないか。誰が生き残っても、あんたの願いを叶えるからさ。どう?」
豪気が首をまげる。
「どういうことだ。俺はお前たちの命を狙ったんだぞ。」
「俺は思うんだ。この先俺と金田の二人じゃ生き残れないと。だから、みたところイカレていないあんたと組みたいと思ったんだ。」
「俺がイカレていない?俺はお前たちの命を狙ったのに。」持田が金田のほうを見る。
「あんた、手加減したろ。金田は生きているよ。それにあんたが戦っている理由も悪くはないし。そのうえ俺たちを殺すのわざわざ正面からきてくれたでしょ。不意討ちをせずに。そして目が死んでいないと思う。理由はそれだけで十分でしょ。」豪気が笑う。
「仲間か、わるくはないな。いっしょに組もうか。」
「ああ、これからよろしくね。少し待ってて俺の能力を解除するから。こいつの解除条件は俺が何かを食べることなんだ。ちょっと家の中で何か食べて来るから。」持田が金田のほうを見る。
「そろそろ立てるだろ金田。ばれてるんだよ。俺一人で戦わせやがって。」持田に睨み付けられた俺は立ち上がった。
「ばれたか。でも、一瞬意識を失ったんだぞ。」
「俺も始めは心配したけど。よーく考えたら、わかったんだ。お前外に行く時、テーブルの上にあったお盆を持ってたろ。でも、俺が外に行った時お前の手にはお盆はなかった。」持田が俺の腹を指差す。
「そこだろ。」俺は服の中からお盆を取り出した。お盆は少しへこんでいた。
「大当たり。このお盆、銀で出来ているだろ。なかなか固いから使えると思ってな。」持田の体からだが震える。
「お前、ひとんちの物をなんだと思っているんだよ。まあ、いいや。とにかく俺は何か食ってくるから。お前はそこにいろよ。」
「はいはい。」俺は気の抜けた返事をする。持田は何か言おうとしたが、何も言わずに家に入っていった。俺は豪気のほうをむいた。