押し売り少女(?)はお断り
この作品はフィクションです。実際の公務員とは異なる部分がありますので、ご了承の上お読みください。
「計八百四十七円です」
「ん……」
財布の中から九百円を取り出しキャッシュトレイに置く。コンビニの、アルバイトらしきポニーテイルの笑顔が素敵そうな定員に若干嫌な顔をされた。そんなに嫌そうな顔しなくても良いだろ。しょうがないだろ、それしか無いのだから。
「五十三円のお釣りとレシートです」
キャッシュトレイに置かれた五十三円とレシートを手に取り財布に入れる。この財布ももう
買ってから三年が経つと言うのに全く使えていないので汚れが見当たらない。俺は買ったもの
が入った袋を受け取りコンビニから出る。
俺、【藤原 浩志】の家は嬉しいことに二軒のコンビニに近い場所にある。なので仕事終わりのついでにコンビニで、夜食を買い家に戻るという効率的な行動をすることが出来るのだ。
家に囲まれた暗い細道の中、街灯だけを頼りに歩き自分の家を目指す。
「ハァ……ハァ……」
誰かが走っているのだろうか?腕時計は三時を指している。もちろん午前だ。こんな夜中にランニングとは考えにくい。足音が俺の背後から迫りどんどん近くなってくる。
「ハァ……ハァハァ……ハァ……」
もしかして危ない人か?こんなに社会に貢献しているのに?は?神様ひどすぎないか?俺死ぬの?などと考えてる間に足音は俺のすぐ近くに……。
俺は勢いよく体を後ろに回転させる……と、ポキと嫌な音が腰から全身に響きわたる。
あ、終わった。腰と同時に俺の人生も……あぁ〜最後に腰をやるなんて……みっともねぇ〜
「……ひっ!」
「ん……?」
なんだ今の声?少し高めの愛嬌のない上司とは大違いの声が、俺の正面で聞こえてきた。俺
は、瞑っていた目をゆっくりと開く、と、そこには大人っぽい服を着た身長162センチ位の
少女?が怯えた目でこちらを見ていた。
「あ、あのぉ〜どうしました?」
「………………」
俺は気分を素早く切り替えて今年最大の笑顔で質問する。
「ぅ……キモ」
「っ……‼︎」
泣くよ?なんで最近の若者は、キモいをよく使うの?そんなに変だったか?
「あっ……!ご、ごめんなさい!つ、つい癖で」
どんな癖だよと内心でつっこみを入れつつ。
「い、いえ癖ならしょうがないですよね。自分もよくあります」
いや、ないよ?そんなこと。俺はぎこちない笑顔で応じる。
少女は、少し申し訳なさそうな顔から真剣な表情になり、次の言葉を紡ぐ。
「あの、一日泊まらせてくれませんか?」
「……ん?」
今この子なんて言ったの?い、一日泊まりたい?どこに、俺の家にか?
「えっと、家に⁇」
「は、はい……。あ、もちろんお金は払いますし食事も入りません。他にも家事も言われたものは、すべて完璧にこなします。ですから一日だけ、お願いできませんか?」
「ごめん、それは難しいかな。その、親御さんもいるでしょ?心配するし、これで俺が泊め
たら誘拐になっちゃうから」
後半の家事云々は凄くよかったし、こんな可愛い子がうちに来るなら大歓迎だけれど、ここは常識で考えるとこれは断る。この子の親御さんも居るしな。
「あ、え。で、でも……」
「申し訳ないけれど、知らない子を家に泊まらせるわけにもいかないしご時世的にも感染病の影響であまり良く無いから……ごめんね。それじゃあ、気をつけて帰ってね」
このままこの子と話してたら仕事の癒しとして持ち帰りたくなってしまうのでここら辺で退散しておくのがベストだろう。俺が前を向き直して再び歩き出す。後ろは振り向かない。これ以上悲しい顔をしている少女のことを見たら家に誘ってしまう。家まであと数分でたどり着く。
「はぁ……悪いことしたかな……」
あの少女がどうなったか気になる。そして、申し訳ない気持ちもある。
「気になってるんですか?私のことが……」
「ああ……少しな」
ん?俺は痛めた腰を動かさないように足を後ろにゆっくりと向けていく、そこにはお願いを断り夜道で別れたはずの少女が微笑みながら俺のことを見ていた。
「なっ……え?」
「どうしました?」
いや、こっちのセリフだよ。ストーカーだろ、ずっと音もなく付いてきてたのかよ。
「どうしてついてきてるの?断ったはずだけど?」
俺は歩きながら少女と話す。
「いや、一方的だったのでそれはノーカウントです!」
なんで少しドヤ顔で誇らしげにいうの?いや、その顔も可愛いけれども。
「……本気で言ってるの?」
なんかキャラ変わってないか、この子。これが素なのかもしれないけど……結構すごいこと言ってないか?本当に、この子、何があったんだよ。
俺は少し呆れつつもこの子の気が萎えてなくて良かった。と心の底から思ったが、まだ家に泊まらせて欲しいのかよ。勘弁してくれ、こんな夜中に……帰らせてくれよ……だるいよぅ。
「他の人に頼んでみれば?誰か探してさ」
そう何も俺にこだわる必要は無いのだ。少女は不思議そうな顔で俺を見て口を開く。
「あはっ……こんな時間にこんな道歩いてる人はお兄さんしか居ませんよぉ」
確かに!まぁお兄さんと言ったことはポイントだ。そう俺はお兄さんと言う歳だからな。立派な大人、二十六歳だからね。と言うより三時過ぎに少女が歩いていると言うことの方が驚きだろう。
「そもそも俺は泊まって良いとも言ってないだろ」
「さっき心配してたじゃ無いですか。心配するなら目の前のか弱い少女をほっとくべきではないんじゃないですか?」
なんとも痛いところを突いてくるな……
「心配はした」
「じゃあ、良いじゃないですか〜泊める理由には十分ですよ〜」
さらに可愛く微笑み俺の方を見る。だが甘い、国家公務員の力を舐めるな。
「しただけだ。泊めるとは言ってない。そして家が近いので俺は帰る。じゃあな」
俺は足を早めて家へ向かう。俺の家は一軒家だ。自慢じゃないが公務員はブラックな一面もあるが、収入がいつでも左右されず安定しているし、何気に給料がいいので買った。二階建てで、普通に四人程度で生活ができるほどだ。なので空き部屋が三部屋ある、そこが少し気になるくらいの良い家だ。
家に着いたので周囲を確認して、少女がいないことを確認してから家の鍵を開けて入る。
「ただいまぁ……まぁ誰もいないけど」
きちんと挨拶をしてから扉の鍵を締めて靴を脱ぎ丸三日ぶりの帰宅(もうほぼ四日だが)の幸せを噛み締めてからリビングに向かい、コンビニ食をテーブルに並べコーラを用意し、予約しといたテレビをつける。
「うめえぇぇ……!」
久しぶりに飲むコーラの味。本当に美味しい、考えた人はスゴイ。普通はビールなのだろうが、俺はビールが苦手で社交辞令としてしか飲んだりしない。ビール以外にも美味しい飲み物いっぱいあるしね。
ただいまの時刻は午前6時、久々の三日間の休みだ。予想外の三徹(まぁほぼ四日)により、三日間の休暇が与えられた。今日から三日間何をしようか……と、ピンポーンと、家のチャイムがなる。朝から宅配の人は、大変だなぁと思いつつ玄関に向かう。
にしても早いな……。なんか頼んだっけ?覚えてないな……。
「今いきまぁす……」
俺はハンコを持ち玄関の鍵を解除し、ドアをゆっくりと開けると……
「ヤッホー?心配しました?」
「………………」
無言でドアをゆっくりと閉めていき……
「いやいや……ちょっと待って……!」
「あのぉ……うち押し売りサービスお断りなんっすよねぇ」
俺は知らないふりをしつつ断る。
「あ、そうですかぁ……じゃあしょうがないですね!……じゃなくて、違う違う、そっちじゃない泊めて欲しいのですよ!」
うん。さっきも聞いたよ、それ。もう六時じゃん?良いだろ一日経ったよ?
「え?今六時だから……泊まらないで、家に帰れば?」
「いいの、お願い……その……えっと、帰る場所が無いの……」
今にも俺の前にいる少女は、泣き出しそうで弱々しい潤んだ目をして目を下に向けている。
「っ……!」
だから嫌だったんだ。こういう表情されてそれを見るのが嫌だったから無視したのに……
それにこんな可愛い子にそんなこと言われたら、断れないだろうが……!
「…………だめですか?」
弱々しい声で俺に問いかけてくる。もう答えは決まっている、決まってしまった。
「……ぃよ……いいよ。仕方ない」
「そうですか……うん?…………いいんですか⁈」
「あぁ……一日な」
「はい……!ありがとうございます!」
こうして【藤原 浩志 二十六歳】と帰る場所が無いと言う可愛い少女との一日だけの生活が幕を開けた。
永遠の初心者(?)白です!ルビ等々の付け方さえ覚えられていない現在……まだまだ勉強することがたくさんありそうです!これからもほのぼのとまったりと、頑張っていきます!
応援お願いします!
そして、これからもよろしくお願いします‼︎