徒然荘のクリスマス(未完)
こちらは未完のお話です。
掲載しなくてもいいかな、とも思ったのですが、せっかくなので保存のため掲載しておきます。
こんにちは。
お久しぶりです、藤谷由輝です。
季節は巡り、いつの間にか冬になったようです。
春も夏も来なかったような気がするんですけどね、作者さん?
……まぁ、押し入れに引きこもってしまった作者はともかく。
「クリスマスパーティー……」
今朝届いた、贈り主不明な招待状。
『聖なる夜をぼっちで過ごす寂しい君に、楽しい一夜をプレゼント!』
「余計なお世話だっ!!」
べしん!と招待状を床に叩き付けるが、我に返ってすぐに拾い上げた。
「こんなこと考えるのは、万葉さんか恭司さんかトゥーナさんか大典太先輩かカイシスさんか……あれ、候補多くね?」
そんなことを言ってる間に、部屋のドアをガンガン叩く音……って違う!蹴ってる蹴ってる!
「ちょっ……!誰ですか止めてくださいよ!」
「止めてくださいドア壊れますから!」
「藤谷由輝!!てめェかふざけた招待状なんか寄越しやがったのは!!」
「いやちょっと待って俺じゃないし俺が壊れるから蹴らないで!
……え?先輩も招待状もらったんですか?」
ドアを開けた途端に勢いのまま蹴り掛かってきた(というか蹴られた)のは大典太先輩。
どうやら先輩にも同じものが届いていたらしい。
俺は持っていた招待状を見せ、身の潔白を示した。
「お前じゃねえのか?そりゃあ悪かったな。薄々感じてたけど」
「薄々でも違うと思ったなら襲撃しないでください……」
わざわざ厚手のダウンジャケットを着込んでマフラーを巻いて手袋してブーツまで履いた重装備で人の部屋に殴り込んで、否蹴り込んで来た先輩は、開けっ放しのドアから見える雪景色をバックににやりと笑った。
コノヤロウ。
「てめえら朝っぱらからウルセーぞ!!こっちはさっき帰ってきてようやくひと時の安らぎを得ようと布団に潜り込んだばっかだってのに」
騒ぎを聞き付けたお隣りの狂犬が怒鳴り込んできました。
「誰が狂犬だ、噛み付くぞ」
「まだ何も言ってませんよ」
「恭司さん、招待状出したのアンタか?」
「顔に出てんだよバカフジユキ。招待状って何の話だ?」
「恭司さんも違うんですか」
俺が差し出した招待状をむしり取ると、恭司さんはフンと小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「アンタんとこには来てないのか?」
「いや、来てないな。だって俺、ぼっちじゃないし!今夜も店が終わったら日の出までやってる他店で女の子達とオールだしな!」
「くっそ、職業特需!」
得意げなホストをうらめし……羨ましげな眼差しで見る俺と先輩。
なんか急激に虚しくなってくる。
「あのぉ……」
ドヤ顔ホストの後ろから遠慮がちに声を掛けてきた女性。
振り返った恭司さんにちょっとビビっている。
「おはようございます。お取り込み中すみません」
「美夜ちゃん!」
男だらけの冬の砂漠に現れたオアシス!
あまり頻繁に話したりはしないけど、同い年だし真面目な頑張り屋さんだから好感を持っている。
あっ、あくまでも“好感”ですよ!本当ですよ!
「やっぱりお前わかりやすいな」
靴を履いたままの先輩にまた蹴られた。そういえばこの人土足……。
「どうしたの、美夜ちゃん。ああ、ごめんな朝からバカ共がうるさくて」
恭司さんが女性にしか向けない眩しい笑顔で応対する。
「今朝誰かが新聞受けにこんなものを入れていったみたいなんですが、今招待状の話をしてましたよね?同じものなんじゃないかと思って」
どれ、と言って美夜ちゃんが持ってきた招待状を借りて読む恭司さん。
「ぼっちとは書いてないが、フジユキのと同じ封筒便箋だし、差出人は同一人物かもな」
ちなみに美夜ちゃんの招待状には、
『仲良し兄妹に、楽しい一夜を!サンタさんのプレゼントにこうご期待!』
と書いてあった。
俺には来ないのか、サンタさん。
「しかし、これはもしかして徒然荘の全員に届いてるんじゃないですか?」
「いやでも俺のとこには来てねえし」
俺の推測は恭司さんによってすぐさま却下された。
「非常に残念なお知らせだが、恭司さん」
いつの間にか外に出ていた先輩が、恭司さんの部屋の前に立っていた。
「これってその招待状じゃないすかね」
「何ぃ!?」
いやそんな血相変えて飛び出さなくても。
俺は部屋から出ずに玄関から首だけ出して隣を見ると、確かに新聞受けからわずかに覗く招待状の封筒を確認した。
「『聖夜に大勢の中で孤独を感じるよりも、今宵は寂しいもの同士肩を寄せ合いませんか?きっと楽しい一夜をなりますよ』だって」
「声に出して読むな!別に孤独じゃねえし!」
「うわぁ、なんか恭司さんが可哀相な人に見えてきた」
その後手分けして他の住人を訪ねたところ、ほぼすべての部屋に例の招待状が届いていた事がわかった。
「部屋に不在だったのは、トゥーナさんと万葉さんと六実さんの3人ですね。そのうち六実さんは仕事、と」
「ちなみに田中由美さんの証言です」
メモ帳に書きながらまとめる俺の言葉を、美夜ちゃんが引き継いだ。
「まず怪しいのは万葉、トゥーナだな」
恭司さんが不在者の中でも特に可能性が高い二人を上げる。
「カイシスさんもパーティーとか好きそうだから怪しいと思ったんですが……」
俺が訪ねたとき、彼はパーティーに本物のサンタが来ると思ってはしゃいでいるルキ君を見てハァハァしていた。
仮に彼が首謀者なら、息子のルキ君が知らないはずがない。あの子鋭いから。
「いや、ダミーの招待状なんていくらでも用意できる。他の奴がシラを切ってる可能性もあるぜ。なあ由輝」
「なんで俺に振るんですか!?」
先輩のキラーパスを全力で否定する俺。
ていうか絶対ワザとだろこの人!!
「フジユキにそんな度胸があるか」
大口開けて欠伸をした恭司さんが目をしばたたかせながらフォロー……してくれたんだよね?
そろそろ眠気が限界なのか、眉間にシワがよって恐い顔に拍車が掛かってますよ、と思った瞬間目が合いそうになって慌てて顔を背けた。
「ちょっと気になることがあるんだけど…」
「どうしたの?美夜ちゃん」
「この招待状見つけたの、兄さんなんだけど、封を切る前から何だか様子がおかしかったのよね」
「あの人がおかしいのはいつもの事じゃねえか」
「先輩何言ってんですか、失礼ですよ!」
「あ、それは否定しないけど」
「え!?そこは否定しようよ!?」
「ていうかもうなんでもいいからねかせてくれ」
「ちょっと、狭いコタツにでかい体で潜り込まないでください!!あーもう寝てる!!のび太か!!」
「「由輝(君)うるさい」」
「……すみません」
……ここで終了です。ゴメンナサイ。
何分遠い昔の記憶なので曖昧なのですが、たしかトゥーナとノア親子が結託して仕掛けたドッキリとか、そんな感じのオチだったような気がします。
私の徒然荘は一応ここで終わります。