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徒然荘へいらっしゃい!  作者: 霜月
7/9

藤谷、入る(プロローグ)

ノベルゲーム for Android

ASKノベルゲームメーカー 版

プレイ動画:http://youtu.be/R8lIAKHiZUE">http://youtu.be/R8lIAKHiZUE


ノベルゲーム for Android & iOS

script少女のべるちゃん 版

プレイ動画:なし

ゲーム:http://novelchan.novelsphere.jp/996/

見知らぬ街、見知らぬ人々。

大きなボストンバックを肩に掛け、プリントアウトした地図を片手に、藤谷由輝(トウヤ ユウキ)はとあるアパートを目指していた。

初めての独り暮らし、もちろん不安はあるが、それ以上に彼の心は新生活への期待に満ちていた。

地図を頼りに慣れない道をさ迷い歩き、ようやく見つけた目的の建物は、思っていたよりさっぱりとして小綺麗な外観だった。

「徒然荘」と壁に大きく書かれた二階建てのアパート。ここが今日から彼の生活の中心となる場所だった。

由輝はまず始めに、大家に挨拶しようと辺りを見渡した。

「アパートのすぐ近くに住んでいるので何かあったら」、と聞いていたため、それはすぐに見つかった。というか他に民家がなかった。

表札には「大家」と書かれている。……なんだろう、洒落だろうかなどと考えていると、タイミングよく玄関のドアが開けられた。

「あら、どちら様かしら?」

中から顔を出したのはウェーブが掛かったセミロングの髪に細い目、赤っぽいタートルネックのセーターを着た50代くらいの女性。

初対面の由輝にも柔和な笑みを見せ、品の良さそうな印象だ。

「あの、今日からこちらでお世話になります藤谷です!よろしくお願いします!」

言いながら勢いよく頭を下げた。

挨拶だけはきちんとするようにと両親からキツく言われていたためだ。

なるべくいい印象を与えておかなければ、紹介してくれた父の知人に顔が立たない。

「ああやっぱり!そろそろ来る頃だと思ってたのよ」

大家は細い目をさらに細めて、満面の笑みで由輝を歓迎した。

「家具類は昨日のうちに届いてたから、適当に置いちゃったけどよかったかしら」

「あ、問題ないです。むしろ助かります」

大家は早速、由輝を部屋まで案内した。


部屋番号は103号室。

何度も言うが、ここが今日から彼の生活の中心となるのだ。

由輝はドアの前で立ち止まり、じっとそれを見つめていた。

「どうしたの?ああ、独り暮らしが嬉しいのね」

「わかりますか?」

「だって顔がニマニマしてるもの」

「え、嘘!?」

大家はふふふと笑いながら、取り出した鍵を鍵穴に差し込み、回す。

カチャン、と小気味良い音が鳴り、振り返った大家に促された由輝はドアノブに手を掛けた。

ゆっくりとノブを回し手前に引くと、思ったよりも少し重いドアが静かにその口を開けた。

広くはない玄関口を入ってすぐ、右手には台所が、左には風呂とトイレかそれぞれ、トイレの横には洗面所。

写真では見ていたが、実際に見てみると想像より狭い。しかし自分一人住むには十分な広さだ。

ゆっくり左右を見渡したあと、由輝はいよいよリビングに足を踏み入れた。

「おお~!」

リビングに入った由輝は、思わず感嘆の声を漏らした。

床は綺麗に磨かれワックスを塗ったような光沢を放っており、実家から送った安物のテーブルやカウチソファなどがセンスよく並べられており、どこから現れたのか、背の高い観葉植物まで飾られている。

「どう?気に入った?」

部屋の様子に魅入っていると、後ろから大家の優しい声音が聞こえた。

「荷物が来る前にね、掃除しといたの。でもこれからはちゃんと自分で掃除するのよ。あとあの木は前に住んでた人が置いてったものよ」

大家は由輝が口を開く前に彼の疑問をすっぱり解決してしまったので、はあそうなんですかありがとうございます、と気の抜けた返事をしてしまった。

「さあ、荷物を置いたらお隣さんに挨拶に行くわよ。この時間ならまだ居るはずだから」

そう言うと、大家は何が楽しいのかルンルンと音符を飛ばしながら部屋から出ていったしまった。

呆気に取られた由輝もすぐ我に返って、荷物を放り出してその後を追いかけた。


ドアを開けると、既に大家は隣の呼び鈴をピンポンピンポン鳴らしている。

いくら大家だからって、こっちにも心の準備をさせて欲しい。あ、引っ越しの挨拶ってソバとか欲しかったかな、そんな事を考えていると、間もなく隣のドアがガチャリと開けられた。

「おはようきょうちゃん。起きてた?」

「…今起きたよ。どしたのおばちゃん、まだ1時半過ぎじゃない」

現れた男性を見て、由輝は縮み上がった。どう見てもソッチ(ヤのつく職業)の人ですありがとうございました。

「お隣さんが来たから挨拶に来たのよ」

大家に紹介され慌てて頭を下げる由輝。

ボサボサの頭によれたワイシャツといういかにも寝起きですという出で立ちのその人は、その半開きの目で由輝を睨んだ。

「ゆーきくん、こちら橘恭司さん。顔は怖いけど噛みついたりしないから安心して」

「噛みついたり…って、俺は犬かよ。え、何あんたがお隣さん?」

橘は半開きだった目を見開いて、まじまじと由輝を見る。

顔に傷こそないが、眼光だけで人ひとり殺せそうなそんな鋭い目で見つめられると余計に怖い。

「きょうちゃんきょうちゃん、ゆーきくん怖がってるわよ」

大家に言われて、橘は慌てて視線をそらした。

「悪い悪い。でも、隣に入るのって女の子じゃなかったのか?ほら、ネームプレートに『ふじたにゆき』って…」

それを言われて由輝は合点した。ああ、いつもの勘違いだ、と。

「あ、これ『とうやゆうき』って読むんです。よく間違われるんですよね。ハハハ…」

「えー、そうなのかよ!?」

言って、橘はガックリと肩を落とした。由輝は困惑して大家を見たが、彼女はふふふと笑うだけだ。

「あ……あの……?」

「『女子大生と隣同士だぜひゃっほーい!』という俺の夢の新生活を返せー!!」

「はぁあああああ!?」

橘は有らん限りの力で由輝の肩をつかみ、ガクガクと揺さぶった。

酷い、勘違いの末の八つ当たりだ。

大家は噛みつかないと言ったが、今まさに噛みつかれそうな勢いの由輝は、涙目で必死に謝り倒したのだった。

(俺悪くないのに!俺悪くないのに!)

由輝は紛らわしい名前を付けた両親を、心の底から恨めしく思った。

「よし決めた。お前は今日からフジユキだ。異論は認めん」

ひとしきり謝った後、気が済んだのか橘は煙草をふかしながらそう言った。

「何でもいいっす……」

解放された由輝はもうこの場から早く立ち去ってしまいたかった。そして出来れば二度とこの人と関わりたくない。

しかし、由輝はまだ知らなかった。この男とはこれから、良くも悪くも長い付き合いとなることを。

「きょうちゃん、ゆーきくんにいろいろ教えてあげてね。大丈夫よゆーきくん、こう見えても優しい人だから」

この状況でただひとり、何故か楽しそうな大家の声に、由輝は気が遠退くのを感じた。

プロローグ おしまい。


ここに出てきた三人が住む(管理する)アパートでのお話を、参加者さんに考えていただいて各々投稿していただいていました。

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