勇者対パープル
「絶望を味わえ! レーザーショット」
「せりゃ!」
パープルが放った魔法光線を、おれは天井に蹴り上げた。
結界に当たり爆発霧散したが、アンロックシールドに変化はない。
パープルのレーザーショットが弱かったのか、シールドが強固なのか。微妙なところだ。
(じゃあ、おれので試してみるか)
当たればラッキー。避けられたとしても、アンロックシールドには命中するからな。
「レーザーショット」
パープルに向けて魔法光線を撃った。
「くっ、こんなもの」
予想通り避けられた。けど、その表情や所作には余裕がない。いまも回避はギリギリだった気がする。
(まさか……ねえ?)
ある疑念が湧いたが、まずは結果だ。いままさに、おれの放ったレーザーショットがアンロックシールドに激突したところだ。
土台を含む建物全体が揺れたような振動があったが、ダメだった。壊れていない。けど、魔法の威力を上げればイケるな。
前回は二次災害の危険があったから躊躇したが、今回はアンロックシールドの中にいるのだ。結界さえ砕ければ、力は外に逃げていく。…………はずだ!
試してみる価値はあるが、ダメだったときのことも考慮したい。
そのためにも、まずはパープルに集中し、無力化しよう。
「くらえ! サンダーショット! レーザーショット! アイスショット!」
次々と魔法を放ってくるが、どれも貧弱だ。
魔素で覆った両手で簡単に防げる。
手応えがまったくない。
(もしかして……もしかしてだが……弱いのか?)
それはもう疑念ではないのかもしれない。けど、そんなことがあり得るのだろうか? 神様のいる世界でこれだけ大規模な悪事を働くのだから、それは簡単なことではないだろう。後ろ盾があるのだとしても、責任者には相応の実力者を配置し、内外に睨みを利かせる。というのが定石だと思う。
現にパープルは恐怖で奴隷商人たちを操っていた。
(ダメだ。わからん)
こうなれば仕方ない。自分で確認しよう。
間合いを詰め、おれはパープルのみぞおちにボディブローを叩き込んだ。
「ぐあっ」
完璧な手応えを証明するように、パープルが崩れ落ちた。
間違いなさそうだ。
独善島の悪者は、全員弱い。
「き、貴様ぁ~っ! ぜ、絶対に許さんぞ!」
「凄むのはいいが、せめて立ったらどうだ?」
「うるさい!」
立ち上がろうとしているが、パープルの足は震えている。
「よっ」
無防備なその脇腹に、再度ボディブローを叩き込んだ。
「ぎゃあああ」
苦痛に転げまわるパープルを目の当たりにし、モーガンが動いた。
「勇者ナルオ様。わたくしの二〇〇〇億はあなたに差し上げます。ですから、お助けください」
変わり身の早いやつだ。けど、おれは忘れていないぞ。こいつはおれとパープルを天秤にかけていた。
それ自体はべつにどうでもいいが、罰として人身御供にはなってもらおう。
「もうちょっと出せるよな?」
「無理です! それが全財産です」
おれの追及に頭を振るが、それがウソだということは予測がついている。
「なら、この先どう生きていくつもりなんだ?」
「そ、それは」
モーガンが口ごもった。
「一度私腹を肥やしたやつが、小間使いに戻るなんて考えられねえよな?」
生活水準を落とすということは、実は結構しんどかったりする。それには、我慢や辛抱が常に付きまとうからな。
モーガンのように金を湯水のように使うことを覚えた成金なら、なおのことだろう。
「無事に独善島を出たら、ちゃんと再起の方法があるんだろ?」
「二二〇〇億です」
早々に釣り上げたということは、たぶんその額も正確ではない。
けどまあ、おれにケツの毛まで毟る趣味はないし、ここにいる奴隷商人たちから集める金で十分まかなえる。
おれが奴隷商人たちの言をまともに受け取っていないというアピールも出来た。
「逃げたり、支払いを拒否した場合は…………わかってるな?」
モーガンを始め、奴隷商人全員が大きく首を縦に振っている。
「わ、私を無視するな!」
ダメージから回復したパープルが空中に飛び上がった。
「もう許さん! 宮殿ごと破壊してやる!」
ブチ切れているらしく、両目の焦点が定まっていない。そんなことをすれば、自分だってただでは済まないはずだ。
「殺す! ころす! コロス! 殺す!」
呪詛をつぶやきながら、パープルが肩幅に開いた両手の間に魔素を集約させる。野球、サッカー、バスケットボールの球のように大きさを変えていく。次第にそれは手の間に収まらなくなり、ついには頭上に掲げだした。
「殺す! ころす! コロス!」
いまや、魔素はガスタンクくらい膨れ上がっている。
「ふはははははは。これで終わりだ! ファイヤーボール!」
頭上に掲げたそれを、地上にいるおれたちに向け落とした。
「あああっ、もう駄目だ」
モーガンは絶望するが、おれからすればなんの問題もない。
手のひらに魔素を集約させる。
「いまさら無駄だ。もう遅いんだよ。あ~っはっはっは」
嘲るように高笑いを上げるパープル。
たしかに、同じ大きさのモノを作ろうとすれば不可能だ。けど、その必要はない。
バスケットボールサイズのこれで十分だ。
「ファイヤーボール」
おれは魔素の球を放った。
空中で二つのファイヤーボールは激突し、おれの放ったそれがパープルのそれを砕いて消滅させた。
「ば、馬鹿な」
茫然とするパープルを巻き込みながら、ファイヤーボールがアンロックシールドをぶち抜いた。




