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勇者は密航の手筈を整える

 こうなれば密航するしかない。

 覚悟を決め、おれは独善島行きの船に向かった。

 港では奴隷とおぼしき線の細い青年たちが荷物を積み込んでいる。その量は膨大で、甲板と港を往復する作業はひっきりなしだ。全員が肩で息をし、額には大粒の汗が光っている。

 雪降る中にもかかわらず、だ。

 彼らを見ていると、おれは若かりし頃ブラック企業に派遣されたことを思い出してしまった。業務は過酷で賃金は安い。

 幸い、おれは派遣期間が三ヶ月と短期だったからよかったが、正社員として働く人たちはそうじゃないのだ。


「ここしか居場所がないんだよ」


 そう言いながら、諦めたように笑う同僚がいた。

 奴隷の青年たちも同じなのかもしれない。過酷な労働であろうとも、ここ以外に居場所がないのだ。

 他を探す気力も体力も奪われてしまっている。

 心が痛む。けど、こいつらはそうでもないらしい。

 甲板から降りてきた船員らしきゴツめの兄ちゃんたちは、青年たちの輝く汗には目もくれず、一列に並ばせた女の子たちを見て舌なめずりをしている。

 かわいそうに。震えている少女もいるではないか。


「お前は……上だな」


 見た目やスタイルでランク分けされるようだ。中には胸などを無遠慮に揉まれている子もいた。嫌がって身をよじれば、更なる仕打ちが課せられる。だから、少女たちは目に涙を溜めながら必死に耐えていた。

 中には自分からすり寄り、少しでも待遇よく迎えられようとしている子もいる。

 それは処世術であり、糾弾される行為ではない。けど、胸に去来するモノがあるのは間違いない。

 助けてやりたいが、船員たちが少女たちにかまけている、いまが潜入のチャンスでもある。


(ごめんな)


 内心で謝り、おれは船にアタックをかけた。

 甲板に上がるのは楽勝だった。

 奴隷の子たちは自分たちの作業に集中している。その監視で甲板に残された船員たちも、遠目ながら少女たちの確認に余念がない。中には八つ当たりで暴力を振るっている輩もいるが、だれもおれを気にしていない。

 問題があるとすれば、船内の偵察だな。


(よし。奴隷のフリをしよう)


 手近にあったツボを抱え、おれは船内に侵入した。

 船の構造はわかりやすく、甲板に近いところが船員の使う大部屋。その下に奴隷の控室があり、最下層に牢屋と倉庫があった。

 なお、船長クラスの大物の部屋は甲板の上に特別室が用意されているらしい。侵入を試みようとはしたが、入ることはおろか、近づくことすらできなかった。

 しかし、大体の構造は把握できた。

 結論。密航は不可能だ。

 理由は二つある。

 一つ目は、意外と奴隷の管理がなされていて、部外者はすぐにわかるらしい。

 二つ目は、すでに見つかっているからだ。


「てめえコラッ! この船にちょっかいかけるとはいい度胸じゃねえか」


 一通り船内を見終わって甲板に出てきた瞬間、船員の兄ちゃんたちに思いっきり詰め寄られた。

 こうなれば下手な言い訳は無駄だな。


「おい! コラッ! なんとか言えや!」

「ぶち殺されてえのか!? ああん!?」


 凄む兄ちゃんの横っ面を、おれは無言で叩いた。


『えっ!?』


 船べりまで吹き飛ばされた仲間を見て、船にいた全員が目と口を大きく開けた。



 ここからは詳しい描写は割愛させていただく。


「だれに向かって生意気な口訊いてんだぁ!? ああ!?」


 ボコボコボコ。


「わかればいいんだよ。わかれば。って、なに逃げてんだ!? お前は」


 ボコボコボコ。


「密航出来ねえ!? 出来ねえじゃねえよ! どうにかすんだよ!」


 ボコボコボコ。

 しくしくしく。


「泣きてえのはこっちだよ。いいから考えろ!」


 ボコボコボコ。


「なに!? これ持って船長のとこに行ってくれ? 断られたらどうすんだ!? 責任取れんのか?」


 ボコボコボコ。

 ブンブンブン。

 イエス。イエス。イエス。


「お~し。言質取ったかんな! 後、奴隷の子たちに優しくしろ! それと、嫌がる女に手を出すな! いいな!? 約束だぞ」


 イエス。イエス。イ……エス。


「てめえ、なに不満げなツラしてんだ! ぶっとばすぞ!」


 ボコボコボコ。


「おう、そうか。反省したか。わかったならいいんだ。じゃあ、行ってくるからな。お前らもまじめに働けよ」


 みたいなことが繰り広げられ、おれは商人としての乗船許可の嘆願書を手に入れたわけだ。



「最っ低」


 話し終えたおれに、ザラがゴミを見るような目を向けてくる。

 だろうね。あれは反省すべきだと思う。けど、あれがあったから、ザラが手籠めにされることはなかったわけだ。


「確かに褒められたことじゃないけど、私は胸のすく思いだよ」


 アンナは本当に楽しそうに笑っている。


「それに、ナルオのおかげで、今回はより多くの子供たちを救えたからね」

「それはよかった」

「ああ。本当に感謝してる」


 アンナが頭を下げたのと、地響きが発生したのが同時だった。

 パラパラッと天井から土が降ってきた。いますぐ崩落ということはないだろうが、ここに居るのは危険だな。


「子供たちの避難を。上の様子はおれが見てくる」

「あたしも」

「バカ。あんたは子供たちの誘導を手伝いな」


 ついてこようとするザラの手を引き、アンナが止めた。


「でも」

「でももへちまもない。やれることをやるんだよ」


 突然のことに泣き出した子がいる。涙は伝播し、幼い子たちが次々に泣き出してしまった。


「あの子たちを放っておくのかい?」


 ザラは頭を振り、その子たちのもとに走っていった。


「頼めるかい?」

「おう。こっちの心配はいらないから、早々に脱出してくれ」

「すまないけど、頼むね」


 おれは階上へ。アンナは子供たちの誘導へ。

 それぞれの役目を果たすために、おれたちは別れた。

 階段を上り終えドアをくぐった瞬間、おれにピンスポットが当てられた。


「ロットナンバー一〇〇番。勇者ナルオ。大変貴重な勇者という肩書を持った男です。奴隷にするもよし。見世物にするもよし。難点は、反抗的な精神を調教する手間がかかることです」


 タキシードの男の説明に、商人たちから喝さいが上がる。

 次の商品はおれらしい。


「さあ、本日最後のオークションの……スタートです!」


 タキシードの男が言うように、最後のオークションが始まった。


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